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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十九章:学園~ライカウン教国
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第573話:報告その二

「ギガントードの分厚い肉をものともせず、グランスネークの鱗ごと両断するレキ様の剣技は見事としか言いようがありませんでした」


その後もレキ達は沼地の奥へと調査を進めた。

上空から、先ほどレキが仕留めたグランスネークを捕食しようと迫るツインホークもレキが両断。

こちらは馬以上の巨体の鳥の魔物である。

その巨体からは想像もできないほどの速度で迫り、家より大きいグランスネークを掴み上げ飛び去って行く。

獲物はグランスネークに限らず、人だろうと馬だろうと、ゴブリンやオークすら関係なく掴んでは巣へと持ち帰り餌とする魔物だ。

抵抗すればその鋭い爪で切り裂かれ、あるいはその嘴でかみ砕かれる。

常人ではその飛行速度を捉えきれず、速度を活かした突進はガレムですら耐えるのが精いっぱいだと言う。


「ツインスネークは何よりもいかに接近を早く察知するかが大事。

 無警戒で沼地を歩き、気が付いたら仲間が一人、また一人と減って行った、なんていう話もある」


レキ達は当然、アランやライカウン学園の元生徒達も飛行する魔物に遭遇した事は無い。

当然対処の仕方も知らず、知らずにこの沼地へきていれば、今頃はフィルニイリスの言う通り仲間の数人は攫われていたかも知れない。


「前後左右のみならず上下の警戒も必要となるのが沼地のもっとも厄介なところだな。

 前方からギガントード、下からはグランスネークが、上空からはツインホークが襲ってくるのだ。

 全員で全方位を警戒しながら歩くのは精神的にも肉体的にもきついぞ」


ただでさえ足場の悪い沼地である。

更にはいつどこから魔物が襲ってくるかも分からないとあれば、厄介さは森や洞窟の比ではない。

誰もが避けて通る場所であり、故に魔物が増えている現状に気付くのが遅くなってしまうのだ。


ギガントードの繁殖期に合わせ、それを餌とするグランスネークと、グランスネークを捕食しようと迫るツインスネーク。

それらが四方から迫ってくる中、レキは一匹一匹剣で切り伏せていく。


「ちなみにツインスネークの皮膚はそれほど硬くない。

 レキでなくとも剣で切る事は出来る

 ただし捉えられればの話」


魔術も同様。

ギガントードやグランスネークの様に効果の薄い魔術と言う者は無く、当てればどの系統だろうとダメージを与える事が出来る。

ただ、その当てると言うのが非常に難しく、相当な動体視力や身体能力、魔術の発動速度が無ければ無理だろう。


「直接当てるのが難しければ広範囲の魔術を放つか、あるいは緑系統の魔術で風の流れを乱せばよい。

 地上に落としてしまえばただの大きい魔物」


例えば緑系統中級魔術のリム・トルネードなどを放てば、直接当てる事は出来ずとも飛行を乱す事は出来るだろう。

あるいは仲間と連携し、逃げ場のないほど広範囲に魔術を放つと言うのも手だ。


いずれにせよ、相手が空中にいる以上こちらから打てる手は限られている。

レキの様に跳躍で相手の頭上を取れる者などそうはいないのだから。


――――――――――


「空を・・・」

「黄金の光を見に纏い、ツインスネークの遥か上空まで舞い上がられたレキ様のお姿は、創世神話における光の精霊様その物でした・・・。

 あの神々しいお姿・・・。

 ああ、今も目に焼き付いております」


どこか遠くを見るような目でそんな事を言う護衛部隊の一人。

おそらくはその時の光景を思い出しているのだろう、ついには感激に震えだした。


魔術で空を飛ぶ事は出来ないとされている。


可能性があるのは緑系統・風属性の魔術だが、ぶっ飛ばすだけならまだしも空を飛んだと言う記録は無いのだ。

空を飛ぶ、言うのは簡単だが行うにはまず人ひとりを空に浮かし、そこから自由自在に縦横無尽に移動しなければならない。


例えばルエ・ブラストを自らの背に発動、破裂させて推進力とすればある程度は移動できるかもしれない。

ただ、毎回それを行ってしまえば肉体に多大なるダメージを追う事になるだろう。

そもそもそれは自分を吹き飛ばしているだけで、任意の方向に移動する事は出来るかも知れないが止まる事は難しいだろう。

加減も難しく、弱ければ移動できず落ちるだろうし強すぎればどこまで飛ばされるか分かった者ではない。


レキが行ったのもあくまで跳躍。

全身を魔力で強化してただ思いっきり飛び上がっただけだが、それでも空高く跳ぶツインホークの更に頭上を捉えてしまった。

そのまま落ちる勢いを利用してツインホークを両断、更には沼地を這うグランスネークごと沼地をも両断した。

舞い上がる泥の中、全身を黄金に輝かせながらたたずむレキの姿は確かに神々しかったかも知れない。

自身が舞い上げた泥にその後、埋もれなければ・・・。


ツインホークを仕留める際、空中から沼地全体を見渡したらしいレキが、泥だらけのまま次の獲物を見定め皆を誘導しようとした。

銀級への調査依頼としては十分すぎる成果を上げているレキだが、この沼地には他にも魔物がいるらしい。


好奇心の赴くままに行動しようとするレキをルミニアが止め・・・る事は無かった。


レキ様にはやりたいように行動してもらい、自分はそんなレキ様の補佐をする。

と言うのがルミニアの将来設計である。

故に、レキがしたいと言うなら止める事は無く、それが魔物の討伐であれば尚更。

ルミニアが止めるとしたら、それはレキが苦手とする権力争いなどに巻き込まれた時だろう。


一応泥だらけのままではと、ルミニアが得意の青系統の魔術でレキを洗い、ついでに風邪を引いてしまうかも知れませんとフランにお願いして緑系統と赤系統の魔術を複合してレキを乾かす。

何気に高度な、二系統の魔術を同時に発動し、合成すると言う技術をいとも簡単に行うフランである。

その目的が温風によってレキを乾かすと言うのが何とも言えないが、生活に役立たせる魔術と言うのを命題にする魔術士も世の中にはいる。

フランも戦闘よりそういった魔術の使い方の方が好きなのかも知れない。


泥が落ち、服も乾いたレキが次なる獲物へと向かう。


そこにいたのはニードルタートルやロックタマスと言った巨体の割に凶暴ではない魔物の群れ。


ニードルタートルは非常に硬い甲羅に覆われた亀の魔物で、更にはその甲羅には鋭利な棘が何本も生えている。

敵に襲われた際はその棘の甲羅に身を潜ませてやり過ごす。

人を襲う事は滅多に無く、こちらから手を出さなければ比較的無害な魔物である。


ロックタマスは岩のような巨体と硬い皮膚を持つ河馬の魔物。

力は強く人はおろか馬をも丸呑みするであろう大きな口は、食いつかれれば命は無い。

動きは鈍重で、体当たりなどに気を付ければ危険はなく、そもそも草食である為人を襲う事は無い。

なわばりを荒らさなければ、こちらも比較的安全な魔物である。


「お~・・・」

「おっきいのじゃ・・・」


それが分かっているのか、あるいは襲われても逃げる自信があるからか。

レキがフランを伴い魔物へと近づいていく。


ほぼ間近にまで迫っても、ニードルタートルもロックタマスもレキ達を襲う事は無かった。


「ニードルタートルはその巨体故に動きが鈍重。

 甲羅は非常に硬く、並の剣士では歯が立たず、ミリスが魔銀ミスリルの剣でようやく切り裂く事が出来る」


「ロックタマスも動きは鈍重だが一度走り始めれば速度は馬並になる。

 真正面から受け止められるのはガレムくらい」


「どちらも真正面からやり合うのは得策ではない。

 ニードルタートルは下に潜り込んで、ロックタマスは横からの攻撃が有効」


どちらもこちらから手を出さなければ何もしてこない魔物であるが故に、今度はレキもおとなしくフィルニイリスの講義を聞いていた。

フィルニイリスの講義内容は、普通の騎士や冒険者が討伐する場合の話ではあるが、冒険者を志望するレキが聞いていても損はないだろう。


「ニードルタートルもロックタマスもそのまま食べるには非常に泥臭い。

 しっかりと処理をしなければ食べられた物では無い」


魔物の討伐依頼には、被害が出た故に出される物と素材や食材を得る為に出される物とがある。

ニードルタートルの甲羅や棘、ロックタマスの皮膚などは防具として非常に優れた素材であり、時折冒険者が己の武具を作る為に狩る事もある。

ギルドや素材屋に持ち込んでも高額で買い取ってもらえる為、これらの魔物を目当てに沼地へとやってくる冒険者も多いのだ。


「処理すれば食べられるの?」

「美味いのか?」

「料理人の腕にもよるが、王都の料理店で出される料理は美味いぞ?」


ミリスは食べた事があるらしい。

ニードルタートルもロックタマスも、巨体であるが故に肉は多く、料理人次第では非常に美味な料理となる。


「その日のうちに食べるには不適切。

 レキも野営中に狩るのはよした方がいい」

「分かった」


野営の醍醐味として、その日に狩った動物や魔物を食べると言うものがある。

焚火を囲って新鮮な料理に舌鼓をうつのは冒険者ならではだろう。

ただし、それも料理が不味ければ台無しである。

笑い話の一つにはなるだろうが、遠征などの最中の場合料理は明日からの気力にも繋がる為、よほど空腹でない限り避けた方が良い。


「もう少し綺麗な場所の魔物ならそのまま焼いても食えるだろうがな・・・」


どっぷりと沼に使っているニードルタートル、沼で体を洗うというロックタマス。

どちらもそのまま食べるには不適切で、ただし沼が綺麗なら泥臭さも少なく肉もなかなかに美味なのだそうだ。


「そっか・・・」


食べたかったのだろうか?

レキがあからさまに残念そうにしていた。

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