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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第512話:遠く及ばぬ実力差

下位クラスの指揮官だった生徒は厳重注意を受けた。


窮地の場合、仲間を見捨てる、犠牲にすると言う行為が行われてしまう事は多い。

ただそれは、一人を犠牲にしてその他多勢を助ける為だったり、一人が足止めして助けを呼ぶ場合である。

それ以外の、例えば一人を囮にするような行為は褒められた物では無く、発覚すればそれなりのペナルティーを受ける。

そうでなくともそんな行為を平然と行うような者は、以降誰からも信頼されない。


一度でもそのような行えば、次またいつ行うか分からない。

そんな者と共に戦うなど、誰も望まないだろう。


下位クラスの指揮官の生徒も、まさにそのような状況だった。

恐らく彼はもう二度と指揮を執る事は無い。

武術の評価も格段に落ち、クラスの代表になる事も無いだろう。

いくら彼の実力が高くとも、信頼できない者と連携など出来ないからだ。


一年ごとに行われる武闘祭と言う晴れの舞台。

彼がその舞台に立つ事はもうない。


後味の悪い試合の後、しばらくの休憩を挟み二回戦が始まる。

二回戦最初の試合は、レキ達最上位クラス第一チーム対ミル達上位クラス第一チーム。


「この試合はレキ様も最初から参戦して頂きましょう」

「うんっ!」

「全力で勝つのじゃ!」

「頑張ろうねっ!」

「は、はいっ!」


「勝てないまでも一矢報いて見せましょう」

「俺は勝つつもりでやるぜっ!」

「ははっ、まあ死力を尽くしましょう」

「やるだけやるさ」

「ああ」


最上位クラスと上位クラス。

その実力差はその名が示す以上に大きい。


だが、ルミニアはミル達を過小評価していない。

ミルの実力は最上位クラスに次いで高く、ライの特攻も侮れない。

チームワークもこちらに負けておらず、油断すれば負けは無くとも一人くらいは倒されるかも知れない。


何より上位クラスの面々は中庭で共に汗を流す仲間達。

特にミルは、レキに敬意と好意を抱く友人でもある。

最近は休暇を共に過ごす事もあり、レキの件を除いてもすっかり仲良くなっている。


故に、この試合は全力で挑もうと約束した。

友人だからこそ全力でぶつかろうと。


レキやフラン達も賛同してくれている。


「それでは二回戦第一試合、始めっ!」


「レキ様はミルさ「うおぉ~!」!?」


ルミニアの指揮を遮るような咆哮が武舞台に響いた。

自称ミームのライバルであるライが、斧を片手に全力で突っ込んできたのだ。


「てめぇにだけは負けねぇっ!!」


ライが突っ込んで行く先にいるのは、レキ。


学園最強。

フロイオニア王国の英雄。

六学園合同大武闘祭で初めて、一年生にして優勝した生徒。

先の野外演習、自分のせいで窮地に陥った仲間を助けてくれた恩人。

そして、ライが密かに(?)想っているミームの想い人。

これに関してはミームはまだ認めていないが、顔を赤くして否定したり口ごもったりする様子を見れば誰だって分かる。

分かっていないのは、レキやカルクと言った恋愛方面に疎い者だけである。


ライのレキに対する感情は複雑だった。


昨年までのレキはただ強いだけの生徒だった。

自分が勝てないミームを圧倒した存在であり、レキに勝てれば学園最強の座が手に入ると考えていた。

勝手にライバル意識(恋敵含む)を抱き、ついでに勝てばミームも自分を意識してくれるだろうという、ある意味獣人らしい淡い期待も抱いていた。


ミームに対する者とは違うライバル意識。

追いつけそうで追いつけないミームとは違い、どれほど手を伸ばそうとも影すらつかめそうにない相手。

ライが生まれて初めて出会った高すぎる目標。

どれだけ強くなろうとも、その差は埋まるどころか広がっていくばかり。


大武闘祭で見せた戦い。

自分より遥かに強い上級生をも圧倒するレキの姿は、憧れすら抱かせた。


ミームが恋焦がれるはずだ。


同じ上位クラスのミル。

純人でありながらライより強い彼女も、レキを尊敬し始めた。


ミルだけではない。

同じ学年の生徒の大半がレキに一目を置くようになった。

一年生にして学園の代表となった相手だ。

侮るような馬鹿はそうはいない。


まあ、いまだレキの実力を認められない者もいるにはいるが。

そいつらはそいつらで、別にレキに挑むわけでも無くただ距離を置き、陰口をたたくだけ。

その内容も嫉妬がほとんどで、意中の女子生徒がレキにご執心だとかいう話もある。


だったら強くなって見返してやれよと、ライは思う。


ライはそんな阿呆共とは違う。

レキの実力を認め、それでもいずれは倒してやると鍛錬を重ねた。

時折レキとの挑戦権を賭け、ミームや他の生徒とも戦う事もあった。

ライの目標はレキを倒し学園最強になる事。

誰よりも強くなれば、昔の様にミームとまた手合わせできる。

それを夢見て、ライはライなりに自分を鍛えてきた。


因みに、ライはレキへの挑戦権を賭け、もう何度もミームと手合わせしていたりするのだが・・・。


そんなこんなで二年生になっても諦めず鍛錬し付けてきたライ。

個人戦では当たる事の無かったレキとようやく試合が出来ると、組み合わせが決まってからと言うものまだかまだかと試合を待ちわびていた。


気合は十分。

意気込みも十分。

今までになく集中し、開始の合図以外は耳に入らない。

もちろんミルやヤックの指示もだ。


「レキ様っ!

 お任せしますっ!!」

「うんっ!」


ライの暴走。

流石に想定外だったものの、即座に指揮を変更しレキをぶつける事にした。

正直に言えば、今の最上位クラスなら誰であろうとライには負けない。

ファラスアルムだって、落ち着いて対処すれば勝てるだろう。


レキをぶつけたのは確実性を取った為ではない。

友人であるミルの仲間であるライの希望を叶えつつ、速攻で倒す為にレキにお願いしたに過ぎないのだ。


「てやっ!」

「ぐはっ!!」


突っ込んできたライの懐に素早くもぐりこみ、レキが剣を振るう。

試合開始から一分と経たず、ライが場外へと飛んでいった。


――――――――――


「ライっ!!?」

「あ、あいつっ!」


開始早々前衛を一人失ったミル達。

なんだかんだ言ってライの戦闘力は高い。

伊達に上位クラスの三番手ではないのだ。

しかも魔術が不得手で三位。

まあ、武術だけであっても三位は三位なのだが・・・。


なんだかんだでミル達のチームのポイントゲッター。

そのライが早々に倒れた事で、ただでさえ実力で劣っているミル達は人数差に置いても劣勢に立たされた。

個々の実力でも劣っている以上、連携しなければ勝負にすらならないとあれほど言っていたのに・・・。


ミル達のチームは以下の五人。


・ミル=サーラ

・ヤック=ソージュ

・ライ=ジ

・カタル=ザイン

・トーチェ


ヤックが指揮を執り、ミルとライが前衛、影の薄いカタルが遊撃を担当し、トーチェが魔術で支援をすると言う形である。

他クラスなら役割さえ決めておけば後は苦も無く勝てるところだが、最上位クラス相手では戦術と連携を持って挑まねば勝てるモノも勝てない。

まずはミルとライの二人がかりで何とか一人を倒し、人数差で上回ったところで追撃する。

と言う作戦だったのだが・・・ライのせいで逆に下回ってしまった。


「まだ試合は終わっていませんっ!」

「や、やれるだけやろう」


もはや勝てるはずもない。

それでもこのまま諦めてなるものかと、ミルが鼓舞する。


降参するなどという選択はミル達には無い。

勝てない事は最初から分かっていた。

ただ全力を尽くし、恩人であり尊敬するレキ達に己の全力をぶつける。

その為の試合でもある。


ミル達は覚えている。

昨年の武闘祭、その本戦でフラン達が見せた試合を・・・。


一人、また一人倒れていって、それでも最後の一人になっても諦めなかった。

試合を見ていた誰もが心を打たれた。

来年は自分達も、そう思った生徒は多く、連携訓練に力を入れた理由の一つでもある。


フラン様達の様に・・・。

一人を欠いてもなお全力で挑むミル達。


「手加減はしません」

「よし、行こう!」


そんなミル達の心意気に応えるべく、ルミニアが宣言し、レキも気合を入れた。

今のミル達に出来ることは、ただ彼女達の心意気に全力で応える事。

例え一瞬で決着がつこうとも、それが最上位クラスであるレキ達に出来る事なのだ。


「ルミニアさん・・・。

 ・・・行きましょう!」

「はいっ!」


ライを失った上位クラスと最上位クラスとの一回戦第一試合。

結果は大方の予想通り、やはりルミニア達の勝利で終わった。

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