第579話:再会、フォレサージ
元プレーター学園代表アリル=サ。
レキとは大武闘祭の個人戦で戦い、その圧倒的な実力差に敗退している。
自分より強いレキに興味を抱き、その純粋で優しい性格に魅かれ、異性として惹かれた。
そんなレキに再会すべく、今年の大武闘祭が行われるフォレサージ森国へとやってきたアリルは、レキ達が来るであろうライカウン教国に最も近いこの街に滞在し、見事再会を果たしたのだった。
「おいアリルっ!
いきなり走り・・・っ!!」
「アリルさん。
フォレサージではおとなしく・・・っ!!」
「あ、レキ」
とっさの事に思わずかわしてしまったレキ。
普段なら敵意や害意、つまりは悪意が無ければかわす事も無かったのだが、今はフォレサージ森国の街並みに見とれていた為思わず避けてしまったようだ。
これでアリルにレキを害する意思があったなら、おそらくは無意識に反撃してしまっていただろう。
その点、良くレキの背に乗っているフィルニイリスは上手くやっている。
彼女はレキの背に乗る際、必ず一言言ってから乗るからだ。
「レキ、乗せて」と言えばレキは大抵乗せてくれる。
渋々かも知れないが、何せ彼女は出逢った頃からこうなのだ。
いい加減、レキも慣れたもの。
最初はフィルニイリスを羨んでいたフランやルミニア達も、今では「あれはフィルニイリス様の特権ですから」と達観している。
もちろんレキが「乗る?」と聞けば、フランは喜んで、ルミニアは恥ずかしそうにしつつこっそり乗るだろうが。
そもそもレキに奇襲は通じない。
伊達に魔の森で三年もの間一人で生きていないのだ。
敵意や害意への反応、気配察知、最近では魔力による探知も常時行えるようになったレキにもはや死角はない。
アリルが近づいてきていた事は分かっていた。
ただ、それがアリルだと言う事が分からなかっただけ。
アリルの事を忘れていた訳では無いが、気配や魔力による判別までは出来なかったのだ。
故に、誰かが飛び掛かってきた事までは分かっても、それがアリルだとは思わず避けてしまったのである。
「む~、レキの意地悪」
「え~・・・」
約一年ぶりの再会。
愛しのレキに思いっきり抱き着こうとしてすげなくされた(?)アリルが頬を膨らませて講義する。
そんな彼女に困ったような表情を見せるレキに、遅れてやってきたのはアリル同様懐かしの面々。
元プレーター獣国代表、アリルのチームメイトだったリリル=ヤ。
元フォレサージ学園代表、チーム戦でレキと剣を交えたミルアシアクル。
元マウントクラフ学園代表、レキの剣技に惚れ卒業後は剣の鍛冶士になるとレキに誓ったサラ=メルウド=ハマアイク。
彼女達もアリル同様、レキに魅かれ、こうして大武闘祭を見に来た者達なのだ。
「久しぶり」
「うん!」
早速レキに絡みだしたアリルをリリルやミルアシアクルが引きはがし、レキ達はアリル達と共に街を歩く。
ここはフォレサージ森国のシの大樹。
ライカウン教国と隣接しているいわば森の入り口である。
ライカウン教国やフロイオニア王国から訪れた者は、ほぼ例外なくこのシの大樹に立ち寄る事になる。
アリル達もそれを知っていたのだろう、早くからこの街に訪れ、レキ達が来るのを待っていたようだ。
「ミルアに聞いた」
「ああ、なるほど」
フォレサージの事は森人に聞くのが一番だろう。
「皆様は今何を?」
「わたしは冒険者っ」
「あ、私もです」
卒業後、アリルもミルアシアクルもそれぞれの街で冒険者登録を行い、依頼をこなしつつ生活しているらしい。
「リリルさんは?」
「あたしもだ。
アリル一人じゃ危なっかしいからな」
そんな事を言うリリルだが、実際は彼女の方がアリルと一緒に居たかっただろう事は昨年の様子から分かっている。
アリル大好きっ子は相変わらずだった。
「私は鍛冶の修行中」
サラは宣言通り卒業後は剣の鍛冶士の道へと進んだらしい。
サラ=メルウド=ハマアイク改めサラ=メルウド=ソドマイク。
レキの為、レキに相応しい剣を打つ為、彼女は故郷の街で鍛冶士の修行に励んでいるそうだ。
「レキ、後で剣見せて」
「うん、いいよ」
彼女達も卒業後は己の道へ進んだようだ。
なお、その道を決める際、レキの影響があったかどうかは・・・言わずとも分かるだろう。
――――――――――
「折角だからミルアに街を案内してもらってたんだ~」
「アリルさん達はフォレサージに来るのが初めてだと言うので」
このシの大樹へ訪れたのは予定通りだったが、レキ達と遭遇したのは偶然だった。
昨年の大武闘祭を通じて仲良くなったアリルとミルアシアクルは、お互いの国で冒険者になった後に合流し、今では同じチームで活動している。
他にもリリルやイメイ=ツ、リネ=スとネス=スと言ったアリルの元チームメンバーや、サリサルニキル、イーアフリルム、サムアムアリカ、ニーラヤイアクと言ったミルアシアクルの元チームメンバーも、同じ冒険者として活動しているそうだ。
冒険者の活動に人数の規制は無く、ソロもいれば二人、三人、五人や十人と様々で、中には数百名にも上る組織を作り上げている冒険者もいる。
また、チームとして冒険者ギルドに登録しても、必ずしもそのメンバーで活動しなければならないと言う規定も無い。
前述した数百名にも上るチームが、常に全員で活動できるはずもない。
採取を専門に行う者、討伐を行う者、護衛任務を専門とする者。
更には組織で購入、あるいは借りている家の管理や食事の支度を行う者から、メンバーの武具の手入れを専門に行う者すらいる。
冒険者と一口に言ってもさまざまであり、必ずしも皆が外で活動しているわけでは無いのだ。
アリル達もミルアシアクル達も、今は採取や低級の魔物の討伐などを行いつつ、冒険者のランクを上げている。
どちらも既に黒鉄級になっているそうで、来年には魔鉄級になれるだろうと期待されているそうだ。
「嘘だろ・・・」
同じく卒業後に冒険者となったライカ達は未だに青銅。
依頼数の違いだろうか、ライカウン教国では冒険者のランクが上げ辛いとはいえ、まだ一年にも満たない間に随分と差が開いてしまったようだ。
同じ学園の元代表。
同じ大武闘祭出場者でありながら差を付けられてしまっていたライカが愕然とする中、レキ達はミルアシアクルの案内でまずは本日の宿へと向かった。
森の中にあるとは言え、大勢の森人が住んでいるだけあって道は整備されている。
ところどころ道がくねくねと曲がっているのは、大木から張り出した根を避ける為だろう。
人が歩きやすいよう木を伐採するのではなく、木の邪魔にならない用道を整備しているようだ。
それでも移動がし辛いと言う事は無く、レキ達はシの大樹の街並みを興味深く見ながら馬車を移動させた。
宿も木製。
木の温もりを感じられる素晴らしい宿である。
レキ達もこれまでの旅の疲れをしっかりと癒せる事だろう。
「ここにはどんなお店があるの?」
「最近では武具屋でも剣を扱い始めたそうですよ」
それまでのフォレサージ森国では、魔術士が多かった都合上武具と言っても杖やローブが主だった。
弓などはあったが剣や鎧の類はほとんどなく、精々細剣と小型の盾くらい。
木々の間で取り回すには長剣や大剣は都合が悪く、鎧なども音を立てず歩いたり木々の上に潜むには向かなかった。
一般的に、魔術士は体力が低いと言われている。
魔術士の鍛錬は主に呪文を覚え、イメージを高め、繰り返し使用する事で精度を上げると言った物。
どれも体力を用いないものばかりで、騎士や冒険者に比べその体躯は正直細く弱い。
身体強化を用いる事で一時的な身体能力は向上すれど、体力までは向上しない。
黄系統の魔術を用いて体力を回復する事は出来るが、その分魔力を消耗してしまうので意味がない。
故に、魔術士の武具は基本的に軽装で動きやすい物と相場が決まっていた。
護身用の短剣、あるいは森の中でも比較的取り回しがし易い細剣。
後はせいぜい、木々を伐採する際に用いる斧くらい。
それも緑系統の魔術が扱えるなら切る事が出来てしまう。
もちろん誰もが緑系統を扱えるわけでは無いが、相性が良いからか森人の多くは緑系統を扱う事が出来るのだ。
なお、森人の中で最も適性の少ないのは赤系統で、やはり森で生きる種族として火は森を焼いてしまうからだろう。
魔術に必要なイメージ的に、森の中で用いるのは赤系統は最悪を想定し易いのだ。
いない訳では無いが数は少なく、四系統全てを扱うフィルニイリスですら赤系統は苦手としている。
森人はやはり魔術で戦い、武器はその補助程度だった。
少なくとも昨年までは・・・。
昨年の大武闘祭以降、フォレサージ森国でも剣を扱う武具屋が増えてきたらしい。
それが何故なのか、誰の影響なのかは言わずもがなである。
自分達でも扱えない無詠唱魔術を用い、同じ森人をも圧倒するレキ。
昨年の大武闘祭を見学していた多くの者が、レキの黄金の魔力とそこから繰り出される無詠唱魔術に魅了され、自分もあのようになりたいと憧れを抱かせた。
そのレキは、無詠唱で魔術が放てるにもかかわらず剣を好み、その武術でも獣人を圧倒した。
黄金の魔力をきらめかせ、武舞台上を縦横無尽に駆け回るレキ。
身体能力で、とりわけ俊敏性に長ける獣人のアリルを速度で上回り、力で勝る山人のサラにその力で圧倒した。
加えて森人のカリルスアルムを魔術で圧倒。
レキの名は、その戦闘スタイルと共にフォレサージ森国にも広く知れ渡ったのだ。
元々魔術で他種族と渡り合ってきた森人が、武術を組み合わせる事で更に強くなれる。
奇しくも昨年、レキの戦闘スタイルに合わせて戦ったミルアシアクル達。
彼女達の戦いもまた、森人が新たに武術を会得する後押しとなった。
「アラン殿下のご活躍も、我々森人が戦闘を見直すきっかけになりました」
「そ、そうか」
レキの強さが黄金の魔力に寄るものなら、そのレキと大武闘祭の決勝で競ったアランの強さはその愚直なまでの努力の成果だ。
身体能力、魔力、剣技。
全てにおいて勝るレキに対し、真正面から立ち向かうアランの姿も、観客を惹き付けるには十分だった。
「アラン様?」
「な、なんだローザ。
私は別に・・・」
「鼻の下伸びとるで~」
「なっ!?」
ライカウン教国ではレキのみが注目されていた。
それはレキが光の精霊の申し子と呼ばれていたからであり、理由はその黄金の魔力にあった。
それはレキだけが持つ魔力。
生来の者かは分からないが、レキ以外に持っている者は居らず、おそらくは過去にもいなかった。
もちろんアランもそのような魔力を持ち合わせていない。
魔力量も純人の平均からさほど逸脱しておらず、敬意は抱かれても崇敬を抱く事は無いだろう。
森人はレキの膨大な魔力とそこから繰り出される無詠唱魔術に敬意を抱いている。
レキが光の精霊であるかどうかは関係なく、確かに黄金の魔力にも注目されているがそれ以上に魔力量と無詠唱魔術の方に関心がある。
どちらも鍛錬によって身に付ける事が出来る。
実際、アランも王宮にいた頃から鍛錬を重ねる事で魔力量も向上し、更には無詠唱魔術も会得している。
森人が敬意を抱くには十分だった。
「あっ、大丈夫ですよ。
あくまで敬意ですし、ローザ様との仲を邪魔する訳では・・・」
「残念」
「フィルア!?」
敬意は敬意。
恋慕を抱くまでには至らず、フィルア達が期待するような修羅場も・・・。
「・・・えっと、申し上げにくいのですが」
昨年の大武闘祭、レキにばかり注目が集まっていたように思えるが、一部の森人はアランにも注目していた。
当然だろう、アランもレキに見劣っているとはいえ立派な大会の準優勝者。
純人でありながら獣人と武術で渡り合い、無詠唱魔術を用いてフォレサージ学園代表のカリルスアルムを撃退したアランが人気が出ないはずが無い。
それは大会中の黄色い声援でも分かっていた事で、実を言えば今年の大武闘祭でもアランに注目している森人はかなり多いらしい。
「そういやアラン殿下はグルにも勝ってたな~」
「ファイナにも魔術で勝利しておりますし」
「カリルも倒してますね」
考えれば考えるほど、昨年の大会ではアランも大活躍している。
ただ。
「ま、レキほどじゃねぇからな~」
「レキ様ほどではありませんね」
「残念ながらレキ様には劣りますね」
「ぐっ!」
いつの間にかこの集団でのアランの扱い方を覚えたらしいリリルやリーラ、ミルアシアクル達にまで揶揄われるアランである。
と言っても、揶揄いの半分はローザを安心させる為でもあった。
和気藹々と森の中を進む一行。
歩きづらさなど感じず、適度に遮られた日差しはそれでも十分明るく、風も穏やかで涼しさもある。
静かに過ごすにはもってこいな環境。
ついでに魔の森出身のレキも、どこか懐かしさを感じているようだった。
そうして一行は、氏族長がいるというシの大樹へとやってきた。
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