第524話:アランの意気込み
G/W 連続投稿 11/11
試合は第二試合へと進んだ。
四年生代表にして昨年の準優勝者のアラン=イオニアと、三年生の代表カシーヤ=ライクとの戦い。
昨年から更に腕を磨き、更にはついに無詠唱魔術をも会得したアランに対し、槍の腕こそ上がってはいるがアラン達ほど実力の向上が見られないカシーヤでは、武術・魔術・総合力の全てにおいてアランに及ばなかった。
ただでさえアランは最高学年。
この武闘祭が終わればあとは卒業を迎えるとあって、気合の入り具合はカシーヤの比ではない。
一戦一戦に全力を尽くし、例え相手がレキであろうと勝つつもりで挑もうとするアランと、アランやレキには勝てないだろうなと心のどこかで諦めているカシーヤ。
二人の勝負は、多分試合が始まる前から決まっていた。
「始めっ!」
「行きます、アラン様」
「来いっ!!」
アランの胸を借りるつもりで挑むカシーヤ。
彼のそんな考えを良しとしたのか、アランはカシーヤに先手を譲った。
カシーヤとて遊んでいた訳では無い。
毎日のようにカムや同級生相手に槍の研鑽に務めてきた。
合同授業ではレキやアランとも手合わせし、自分が目指すべき頂の高さを心に刻み込んできた。
少しでも近づこうと、それまで以上に努力した。
予選では決勝でカムに敗れはしたものの、三年生の代表に相応しいと誰もが認めた。
武闘祭本戦。
ここはそんなカシーヤの努力の成果を発揮する為の場。
相手はカシーヤが心から敬意を抱くアラン=イオニア。
カシーヤが全力を尽くすに相応しい相手だ。
勝てるとは思っていない。
だが、尊敬するアラン殿下に、自分のこれまでの成果を見て頂こう。
そう考えているカシーヤも、ある意味ではしっかりと気合が入っている。
ただ、実力差があり過ぎた。
――――――――――
カシーヤの槍をアランが危なげなくさばく。
時に剣で、時に盾で、時に身をひるがえし。
試合開始からずっと、一方的に槍を突くカシーヤに対し、アランはその場から一歩も動かずただ打ち払い、受け止め、かわす。
全力を込めたカシーヤの槍の一突き。
それをアランは、盾の表面を滑らす様にして受け流した。
カシーヤもそれは予想していたのだろう、慌てず槍を引き戻さずそのまま横なぎの一撃を繰り出す。
その槍を、アランは身を屈める事でかわしつつ、カシーヤの懐に入り込んだ。
「しまっ!」
「はあっ!!」
伸びきった槍を引き戻すのは間に合わず、カシーヤはアランの一撃をまともに食らい場外へと飛ばされた。
一回戦第二試合は、アラン=イオニアの勝利で終わった。
――――――――――
第三試合。
今年四年生代表の座を勝ち取ったフィルアと戦うのは、昨年に引き続き代表となった三年生のカム=ガ。
アランと、そしてそのアランを打ち破ったレキに対し並々ならぬ敵意、と言うかライバル意識を燃やしていたカム。
その一念が通じたのだろう、昨年の武闘祭では一回戦でアランと戦ったカムではあるが、結果はあえて語るまでもない。
更には武闘祭終了後、アランに勝ったレキを倒せば俺様が最強だという脳筋理論で挑んだ者の、カムを含む十六人で同時にかかってもレキには勝てなかった。
合同授業でも何度も挑み、その他の時間もほぼ鍛錬に費やしてきたのも、全ては今年アランとレキに勝つ為。
特にアランは、今年勝たなければもう戦う機会がないかもしれない。
負けっぱなしで終わるなど、誰が許してもカム自身が許さない、許せない。
最後に借りを返し、更にはレキをも倒し、学園最強の座を手に入れる為、今年のカムは昨年以上に気合を入れていた。
そんなわけで、カムの眼中にあるのはアランとレキだけ。
これから戦うフィルアに対し、カムは欠片も興味が無かった。
フィルアも強者である。
カム自身、昨年の武闘祭のチーム戦で戦っている為、一応は知っている。
それでもアランやレキと戦う為に出場したと言っても過言ではないカムである。
フィルアなど前座にもならない。
一回戦など通過点に過ぎず、アランやレキ以外の相手などどうでも良いのだ。
この試合が終われば次はレキ。
そのレキを倒し、決勝でアランを倒せば、今度こそカムが学園最強となる。
そんな未来を見据え、カムにとっては通過点に過ぎない初戦に挑む。
――――――――――
フィルアが扱うのは剣と盾。
アランやローザから習った騎士剣術。
対するカムは獣人の身体能力を活かした、一撃必殺の斧。
熊の獣人の体躯から振り下ろされる斧は必殺の威力を持ち、並の者なら盾ごと両断できてしまう。
刃引きされているとはいえ、その威力は軽く場外まで吹き飛ばせるだろう。
加えて、カムは熊の獣人に似つかわしくない俊敏さ持ち合わせている。
レキやフラン、ミームほどではないが、その実力は三年生代表の名に相応しいものだ。
対するフィルアはと言えば、こちらは四年生の代表。
それも、予選の準決勝で昨年の代表だったローザを実力で下した強者だ。
フィルアは一年生の頃からアランとローザに稽古を付けてもらってきた。
学園卒業後は、王宮騎士団に入り、恩人であるアランとローザの力となるべく今日まで欠かさずその腕を磨き続けてきた。
カムの実力は確かに三年生代表に相応しい。
だが、フィルアの実力はもはや生徒の枠に収まっていない。
あの王宮騎士団中隊長にして剣姫ミリスから「その実力なら騎士団に入れるだろう」と太鼓判を押されているのだ。
その言葉を受け、なおも慢心する事無く腕を磨き続けた彼女の実力は、フロイオニア王国騎士団でも十分通用するほど。
武術の実力だけでもフィルアの方が上。
加えて、彼女にはアラン達から教わった魔術もある。
アランの魔術は同学年で抜きんでていた。
完全な無詠唱とまでは行かなかったが、魔術名のみで放てる魔術は詠唱速度において他者の追従を許さなかった。
その有用性は昨年の武闘祭でも十分見せつけたはず。
レキ達のような完全な無詠唱とはいかなかったが、魔術に長ける森人族すらも退けたほどだ。
そんなアランも魔術の研鑽を重ね、ついに完全なる無詠唱に至っている。
そして、アランはその無詠唱魔術をフィルア達にも惜しみなく教え、フィルア達もまたアランに置いて行かれぬ様必死に努力した。
結果、フィルアもまた無詠唱魔術を会得しているのだ。
武術で上回り、更には魔術も長ける。
そんなフィルアとカムが戦えばどうなるか。
フィルアを良く知る者はその結果を正しく予想していた。
そして、その予想は現実となる。
――――――――――
「てめぇは確かアランの野郎の・・・」
「フィルアよ、よろしく」
「・・・けっ」
元より眼中に無かった相手ではあるが、よくよく見れば宿敵(?)アランのチームメンバー。
昨年は個人・チームどちらも戦った事は無かったが、アランの仲間と言う理由で覚えていたらしい。
先輩である事より、アランの仲間と言う理由で強敵と認めたらしい。
フィルアの名乗りに悪態を吐きつつ、斧を握る手に力を込める。
カムにとって、武闘祭はアランやレキと戦う為の場である。
学園の代表になった事も、その為に鍛錬に打ち込んできたのも、全てはその二人に勝利する為。
アランは四年生。
挑めるのは今年で最後だ。
カムが一年生の時に出場した武闘祭本戦で敗れて以降、カムにとってアランはどうしても勝たなければならない相手となった。
純人であり、裕福にのうのうと生きてきた王族であり、将来を約束されたボンボン。
目にもの見せてやるぜ!と意気込み敗北。
相手の実力を見誤っていた事は認めたが、それでも純人族に負けるはずがねぇと挑んでは敗北を積み重ねてきた。
合同授業で負け、借りを返す為に挑んだ二度目の武闘祭でも負けた。
負けっぱなしでは済ませねぇ。
最後に俺様が倒してやるぜ。
そんな意気込みで出場した今年の武闘祭。
アランに挑める最後の武闘祭であるにもかかわらず、初戦の相手はアランではなくその仲間だった。
個人戦初出場となるアランの仲間、フィルアという女の純人。
本戦に出場するくらいなのだから相応の実力はあるのだろう。
アランの仲間であるなら相当な実力があるはずだ。
カムだって武闘祭経験者。
チーム戦でのアラン達の試合も見ていた。
もっとも、カムはアランやレキばかり注目し、他はあまり覚えていなかったが。
それでもフィルアがアランの仲間である事だけはかろうじて思い出した。
それでも、カムにとってフィルアはただの通過点でしかなかった。
「あたしには用が無い、そんな顔ね」
「・・・わかってんじゃねぇか」
「やっぱり。
まあいいわ。
あたしもあなたには用が無いから」
「あ?」
「アランにぼろぼろに負けた相手なんて、勝負する意味がないし」
「てめぇ!」
カムの態度に思うところがあったのか、あるいはこれもまた試合前の儀式なのか。
フィルアの言葉にカムが分かり易く苛立ち始めた。
試合前のこういったやり取りはある種の定番である。
もちろんお互い言葉少なく即試合を始める場合もある。
だが、相手にやる気を出させる為、あるいは相手に今から戦うのは自分なのだと注目させる為、このような挑発を行うのだ。
なお、フィルアの言動にカムを挑発する意図はない。
単純に思った事を素直に述べただけだった。
これでカムもフィルアを無視できなくなっただろう。
今から戦うのはアランでもレキでもない。
四年生の代表にして将来は騎士になる女性フィルアだ。
通過点などではない。
彼女もまた、カムが全力を尽くさねば勝てない相手。
もしフィルアが挑発しなければ、カムは全力を出す前に敗れていただろう。
次回から通常更新に戻ります。
次回更新予定:5/12(日)




