第541話:一回戦第一試合
今年の武闘祭本戦・チーム戦の組み合わせは以下の通りである。
・第一試合
二年生第二チーム対四年生第一チーム
・第二試合
一年生第一チーム対三年生第一チーム
・第三試合
一年生第二チーム対三年生第二チーム
・第四試合
四年生第二チーム対二年生第一チーム
一回戦第一試合がガージュチームとアランチーム。
第二試合はケルン&コルンチーム対カムチーム。
そして、第四試合が四年生第二チームとレキチーム。
ガージュ達もアラン達も、更にはケルン&コルンもカムチームも、レキと当たるのは決勝となった。
レキ達が負けるとは思えず、負けるはずが無いと考えるのはレキ以外全員。
故に、早々にレキと当たるチームは分かり易く落胆し、そうでない者は決勝を見据えて気合を入れた。
「お前達は不運だった」
『アラン様・・・』
「だがこうも考えられないか?
最後の武闘祭、レキとの試合で終える事が出来るのだと」
『っ!』
「四年間の成果を試すには絶好の相手なのだ。
勝てずとも全力でぶつかってこい」
『・・・はいっ!!』
アランの励ましに、レキ達と当たるチームの生徒達は誰もが奮起した。
勝てるとは思えないが、それでも恥じる事のない試合をしようと。
少なくとも不戦敗を選ぶような生徒はいなくなった。
誰もが全力でぶつかるであろう今年の武闘祭。
初戦は昨年の優勝チームであるガージュチームと、準優勝のアランチームとの試合だ。
――――――――――
「これより武闘祭本戦、チーム戦の部を始める。
二年生第二チーム」
『はいっ!』
「四年生第一チーム」
『はいっ!』
昨年の結果を踏まえたなら、これが事実上の決勝戦になりかねない試合。
一戦目から白熱した試合が見られると、どの生徒も前のめりで観戦する態勢をとった。
「レキがおらずとも油断はできまい。
ガージュの指揮はかなり高い。
ミームの実力はお前達も分かっているだろう。
カルクやユーリも実力を上げている。
更にはルーシャと言う支援専門の魔術士も加わった。
チームとしての総合力は昨年以上だろう」
試合前、アラン達はガージュチームをこう評した。
レキが抜けた事により戦力ダウンは明らからが、それでも彼等にはレキと共に大武闘祭を勝ち抜いた経験がある。
毎日のようにレキと鍛錬していると言うアドバンテージもだ。
それがどれほどの事かが分かるからこそ、アラン達に油断する驕りは無い。
そもそも誰が相手だろうと手を抜くつもりは無いが、今年の武闘祭はアラン達にとっても最後。
悔いを残さぬ様、一戦一戦を全力で戦うつもりでいる。
対して。
「アラン殿下の強さは言うまでもないだろう。
ローザ様も代表にはなれなかったようだがその実力は健在のはず。
そのローザ様の替わりに代表になったフィルアさんの実力は個人戦を見て分かっただろう。
ジガさんやラリアさんも無詠唱に至ったそうだ」
ガージュもまた、アランチームを冷静に分析した。
アランチームの強さなど今更言うまでもない。
昨年、レキがいなければ優勝していたのは間違いなくアランチームだった。
それほどまでに強かったアラン達が、今年は全員無詠唱に至っていると言うのだ。
こちらもガージュとユーリが無詠唱で魔術を放てるようになっているが、戦力差はむしろ広がっていると言って良い。
「ふふんっ!
誰が相手だろうと全力で戦うだけよっ!」
臆する事無くぶつかる事が出来るのは、ガージュ達全員がレキと鍛錬を重ねてきたからか。
レキ以上に強い生徒はおらず、そんなレキと鍛錬を重ねてきたガージュ達は、強者との戦闘経験と言う点においては誰にも負けていない。
アラン達は確かに強いが、それでもレキ一人の方が上。
そんなレキとの模擬戦も重ねてきたガージュ達なら、少なくとも一方的に負けると言う事は無い。
ガージュとしては勝つ可能性は少ないと考えているが、勝てないとは思っていない。
万に一つ以上はあるはず。
それをつかみ取る為にも、初手から全力で挑むつもりだ。
――――――――――
「昨年の借りを返すぞ」
「全力で挑ませて頂きます」
試合開始の合図を待ち、双方が武器を構える。
昨年、アラン達はガージュ達に敗北している。
レキがいたからではあるがアラン達は挑戦者。
格上を相手にする気持ちで挑むつもりだ。
「一回戦第一試合、始めっ!」
「相手は僕達より上だっ!
出し惜しみせず全力で行けっ!!」
「おうっ!」
「ああっ!」
「ええっ!」
「はいっ!」
逆に、昨年勝利したガージュ達にとっても、レキがいない以上アラン達は間違いなく自分達より強い。
戦力差ではアラン達の方が圧倒的に上なのだ。
王者として迎え撃つのではなく、後輩として胸を借りるつもりで挑む。
「向こうは昨年の優勝チームだ。
侮るなよっ!」
「わあっとるわっ!」
「相手にとって不足はないっ!!」
油断なく、かと言って慎重になるわけでも無く。
対等の相手に挑むように、まずジガとラリアルニルスが突っ込んでいく。
ジガは棍を、ラリアルニルスは大剣を構え、ガージュチームの前衛であるカルクとミームのコンビと武舞台の中央でぶつかった。
「そういやあんたも獣人だったわねっ!」
「よろしゅうなっ」
別に忘れていた訳では無く、そもそもジガだって外見からして立派な獣人である。
三角の耳に大きめでふさふさの尻尾。
ミームとも似ている外見は、ジガが狐の獣人である事を如実に物語っている。
ジガは獣人族の中でも変わり者のグ族。
獣人でありながらも魔術を使い、真正面から戦うだけではなく搦め手をも用いる。
効率を求め、いざとなれば逃げる事だってある。
およそ獣人らしくないジガに対し、真正面から挑むのは獣人らしいミーム。
「獣人ならもっとがっつきなさいよっ!」
「そんなんやから獣人が脳筋言われるんやっ!!」
「脳筋の何が悪いのよっ!!」
「いやあかんやろっ!?」
ジガは獣人にしては珍しく、あまり好戦的な性格をしていない。
武闘祭でも優勝にこだわらず、ただ学園の行事として参加していた。
出る以上は勝つつもりで挑み、狙うのは優勝ではあれど、何が何でも勝ちたいとは思わない。
ある程度の評価が得られれば良く、ほどほどに勝てれば良いと思っていた。
実力はある。
一年からずっと最上位クラスに籍を置き、武術の実力ならアランやローザに次いで強かった。
今はフィルアに抜かされたものの、ラリアルニルスと四位を争っている状況だ。
獣人にしては珍しく魔術も扱い、既に無詠唱へと至っている。
思考は柔軟。
相手の裏をかくような戦術も用いる。
実力に劣る相手だろうと、奇策を用いて勝利を得る事もある。
それほどの実力ならもっと、それこそライ=ジやカム=ガの様に、あるいは昨年のティグ=ギの様に、勝利に貪欲になってもよさそうなのだが、ジガにあるのは試合を楽しもうと言う感情だけで、目の前の敵を倒そうと言う強い意思が感じられない。
ミームはこんなにも相手を倒したいと思っているのに。
学年の代表になれなかった悔しさ。
昨年のリベンジを果たせなかった鬱憤。
そういったモノを込めつつ、とにかく全力で目の前の相手にぶつかるミーム。
「ふふんっ!
まだまだやなっ!!」
「まだ始まったばかりじゃないっ!!」
そんなミームの攻撃を、ジガは手に持つ棍で軽々と捌いていった。
強者との対戦成績と言う点ではジガも負けていない。
アランを筆頭に、ローザ、フィルア、ラリアルニルスとジガの学年もミームに学年に負けず劣らず強者が揃っている。
流石にレキほどではないにせよ、実力が近い相手がいるからこそ、日々切磋琢磨できるのだ。
何より・・・。
「ほれっ」
「きゃっ!」
ジガにはアラン達と共に研鑽し身に付けた無詠唱魔術がある。
従来の詠唱魔術と違い、無詠唱魔術は距離を取らず近接戦闘中だろうと問題なく使う事が出来る。
至近距離で放たれた魔術。
ミームの身体能力を持ってしてもかわすのは困難だっただろう・・・昨年までなら。
「あっぶないわねっ!!」
「うおっと!」
ジガが無詠唱魔術を会得したように、ミームは自分の周りにいる無詠唱魔術の使い手達との戦闘経験を重ねてきた。
レキを筆頭に、フラン、ルミニア、ユミは入学前から、ファラスアルムも昨年の内に無詠唱魔術を会得し、最近ではガージュやユーリまでもが無詠唱魔術に至った。
ミーム本人はいまだ魔術を苦手としているが、だからこそ魔術士との対戦経験を積んでおく必要があった。
その成果は確実に実っていた。
確実に当たるだろう魔術を避けられ、一瞬隙を晒したジガにミームがすかさず蹴りを繰り出す。
当たりはしなかったものの、ほぼ確実に当たるだろうと思われた魔術を避けられたのは幸運だった。
少なくとも、次も避けられるかもとジガに思わせる程度には効果があったはずだ。
棍を操るジガに対し、ミームは徒手空拳。
攻撃の間合いはジガより短く、懐に入らねばそもそも当たらない。
下手に魔術中心に攻められれば、ミームは手も足も出せなくなる可能性がある。
迂闊に魔術を放っても避けられ、反撃を喰らう。
魔術にひるまず、棍を恐れず。
ジガの懐へと入り込む為、ミームは更に気合を入れた。
――――――――――
「だあっ!」
「甘いっ!」
カルクの渾身の一撃をラリアルニルスが苦も無く受け止める。
初手から剣をぶつけ合う二人の戦いは激しいモノとなった。
カルクもラリアルニルスも、日々自分より強い者と手合わせしてきた者同士。
相手を侮る事は無く、お互い出し惜しみ無しでぶつかり合った。
ラリアルニルスにはジガ同様無詠唱魔術があるのだが・・・この戦いに限り魔術を使うつもりは無いようだ。
「てやぁっ!」
「そんなものかっ!」
ラリアルニルスの武器は大剣。
森人である彼が振るうには大きすぎ、取り回しの点ではカルクの方が有利なはずだった。
だが、ラリアルニルスはカルクの攻撃を難なくさばいている。
身体能力の差は魔力による身体強化で埋める事が出来るが、技量だけは積み重ねた年月でしか埋める事が出来ない。
カルクとて入学した時から、いや村にいた頃から剣を振ってきた。
同学年でも、カルクほど剣を振ってきた生徒はあまりいないはず
だが、ラリアルニルスはそんなカルク以上に剣を振り続けてきた。
武術に適さない森人でありながら、その細い体躯に似合わない大剣を、例え周囲に馬鹿にされようと諦めず今日までずっとだ。
獣人でありながら魔術を会得しようと努力したジガ。
平民でありながらひたすら鍛錬を重ね、三年生で念願の最上位入りを果たしたフィルア。
王子の身でありながらただひたすらに努力を重ね、四年間代表の座に立ち続けたアラン。
そのアランを献身的に支え続け、相応しい女性になるべく努力を重ねたローザ。
ラリアルニルスの周囲にいたのは、ラリアルニルス以上に努力し続けた友人達。
彼等はラリアルニルスの努力を笑わず、馬鹿にせず、切磋琢磨してきた。
魔術のコツを教え合い、剣術について語り合い、チーム戦では仲間として共に戦った。
ラリアルニルスが剣を振るうのは、最初は意地だったかも知れない。
今は仲間の為、仲間に胸を張れる武人になる為に大剣を振るっている。
「うらっ!!」
「甘いぞカルクっ!!」
その積み重ねてきた日々は、カルクとて早々に打ち破れる物では無い。
武闘祭本戦・チーム戦はまず両チームの前衛同士による激しいぶつかり合いから始まった。




