第550話:大武闘祭が終わって・・・
「これより表彰式を行う」
今年も二日間に渡る武闘祭が終わった。
今、武舞台には個人の部、チーム戦の部に出場した選手達が並んでいる。
今年の武闘祭も、昨年同様実に見応えのある大会だったと誰もが語り合った。
レキは相変わらずの実力を見せつけ、二年生となって貫禄も出てきたようだ。
同じ二年生のルミニアは、惜しくも三位で終わったがその実力は誰もが認めるほど。
来年こそはレキと共に学園の代表になるだろうと、誰もが思った。
そんなレキとルミニアが同じチームで戦った二年生第一チームは、レキ以外の生徒の奮戦も目立っていた。
誰もがレキの仲間としてその実力を発揮し、学園の代表に相応しいチームだ。
そんなレキ達に負けたアラン達ではあるが、彼等の実力もまた本物だ。
個々の実力、戦術、チームワーク。
どれをとってもレキを除いた四人を上回り、レキがいなければ優勝したのはアランチームだった。
二年連続学園代表は伊達ではない。
ただ、レキの実力が抜きんでていたと言うだけの話である。
レキの実力は昨年の武闘祭でも十分分かっている。
故に、今年の武闘祭で最初から最後までレキは注目されていた。
優勝するのは当たり前、そんなプレッシャーを感じることなくレキは戦い、そしてあっさり優勝を果たしてみせた。
「個人の部第三位、ルミニア=イオシス」
「はい」
「個人の部第二位、アラン=イオニア」
「はっ」
「個人の部第一位、レキ」
「はいっ!」
「チーム戦。
第三位、三年生第一チーム」
「おうっ!」
『はいっ!』
「第二位、四年生第一チーム」
『はいっ!』
「第一位、一年生第一チーム」
『はいっ!』
皆、レキが優勝するだろうと思っていた。
それでもレキに期待し、注目していたのは、それだけレキと言う強者に誰もが魅かれているから。
何時の時代も圧倒的な強者には人を魅了する何かがある。
レキには実力もさることながら、多くの者を魅了する黄金の魔力もある。
武術で圧倒し、無詠唱で魔術を放ち、その全身を黄金の魔力で輝かせながら武舞台上を舞う様にかけるレキの姿は、誰もが魅了され目を離せなかった。
ライカウン教国の者なら、誰もが感激に打ち震えていたはず。
実際、特別に招待されたファイナやリーラなどは、試合中感動の涙をこらえるので必死だった。
涙でレキ様の試合が見れません・・・でもレキ様の雄姿を見届けなければと、涙を止める為なのか若干目が血走っていたとかいないとか。
試合が終わり、その我慢も限界だったのだろう。
泣き崩れた二人が立ち直ったのは大分経ってからで、その後の表彰式で威風堂々と立つレキの姿に、再び泣き崩れたのは言うまでもない。
一年生は学園のレベルの高さを知り、四年生は悔いが残らぬ様全力を尽くした。
来年最高学年となる三年生は、四年生と二年生の強さに身を引き締める。
そしてレキ達は、アラン達と共に再び大武闘祭へと挑む。
今年の代表:
二年生レキ。
四年生アラン=イオニア。
二年生チーム
レキ
フラン=イオニア
ルミニア=イオシス
ユミ
ファラスアルム
四年生チーム
アラン=イオニア
ローザ=ティリル
ジガ=グ
ラリアルニルス
フィルア
いずれもフロイオニア学園代表の名に相応しい者達。
狙うはやはり優勝である。
――――――――――
「うっしゃ~、勝負だレキっ!!」
半ば恒例となっている、武闘祭終了後のリベンジ試合。
ミリスやレイラスが学生だった頃からあったらしいこの風習は、昨年あまりにも収拾がつかなかった為急遽レキ対そこら辺にいた生徒全員と言う特別試合へと発展した。
ガス抜きが理由ではあったが、昨年その発端となったカムはどうやら気に入っていたらしい。
レキ対十六人と言う一方的な試合だったにもかかわらず手も足も出なかったと言うのに。
カムとしてはレキの圧倒的な実力を思い知らされたはず。
それまでレキの実力を知らなかった者なら、心が折れてもおかしくはなかった。
それでも諦めず鍛錬を重ね、随分と実力も上がっただろうカムは、それでも今年もレキには勝てなかった。
そろそろ思い知ってもおかしくないと言うのに・・・。
残念ながらカムは、と言うか多くの獣人は一度負けたからと言って諦めるような種族ではないらしい。
むしろ何度負けようとも勝つまで挑み続ける種族のようだ。
そんなわけで、今年も武闘祭が終わった直後レキに挑んでくるカムである。
むしろこの特別試合をこそ待っていたふしすらある。
それだけ、カムにとってレキの存在は大きなものとなっているようだ。
勝てるかどうかなど二の次。
圧倒的な強者がいるなら、挑まずにはいられないのである。
「まてカム=ガ」
「んだよ」
自分も何度か経験しているからか、あるいは普段のカムの言動を知っているのか。
まぁ獣人の行動など分かり易いのだろうが。
こうなる事は予測済みと、レイラスがカムを止める。
「まだ生徒が残っている。
せめて誰もいなくなるまで待て」
「ちっ、わあったよ」
カムとしては今すぐにでもレキに挑みたかった。
なんなら表彰式など無視してでも。
これから行われるのはあくまで私闘である。
黙認されているとはいえ正式に許可を出した訳でも無ければ許可を出せるはずもない。
故に昨年は、他の生徒がいなくなった後にこっそり行ったのだ。
カムも一応は理解しているようで、渋々といった感じではあるがおとなしく全員がいなくなるまで待つつもりではいるが・・・。
「今年もやるのかな?」
「なあ、見てっちゃダメなのか?」
「カムの奴が暴れそうだぞ」
「レキが何とかするだろ?」
「俺も戦ってみたいんだけど」
「俺も俺もっ!」
「合同授業で手合わせ出来っけど、やっぱこういう時にも戦ってみたいよな~」
「一撃でも当てれれば勝ちなんだろ?
全員で挑めばなんとかなるんじゃね?」
「それでも去年はダメだったって・・・」
昨年、大会後に大勢でレキに挑んだと言う話はそれなりに広まっている。
人の口に戸は建てられないとは言うが、実際に戦ったカムやフラン達が悔し気に、あるいは楽し気にその様子を語っていた為、来年は自分もと考えてしまう生徒も多かった。
合同授業でもその話題は出ていたが、流石に授業を無視してまでクラス全員でと言うのは出来なかったのだろう。
だからこそ、今年は参加を希望する生徒が大勢いたようで、武術場からはなかなか生徒達がいなくならなかった。
「てめぇらっ!
さっさと帰りやがれっ!」
「うるせぇぞカムっ!」
「そうだ、お前だけずるいぞっ!」
「レキ殿に挑む権利は我々にもあるっ!!」
「最後に戦わせてくれたって良いだろうっ!」
「レキ様に手を出すのは私が許しませんっ!!」
「レキ君は私が守るわっ!」
なかなか試合が始められず、イライラし始めるカムである。
とは言えこれは試合でもなければ授業でもない。
レキと戦うのはカムの一方的な我儘であり、教師達もいつもの事だと黙認しているだけ。
他の生徒にだって等しくレキに挑む権利があるのだ。
昨年の試合内容は結果含めて多くの生徒が知っている。
そもそもここに残っている生徒のほとんどは予選を勝ち抜けなかった生徒達。
圧倒的な実力で優勝したレキに勝てると思っているような傲慢な者などこの場にはいないのだ。
それでも挑みたいのは大会の熱気に当てられたからか。
あるいはカムの話に触発されたのか。
四年生などは学園最後の思い出にと言い出す始末。
何故かレキに味方しようとする生徒まで現れた。
毎年恒例なこの大会後の私闘。
だが、今年は昨年とば別の意味で異色な物となりそうだ。
――――――――――
「いっそのこと纏めて相手させるか」
あまりの混乱っぷりにそんな事を呟くレイラスである。
レキなら出来てしまうあたり、案外悪くないのではと思ってしまう。
むしろ集団戦の練習と考えれば、双方に特がある気がしないでもない。
まあ、流石にそれは許可が下りないだろうし、収拾もつかない。
何より、全生徒が一度に戦えるほど武舞台は広くない。
乱戦であれば不慮の事故は避けられず、魔術が暴発してしまえば最悪死人も出る。
レキとてそこまで手加減が出来るとは思えず、残念ながらそれは却下する事にした。
代わりにレイラスが思いついたのは・・・。




