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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十八章:学園~二度目の武闘祭・本戦・チーム戦~
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第544話:四年生、最後の大武闘祭

試合は進む。


一回戦第三試合は一年生の第二チーム対三年生第二チーム。

結果は三年生側の圧勝。


今年の一年生はケルンとコルンが抜きんでているようで、他の一年生は例年と同程度でしかなかったようだ。

レキ達は元より、アラン達が一年生の時より弱いらしい。


一回戦最後となる第四試合は、そんなアランと同じ四年生第二チームと、ようやくの登場となったレキ達二年生第一チームとの対戦である。


――――――――――


ある意味これほど覚悟のいる戦いは無い。

レキ達と対峙する四年生第二チームは、誰もがその顔に悲壮な決意を見せながら武舞台上に立っていた。


レキは言わずもがな学園最強の生徒である。

昨年は一年生ながらにして武闘祭本戦、更には大武闘祭でも優勝して見せた。

四年生最強のアランをも圧倒するほどの実力。

それすら全力ではないと聞かされれば、現四年生が勝ち目が無いと思っても仕方ない。


更には、今年のレキチームにはイオシス公爵家の子女であるルミニアもいる。

昨年の学年代表だったミームはいないが、その代わりに代表となったルミニアの実力は四年生達も見た。

自分達の代表であるフィルアを下し、アランとあれほどの激戦を行った才女。

実力が自分達より上である事はもはや疑いようもない。


他のチームメンバーも、誰もが無詠唱魔術を扱い隙が無い。

小柄ながらすばしっこいフラン。

あの体躯からは信じられないほどの力を持つユミ。

ファラスアルムは青系統の魔術を駆使し、仲間の支援に専念する。


レキを中心とした隙の無い連携。

二年前の自分達はおろか、今の自分達ですら上回るチームに、試合前から敗北感を感じざるを得ない。


ついでに言えば、アランの妹であるフランと対峙する事に抵抗を感じてもいた。


フランがアランの最愛である事は四年生なら誰もが知っている。

そのフランを傷つけた場合、アランがどう思うか・・・。

そんな考えが浮かんでしまうのも仕方のない事だろう。


入学当初アランがやる気のやの字も見せず沈んでいたのは多くの生徒が目撃しており、同じ最上位クラスの生徒であればその理由も聞かされていた。

何も知らず対戦したなら、あるいは躊躇い手を出せずにいたかも知れない。

アランに聞かされていなければ、開始早々に降参していてもおかしくは無かった。


それは現四年生達がアランを敬愛しているから。

そのアランが溺愛している最愛の妹に剣を向ける事に、抵抗を覚えてしまうから。


もちろん実際は違う。


例え最愛の妹だろうと、試合であるなら仕方ないと判断できるくらいにはアランは公平である。

事実、昨年の武闘祭・本戦でもフランは一回戦で敗北している。

棄権ではなく全力でぶつかった結果であり、その際少なからず怪我も負っている。

怪我自体は治癒魔術で治っているが、それでもフランが傷ついた事に変わりはない。


それでもアランは、激昂する事も無くただ試合を見届けた。

心中を察するのは無理だが、試合であれば、それが正々堂々真正面からぶつかった結果であれば、アランは何も言わないのだ。


とは言えそのアラン自身はフランと戦う事を何とか避けようとしていた為、多少なりとも誤解してしまうのも仕方のない事だろう。


「流石に棄権する訳には・・・」

「ああ、これが最後だからな・・・」


もちろん棄権など出来るはずが無い。

彼等は四年生。

武闘祭もこれが最後、結果は卒業時の評価にも繋がる。


武闘祭の本戦には国王を始め国内の貴族が多く見学に来ている。

昨年のレキとアランの活躍もあり、昨年以上の貴族達がレキや次代の王であるアランの雄姿を見届けようと集まっているらしい。

そんな中、戦いもせず逃げてしまえばどうなるか・・・。


卒業を控えているからこそ逃げられない。

そんなジレンマに苛まれる四年生第二チームの面々である。


「よし、行こう!」

「うむ!」

「はい」

「うんっ!」

「は、はいっ!」


そんな四年生達のジレンマなど知らす、レキ達はようやくやってきた出番にやる気満々と言った様子。

一回戦最後を飾る試合。

何より昨年、フラン達はこの一回戦であえなく敗北している。


その悔しさは今でも覚えている。

レキが仇を取り、そのまま優勝している為後に引きづるような事は無かったが、そのレキが大武闘祭でも優勝した姿をフラン達は観客席でただ見ているしかなかった。


レキと競いたかった。

その為昨年は別のチームになった。


レキと一緒に大武闘祭に出たかった。

その為今年は同じチームとなった。


予選は突破できた。

次は本戦。

レキにとっては通過点でも、フラン達にとっては昨年超えられなかった壁。

気合だけならレキ以上。

あるいは本戦に出場した他のチームより入っているかも知れない。


「おい」

「あ、アラン様」


意気揚々と控室を出て行くレキ達。

一歩遅れた四年生第二チームが慌てて後を追おうとして、アランに呼び止められた。


様子がおかしい事に気付いたのか。

もしかしたら、いや万が一にもないのだろうが、フランを傷つけたら許さんなどと言うつもりか・・・。


何を言われるのか若干身構えていた四年生第二チームの生徒達。

そんな生徒に対し、アランは伝えた。


「これは私達の最後の武闘祭だ。

 勝ち負けに等こだわらず全力を出し切ってこい」

「・・・」


「どうせ勝てないのだから全力でぶつかってこい」とも聞こえる言葉。

実際相手チームにレキがいる以上勝ち目など無いのだが、だからと言ってもう少し言いようがあると思うのだが・・・。


反応に困る第二チームの面々。


「もう少し言い方は無いの?」

「ま、勝てるとは言えんわな」

「うむ、勝ち目が無い事くらいこいつらだって分かるはずだ」

「それでももう少し・・・」


フィルア達も同じ意見のようだ。


とは言え、これが最後の武闘祭である事は事実である。

試合である以上、相手が誰であろうと全力を出して戦うのは当然。

レキだろうとフランだろうと、武舞台の上に立てば敵であり倒すべき相手でしかない。


例えアランの妹だろうと、手加減せず全力でぶつかるのが武闘祭なのだ。


「・・・よろしいのですか?」

「何がだ?」

「いえ、向こうにはフラン殿下がおりますが・・・」


それでもやはり躊躇してしまうのは、フランがアランの妹であり、日頃から溺愛していると言う事を知っているから。

つい先日も光の祝祭日の宴を共に過ごした事を嬉しそうに語っていたのを、四年生達は知っている。


全力を出せと言われ、分かりましたと全力でフランを倒しても、果たしてアランは許してくれるのだろうか。

そんな懸念に対し、アランはこう答えた。


「お前達はフランに勝てると思っているのか?」


と。


――――――――――


これは何も皮肉ではない。

勝負は戦ってみなければ分からない、と言うのはごくありふれた言葉であり、この武闘祭においては当たり前の事。

四年生達は確かにこの四年間アラン達と共に切磋琢磨してきた。

他の学年に比べれば誰もが実力者だろう。

だが、フラン達とて予選を勝ち抜いてきたチーム。

レキ以外の四名だって、昨年に引き続き本戦に勝ち進んだ実力者なのだ。

二年生だからと言って格下である等ありえず、故にレキがいなくとも勝てる保証などどこにも無い。


「お前達も昨年のフランの試合は見ただろう?

 レキがいなくとも四年生相手にあれだけ善戦したのだ。

 昨年のお前達でも危うかったかも知れんぞ」


昨年、フランは優勝候補筆頭だった四年生第一チームと一回戦でぶつかり、善戦して見せた。

惜しくも敗北に終わったが、一年生とは思えない試合だったと見ていた誰もがそう評価している。


そのフランが、今年はレキと共に出場する。

ただでさえ強いレキを要したフランチームは、間違いなく今年の優勝候補筆頭だ。


そんなフラン達に対し、けがを負わせてしまう心配などどれほど愚かな事か。

むしろ負ける心配をした方が良い。

レキがいるなら確実に、いなくとも勝てるか分からないのだから。


彼等がするべきはただ一つ。


「分かったな。

 だったら全力でぶつかってこい」


最後の武闘祭。

悔いを残さぬ様全力で戦う事。

勝ち負けなど結果に過ぎず、学園生活の研鑽の全てを出し切る事こそが武闘祭の目的。


彼等もこの学園で身に付けた全てを、四年間の研鑽の全てを、この武闘祭で発揮するべきなのだ。


『・・・はっ!』


アランの言葉を受け、第二チームの面々に闘志が宿った。


相手がレキである以上敗北は必須。

だが、見方を変えれば学園最強の生徒であるレキに己の全力をぶつける事が出来ると言う事でもある。


組み合わせによってはレキと戦えなかったかも知れない。

トーナメント方式を採用している以上、レキ達と戦えるのは出場チームの半数以下、たった三チームしかいないのだ。

事実、ガージュチーム、ケルン&コルンチームもレキと戦う事無く敗北していった。

初戦でレキ達と戦えるのは、むしろ幸運な事なのだ。


「我々の四年間の全てをぶつけよう!」

『ああっ!』

「良し、行くぞっ!」

『おうっ!』


武闘祭本戦、一回戦最後の試合は両チームとも気合十分で始まった。


――――――――――


因みに、試合はレキ達の圧勝で終わった。

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