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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第53話:レキの力の評価

「何っ!

 それは本当かっ!」

「・・・はい」

「そんな、フラン様が・・・」

「力及ばず・・・」

「・・・いや、そなた達を責めるつもりはない」


フロイオニア王国にある街、フィサス。

領主であり公爵でもある男の下に急報が入ったのは、フロイオニア王国王女フラン=イオニアが公爵の娘を見舞うため街に訪れ、二日ほど滞在した後王都へと戻って行った、その更に二日後の事だった。


報告に訪れたのはフランの護衛部隊の一人。

内容は・・・王都への帰還中、野盗の襲撃に遭い、フラン王女を乗せた馬車を逃した後行方が分からなくなった、というものだった。


「我ら護衛部隊が野盗を食い止め、その間にフラン様を乗せた馬車を逃がしたのですが・・・」


報告に訪れた騎士の話では、野盗は最初二方向から攻めてきたとの事。

馬を巧みに操る野盗から逃れる事は不可能と判断し、護衛部隊がその場で野盗を食い止めつつフランを乗せた馬車のみを離脱させた。

誤算だったのは、フランの馬車を逃がした直後、さらに別の方角から野盗の増援が現れ、フランの馬車を追って行ったという点だ。


「その後、野盗共を撃退した我々はフラン様の馬車を追いかけたのですが、足取りはつかめず・・・」

「そうか・・・」


謁見の間に沈黙が落ちる。

その沈黙を破ったのは、部屋の扉を開ける音と、訪れた小さな客だった。


「・・・わ、わたしのせい、ですか?」

「ルミニア・・・」

「わたしが、病気になったせい、ですか?」

「違う、ルミニア」

「わたしを、お見舞いにきてくださったせいで、フラン様が・・・」

「違うんだルミニア、お前のせいじゃない」

「でもっ!」


領主の娘にしてフランの無二の親友、ルミニア=イオシス。

腰まである水色の髪、穏やかそうな目とほっそりとした顔立ち。

体つきも全体的に細く色も白い。


数日前まで病気で自室に伏せていたルミニアだが、フランが見舞いに来る頃には大分回復していた。

とはいえまだ完全ではないルミニアを気遣い、滞在中の二日間、フランは屋敷の中でおしゃべりに興じていた。

「今度は私が王都へ行きます。

 その時は是非城下街を一緒に歩きましょう」

と約束したのは先日の事。

フランの護衛部隊の一人が館に訪れたと知り、フランに何かあったのではと謁見の間に駆け付けたのだ。


「わたしが・・・」

「ルミニア」


病気がちで、快活とは言えないルミニアは、自分とは正反対なフランの事を、王族と臣下という関係以上に慕っている。


そのフランが行方不明になった。

自分を見舞ったその帰路で、野盗の襲撃に遭った。


病がぶり返したかの様に、全身の力が抜けるのをルミニアは感じた。

そのまま床に倒れそうになったところを、父である公爵がなんとか受け止めた。


「お父様・・・」

「野盗の襲撃はルミニアのせいではない。

 しいて言うなら私のせいだ」

「お父様?」

「フラン様が襲われたのは我が領内での事。

 領内の治安維持は領主である私の仕事。

 野盗をのさばらせていたのは、つまり私の怠慢ということだ」


娘を見る公爵の目は、悲痛に満ちていた。


「お父様・・・」

「ルミニア」

「お願いします、どうかフラン様を。

 フラン様を助けて下さい。

 お願いします」

「・・・無論だ」


そんな父親にすがり、ルミニアはただフランの身を案じた。

自分が病に伏せてさえいなければ、フランがフィサス領に来る事は無かった。

その帰りに野盗に襲われる事もだ。

全ては自分のせい。

ルミニアはそう、思い込んでしまっていた。


だが今は、自分の弱さを嘆くより、フランの行方の方が大事だ。


こんな自分をいつも気遣い、病気になれば真っ先に訪れてくれる、大切なお友達。

お互いがもう少し大人になれば、王族と公爵の娘という立場に縛られるかもしれない。

でも今は同い年の友達として、ただただフランの身を心から案じた。


「捜索隊を向かわせろ。

 合わせて王都へ馬を飛ばせ。

 フラン様の乗る馬車にはミリス殿とフィルニイリス殿が同乗されているはずだ。

 まだ希望はある。

 一刻も早くフラン様をお助けせよ!」

「はっ!」


謁見の間に公爵の命令が下された。

令を聞いた騎士が謁見の間を出て行く。

続いて、公爵は報告に来た騎士に目を向けた。


「怪我を負ったその身での連絡、誠に大儀であった。

 後は我々に任せ、一先ずその身を癒やすことに専念せよ」

「・・・お心遣い感謝いたします。

 ですが、私はフラン様の護衛騎士。

 今はまだ休むわけにはいきません」

「しかし・・・」

「この程度の怪我、どうということもありません。

 それより一刻も早く王都へ向かい、此度の件を報告いたします」

「・・・そうか」


襲撃から身を挺してフランを逃し、野盗を撃退した護衛部隊。

騎士団や魔術士団の中でも選りすぐりを集めただけあって、誰一人欠ける事なく撃退に成功しているが、その身に負った怪我は浅くは無い。

にもかかわらず、彼らは誰ひとりとして休む事無くフランの捜索に当たっているらしい。

目の前の騎士もまた、怪我の治療など二の次にしてこのまま王都へと向かうと宣言した。


その忠義に対し、これ以上休めなど公爵も言えなかった。


「・・・せめて、怪我の治療だけでも受けてもらおう。

 何もせずそなたを見送ってしまえば、私もフラン様に合わす顔が無いのでな」

「はっ。

 お心遣い、誠に感謝いたします」


屋敷の魔術士に治療を指示し、公爵は謁見の間を出て行く騎士を見送る。

残ったのは公爵とその娘。

倒れそうなほどに己を悔いたルミニアは、公爵や護衛の騎士の姿を見て心なし持ち直したように見えた。


「お父様」

「なんだ、ルミニア」

「フラン様はご無事ですよね?」

「・・・ああ」

「絶対、無事に王都に戻られますよね?」

「ああ」

「私、約束したんです。

 次は私が王都へ行くと」

「・・・」

「王都へ行ったら、王都の色んな所を一緒に見て周ろうと。

 その為には、一日でも早く病気を治そうと、そう約束したんです」

「・・・」

「だから・・・」

「・・・ルミニア」

「・・・」

「フラン様は無事だ。

 何せ剣姫ミリス殿と宮廷魔術士長のフィルニイリス殿が一緒なのだ。

 野盗などに遅れを取るはずがない」

「・・・はい」

「お前はもう休め。

 これ以上無理をしたらまた病がぶり返してしまう。

 そしたら王都へ行けなくなってしまうぞ?

 フラン様と約束したのだろう?」

「・・・はい」


「失礼します」と頭を下げて退出するルミニアを見送り、公爵は謁見の間の窓から見える景色に目を向けた。


「フラン様・・・どうかご無事で」


誰もいなくなった部屋に、公爵の呟きだけが空しく響いた。


――――――――――


「あっ、見えてきたっ!」

「なにっ、どこじゃ!」

「あっち!」


ミリスを挟むように御者台に座るレキとフラン。

カランの村を出て既に三日。

道中は特に何事も無く、実に平和だった。

時折ブラッドホース等の魔物が襲ってきたが、魔術の練習をかねてレキがそのことごとくを瞬殺した。

エラスの街やカランの村で仕入れた食料を節約できたので、助かったくらいだ。


「すっかり元気になったようですね」


御者台ではしゃぐレキを見て、リーニャとフィルニイリスはそっと安堵した。


話は数日前、カランの村を出てしばらく経った時に遡る。


――――――――――


「次ユミと会えるのは学園じゃな」

「そうだね~」

「ユミは魔術を頑張ると言うてたのう。

 わらわも負けてはおれんのじゃ」

「そうだね~」

「城に着いたら特訓じゃ!」

「そうだね~」

「・・・むぅ」


カランの村で出会った友達、ユミと学園での再会の約束を交わしたフラン。

別れは寂しいが、絶対に会うとお互い誓い合ったので、その約束を胸に自分も頑張ろうと今から張り切っていた。


「レキ、聞いとるのか?」

「そう・・・えっ?」

「聞いとらんではないか!」

「え、えっと、ごめん」

「ふん、もうよいっ!」


レキの反応に、フランが機嫌を損ねてしまった。

御者台に座るミリスの横で、ぷいっと顔を背けるフラン。


「ん~」


レキはと言えば、フランへの反応でも分かる通り、先ほどからずっと上の空だった。


「レキ君、何か悩み事ですか?」

「あっ、リーニャ」

「悩みがあるなら相談に乗る」

「フィル」


そんなレキを見かねて、リーニャとフィルニイリスが声をかけた。

カランの村を出てからというもの、レキの様子がおかしい事には気づいていた。

元気がない訳ではなく、もちろん病気という感じでもない。

フランとおしゃべりしていればその内元に戻るだろうと放置していたのだが、レキが元に戻るより先にフランの機嫌が悪くなりそうなので、リーニャとフィルニイリスが相談に乗り出した。


「ん~、悩みじゃないけど」

「はい」

「オレ、なんかしちゃったのかなって」

「というと?」

「村の人達、オレの事怖がってたみたいだから」

「レキ君!?」

「レキ、それは・・・」


レキの言葉にリーニャが驚く。

それは、リーニャ達がレキには決して伝わらぬよう、隠し、遠ざけていた事だからだ。

知ればレキが悲しむと思ったからこそ隠し、レキに伝わる前に村を出たつもりだったのだが・・・。

残念ながら、レキは気付いていたようだ。


「レキ君、それはどうしてですか?」

「どうしてって?」

「いえ、何故村の人達が怖がっていると思ったのですか?」

「思うっていうかその・・・」

「はい」


「森で狩りをしてた時の、ゴブリンがあんな感じだったから」

「ゴブ・・・」


心無い村人から罵倒されたとか、あるいはリーニャの様に陰口を聞いてしまったとかではなく、レキは村人の様子から察したようだ。

しかし・・・。


「なるほどゴブリン」

「・・・くっ、そ、その・・・」

「?

 どうしたの?」


感心したように深く頷くフィルニイリス。

その隣では、リーニャが俯き肩を震わしている。


二人の反応にレキが困惑する中、リーニャの震えはだんだん大きくなり、そして。


「ふっ、ふふっ、ふふふふっ・・・あはっ、はははは・・・」

「へっ?」

「なんじゃ、どうしたのじゃ?」

「ちょ、姫様っ!」


とうとうこらえきれなくなり、リーニャが声を上げて笑い始めた。


王宮の侍女として、普段から礼節をわきまえているリーニャがこれほど大笑いするのは珍しい。

めったに見られないリーニャの様子に、レキだけでなくフランをも驚き御者台から戻ってきた。

その際、隣にいたミリスに足が当たったらしく、ミリスの慌てた声が聞こえてきた。


「あははははっ・・・」

「え~っと・・・」

「む~、いったいなにがあったのじゃ?」


フランがレキに問いかけるも、レキ自身何が何やら分からず、一先ずリーニャが落ち着くまで待つ事にした。


「さすがレキ」

「え、えぇ、あんなに笑ったのは久しぶりです」


しばらくの後、笑い続けたリーニャが落ち着きを取り戻し、フィルニイリスが何故かレキを褒めた。


「村の人達がレキ君を怖がっていた、というお話でしたね」

「う、うん」

「そうなのか?」

「そう。

 レキがそれを知ったのは」

「狩りをしてた時のゴブリン・・・ふふっ、と同じだった、と」

「うん」

「うにゃ?」


よほど面白かったのだろう。

再び笑いそうになるのを何とかこらえるリーニャである。

初めて聞いたフランは、何の事が分からずただ首を傾げた。

レキが怖がられていたという事もそうだが、ゴブリンと同じというのも理解できなかったようだ。


「えっとね。

 ゴブリン倒す時って周りの木とか邪魔で二~三匹ずつしか倒せないんだけど、何匹か倒すと逃げちゃうんだ」

「逃げ出したゴブリンがあんな感じだったと」

「う、うん」

「ほう!」


今なら魔術を使って一網打尽に出来るだろう。

だが、魔の森にいた頃は双剣で二~三匹ずつ切っていたのだ。

納得した様子のフィルニイリスの横で、フランが感心したように声を上げた。


「レキは魔物から恐れられておるのじゃな・・・。

 凄いのう」

「凄いかな?」

「うむ、レキは凄いのじゃ!」


ゴブリンにすら怖れられるという話を、フランが純粋に受け止めた。

人が魔物を怖れる事はあっても、魔物が人を怖れる事はあまり無い。

何故なら、魔物にとって人は餌であり排除すべき敵なのだ。

そんな、人にとって天敵である魔物を怖れさせるレキを、フランは素直に称賛した。


「そうかな?」

「そうじゃ。

 レキは凄いのじゃ!」

「・・・へへ~」


フランの笑顔に、先程までのレキの悩みが薄れていった。

村の人達には怖がられたが、フランに褒められたからいいやと思ったのだ。


「レキ君、私からもよろしいですか?」

「うん」


フランと笑い合うレキにリーニャ声をかける。

レキの悩みはおそらく晴れたのだろうが、それでも伝えておきたい事があった。


「レキ君の力は確かに凄く、知らない方が見れば怖れるのも無理はないかと思います」

「・・・うん」

「ですが、レキ君をよく知る人なら大丈夫です。

 実際、私達の誰もレキ君を怖がっていませんよね?」

「うん」

「村の方達だって、レキ君をちゃんと知れば怖れたりはしなかったはずです。

 ユミさんやユミさんのお母さんだって、ちゃんとレキ君に感謝してたでしょ?」

「あっ、うん」

「ですから、レキ君もレキ君の力を怖れないでください。

 その力は私達を助け、あの村を救ったのですから」

「うん!」


リーニャの言葉にレキが笑顔を返す。

リーニャが伝えたい事は確かに伝わったようだ。


「大体、レキ君が怖がらせたのではありませんよ?

 村の人達が勝手に怖れただけです」

「へっ?」

「うにゃ?」

「いいですか?

 レキ君は別に怖がらせたくてやったわけではないでしょ?」

「うん」

「にも関わらず怖れたのは村の人達です。

 向こうが勝手に怖れたのですから、レキ君は何も悪くありません」

「ん~?」

「良く分からんのじゃ」

「ふふっ、いいのですよ。

 何せあの人達はゴブリンと同じなのですから」


リーニャは、ゴブリンという表現が気に入ったようだ。


「レキ」


そしてフィルニイリスが続く。


「レキは村を救った事を後悔してる?」

「へっ?」

「村を救わなければと思ってる?」

「えっ、思ってないよ?」


フィルニイリスの問いかけに、レキは首を左右に振った。

ゴブリンを倒さなければ村は滅び、村人も、ユミやその母親すらも死んでいたかも知れない。

村を救った事、そこに後悔などあるはずがなかった。


「村を救ったことでレキは村人達から怖れられた」

「うん」

「村を救わなければ怖れられることは無かった」

「助けなきゃみんな死んじゃってたよ?」

「そうじゃ、助けねばユミも死んでたのじゃ」

「そうだよ、助けないとだめだよ」

「みんなに怖がられても?」

「うん!」

「そう」


フィルニイリスが聞きたかったのは、村を救った事への後悔があるかどうか。

村を救った事でレキは村人達に畏怖されてしまった。

こんなことなら村を救わなければ良かった。

などと考えてしまうようなら「それは違う」と諭そうと思ったのだが、どうやらその心配は無さそうだ。


「さすがレキ」

「へっ?」

「レキはなにも間違っていない。

 レキが一撃で仕留めなければ村に被害が出たかもしれない。

 だからレキは間違っていない」

「うん!」

「レキがもう少し手加減していればあれほど恐怖されなかったかも知れない。

 その代わり村に被害が出たかも知れない。

 自分がどう思われるかより村の安全を優先したレキは正しい。

 誰がなんと言おうと私達が保証する」

「うん!」


だからこそ、フィルニイリスはレキを称賛する。

称賛し、レキは何も間違っていないと伝えるのだ。


レキは村を救った。

それは何も間違っておらず、むしろ英雄と評される事だ。

ただ、あまりにも強すぎる力の為、正しく評価されなかっただけだ。


レキの力は万人を救うが、使い方を間違えれば多くの犠牲を出してしまう。

だからと言って使うべき時に力を使わなければ、救えたはずの命を失うだろう。


今回の事を受け、レキが振るうべき時に力を振るわず、それによって後悔しないように。

レキの未来を思い、フィルニイリスはレキを正しく評価した。


「そうじゃ!

 レキは凄いのじゃ!」

「ええ、レキ君はみんなを助けたのですよ」

「レキは間違っていない。

 だから胸を張ればいい」

「・・・うん!」


三人からの賞賛を受け、レキは若干照れながらも笑顔で頷いた。


レキの顔に先ほどまでの憂いは無い。

あるのは、助けられて良かったという心からの笑顔だった。

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