第548話:決勝戦開始!
お昼が終わり、午後からはいよいよ武闘祭の決勝が行われる。
その前にまず三位決定戦。
戦うのはカム率いる三年生第一チームと、同じ三年生の第二チーム。
アランチームに負けたカム達は、それでもやり切ったと言う想いはあれど闘志は冷めておらず、第二チームもレキ達と戦えた事を誇りに抱き、そんなレキ達に恥じない戦いをするつもりだ。
元より同じ学年、同じクラスの仲間達。
模擬戦で戦った回数など数えきれず、互いの実力も戦術もよく分かっている。
実力ではカム達の方が一枚上手。
だが決して勝てない相手ではない。
授業などで行った模擬戦でも、勝率こそ低いが何度か勝った事もある。
昼休憩を挟んだ事でお互いのコンディションは万全。
一回戦を勝ち抜き、強敵相手に最後まで戦い抜いた事で精神的にも落ち着けている。
心身ともに軽く、今ならいつも以上の実力が出せるかも知れないと思えるほど。
第一チームと第二チーム。
一般的には第一チームの方が実力が上である場合が多く、実際どの学年のチームも第一チームの方が優勝している。
何より三年生の第一チームには、個人戦の代表でもあったカムとカシーヤの二人がいる。
普通に考えれば第一チームが勝つだろう、どの生徒もそう思ったが・・・試合は接戦だった。
実力で上回るカムと戦術に優れるカシーヤ。
二人を要する三年生第一チームは、アラン達やレキ達がいなければ十分優勝を狙えたチームだ。
だが、第二チームはそんなカム達と切磋琢磨してきたチームである。
午前中の熱も冷めていない。
いつもの授業で行われる模擬戦とは比べ物にならないほどに白熱した試合は、それでもカム達の勝利で終わった。
――――――――――
そして・・・。
「これより武闘祭本戦、決勝戦を始めるっ!」
「四年生第一チーム」
『はいっ!』
「二年生第一チーム」
『はいっ!』
武闘祭はいよいよ決勝戦を迎えた。
優勝候補筆頭のアランチームが率いる四年生第一チーム。
個人戦でそのアランを圧倒し優勝したレキ率いる二年生第一チーム。
昨年とほぼ同じ対戦カード。
圧倒的な強さを誇るレキに、アランがどう立ち向かうかが注目された。
もちろんレキ以外の二年生達も実力者ぞろいだ。
個人戦で四年生のフィルアを倒したルミニア。
入学前からレキと共に鍛錬してきたフラン。
レキをお手本に頑張ったユミ。
学園で最初に無詠唱に至ったファラスアルム。
対するはアランチーム。
婚約者であり昨年の三年生代表だったローザ。
そのローザを倒し今年の代表となったフィルア。
魔術を駆使する獣人ジガ。
大剣を振るう森人ラリアルニルス。
アランチームの顔ぶれは昨年と変わらず、対するレキ達はレキ以外が一新されている。
だからこそ昨年とは違う展開になるのだろうと、会場中の期待も高まっている。
圧倒的な実力を誇るレキに、アランがどのような戦術で挑むか。
あるいはルミニアがどのようにレキを使いアラン達を倒すか。
昨年の大会、そして今年の個人戦を見ていた生徒達は、今のところレキの優勝を疑っていないように思えた。
レキの実力はもはや個人の枠に収まらず、一人で大軍をも相手に出来てしまうほど。
たかが学生、何人束になろうと勝てるはずもなく、それは度々証明されてもきた。
全力を出してはならないと言うハンデこそレキには与えられているが、それでもアラン達五人を一人で対処できてしまうほどの実力がある。
そんなレキがチームで戦う。
足を引っ張る程度の実力しかないならまだしも、フラン達もまた二年生の最上位クラス。
それぞれが代表に相応しい実力を持っており、チームワークも抜群。
アラン達にだって引けを取らない。
レキがおらずとも良い勝負が出来る。
故にレキの存在が決定打となる。
そう、思われたのだが・・・。
――――――――――
「いくぞっ!」
開始の合図にまず飛び出してきたのは、アランチームの特効役ラリアルニルス。
普通の森人と違い、彼は大剣を振りかぶり相手チームへと我先に突っ込んで行く役割を担っている。
アラン達が押し付けたのではない。
むしろ何も言わずとも駆け出してしまうのだ。
どうせ止めても無駄だろうと、アランもそれを踏まえた上で戦術を組んでいる。
「え~いっ!!」
ガキンッ!!
武舞台の真ん中で、大剣と長剣が激しくぶつかった。
ラリアルニルスを迎え撃ったのは、レキチームの前衛であるユミ。
元々彼女は大剣使いだった。
だが、ユミの背丈に合っていないと言う理由から、レキやガドの勧めで長剣に持ち替えている。
重い大剣を振り回せる力はあれど、まだ幼い体がその勢いに流されてしま為である。
振り回されぬよう踏ん張る事も出来たが、それは余計な力を使い、何より大きな隙を生み出してしまう。
大剣を振るうだけの力が無かった訳では無い。
それを証明するかのように、ラリアルニルスの大剣をユミが真正面から受け止めた。
「やるなっ!」
「まだまだっ!」
ガキンッ!ガキンッ!と、ユミとラリアルニルスが武舞台上で激しく打ち合う。
そんな前衛同士のぶつかり合いの横で、お互いの指揮官は仲間達へと指示を出した。
「フィルアは右っ、ジガは後方から回り込めっ!
ローザは私と正面を受け持つぞっ!」
「レキ様はフィルアさんとジガさんをお願いしますっ!
私はファラさんとローザ様を。
フラン様っ、アラン様をお願いしますっ!!」
「うむっ!!」
「なっ!!」
ルミニアの最後の指示が耳に届き、アランが驚愕に目を丸くした。
――――――――――
相性の良い相手をぶつけるのは作戦の基本。
例えば魔術士に戦士をぶつける。
この場合、相手が無詠唱魔術を使えない場合が好ましいが、例え使えても不慣れなら問題ない。
魔術が不得手な戦士に魔術士が距離を保ちながら対峙する。
この場合もまた、無詠唱魔術が使えるならなお有利となる。
確実に勝利する為には必要な作戦である。
それは何も、互いの戦闘スタイルに限った話では無い。
「ゆくぞ兄上っ!」
「ルミニアぁ~!!」
双短剣を構え、嬉々として兄であるアランに突っ込んで行くフラン。
待ち受けるアランはと言えば、迫りくる愛しき妹に盾を構えつつ、フランをけしかけたルミニアに何やら叫んでいた。
「兄上とは本気で戦った事が無かったからのう。
せっかくの機会じゃ、存分にぶつかろうぞっ!」
そんなアランの心情も知らず、気にする事も無く。
アランの構える盾をかいくぐるべく小さい体躯を更に低くし迫るフラン。
上に跳ぶでもなく、横から迫るでもない。
フランの背丈の小ささを活かした、盾の下から相手の懐に迫る攻めだ。
「くっ!」
盾を下に下げれば攻めは防げるが、そんな単純な防御が通じるなら苦労はない。
フランの最大の持ち味はミームにも負けないすばしっこさだ。
進路がふさがれたのであれば、すぐさま方向を変えて更に迫るだろう。
どうにも食い止められない事を悟ったのか、アランも覚悟を決めた。
アランとて四年生の代表。
共に戦う仲間達の指揮官でありリーダー。
フランと戦いたくないなどと言う私情を持ち込むなどあってはならない。
なるべく傷つけず、出来るだけ優しく倒そう。
そんな考えが頭をよぎった瞬間。
「うにゃっ!」
「くっ!」
フランの双短剣がアランの眼前に迫った。
――――――――――
ユミをラリアルニルスに、フランをアランにぶつけるのは当然ルミニアの作戦だった。
これまでの試合を見る限り、ラリアルニルスは開始と同時に突っ込んでくる癖がある。
考え無しな行動ともとれるが、それでいて相手チームを見て判断している様に思えた。
ユミのようなラリアルニルスと同質の前衛がいる場合に限り、相手の前衛を抑える為に突っ込んでいる。
そんな風にも取れるのだ。
ラリアルニルスの実力は高く、ユミ一人では正直荷が重いかもしれない。
それでも守りに徹してくれれば多少は持ちこたえられるはず。
アランにフランをぶつけたのは決して嫌がらせなどではなく相性の問題である。
アランのような騎士剣術を扱う者にとって、その剣の更に内側に入り込まれてしまえば戦いづらくなる。
盾で防ごうにも近すぎて取り回しが難しい。
フランの背丈とすばしっこさもまた、アランや騎士にとって戦いづらい要因だった。
実力的にはアランが上でも、相性で喰らいつける。
何よりアランにとってフランは剣を向ける事すらはばかられる、いわば天敵のような存在である。
フランの方は遠慮がないので尚更。
ある意味、これがアランに与えられた最後にして最大の試練なのかも知れない。
残る三人、
フィルアは堅実な戦いを、ジガはトリッキーな戦いを行う。
どちらも実力者。
加えて、二人は目の前の敵に集中しつつも周りに目を向ける事が出来ている。
連携を防ぐには、何よりも二人を完全に封殺できる実力が必要だった。
ルミニア達の中でそれが出来るのはレキだけ。
幸い、レキなら二人同時に相手しても問題なく、非常に心苦しいが任せる事にしたのだ。
後はルミニアがファラスアルムと共にローザを倒すのみ。
今年の個人戦本戦には出ていないとはいえローザの実力もまた高い。
ファラスアルムと二人がかりでも油断はできなかった。
「はっ!」
「くっ!」
「やあっ!」
ルミニアが前衛、ファラスアルムが後衛。
指揮官であるルミニアと、それを補佐するファラスアルムは常に近い場所で戦ってきた。
作戦も共に考え、戦闘中にフォローもし合った。
指揮官であるルミニアは当然、支援を担当するファラスアルムも全体を把握する事にかけては慣れている。
もちろん仲間のフォローもだ。
今、二人はお互いをフォローし合いながらローザに挑んでいた。




