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黄金の双剣士  作者: ひろよし
一章:森の出会い
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第5話:逃げる少女

大陸にある六つの国の一つ、フロイオニア王国。

その国の、何の変哲もない簡素で平和な村に生まれ育った少年レキ。


彼が野盗の襲撃で村を、両親を失ってから三年の月日が経っていた。


あれからレキは、この大陸で最も危険と言われる森、通称「魔の森」で一人逞しく生きていた。

母親と約束した場所、森にある賢者の小屋は特殊な結界に覆われており、森に住む魔物達は何故か近づく事は無かった。

レキにその原理を知る術は無いが、何となく結界内と外とでは雰囲気、というか空気が違っている事だけは感じ取っていた。

結界すら知らないレキでも、それが母親が約束した理由なのだろうと考え、母親に守られているかのようにすら感じていた。


レキが全てを失ったあの日。

それらと引き換えるかのように手に入れた力。

全身からあふれ出す黄金の光は、レキの身体能力を著しく向上させた。


走れば馬より速く、力は見上げるような岩をも持ち上げる事が出来た。

その力は魔物相手にも発揮し、魔の森のどんな魔物もレキの相手では無かった。


最初はそのあまりの力に戸惑い、制御を誤って木にぶつかったりついでにその木を破壊したりもしたが・・・。

さすがに三年も経てば慣れるもの。

今では森の木々の間を飛び跳ねるように移動することも、木々を飛び越える事も自在に出来るようになった。


それほどの力があれば、この魔の森で生き抜く事も容易かった。


朝日と共に起床し、森で拾った・・・おそらくはゴブリンが持っていたのであろう粗末な剣で魔物を狩る。

この森には食用に適した魔物も多い。

例えばあのソードボアもこの森には生息しており、レキが日々の食事に困る事はなかった。


賢者の小屋の裏手には簡素な畑があり、数年、下手をすれば数百年単位で人の手が加えられていないにも関わらず、何やら野菜のような植物が育っていた。

ここに住んでいた賢者が育てていた野菜なのだろう、そうレキは判断した。

生前、母親に好き嫌いは良くないと叱られていたレキである。

その畑に育つ野菜(?)も、甘かったり辛かったり味が無かったりしたものの、それでも毎日ちゃんと食べた。


肉と野菜(?)によるバランスの良いであろう食事と毎日の狩りで、レキも順調に成長した。

髪の毛は相変わらず雪のように真っ白で、レキの体からあふれ出る光によって黄金色に染まる。

まだまだ可愛らしい容姿ではあるが、森での生活を続けるうちに精悍さを増していき、どこと無く父親にも似てきた気がする。


あれから三年。

レキは両親との約束通り、この魔の森でたくましく生きていた。


――――――――――


その日も、レキはいつも通り森の中へと狩りに出かけていた。


二年ほど前に森で出会い、それから何となく一緒に過ごすようになった銀色の狼(レキは知らないが、シルバーウルフという高位の魔物である)をお共に、レキは森の中を駆け回っていた。


「今日は何食べよっか?」

「ウォフ?」

「オークとかいないかな?」

「ウォフ」


共に暮らすシルバーウルフは四頭。

内二頭はレキと過ごす様になってから生まれた子狼である。


四頭のシルバーウルフと共に過ごす、それなりに賑やかになった森の生活。

レキの顔にもいつしか笑顔が戻っていた。


そして今日、新たなる出会いがレキを待っていた。


――――――――――


時は少しさかのぼる。


「おい、こっちだ!」

「矢だ、矢を放て!」

「馬車を狙え!女どもにゃ当てるなよ!!」

「全員生け捕りにしろ!」


フロイオニア王国のとある草原では、今まさに命がけの逃走劇が繰り広げられていた。


「くっ、なんでこんなところにっ!」

「街を出てから妙に人通りが少ないと思ったけど、こういうこと」

「落ち着いている場合かっ!」


先頭を行く一台の馬車と、それを追う見るからに野盗と思われる集団。


「それでどうするっ!?」

「とりあえずこのまま進む」

「しかし、この速度ではっ!」

「うん、追いつかれる」

「おい、それじゃあっ!」

「反撃してもあの数では多分負ける」

「だがっ!」


馬車は一般的な物よりかなり豪華な造りをしていた。

商人ですらこれほどの馬車は持っていないだろう代物。

少なくとも貴族、それもそれなりに爵位の高い者だろう。


実際は、それ以上の者が乗っていた。


「そもそもあいつらの狙いは何?」

「野盗だぞ?」

「本当に?」

「・・・何がだ?」

「本当にただの野盗?」

「・・・」


追ってきているのは数十名からなる野盗の集団だった。

簡素に見える装備。

手にはそれぞれの得意な武器を持ち、後方には魔術士らしき者の姿も見えた。

典型的な野盗である・・・見た目だけは。


「じゃあ・・・何だ?」

「・・・分からない」

「ただの野盗では無い、という事なのか?」

「・・・おそらく」


違和感を感じたのは、彼等を率いる者の統率力と馬車を襲う手段だった。


ただの野盗とは比べ物にならないほど組織だった行動。

まるで訓練された騎士団のように、先ほどから的確に追い詰めてきていた。


「この馬車を襲ったらどうなるか、さすがに野盗でも分かるはず」

「そんなもの野盗には関係ないのではないか?」

「ううん、それは無い」

「・・・野盗だぞ?」

「例え野盗でも、国を敵に回すとは思えない」


馬車についているのは、とある王家の紋章。

フロイオニア王国王家が所有する証。


当然、馬車に乗るのは王家に連なる者達。

馬車を操るのは王国騎士団の小隊長を務める護衛騎士。

同じく護衛兼教育係でもある宮廷魔術士団の長。


馬車に乗るのはとある王家の娘と、そのお付きの侍女。

フロイオニア王国の王族一行である。


襲撃に遭ったのは、彼女達がフロイオニアのとある領地へ行ったその帰りの出来事だった。


「フラン様。

 しっかりと捕まってて下さい」

「リーニャ、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。

 ミリス様もフィルニイリス様もついています」

「う、うむ」

「いざとなれば私も。

 この命に代えてもお守りいたしますから」

「だ、だめじゃ!」

「・・・フラン様」

「よいか、リーニャも、ミリスも、フィルも、みんな一緒じゃ。

 一緒に帰るのじゃ!」

「・・・はい」


フロイオニア王国王女、フラン=イオニア。

幼くも優しい彼女の運命は、今まさに変化の時を迎えようとしていた。


――――――――――


「なぁ、このまま行くとまずいんじゃねぇか?」


フラン達を追う野盗の一人が、馬車の進む方角を見て顔をしかめた。


「あん?

 ・・・あぁ、魔の森か」

「そうだ、森に入られたら厄介だろ?」

「いやいや、さすがにそれはねぇだろ?」

「いくら何でもあの森はやべえな」

「あいつらだって馬鹿じゃねぇんだ。

 さすがに途中で引き返すだろうよ」

「そ、そうだよな・・・」


命知らずな野盗と言えど、自ら命を捨てるような真似はしない。


魔の森。

この世界で最も危険な森。

他所より濃密な魔素に覆われ、そこに住まう魔物は通常よりはるかに強く、ただでさえ視界の悪い森で魔物に襲われれば騎士団とてただでは済まない。

更に厄介なのは、その濃密すぎる魔素の影響で半日もすれば体に異常をきたしてしまう事だろう。


人は魔素を体内に取り込むことで魔力を生成する。

己の許容量以上の魔素を取り込んだ場合、通常であれば変換しきれなかった魔素はそのまま体外へと放出される。

だが、大気中の魔素が濃すぎる場所では、取り込まれる魔素が過剰となり、また周囲の魔素が濃すぎる為体外への放出もままならず、結果魔力の生成と過剰魔素の放出が追いつかなくなる場合がある。

そうして体内に残った魔素が様々な症状を引き起こすのだ。


「魔素酔い」と呼ばれるこの症状は、頭痛や眩暈、吐き気に体のだるさを引き起こし、最終的には指一本動かせなくなってしまう。

魔物の住まう森で動けなくなるという事がどういう事かは、言うまでもないだろう。


魔の森がこの世界で最も危険な場所と言われるのは、そういった理由もあるのだ。


そんな魔の森の近くにて。

先ほどから繰り広げられていた逃走劇が終わりを迎えようとしていた。


本来なら近づく事すら無い魔の森。

野盗の集団に追われながら、まるで引き寄せられるかのように馬車は魔の森へと近づいていく。


「まずい、もう馬車がっ!」


街道沿いを進む最中に襲撃され、そこから全力で走らせてきた。

野盗の放つ矢を何本も受け、いよいよ馬車が限界を迎えようとしていた。


「もう少し、あとちょっと」

「何がだっ!」

「あと少しで森に」

「森・・・まさかっ!?」

「そう、一か八か」


宮廷魔術士長であり、一行のブレーンでもある魔術士フィルニイリス。

彼女は何も意味なく魔の森を目指したわけではない。

こちらの向かう先に魔の森があると分かれば、あるいは野盗も諦めるかも知れないという可能性と、そして・・・。


「さすがに無茶だっ!」

「魔素酔いは弱い者なら半日でかかる。

 逆を言えば半日は持つ」

「魔物はっ!?」

「深くまで行かなければ大丈夫」


仮に諦めずとも、森に入れば追っ手を撒ける。

森の中で馬を走らせるのは至難である。

馬を捨てた野盗など、騎士であるミリスと宮廷魔術士長であるフィルニイリスの二人なら問題なく対処できる。


そう考えての行動だった。


「魔の森に入り、半日以内に別の方向へ抜ければ逃げられる」

「・・・大丈夫なのか」

「やるしかない」

「・・・分かった」


馬車は限界。

わずかな可能性にかけるべく、護衛騎士であるミリスと宮廷魔術士長フィルニイリスは最後の賭けに出た。


「姫」

「なんじゃ?」

「一か八か、森へ向かう」

「それはっ!」

「リーニャ、このままだと確実に捕らえられる。

 奴らから逃げるにはこれしかない」

「しかし、ここは」

「リーニャ、大丈夫じゃ」

「フラン様?」

「フィルがそう判断したならおそらくそれが正しいのじゃ」

「・・・」

「フィル、案内は任せたのじゃ」

「分かった。

 姫、任せて」


悲壮な覚悟、しかしそれを悟られないよう淡々と説明するフィルニイリス。

驚きを隠せない侍女リーニャも、主であるフラン=イオニアの言葉にその運命を委ねた。


その決断こそが、彼女達の運命を大きく変えたのだろう。

くしくも三年前、とある母親が野盗から逃げる為、同じ決断をしたように。


違うのは、三年前の魔の森に人はおらず、今はその時逃げ延びた少年がいる事。

そのたった一つの違いこそが、彼女達を三年前とは異なる結果へと導いた。

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