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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十七章:学園~二度目の武闘祭・本戦・個人戦~
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第529話:勝敗の行方とルミニアの想い

「はあっ!!」


上空からの打ち下ろし。

勢いを乗せた槍の一撃を、虚を突かれた形となるアランはそれでも盾と剣を交差する事でかろうじて防いだ。

槍ごと体を回転させ、アランの背後へと着地するルミニア。

再び間合いに入る事に成功したルミニアは、そこから怒涛の攻めに転じた。


ルミニアの槍の技量は高い。

学園でも並ぶ者はいないほどに。

それこそ、先ほどアランが戦った三年生代表のカシーヤより上だろう。

それほどの技量を持ったルミニアが、完全に主導権を握り槍を繰り出す。


相手は四年生の代表アラン。

先程攻めきれなかった事からも分かる通り、アランの技量もまた学園トップ。

正攻法でアランに勝てる者などそうはおらず、フロイオニア学園ではそれこそレキくらいしかいない。


例え虚を突かれ、自身に不利な間合いで攻め続けられようと、アランの防御はそう簡単には崩れやしない。

剣を、盾を駆使し、ルミニアの槍を的確にさばきながらなんとか剣の間合いへ近づいていく。


もちろんそれを許すルミニアではない。

槍を巧みに操り、踏み出そうとする足先をも攻撃の対象とする。


今はまだルミニアの槍の間合い。

あと数歩でも近づかれれば、槍では不利となってしまう。

逆に、あと数歩遠ざかれば今度は槍も届かぬ魔術の間合い。

それはすなわち先ほどの繰り返し。


先の魔術戦で、ルミニアは己の魔術の技量がアランに劣っている事を理解した。

無詠唱魔術に至ったのはルミニアが先でも、いや先に至ったからこそ、無詠唱で魔術が放てなかったアランの創意工夫が、魔術戦でルミニアを上回る技量を身に付けさせたのだろう。

扱える系統もアランが三つでルミニアが二つ。

威力に長ける赤系統、速度に秀でる緑系統、更には青系統の魔術も身に付け、ルミニアの青と黄系統を完全に封殺できる。


前に出ればアランの間合い。

後ろに下がれば不利な魔術の間合い。

この距離で勝負を決めなければ、おそらくルミニアの勝利は無い。


にもかかわらず、先ほどからルミニアは攻め切れていない。

魔術だけでなく、近接戦闘での技量もまた、アランの方が上なのだ。


ルミニアの槍をアランが盾で受け流す。

引き戻さず、振り切った槍の反動を利用し、槍を回転させなおも追撃する。

その槍を、アランが今度は剣で切り払う。

怒涛の様に攻め立てるルミニアに対し、アランが剣と盾で受けるという攻防が続いた。


ルミニアが一方的に攻めているように、観客には見えただろう。

実際、アランは完全に防御に回っている。

だが、良く見れば分かる。

ルミニアがあと、一歩攻め切れないでいる事を。


間合いでは完全に有利なのに、これだけ絶え間なく攻め続けていると言うのに、先ほどからその全てを防がれている事を。


アランの技量はルミニアが予想していた以上。

入学前は騎士団長ガレムが直々に、入学後も欠かす事なく実力を磨いてきた。


騎士剣術とは守りの剣である。

剣と盾を持ちい、敵を倒す事より要人や仲間を守る為の剣術。

その技術を高いレベルで習得しているアランの守りを崩すのは至難の業ではない。

ルミニアの槍術のレベルも相当高いが、残念ながらアランの守りを崩すまでにはいかなかった。


ここへきて、ルミニアは自分の策が失敗だった事を悟った。


魔術での勝負では分が悪いと判断し、自身の有利な槍の間合いで、アランの剣の届かぬ距離で勝負を挑んだのが間違いだった。

剣が届かぬが故に防御に徹し、近づけないのであれば近づけるまで耐え続ける。

やがてルミニアの体力も集中力も切れ、いずれは槍の間合いのその内側に入るチャンスが来る。

その時まで耐えるなど、今のアランなら造作もないのだ。


今のルミニアに出来るのは、このまま攻撃し続け何としてでもアランに一矢報いる事だけ。

アランの防御とて完全ではない。

レキは当然、昨年の大武闘祭ではプレーター獣国代表のアリルだってチーム戦で勝利している。

ルミニアが攻め切れないのは、単純に実力が足りていない。

それでもアランとて人の子。

レキほどの体力も無ければ集中力だって乱れることもあるだろう。

ほんの一瞬、その瞬間が来るのを信じ、ルミニアは体力の続く限り攻撃し続ける。


実際のところ、アランだってそれほど余裕があるわけでは無いのだ。

二年生とは言えルミニアの実力は高く、一瞬でも気を抜けば負けてしまいかねない。

流石はイオシス公爵の娘なだけの事はある。

そんな事を考えつつ、アランもまた更に集中しルミニアの槍をさばき続ける。


この勝負、おそらくは先に集中力を欠いた方が、あるいは体力が尽きた方が負ける。

お互いそれが分かったのだろう。

二人は全力を賭して、目の前に相手へとぶつかっていく。


――――――――――


時間としてはさほど長くはかからなかった。

ルミニアとケルン、レキとコルンの試合の方がまだ長かった。

もっとも、先の二つは試合と言うより指南に近かったが。

ただ、体力の限界まで戦った、と言う点では同じだった。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

「ふぅ・・・まだやるか」

「・・・いえ、もう手はありません。

 参りました」

「そうか」


体力の限界まで攻撃を続けたルミニアと、そのルミニアの攻撃を最後まで防御し続けたアランの試合は、ルミニアの降参と言う形で幕を閉じた。


先に決勝戦の舞台に進む権利を得たのは、四年生代表アラン=イオニアであった。


――――――――――


「・・・ふぅ」

「ルミ、お疲れ」

「あ、レキ様」


全力を出し尽くし負けたからか、ルミニアはいっそ清々しさすら感じていた。

そんなルミニアの表情から悔いがない事が分かったのだろう、レキが笑顔で声をかける。


「アラン強かったね」

「ええ、流石アラン様です」


アランを侮っていた訳では無い。

ルミニアは最初から全力で挑んでいた。


そう、ルミニアは挑んでいたのだ。

何故なら、今の自分では勝てないと分かっていたから。


ルミニアが槍のイオシスの異名を持つ父ニアデルに師事していたように、アランもまたフロイオニア王国最強の騎士ガレムに剣を習っていた。

才能に恵まれなかったアランは、その分努力を重ね、四年連続で学年の代表に選ばれるほどの実力を身に付けた。

昨年はレキと共に学園の代表として六学園合同大武闘祭に出場し、三年生ながらに個人戦で準優勝すら果たした。

今のルミニアとは、身体能力・試合の経験でも差があった。


昨年なら、無詠唱魔術と言うアドバンテージがあった。

だが、今年はアランもまた無詠唱魔術を会得していた。

ルミニアが勝っているのはあとレキと言う最強の存在との試合経験。

それでもアランとの差を埋める事は出来なかったようだ。


負けるだろうとは思っていた。

それでも勝つつもりで全力を尽くした。

全力を尽くして戦い、敗北したのだから悔いはない。


残念なのはレキと本戦の決勝で競えなかった事。

そして、レキと共に学園の代表として大武闘祭に出場出来なかった事。


それでも結果が全て。

受け入れるしかないのだ。


「大丈夫ですよ。

 ちゃんと受け入れていますから」

「そっか」


思ったより平気そうな見えるルミニアの表情。

だが、何となく強がっている様に見えたレキは、思わずルミニアの頭を撫でてしまった。


「レ、レキ様・・・」

「ルミも強かったよ。

 頑張ったね」

「・・・はぃ」


消え入るようなか細い声。

落ち込んでいるわけでは無いが顔を俯かせたルミニアの耳は、誰がどう見ても分かるほどに赤くなっていた。


――――――――――


今でこそしっかり者のルミニアだが、幼少の頃はむしろ気弱な少女であった。

病弱で、元気者のフランの後をついて歩くようなか弱い少女。

それが幼い頃のルミニアだ。


フランがいない時は部屋にこもり読書をして過ごし、フランが来た時は仲良く街を歩いた。

フランを立てていた、と言うよりただフランに手を引かれるまま過ごしていた。

主体性は無く、問われても自分の意見をなかなか言えないような、そんな少女。


ファラスアルムととりわけ仲が良いのは、おそらくは以前の自分と似ていたからかも知れない。


そんなルミニアが変わったのは王都で遭ったとある事件から。

己の弱さに嘆き、もう二度とレキやフランを危険な目に合わせない為、自分の弱さのせいで二人に迷惑をかけない為に奮起したルミニアは、学園に入る頃にはフランをしのぐ強さを身に付けていた。

フランを守れるくらいに、あるいはレキの足手まといにならないように頑張ったルミニア。

そんなルミニアをレキやフランは心から信頼している。


ルミニアもレキやフランに頼られる事は嬉しかった。

ありがとうとお礼を言われる度、今までの努力が報われる気がしていた。


その分、情けないところを見せる事に抵抗を感じるようにもなった。

レキやフランが信頼しているのは強い自分であり、しっかりした自分なのだと勝手に思っていた。

ひ弱な自分ではレキの足手まといでしかなく、フランを守る事も出来ない。

故に強く、賢く、しっかり者でいなければならないと自分自身を律していた。


だからだろう。

こうして負けたにも関わらず頭を撫でられた事に動揺してしまったのは。

恋慕を抱く相手に頑張りを認められ、今まで以上に努力を認められた気持ちになったのは。


元々レキの事は心から好いていた。

敬意や憧れの気持ちもあったが、一人の男性として惚れていた。

だが、それは少女が抱く淡い恋心でしか無かったのかも知れない。


「・・・どうしましょう」


今まで経験した事の無い胸の高鳴りに、ルミニアは火照る頬を鎮めるのに精いっぱいだった。


――――――――――


しばらく控室から出られないでいるルミニア。

そんなルミニアを放置し、武闘祭の二回戦第二試合が始まろうとしていた。

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