第519話:本戦に向けて
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「おめでとうございますレキ様、みなさん。
私達の分まで本戦、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
二度目の武闘祭、その予選が終わりレキ達は二日後に迫る本戦へ向け中庭で鍛錬を行っていた。
中庭には、いつものように他クラスの生徒も大勢集まっている。
皆、自分達の代表となったレキ達を心から応援している。
出場できない生徒の代表(?)、上位クラスのミル=サーラの心からの応援に、個人・チーム戦共に本戦に出場するルミニア=イオシスが笑顔で応える。
二人の視線の先では、まるでチーム戦決勝の再現であるかのように、レキ対カルク&ミーム=ギの模擬戦が行われていた。
また、別の場所ではフラン=イオニアが同じチームであるユミと、ユーリ=サルクトがガージュ=デイルガとそれぞれ模擬戦を繰り広げていた。
レキは本戦に向けての調整。
カルクとミームは武闘祭の予選で戦い足りなかったのだろう。
レキの調整に嬉々として協力してくれている。
フランとユミ、ユーリとガージュもまた、チーム戦に向けての確認だ。
最上位クラスの残る三人。
指揮官であり個人戦にレキと共に出場するルミニアは、ファラスアルムとルーシャ=イラーと戦術について議論を繰り広げている。
皆、本戦に向けて少しでも実力を向上させようと頑張っている。
特に、今回初めて武闘祭に出場したルーシャは、仲間との連携も魔術の練度も劣っている。
最上位クラスに限って言えば、魔術は無詠唱で放てるのが当たり前。
後衛専門であるなら特に。
ファラスアルムは無詠唱魔術で回復、支援、けん制をこなし、ルミニアやガージュ、ユーリもまた魔術によるけん制は無詠唱だ。
余り試合で魔術を使わないフランやユミ、魔術を使ってしまえばその時点で試合が終わりかねないレキもまた無詠唱。
最近ではカルクが魔術剣と言う剣に魔術を纏わせると言う技術を編み出したが、何気にそれも無詠唱で行われている。
今、最上位クラスで無詠唱で魔術が扱えないのはルーシャとミームの二人だけ。
獣人であり武術一辺倒なミームならまだしも、チームでは後衛、魔術による支援を専門にしているルーシャが使えないのは正直問題であり、分かり易い欠点である。
ライカウン学園で一年学び、優秀な成績を収めていたルーシャ。
無詠唱魔術自体、ルーシャが入学する一年ほど前に伝えられており、ルーシャも入学当初から学ぶ事が出来た。
出来ない理由の一つは、魔術は正しい詠唱を行わなければ発動しないと言う固定観念があったから。
周囲に無詠唱魔術を使える者が少なかったのも、固定観念を壊せなかった理由だろう。
ライカウン学園ではそれでも良かったが、フロイオニア学園で魔術士として活動するには不十分だった。
レキチームと戦うなら特にだ。
よって、ルミニア、ファラスアルム、ルーシャの話し合いは主にルーシャの魔術とチーム内での役割について。
ルミニアやファラスアルムにとってルーシャは敵チームになるのだが、例え敵チームであろうと同じクラスの生徒で友人。
加えて、ルミニア達と共に二年生の代表として武闘祭の本戦に出場する戦友だ。
試合で当たれば全力で戦うが、それまでは仲間として、友人として協力は惜しまない。
己の実力不足を実感し、少々落ち込んでいるなら尚更。
「ルーシャさんの出来る事・・・」
武術の実力で劣るルーシャに出来る事は魔術による支援。
無詠唱に至っていない以上、魔術による打ち合いでは分が悪い。
同じ魔術士であるファラスアルムとなら、まず打ち合いにすらならない。
「他の学年の方は?」
「少なくともアラン様は詠唱を必要としていませんね」
昨年ならまだ何とか対抗出来た。
レキ、フラン、ルミニア、ユミと言った入学時点で無詠唱魔術が使えた四人に加え、入学後僅か半年で無詠唱に至ったファラスアルム。
それに、フランの兄である三年生のアラン=イオニアくらいしか無詠唱で魔術を扱える者はいなかった。
昨年のレキ達の活躍により、多くの生徒が無詠唱魔術を目の当たりにし、そしてその有用性に気付いただろう。
レキだけでなく、フラン達ですら無詠唱で魔術を放てるのだからと、あれから必死に鍛錬した生徒も多い。
故に、今年は上級生にも無詠唱で魔術を使う生徒が出てきてもおかしくはない。
今年四年生となるアランとその仲間達は、少なくとも使える事が判明している。
他にいないという考えは甘いと言わざるを得ない。
「私達はレキ様と言うお手本がありましたが、他の学年の方は違いますよね?
いくらフィルニイリス様に指南を受けているとは言え、そう簡単にはいかないのでは?」
前例がある以上、他にいないという考えの方がおかしいのだ。
それに、無詠唱魔術は何もフィルニイリスから教わるだけではない。
今年の二年生はレキを中心に最上位クラスの面々が、四年生はアランを中心に無詠唱魔術の指南を手伝っている。
フィルニイリスの指導は間違っておらず、言葉は少ないが的確。
補佐役であるサリアミルニスの説明は、フィルニイリスの足りない言葉を補いつつ、優秀ではない者の視点に沿った説明をしてくれる。
レキやフランと言った感覚派の説明はともかく、ルミニアやユミ、ファラスアルムもコツなどを教えてくれている。
四年生は四年生で、アランなどは最初、完全な無詠唱魔術ではなく魔術名のみで魔術を放つ、フィルニイリス曰く詠唱破棄魔術を身に付けた。
そこから更に研鑽を重ね、今では魔術名を唱える必要もなくなった。
そんなアランが積み重ねた研鑽は、他の生徒に指導する上で役に立っているらしい。
授業以外でも同級生から教わる事で、他の生徒達もその実力を大幅に上げている。
「分かりませんよ?
昨年のファラさんのような生徒がいるかも知れませんし、何よりレキ様のような生徒がいないとも限りません」
「そうでしょうか・・・。
ファラさんの努力は私も見てきましたし、レキ様の様なお方が他にいるとは思えません」
などと言いつつ、そんな人はまずいないでしょうねと思うルミニアである。
確かに今のフロイオニア学園は恵まれている。
前述した通り、優秀な指導者に生徒達。
無詠唱魔術の本家とも言えるレキに、そんなレキと研鑽を重ねた生徒やレキに負けずと努力し続けたアランと、目標にすべき生徒は事欠かず、努力するにはこれ以上ない環境となっている。
とは言えそれで誰もが無詠唱魔術に至れるなら苦労はない。
レキは目標にするには高すぎ、フランやルミニアは元々の才能もあったのだろう、ユミも加えて入学前から無詠唱に至っていると言う、他の生徒から見れば別格の存在。
そんなレキ達に追いつかんと努力したファラスアルムのような生徒など、そうはいないのだ。
それでもレキ達が入学して二年。
無詠唱魔術が広まり始めてから三年が経っている。
他の生徒が無詠唱を取得するには十分な時間が経った。
本戦では他の上級生達が使ってきてもおかしくはなく、大武闘祭ならフォレサージ学園やライカウン学園の生徒が使ってくる可能性はむしろ高い。
昨年のレキの姿に感銘を受けた両学園の生徒が、レキ様の御業に習おうと必死に努力しないはずが無いのだから。
「そんな、私なんて・・・」
ファラスアルムは学園に来て出来た友達に置いて行かれぬ様、ただ必死に努力しただけ。
彼女の努力は素晴らしく、早々真似出来るようなものではないとはいえ、レキのような奇跡の存在に比べればまだ常識の範疇。
やってやれない事は無いはず。
もっとも、ファラスアルムが努力出来たのは友人に恵まれたからだ。
加えてやはりレキの存在が大きいわけで、レキを心から尊敬し近づきたいと思わなければここまでの実力にはならなかっただろう。
レキやファラスアルムのような生徒がいるかは分からないが、昨年はレキ達も一年生だった。
にもかかわらずレキ達は武闘祭の本戦で優勝を果たし、ルミニア達も優勝候補のチーム相手に善戦をして見せた。
今年の一年生に同じ事が出来るとは思えないが、可能性はゼロではない。
「油断は禁物、という事です」
まだ見ぬ英傑が現れないとも限らない武闘祭本戦はもう間もなくである。




