第521話:本戦スタート
G/W 連続投稿 8/11
「上級生だからと言って大きな顔はしないでくださいね。
レキ様だって、もしかしたら私が勝つかもしれないんですから」
「お、お姉ちゃん!
ご、ごめんなさい。
でもその、勝つつもりで挑ませていただきます!」
フロイオニア学園では他学年との交流はあまりない。
学舎も寮も離れており、この武闘祭や年度の後半に行われる合同授業以外では他学年の生徒の接点はないと言って良いくらいだ。
貴族の力の強い国であるが故、上級生であろうと下位の貴族は下級生の上位貴族の子供に逆らえず、無理難題を吹っ掛けられる可能性がある。
家柄を盾に、やれ同じ学年の有力な生徒を貶めろ、怪我をさせ武闘祭を辞退させろなど。
あるいは昨年の試験問題をこっそり横流ししろと言うのもあるかも知れない。
十日に一度の休暇を利用し、実際にそのような事件を起こした生徒も過去にはいた。
あるいは光の祝祭日の休暇を利用し、以前より家同士付き合いのあった者に無茶を要求したりと、生徒と言えど家に従わなければならない事情を利用された悪質な行為。
いくら学園が家柄や種族に縛られぬ組織だとしても、一歩外に出ればそこは地位や家柄が強く影響する世界である。
そう言った問題行為を行わせぬ為、学園では平時は他学年との接点を無くしているのだ。
レキ達は今年二年生となった。
替わり映えのしない学友と、授業内容こそ変われど後は同じ日々を過ごしているからか、あまり進級したと言う実感は無かった。
下級生と接し、ようやく自分達が二年生になったのだと実感できたようだ。
「ふふっ、その強気な態度。
去年のミームさんを思い出しますね」
「え~、ミームはもっと強気だったよ?」
生意気な後輩。
ルミニアの実力を知らないからこその強気。
昨年のレキの試合を見ていたはずなのに、それでも勝つつもりでいる。
それは自信か過信か。
あるいは世間を知らぬ無知故か。
レキの実力を見抜けぬ愚か者の行為か。
それが何故か可愛らしく微笑ましく思えるのも、レキやルミニアが精神的にも成長しているせいか。
レキもルミニアも根本的には変わっておらず、ただミームを始めとしたさまざまな者と接してきたが故。
入学当初のミームは己が一番強いと疑っていなかった。
レキと戦い、完膚なきまで倒され、それでもなお挑み続けている。
一年生の彼女達は、レキと戦ってなおそのままでいられるだろうか。
無礼な態度も下級生だと思えば可愛く思えるから不思議である。
「ふんっ!」と鼻を鳴らし去っていく姉と、ペコペコ姉の分まで頭を下げ去って行った妹。
今年の武闘祭本戦も、どうやら楽しくなりそうだ。
――――――――――
「・・・ふぅ」
レキにとっては二度目。
ルミニアにとっては初めての武闘祭本戦。
ただの試合ではない。
レキ様と共に出場したいと心から願った憧れと目標だった舞台。
先程の一年生達はともかく、アランもフィルアも実力者であり、おそらくは今のルミニアより上だろう。
カムやカシーヤも侮れない。
父親譲りの槍術と中級まで扱えるようになった無詠唱魔術でどこまで戦えるか。
叶うなら本戦も勝ち抜き、あの大武闘祭にもレキと共に出たいと心から思う。
少しの緊張と今から燃え上がる闘志。
平静を装うルミニアの内心は、自分が思っている以上に燃え上がっている。
「大丈夫?」
「・・・はい」
そんな内心が漏れていたのか。
レキに顔を覗き込まれ、わずかに反応が遅れてしまった。
緊張しているわけでは無いが、精神を落ち着かせる為に多少の労力が必要らしい。
早く始まって欲しいと思いつつも、もう少し落ち着ける時間が欲しいとも思う。
他の選手達もそれは同じだろう。
アランやフィルアは落ち着いているように見えるが、内心ではルミニアと同じに違いない。
いや、今年で最後となる武闘祭への意気込みは二人の方が強いかもしれない。
カムや一年生の二人は先程聞いた通り。
カシーヤも平静を装っているが、良く見れば緊張しているようだ。
心底平然としているはレキだけ。
緊張とは無縁なのか、まだかまだかと待ち遠しくそわそわしている。
思えば、昨年もレキは緊張はしていなかったような気がする。
いつも通り戦えば勝てるのだから、緊張する必要が無いのだろう。
いつも通り戦うのはルミニア達も同じ。
結局はいつも通り、持てる力を尽くして戦うだけ。
例え相手が誰であろうと、ルミニア達に出来るのは結局それだけなのだ。
己の精神を沈めながら、槍を握る手につい力が入ってしまうルミニアだった。
――――――――――
「さて、今年は誰が勝つんだろうね」
「そりゃレキだろ」
ユーリの定番ともいえるセリフをカルクが切って捨てる。
レキが出場する時点で優勝者は決まったようなもの。
レキ以外にいないと言うのはレキを知る全ての者の共通認識である。
ユーリもそんな事は分かっている。
ユーリが言ったのは、レキ以外の試合は誰が、という事だ。
「やっぱアラン殿下じゃないの?」
「ルミも良いところまで行くと思うがのう」
そう言う意味ではやはりアランだろう。
昨年の本戦で準優勝し、更にはレキと共に大武闘祭に出場、ここでも見事準優勝を果たしている。
他校の代表達を倒し、決勝で再びレキと競った。
大武闘祭でのアランの試合は、総じて高評価を受けている。
王宮騎士団に剣を習い、レキに負けじと完全な無詠唱とまではいかずとも魔術名のみで魔術を放てるようになっていたアラン。
他の学園が全員四年生だったという事も加味すれば、アランの成績も十分すぎるほど。
そんなアランが、今年は完全なる無詠唱魔術を会得し本戦に出場する。
元々優れていた剣術に加え、無詠唱で魔術を放てるようになったアランに、もはや隙は無い。
相手がレキだろうと、簡単には負けないはずだ。
「今年の一年はどうかな?」
「さ、流石にレキ様ほどの方は・・・」
「いや、分からんぞ」
レキと言う前例がある。
広い世界、レキと同等の存在がいる可能性はゼロではない。
限りなく低い確率だろうと、レキがいる以上他にいないとも限らないのだ。
とは言いつつ誰もレキと同じような存在がいるとは思っていない。
あるかないかで言えばありなのだが、まずありえないと言って良いだろう。
レキのような存在が二人といてたまるか、と言うのがガージュの素直な意見でもある。
それはガージュ以外も同じ。
いるはずがありません、いたら困る、いたらすげぇな。
そんな事を言いつつ、レキの仲間達は武闘祭が始まるのを今か今かと待つのだった。
――――――――――
「これより武闘祭本戦、個人の部を開始する。
選手は武舞台へ」
昨年同様、学園長による宣言の後、武闘祭の本戦がいよいよ始まろうとしていた。
まず最初に出場する選手全員が武舞台上に並び、対戦相手を決めるくじ引きが行われる。
学園の教師や生徒全員、並びに国王を始めとした来賓の者達が見守る中、一年生から順に名前を呼ばれくじを引いた。
公平なるくじ引きの結果は以下の通り。
「一回戦第一試合、二年生代表ルミニア=イオシス対一年生代表ケルン=ヤ」
「第二試合、四年生代表アラン=イオニア対三年生代表カシーヤ=ライク」
「第三試合、四年生代表フィルア対三年生代表カム=ガ」
「第四試合、二年生代表レキ対一年生代表コルン=ヤ」
「ほう」
「へ~・・・」
くじ引きの結果に、見守るガージュやミームから声が漏れた。
まずガージュ達が注目したのは当然、レキとルミニアの対戦相手。
どちらも一年生、しかも獣人の少女だった。
同じヤ族、猫人族であり遠目ではあるが二人ともよく似ている。
おそらくは姉妹、それも双子かも知れない。
身体能力に長ける獣人。
一年生とは言え代表になれるくらいだ、実力もそれなりにあるのだろう。
あるいは昨年のミーム程度の実力はあるのかも知れない。
もっとも、相手はレキとルミニア。
例え彼女達が昨年のミームと同程度であっても問題は無い。
正直、ケルンとコルンに勝ち目があるとは思えなかった。
次に目がいくのは四年生の代表。
アランは昨年に引き続いているが、もう一人はローザ=ティリルではなくフィルア。
昨年のチーム戦ではアランチームで剣を振るった女傑である。
ガージュ達も光の祝祭日の休暇や、昨年の大武闘祭での行き帰りで知己がある。
実力はアランやローザに引けを取らず、少なくともガージュ達より上。
魔術の実力は不明だが、大武闘祭で使っていたのを見ている。
光の祝祭日の休暇中、アランに聞いた話ではあるが無詠唱に至っているとも。
アランチームのメンバーなら、正直誰が代表になってもおかしくは無い。
今年はフィルアだった、それだけの事なのだろう。
三年生のカムやカシーヤについては特に思うところはない。
昨年の自分達ならまず勝ち目が無いと思っただろう。
だが、今のガージュ達なら良い勝負が出来るはず。
少なくとも、無詠唱魔術が使えなかった昨年よりは、カムやカシーヤを脅威には感じない。
もちろん三年生の二人も昨年以上の実力を身に付けているだろうが、流石に無詠唱やそれに対抗できる技術を身に付けているとは思えない。
レキやルミニア、アランやフィルアならまず負けないだろう。
もちろん二人とも実力を更に伸ばしているだろうが、レキやルミニアに勝てるとは思えない。
やはり見るべきはレキ、ルミニア、アラン、フィルアの四名。
レキはフィルアと、ルミニアはアランと二回戦でぶつかる。
もちろん他の生徒も各学年の代表になっている以上相応の実力を持っているのだろうが、相手が悪いと言わざるを得ない。




