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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第510話:最上位クラスの実力

「始めっ!」


「ミーム、遠慮はいらん。

 カルクもだ。

 二人は自由に戦え」

「わかった!」

「おう!」

「ユーリ、二人の取りこぼしを狙え。

 後ろは気にするな」

「ああ、分かったよ」

「ルーシャは状況に応じて支援だ。

 攻撃の必要は無い」

「はい」


「ミームさんは昨年の準優勝者です。

 二人がかりで行きなさいっ!」

「あ、ああ」

「う、来た」

「カルクさんとユーリさんには一人ずつ。

 倒そうと思わなくて良いのです。

 ミームさんを撃破するまで耐えなさい」

「おうっ!」

「ふっ、倒してしまっても良いのだろう?」

「ガージュさんは私がっ!」


開始の合図を受け、双方ともに仲間へと指示を出す。


昨年一年間、仲間と共に多くの戦闘をこなしてきたガージュ。


レキと言う規格外の戦士、暴走癖のあるカルク。

最低限の指示で役目を完璧にこなしてくれたガド。

臨機応変、こちらの意図を組み行動してくれるユーリ。


個性的な面々に囲まれ、ガージュは指揮官としての技量を高めてきた。


そんなガージュが今年もまた指揮官を務めるにあたり、一つ決めた事がある。


仲間を無理矢理従わせるのではなく、仲間の実力を最大に活かす指揮を執ろう。


ガージュの指揮はまだ未熟。

昨年はそれで指示が遅れ、特にレキが戸惑う事もあった。

ならば、それぞれが戦いやすいよう指示はあくまで最低限にとどめ、戦況を見極める事に集中した。


指揮を執る事で全体を見渡し、時に魔術で援護する。

それがガージュの指揮官としてのスタイルだ。


それが良かったかどうかは分からない。

ただ、仲間達はそれでいいと言ってくれた。

信頼していると、問題ないと。

昨年のレキに出したように指示を出せ。

頼りにしている。


仲間がそう言うのであれば、後は己の指揮と仲間の実力を信じ、全力で戦うのみだ。


ウェディの指示も悪くはない。

ただ、ミームの実力を過大評価するあまり、カルクやユーリの実力を軽んじているようだ。

支援役のルーシャに至っては完全に無視している。

後方支援がチーム戦に置いてどれほど重要か。

先のレキ達の試合を見ていれば分かっただろうに、おそらく彼女は己の事で精一杯なのだろう。


仲間を見ず、相手の実力を正確に測れない以上ウェディ達に勝ち目はない。

ガージュ達のチームは昨年と違い、レキだけのワンマンチームではないのだ。


ミームとカルクの両雄に柔軟な遊撃要員のユーリ。

支援専門のルーシャの援護。

実力的には昨年より劣っているのかも知れない。

それでもこんなところで負けるわけには行かない。


己の指揮官としての能力。

仲間達の実力。

それらを証明する為にも、自分達を軽んじているような相手になど・・・。


「たあっ!」

「うおりゃっ!」


ガージュからの指示を受け、ミームとカルクが速攻で相手チームを攻撃する。

二対一と言う形に持ち込みたかったのだろう、ウェディ達の陣形が整うより速く相手に攻撃を加え、それぞれが一人ずつ倒した。


「えっ!?」

「よそ見している暇はないよっ!

 はあっ!」


足止めする事も叶わず、開始から数秒で二人の仲間が倒れた。

ミームは仕方ないとしても、カルクまでもがあれほどの実力を持っているなど思っていなかったのだろうか。

個人戦でレキに負け続けている為か、チーム戦でもあまり良いところの無いカルクは、上位クラスはまだしも中位・下位クラスの生徒にはその実力を正確に把握されていないらしい。


己の作戦が速攻で潰され、一瞬の隙を見せるウェディ。

チーム一の柔軟さを持つユーリが、その隙を見逃すはずが無い。


「えっ?」

「カルクっ!

 ミームっ!

 もう一人もだっ!」

「おうっ!」

「まっかせなさいっ!!」


ミームにつこうとしていたもう一人も倒れ、気が付けばウェディ一人だけとなっていた。

指示を出しつつ己もと前に出ようとしていたウェディだが、中途半端に止まってしまったが故に、気が付けばガージュ達に囲まれてしまっていた。


「試合中に隙を見せるのは指揮官失格だな」

「ガ、ガージュさん」

「お前は僕達を甘く見過ぎた。

 最上位クラスはレキだけではないんだ」


ウェディの敗因をあえて挙げるなら、実力差を把握していなかった事。

二対一で互角なのはミームだけではなく、カルクも、ユーリも一対一で勝てる相手では無かった。

遊撃のユーリを己に引き付け、残る四人でミームとカルクを囲む。

それでようやく勝機が見えたかも知れなかった。


「せ、せめて一人くらいはっ」

「無駄だっ!」


最後の意地か、ウェディが眼前に立つガージュへと剣を振るう。

後衛のルーシャを狙わなかったのは彼女の矜持か。

真正面から切りかかるウェディを返り討ちにし、ガージュ達最上位クラス第二チームは二回戦へと駒を進めた。


――――――――――


一回戦最後の試合。

上位クラス第二チームと下位クラス第一チームとの戦い。

この一年間、どの生徒も実力を伸ばし、更には中位・下位クラスは戦術や連携も学んだ。

昨年のような醜態を見せることはまずないと言えるだろう。

だが、鍛錬を重ねたのは最上位・上位クラスも同じであり、元々戦術や連携も行っていた。

実力差は埋まる事なく、むしろ広がったかも知れない。

それでも大分ましになったと、本人達ならず戦った他クラスも思っている。


皆で一斉に特攻するしかなかった昨年に比べれば、それこそチーム戦と言える内容だ。


「そう言えばそっちの奴は昨年の指揮官だったそうだが?」

「う・・・それはその」


試合が終われば同じ学園の仲間達。

先程の試合を振り返りつつ、残りの試合を仲良く(?)観戦する事になった。


「昨年って~と」

「私達を除けばライラさん達くらいでしたね」


「もう一年」なのか「まだ一年」なのか。

昨年の事を思い出そうと、腕を組みつつうんうん唸るカルクの横で、ルミニアが改めて昨年の試合を冷静に振り返った。


「蛮族みたいな戦い方」と言ったのは誰だったか。

そう言われてもおかしくない試合を、昨年の中位クラスも行っていた。


「そ、そんな事よりライラさん達を応援しましょうっ!」

「あ、ごまかしたのじゃ」


中庭での鍛錬を通じ、他クラスとも交流を持つようになったレキ達。

元指揮官の生徒も、今年の一回戦の指揮を任されたウェディも、中庭での交流を経てレキ達とも仲良くなっている。

特に、元々指揮官だった生徒は、ルミニアやガージュ、ライラなどと戦術論を交わした事もあるらしい。

指揮官を軽んじていたウェディと共に、仲良くなったライラの応援に回るようだ。


決して、話題を逸らしたかったからではない。


「ふんっ、心配しなくともあいつらが勝つ」

「ふふっ、ええ。

 実力は元より連携でもライラさん達の方が上でしょうね」


そんなルミニアの言葉を証明するように、試合は終始ライラ達のチームが優勢に進めていた。


昨年の時点でもまがりなりにも連携しながら戦っていたライラのチーム。

個々の実力を上げ、更にはガージュやルミニア達とも戦術について討論のような事をしてきた結果、ライラ達のチームとしての実力は格段に向上している。

今のライラ達なら、ガージュ達とも互角に戦えるだろう。


そんなライラが誇らしく、試合が始まる前は心配気味だったガージュも試合が終盤に近付くにつれ肩の荷が下りたかのように落ち着いて観戦する事が出来るようになっていた。


・・・肩に力が入っていたのは選手も同じ。

むしろ、一年の成果を、特にガージュ達にみっちり習った指揮官としての技量を披露しようと、余計な力が入っていたのはライラだった。


一瞬の油断が命取りになるケースと言うのは良くある。

実戦では特にだ。

最後まで油断なく、気を抜く事無く戦い続けられるほど生徒達は成熟していない。

ましてやほぼ勝利が確定した状況では、試合前の緊張や戦闘中の張り詰めた空気が緩みすぎてしまう事がある。


それが、ライラ達の唯一の隙となった。

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