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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第511話:なりふり構わない

上位クラスと下位クラス。

元々の実力差に加え、昨年の武闘祭以前より連携訓練していたライラ達と武闘祭以降ようやく始めていた下位クラスとの差は、試合が始まってから僅か数分で見ている者が分かるほどに大きかった。

それでも終盤近くまでは油断なく戦闘していたライラ達は優秀である。


一人倒し、二人倒し。

ライラ達五人が健在のまま、相手チームが残り二人となった時。


「こ、このまま負けるなど・・・」

「で、でも・・・」


残る二人。

指揮を担当していた生徒は、試合の様子を見るにおそらくは貴族の出なのだろう。

命令する事に慣れた様子、若干高圧的な指示の出し方。

あまり良く思われていないらしい彼の指示を、チームメンバーが渋々と言った様子で聞いていた。


それが彼等下位クラスの穴であった。


もう一人の生徒。

指揮官の横で一生懸命魔術による援護を行っていた女子生徒。

あまり戦闘に慣れていないのだろう。

呪文の詠唱の後、かなりの大声で魔術名を唱えている辺り、戦闘向きな性格ではない事が良く分かる。

それでも指揮官の指示を忠実に遂行し、仲間のサポートに徹する様子は下位クラスの中では十分優秀な生徒と言えた。


「よ、良し。

 お前はあいつらに突っ込め」

「えっ!?」

「その隙に僕が魔術で攻撃する。

 注意を引くんだ」

「そ、そんなっ!」


通常、魔術士が敵に対して突っ込んで行くなど愚策である。

攻めてフランやユミ、ルミニア、ユーリの様に、武術も魔術も使えるようにならなければ相手の的になるだけ。


破れかぶれ、一か八か。

あるいは命を捨てるつもりの特攻である。


少女は近接戦闘を不得手としており、一応鍛錬は行っているが身に付いたのは精々護身程度。

上位クラスはおろか、同じクラスでも前衛専門の相手に通じるほどの技量はない。

むしろ指揮を執る少年の方がまだマシなくらいだ。


にもかかわらず少年が少女を突っ込ませようとするのは一か八かの作戦に出たから、などでは決して無い。

最後まで残っていた方が、自身の評価が高いだろうと考えたからだ。


武闘祭での評価は、勝敗もそうだが試合内容も大きく影響する。

レキのような存在がいる以上、勝敗のみに注目してしまえばレキと戦った生徒の評価は皆低くなってしまう。

それでは運で評価するのと同じ。

強敵相手にどれだけ戦えたかを正しく評価する事こそ、教師の役目である。


それはチーム戦でも同じ。

勝敗以上に試合の内容、特に連携に関しての評価こそが、チーム戦の基準だ。


近接戦闘の出来ない後衛の魔術士を無謀にも突っ込ませるような指揮を執る者が、正当な評価を得られるはずが無い。

それが分からない彼は、己の保身しか考えていない愚か者という評価すら受けたのだが・・・。


それが時に、思いもよらない結果を生み出す事もある。


・・・まあ、勝敗を左右するほどでは無かったのだが。


――――――――――


「いいから行けっ!!」

「うぅ・・・やあ~っ!!」


指揮官の少年に突き飛ばされ、転びそうになりつつ持っていた杖を振りかぶり、少女が特攻する。


昨年の武闘祭、下位クラスの生徒は誰もが彼女の様に突っ込んでいたが、連携を覚えてからそんな事をする生徒は一人もいない。

改めて思えば、去年の自分達がどれだけ恥ずかしく情けなかったか。

彼女の特攻を見ていた生徒の何人かは、昨年の自分を振り返り羞恥を覚えた。


それを思い出させてしまう彼女の特攻は、連携も何もない破れかぶれの攻撃としか思えなかった。


それは観客席から見ていたからこそ分かる事。

実際に対峙しているライラ達からすれば、何か考えがあるのかもと警戒心を抱かせる行動だった。


少女が発した叫び声や必死な表情。

涙すら浮かべている少女の気迫が、一瞬ではあるがライラ達を戸惑わせた。


「へっ!

 あっ、マーチャさんお願いします」

「え、ええ」


後衛魔術士によるありえない特攻。

一瞬あっけに取られたライラだが、すぐさま立て直し遊撃要員であるマーチャに指示を出す。

ライラのチームには他にも前衛を担当する男子生徒がいるが、彼等はライラの指示を受け相手の前衛を倒したばかり。

指示を出すには若干遠くに降り、何より相手の特攻にそなえ遊撃要員を近くに残したのはライラの指示だった。


相手の実力は自分達より下。

連携もこちらの方が上。

何より相手は後衛の魔術士。

この攻撃さえ防げれば・・・。


油断か驕りか。

試合が終わりに向かい、気を抜いたのか。

あるいはそれこそがライラのミスだったのかも知れない。


「え、え~いっ!」

「っと」


少女の杖による大ぶりな一撃をマーチャが難なくかわす。

フェイントも何もない大振りの一撃。

全力で振るい、躱した後ですぐさま追撃してこないのはやはり武術が苦手な証拠。


こう言った場合、下手に長引かせず一撃で倒してしまう方が相手にとっても良い。

レキやミーム、ルミニアなら迷わずそうしただろう。

だが、上位クラスとは言えそれほど戦闘経験の無いマーチャ達ではその判断もし辛かった。


彼女の攻撃は当たらない。

躱しながら攻撃すれば確実に倒せる。

そう判断したのか、心を鬼にしたマーチャが攻撃を繰り出そうとしたその直前。


「"エド・ブラスト"ォ~!」


彼女の後方、指揮官である男子生徒が彼女を巻き込む形で魔術を放ってきた。


――――――――――


「えっ、あぶっ!」

「きゃぁあ~!!」


女子生徒に集中していたとはいえ、マーチャも上位クラスの生徒。

指揮官である男子生徒の動向も視界の隅には置いていた為、まさかとは思いつつその攻撃にも反応する事が出来た。

それでも奇襲気味に放たれた魔術。

女子生徒の攻撃に合わせる形で放たれた魔術は、直撃こそ避けられたが火球が破裂した際のダメージを多少なりとも負ってしまった。


下位クラスの女子生徒はもっと悲惨だった。

放たれたのが彼女の後方、完全に死角からの攻撃った事。

何より仲間であるはずの生徒が、自分を巻き込む形で放ってきた魔術。

油断などでは無く完全な想定外の攻撃に、彼女はかわす事も出来ず火球の直撃をくらった。


「ひ、ひどいっ!」

「は、ははっ!

 当たった、当たったぞっ!!

 もう一発だっ!!!」


仲間であるはずの生徒からの魔術が直撃し、破裂した衝撃で女子生徒が武舞台の端にまで転がっていく。

下位クラスとは言え彼も学園で研鑽を積んできた。

その威力は初級魔術と言えど十分で、魔術抵抗の高い服を着ていなければ、命すら危うかっただろう。


指揮官であるライラが驚きの声を上げる中、魔術を放った男子生徒は更なる一撃を放とうとして・・・。


「てめぇっ!!!」

「君は貴族に相応しくないっ!!!」


詠唱を開始するより先に、ライラチームの前衛二人が激高と共に飛び出した。


上位クラスはなんだかんだで仲が良い。

度々ライ辺りが問題行動を起こすものの、ミルや上位クラス二番手のヤックなどが諫めたり力づくで抑えたりして大事にまではならない。

止められる度ライも不満を述べ、渋々と言った感じで従ってはいるが、獣人の彼が従うのは仲間を認めている証拠だろう。

ライラも最近では指揮官が板につき、チームメンバーからの信頼も得ている。

故に仲間意識は強く、だからこそ彼の蛮行を許す事が出来なかった。


「タムさんっ!!

 ヤンライさんっ!!」

「ライラっ!

 マーチャがっ!!」


赤系統の魔術はただでさえ着弾と同時に相手にも火を点ける。

しかも、男子生徒が放ったのはエド・ブロウ。

当たると同時に破裂する魔術は、相手に火と破裂のダメージを同時にもたらす。

マーチャはかわしきれず足に火傷とダメージを負い、下位クラスの少女は武舞台上で痛そうに苦しそうにくぐもった声を発している。


「シ、シーラルさん回復をっ」

「ええっ!」


まさか武闘祭でこのような事が起きるとは。

確かに刃引きされているとはいえ金属の武具で打ち合い、魔術抵抗の高い服を着ているとはいえ実際の魔術を打ち合う大会。

このような事態が起きる可能性も十分あった。


学園もこのような事態に備え、回復魔術が使える講師が控えている。

宮廷魔術士長であるフィルニイリスがいれば、命さえあれば大抵の怪我は治せる。

腕や足を切り落とされたとて、魔術で回復させる事すら可能なのだ。


それでも早々に治療するに越した事は無い。

いくら怪我や火傷が治せるとは言え、回復が間に合わなければ傷跡が残り、重大な後遺症すら発症する可能性がある。


ありえない蛮行に指揮官であるライラの頭が一瞬真っ白になった。

ライラの指示など待たず、感情のままに飛び出したタム=イフィスやヤンライ。

助けなければ、そんな思いからライラに指示を仰いだシーラル。

彼等彼女らの言動が、ライラの意識を戻した。

タムとヤンライが蛮行を犯した下位クラスの生徒を全力でぶちのめし、シーラルとライラがマーチャと、そして下位クラスの女子生徒に治療を施す。


「上位クラス第二チームの勝利っ!

 急いで治療をっ!!」


男子生徒が場外で意識を失ったのを確認し、教師達も治療を優先した。

おかげで、マーチャも下位クラスの女子生徒も後遺症も無く完全に治療された。


だが、この一戦はライラ達のみならず試合を見ていた生徒達にも大きな影響を残す事になった。

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