第553話:アランの奮戦
ローザの指揮によりまとまりを見せ始める三年生達。
一丸となってアランへと挑んで行く四年生達。
約五十人の生徒達がそれぞれ武器を、杖を構え、魔力を高める。
そんな彼等に対し、アランは盾を前面に構え、真っ向から立ち向かう姿勢をとった。
あらかじめレキを後方に回し支援を任せたのは、レキを前面に出してしまえば一瞬で終わりかねないからだ。
どうせやるなら全力で。
ローザ達四年生やカム達三年生と、己の全力を出し切るつもりで思う存分戦ってみたいと思ったからだ。
「うらっ!
いくでアランっ!!」
「うおぉっ!!」
「はあっ!!」
最初に激突したのはアランの仲間達。
ジガが棍で、ラリアルニルスが大剣で、フィルアが剣でアランに切りかかり、それをアランは剣と盾で巧みに受け止める。
剣も魔術も優れているアランだが、最も得意とするのは盾。
それは弱者を守る為の技術であり、アランが王宮で学んだ騎士の戦い方である。
妹であるフランを守る為に身に付けた技術であり、学園の仲間達を守る為に磨いてきた技術。
その技術を用い、アランは仲間三人の攻撃を全て受けきった。
「ちっ、さすがアランや」
「簡単にはいかぬか」
「当たり前」
仲間である三人もそれは良く分かっている。
元よりこの攻撃はけん制。
自分達は本気でアランに挑んでいるのだと、だからアランも、そして他の生徒達も全力を出せという意思表示であり、アランの実力を改めて周囲に見せる為の攻撃だった。
「だがっ!」
「ローザっ」
「お前らもやっ!!」
「今ですっ!」
「撃てっ!!」
アランをその場に釘付けにしつつ後方に指示を出す。
ジガ達がその場を離脱すると同時に、ローザの指示を受けた魔術士達が一斉に魔術を放った。
「はあっ!!」
眼前に迫る魔術に対し、アランもまたその場に手を着き魔術を放つ。
アランはこの学園でも有数な魔術の使い手である。
扱える系統は三系統におよび、それぞれ中級まで修めている。
今回アランが用いたのは青系統の中級魔術ルエ・ウォール
水を用いて壁となし、相手の魔術を防ぐ防性魔術。
水で出来た壁である為、多少の流動性はあるが視界をそれほど遮らない。
欠点は、黄系統のような物理的な威力を持った攻撃に弱い事と・・・。
「うらっ!」
「ふんっ!」
水の壁であるが故に、多少強引に突っ込んでしまえば破られてしまう事。
力任せに水の壁を突破し、ずぶぬれになったカムが全力で斧を叩きつけ、アランがそれを剣で受け止める。
「はあっ!」
「うおっ!」
「甘いっ!!」
更には、横から時間差で放たれた魔術を盾で防ぐ。
おそらくは事前に練られた作戦では無かったのだろう。
当たりそうになったカムが慌てて避けていたが、幸いカムにもそしてアランにも被害はない。
「次いくでっ!」
「ここだっ!!」
「はっ!」
初撃を防がれ、ローザやカム達に追撃を譲ったジガ、ラリアルニルス、フィルアの三人が再びアランへと仕掛ける。
今度は三方から。
魔術をかわしつつそれでもアランに斧を振るい続けるカムを含め、四方から挑むように。
そんな四人の攻撃を、アランは冷静に剣と盾で受け続けた。
――――――――――
「す、すごい・・・」
今武舞台上で行われているのは、アランと三・四年達との戦い。
最初は様子見していたのだろう、率先してアランに襲い掛かる生徒はごくわずかだったが、試合が進むにつれその数は増していった。
レキが邪魔にならないよう武舞台の端へと移動し、アランを中心に乱戦が繰り広げられていた。
約五十人の猛攻に、それでもアランは一歩も引かず立ち向かった。
アランは確かに強い。
伊達に四年生の代表を務めておらず、二年連続で学園の代表の座を勝ち取っていない。
それでもレキに比べれば数段劣り、学生のレベルをそこまで逸脱していない。
だが、そんな評価など今の試合を見ればあてにならない事が分かる。
今のアランの実力もまた、レキ同様学生のレベルを凌駕しているように見える。
少なくとも、一年生のケルンとコルンなど足元にも及ばない。
例えば相手が遥かに格下の集団だったなら。
数だけの相手などケルン達でも勝てるだろう。
だが、今アランと戦っているのはケルン達より強いであろう上級生達。
いくら本戦に出場できなかった生徒とはいえ、この学園で鍛錬を続けてきた生徒だ。
そんな生徒達が先ほどからアランを攻め切れていないのは、それだけアランの実力が高いからか、それとも・・・。
「アラン殿下は防御に徹しています」
「えっ?」
今年初めてとなる武闘祭。
一年生の代表として出場したケルンは、そこでフロイオニア学園のレベルの高さを思い知った。
予選は期待外れだった。
いくら同じ一年生とはいえ、もう少し手ごたえがあると思っていた。
野外演習で悔しい思いをしたのはケルンだけではない。
妹のコルンも演習での失態を挽回すべく、鍛錬に力を入れるようになった。
自分は強いだなどと粋がっていても、いざ魔物と対峙すれば恐怖にすくみ何も出来ない。
妹のコルンと二人、武器こそ構えたが一歩も踏み出せず、同じクラスの生徒達が逃げるまでの間ゴブリンをけん制するのがやっとだった。
教師に聞いたところ、昨年の一年生最上位クラスの生徒はゴブリンと真正面から渡り合ったそうだ。
レキに至っては勝手に森に入りゴブリンに殺されかけていた生徒を救う為、たった一人で夜の森に入ったとか。
四方から迫るゴブリンの片面を一人で受け持ち、撃退したとも聞いている。
昨年の大武闘祭。
プレーター獣国で行われた大会で見たレキの実力はやはり本物だった。
そのレキがいるフロイオニア学園なら自分達より強い生徒がいくらでもいるはずだと思い来てみたところ、残念ながら一年生達は期待外れ。
でも、上級生達は期待以上だった。
武闘祭の本戦。
ケルンはルミニアに、コルンはレキに手も足も出なかった。
レキはともかく、たった一つしか違わないルミニアにああも圧倒されたケルン。
予想外で、予想以上で、期待以上の実力に、やはりフロイオニア学園に来て良かったと心から思う事が出来た。
個人戦は二人が敗北した後も期待以上の試合が行われ、最終的にはレキが優勝した。
続くチーム戦、ケルンとコルンは意気揚々と三年生チームのエースだろうカムに挑み、二対一だと言うのに敗北した。
そして今、二人の見ている前では、四年生代表のアランが五十人の生徒を相手に一歩も譲らない戦いを繰り広げている。
改めて、二人はこの学園のレベルの高さを思い知った。
自分達も早くアランと戦ってみたい。
期待に膨らむ胸を抑えるので精一杯な二人である。
そんな二人の前で、アランが幾度かの猛攻の後にとうとう膝をついた。
――――――――――
アランは強いがあくまで学生のレベル。
レキのような学生レベルを超えた実力を有しているわけでは無い。
体力も同様。
四年生代表とは言え、五十人を相手に戦い続けられるほど有していない。
「今やっ!」
「アランを倒すぞっ!」
膝をついたのを好機ととらえ、一斉に襲い掛かるジガとラリアルニルス。
仲間だからこそ、最後まで手を抜かず戦うのだ。
仲間であり自分達のリーダーでもあるアランと全力で戦う。
それしか頭に無かった今の二人は忘れていた。
これはアラン対五十人の試合ではなく、レキとアランの二人対五十人の試合である事を。
「レキ、任せた」
「うんっ!!」
自分の出番はここまで。
役目は果たしたと言わんばかりに、アランがレキの名を呼び後方へと下がった。
アランに言われ、これまで黙っておとなしく見ていたレキが、ようやくやってきた出番に両の剣を構えた。
「こ、ここでレキかっ!」
「卑怯やでアランっ!!」
「勝つ為に策を練るのが指揮官の務めだっ!」
交代するなら今を置いて無い。
今までは四年生代表としての意地と、レキ抜きでどこまで戦えるかと自分を試す為一人で戦っていた。
この模擬戦は元々レキと戦いたい者達が集まり開催されたもの。
アランなどほぼオマケであり、昨年等はアランもジガ達と共にレキと戦っている。
レキにとってアランなどいてもいなくても同じ。
同じ学園の代表とは言えその差は明白。
アラン自身、それは良く分かっている。
それでも、アランにだって意地はある。
四年生代表として、今対峙しているジガ達のリーダーとしての意地が。
レキとの共闘。
実力的にも、役割的にも、アランはレキの後ろで指揮と補佐を担当する事になるはずだった。
その方がお互いの不足を補う形としてベストだからだ。
レキが前衛、アランが後衛。
戦術的に何も間違っていないとはいえ、それでは四年生としての面目が立たない。
レキの方が強い事は大会を見た者全員が分かっている。
だからと言ってレキに全てを任せ、自分は後ろで指示を出すだけなど、誰であろうアラン自身が許せなかった。
今更レキと己を比較するつもりは無いが、それでも四年生として、最初からレキにまかせっきりにするわけには行かなかったのだ。
限界まで戦い、一人でもこれだけ出来るのだと。
三・四年生達に、試合を見ている一・二年生達に。
試合を見ているであろう両親に。
自分自身に。
レキに。
アランは見せなければならなった。
アランだって男だ。
その男としての意地をこの試合の間くらいは貫きたかった。
限界まで戦い、ジガ達の体力もそれなりに削れた。
何より最後まで耐えきった。
アランの役目としては十分。
ここからは真の代表が、その実力を見せつける時だ。
何としてもアランを倒そうと全力を尽くしていた分、あと少しと言うところでレキと交代され、ジガ達が目に見えて狼狽した。
「ようやくかよっ!!」
反面、カムはようやく出てきたレキに闘志を再燃させていた。
そもそもカムの目的はレキと戦う事。
レキと戦う為に、こうして武闘祭が終わっても残っていたのだ。
確かにアランも倒すべき相手ではある。
先ほどまでも十分全力で戦っていたが、それでもカムとしてはここからが本番だった。
レキが前に出た事で一瞬足を止めたジガとラリアルニルスの横を抜け、カムが前に躍り出て斧を振るう。
「うらっ!!」
「ていっ」
その斧を、レキは双剣で打ち返した。




