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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十九章:学園~ライカウン教国
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第559話:デイルガ家

レキ達の住む大陸の国々は、魔の森を囲う様に存在している。

その内、マウントクラフ山国のみ魔の森に隣接しておらず、残る五か国が魔の森を中心に五方に展開している形である。


フロイオニア王国と隣接しているのはマチアンブリ商国とライカウン教国。

昨年はマチアンブリ商国を通過してプレーター獣国へと向かったレキ達だが、今年は反対方面にあるライカウン教国を通過し、大武闘祭が行われるフォレサージ森国へと向かう予定である。


「そういやガージュの家って」

「ああ」


ガージュの故郷であるデイルガ伯爵領はライカウン教国にほど近い場所に存在している。

昨年は方向が異なる為に立ち寄る事も無かった領地だが、今年はこちらも通過する予定だ。


「寄るのかい?」

「進路次第だろうな」


ただ、レキ達も目的は大武闘祭に出場する事。

ガージュの伯爵領もライカウン教国も、その為に通過するに過ぎない。

立ち寄りはするがのんびりは出来ず、里帰りと言っても顔を出す程度。

昨年ミームの出身地に立ち寄ったように。


まあ、昨年同様一泊程度なら問題は無いが。


「ガージュ=デイルガ。

 デイルガ伯爵領の案内は任せたぞ」

「はいっ!」


フォレサージ森国までは約半月。

街道や比較的安全な道を通るとはいえ、常に野営、野宿では疲労もたまる。

出来るだけ宿を取り、大武闘祭に備える必要がある。


と言う理由から、道中はなるべく街に立ち寄り宿で休めるルートを取る。

進路上に伯爵領があるなら立ち寄るのは当然だ。


「ガージュの家には行かないのか?」

「あくまでこれは学園の行事だが、まあ伯爵家次第では宿泊するのもありか」

「・・・まあ、家は広いからな」


ミームの家と違い、流石は伯爵家なだけあって三十人程度なら問題なく宿泊できる。

下手をすれば街の宿より広く、設備も整っている。

使用人もそろい、レキ達も存分に休める事だろう。


昨年であれば、ガージュも諸手を挙げて歓迎するところだが・・・。


昨年であれば、ガージュも学園の代表として、その誇りを胸に堂々と領地に、家に顔を出す事が出来た。

帰路であれば、それこそ大武闘祭のチーム戦優勝と言う栄誉を胸に。

正真正銘の凱旋である。


だが、今年のガージュはただの付き添い。

クラスメイトの応援をする為に同行しているだけ。

正直、領地や家の者達に合わせる顔が無かった。


そんなこと気にする必要ない。

そう言う者もいるだろう。


実際、大武闘祭に出場できないだけでガージュも立派な二年生最上位クラスの生徒であり武闘祭本戦に二年生の代表として出場している。

二年連続最上位クラスを維持し、二年連続でチームの指揮官を務めている。

最上位クラスの中では微妙な実力も、学年全体、いや学園全体で見ても上位。

一つ下である上位クラス相手であろうと負けた事は無い。


文武両道、どちらもガージュは好成績を修めている。


とは言え、それはあくまで客観的な評価。

本人が納得していなければ意味がない。


それでも今は大武闘祭の為の移動中である。

本人の意志より皆の体力面を重要視しなければならず、ガージュの家程休める場所はそうそうないのだ。


「父上にも一言言っておかねば・・・」


学園の行事とは言え伯爵領内を通過、伯爵家で一泊するのであれば、当然領主であり屋敷の主人であるガージュの父親には一言断りを入れておく必要がある。

学園が国の管轄にある以上、各領地の領主も最大限協力するだろうし、断りなく通過しても特に問題は無いとはいえ、こちらとしても一応は礼儀を示しておく必要もある。

これも勉強、将来の為に必要な社交の実践。


たまたまガージュの家と領地がその場になっただけなのだ。


「さ、昨年はそんな事・・・」

「一応していたぞ。

 まあアラン=イオニア達に一任していたがな」


昨年のレキ達でも問題は無かったかも知れないが、礼儀の面では少々心もとなかった。

ルミニアならともかく、カルクやミームが何かしでかすとも限らない。

フランは逆に、王女と言う地位が足かせになる可能性もあった。

余計な手間をかけてしまえばその分時間もかかり、最悪大武闘祭に間に合わないといった事態にもなった。


今年のレキ達ならおそらくは大丈夫だろう。

それに、何かあってもガージュの実家ならどうとでもなると言う打算により、今年はレキ達二年生を連れて挨拶に向かう事にするレイラスであった。


因みに、国の代表として通過する以上事前に通達されているのだが、それはレキ達には内緒である。


――――――――――


「おお、よくぞ参られた」


デイルガ伯爵家へとやってきたレキ達を、屋敷の主であるデシジュ=デイルガが諸手を挙げて歓迎した。

言わずもがなガージュの父である。


「皆様の活躍は聞き及んでおります。

 特にレキ殿は昨年も大武闘祭で優勝したとか。

 流石は我が国の英雄。

 フロイオニア王国の貴族として誇りに思いますぞ」


フロイオニア王国の貴族にとって、レキは王女であるフランを救った英雄であり、昨年の大武闘祭で自国の代表として戦い優勝して見せた次代の英雄である。

デシジュでなくともその訪問は歓迎しただろうし、盛大に持て成さねばならない相手である。

むしろ大武闘祭へ向かう進路上にあったからと言う理由であっても、立ち寄ってくれただけでありがたい。

滞在してくださると言うのであれば最大限の配慮と持て成しを成さねばならない。


レキだけではない。

王族であるアランとフラン、公爵家の子女ルミニアと侯爵家の子女でありアランの婚約者であるローザもいる。

フィルニイリスを始めとした王国の重鎮まで揃っているのだ。

歓迎しないなどありえない。


「今年の武闘祭は都合がつかず学園に赴く事が出来ませんでしたが・・・」


昨年、デシジュはフロイオニアの貴族として、また一人の父親として息子のガージュの応援に駆け付けている。

父デシジュの見ている前で見事優勝を果たしたガージュだが、今年はレキと戦う道を選び、敗退した。

相手が相手だったとはいえ、昨年に比べれば不甲斐ない結果となっている。


「ガージュも良く戦ったと聞いているぞ」

「ち、父上・・・」

「アラン殿下を相手に一歩も引かなかったそうではないか。

 父親として誇りに思うぞ」

「あ、ありがとうございますっ!!」


叱責されてもおかしくない状況ではあるが、デシジュはガージュを称賛した。


二年生の代表として、準優勝を果たしたアランチーム相手に全力でぶつかった。

完敗ではあったが惨敗ではなかった。

実際、アラン達も苦労させられたと述べている。

少なくとも、二回戦で戦ったカム達より戦術を駆使してきた分手ごわかったと。


「今年の武闘祭が見れず誠に残念だった。

 折角だ。

 本日はその話を存分に聞かせて頂きたい」


そんなガージュの試合を人づてに聞いていたデシジュは、身に行けなかった事を大層悔しがっていたそうだ。


息子の晴れ舞台。

優勝できなかったとはいえその試合は見事なもの。

やはり何を押しても見に行くべきだった・・・と。


息子は優勝できなかったが、その分息子のクラスメイトであるレキ達と、この国の次代の王であるアランが活躍してくれるだろう。


学園の代表は国の代表。

国の威信をかけて試合に臨む生徒達を、国の貴族が歓待するのは当然の事。

そんなデシジュの心遣いを受け、一向は本日デイルガ伯爵家に宿泊する事になった。


――――――――――


「ご無沙汰しておりますアラン殿下。

 ご活躍は聞いておりますぞ」

「うむ、伯爵も元気そうでなによりだ」


レキ達一年生に宿泊の交渉(と言っても事前に打ち合わせ済みだが)を任せていたアラン達も合流し、一向は伯爵家で一泊する事となった。


アランを先頭に屋敷へと入ってきたのをデシジュが出迎える。

一応はアランも王族。

何事も無ければ次期王でもある。

当然、伯爵の出迎えも最上位のそれ。

学園の行事で立ち寄っただけとは言え、貴族の対応としては当然である。


なお、フランやルミニアにもデシジュは同様の対応をしている。

フランは「うむ!」と、ルミニアは「ご丁寧にありがとうございます」と、それぞれ応じている。


それぞれ学生である事は自覚しているのだが、それとこれとはやはり別の話。

アランとしても、婚約者のローザも一緒となれば相応の歓待を受ける必要があるのだ。


アランがデシジュと話をしている間、レキ達はガージュの案内で屋敷を探検(?)する事にした。


「案内と言っても、ここは王宮程広くないぞ」

「大丈夫!」

「うむ、楽しければよいのじゃ」


二年生になっても純真さを失わないレキとフランである。


そんなレキを微笑ましく見守るルミニアや、何故か感激しているルーシャ。

付き添いであり後日案内役として活躍する予定のリーラ、ファイナもまた、感激に悶えている。


なお、リーラやファイナはフロイオニア学園の関係者ではない為、最初は宿を取るつもりでいたのだが・・・。

デシジュの計らいで、二人も伯爵家に泊まる事が叶ったようだ。


曰く、二人はライカウン教国から遣わされた使者であり、両国の友好の為にも持て成すのは当然である、と。


「父は精霊信仰に厚いのでな。

 まあ、少々行き過ぎているところもあるが・・・」


行き過ぎている、と言うのはデシジュが他種族排斥派に所属している事だろう。


元々この世界は創生神が生み出した。

自然や生物、人もだ。

精霊は人と世界の導き手として生まれ、その精霊が人の願いを聞き届けて獣人が、精霊と人が交わり森人が生まれたとされている。

山人も採掘や鍛冶に適した体格へと精霊の導きにより人から進化した種族だと。


創世神話に従うなら、純人族こそが全ての種族の祖でもある。

故に、純人族こそがあらゆる可能性を秘めた最も優れた種族である。

故に、他種族は純人族の下であり、他種族を見下し、更には排斥しようと言う考えに至った集団。

それが他種族排斥派なのだ。


他種族を下に見る、自分達こそが最も優れた種族であるという考えは、少なからずどの種族も持っている。

根本にあるのは自分達と他の種族との違いからくるものであり、こういった考えが無くなる事は無いのだろう。


そもそも種族ごとに特徴が違うのだ。

優劣をつける必要などない。


武術と狩りに優れた獣人。

魔力と魔術に優れた森人。

鍛冶と採掘に優れた山人。

特出した者は無くとも満遍に優れる純人。


どの種族も素晴らしく、競い合い時に手を取り合いながらこの世界を生きていけばよい。

・・・と、誰もが考えていれば良いのだが。


「ミームとかに何も言わなかったな」


レキ達のメンバーには獣人のミームや森人のファラスアルムがいる。

アラン達にもジガやラリアルニルスが。

他種族排斥派である以上、この四名にはあまり良い顔はしないはず。


「貴族たるもの、考えを表に出さないのは当然ですけどね」


とは言えそれを表に出してしまうような愚行を犯すほど、デシジュ伯爵は愚かではない。

そもそもフロイオニア学園自体、種族の違いなく誰もが平等に学べる場所として国が設立した機関である。

フロイオニア王国の貴族として、学園の理念に賛同し支援するのは当然。

心ではどう思おうとも、それが貴族と言うものなのだ。


何より、ミームやファラスアルムはフランやレキの友達である。

王族であるフランや英雄であるレキの心証を悪くするような真似を出来るはずも無い。


故に、ミームやファラスアルムがデイルガ家に泊まっても特に問題は無い。

いつも通り楽しくワイワイと過ごせば良いと言う事だ。


「一応大武闘祭に向かう途中である事は忘れるなよ」


レイラスに釘を刺されつつ、レキ達はまず大広間へと案内された。

しばらくの間、土・日連続更新します

引き続き当作品をよろしくお願いいたします

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