第509話:圧勝!
個人戦同様、チーム戦もくじ引きによって組み合わせが決まる。
各クラス二チーム、合計八チームで競われる予選は、当然ながら優先枠は無い。
厳選なるくじ引きの結果、レキ達は第一試合、ガージュ達は第三試合となった。
「「決勝で会おう!」」
と言うお決まりの台詞を言い合うレキとガージュ達。
一回戦で当たらなかった事にガージュとユーリが安堵していたのは秘密である。
「それでは二年生武闘祭、チーム戦の部。
第一試合を始める。
最上位クラス第一チーム」
『はいっ!』
声を揃え、レキ達が武舞台に上がった。
レキ、フラン、ルミニア、ユミ、ファラスアルム。
昨年の覇者であるレキと、そんなレキを支える才女達。
実力も、チームワークも、戦術も。
どれも高レベルの、今年の最有力候補である。
対するは中位クラスの第二チーム。
昨年より個々の実力は元より連携に関しても訓練してきた生徒達だが、その練度は正直レキ達の足下にも及ばない。
それでも授業や野外演習を経て、少なくとも昨年とは段違いに強くなっている。
今年の武闘祭こそが本番だとすれば、レキ達はその成果をぶつけるのにふさわしい相手だろう。
「二年生武闘祭、チーム戦の部。
第一試合、始めっ!」
「レキ様は後方で待機を。
フラン様、ユミさんは前にっ!
ファラさんはお二人の支援をお願いします」
指揮等執らずとも、個々の実力だけで十分勝ててしまう。
それはルミニアならずとも、試合を見守る誰もが思った事。
それでも手を抜かないのがルミニアである。
これは武闘祭。
二年間の成果を披露する為の場。
自分達のみならず、相手チームも全力を尽くさせぶつかってこその大会。
故にレキを後方に控えさせ、まずは自分達だけで当たる事にした。
ただでさえ実力差があり過ぎるのだ。
レキが戦ってしまえば、相手は実力の半分も発揮できず終わってしまうかも知れない。
レキを抜いた四人で戦えば、少なくとも全力を出し切る事は出来るはず。
昨年ならそれでも圧勝できただろうが、この一年努力してきたのは中位クラスも同じ。
指揮官をたて、前衛、中衛、後衛に分かれ、陣形を組んで挑んでくる中位クラス。
彼等が相手なら、ルミニア達もそれなりに全力を出して戦える。
「それまでっ!
最上位クラス第一チームの勝利」
それでも勝負はあっという間に決まってしまった。
一回戦第一試合、勝者はレキチームである。
――――――――――
「さすがはルミニア様。
相変わらず隙がありませんね・・・」
チーム戦の二試合目は下位クラス第二チームと上位クラス第一チームとの試合。
前の試合同様、こちらも実力差は大きく、油断しなければまず負けない相手。
昨年までのミル達なら、あるいはその油断が負けを招いたかもしれない。
格下が格上に勝つには実力以外の何かが必要である。
例えばそれは戦術であり、連携力であり、あるいは精神的な何かだ。
この試合で言えば下位クラスが格下である事は明らか。
それは試合を見ている誰もが分かる事だが、ミルもまた自分は格下であるという意識の元、どの試合にも臨むようにしている。
比較対象が目の前の相手か、自身が挑む存在かの違い。
レキを始めとした最上位クラスを常に目標としているミルは、自分は常に挑戦者であると言い聞かせ試合に挑んでいた。
最上位クラスのレキ達の試合を見た後では、自分達に足りないモノが良く分かる。
ルミニアの指揮、フランの速度、ユミの安定性、ファラスアルムの的確な支援。
レキと言う最強の選手を温存してなお敵チームを圧倒した姿を見た後では、どんな相手だろうと驕る事など出来るはずが無い。
「私達は挑戦者です。
挑戦者は挑戦者らしく全力で行きましょう」
ミル達は上位クラス。
中位、下位クラスからすれば格上であっても、決して最上位ではない。
そう、ミル達は最上位クラスに今年も入れなかった者達なのだ。
最上位クラスの生徒達から見れば、ミル達もまた格下である。
それを悔しいと思うなら、己を鍛えるしかない。
最上位クラス入りを目標にこの一年研鑽を積み重ね、それでも入れなかった。
己の実力を確かめる為にも全力を尽くした個人戦、ミルはブロックを勝ち抜き準決勝へと勝ち進んだ。
結果だけ見れば大躍進。
だがそれも、準決勝まで最上位クラスの誰ともかち合わなかったから。
もちろんミルの実力は高い。
上位クラス一位の名は伊達では無く、ミルの実力を疑う者はおそらくいない。
疑っている者など、おそらくはミル本人だけだろう。
最上位クラスの生徒が一人でも同じブロックにいたら結果は違った。
ミル本人は当然、他の生徒の中にも同じ考えを持つ者はいる。
結果が全てとは言え、そこで満足してしまえば成長出来ない。
ミルはそんな愚か者では無い。
中庭での鍛錬などで最上位クラスの実力は嫌と言うほど理解している。
後衛かつ魔術士のファラスアルムであっても、無詠唱魔術を連発されれば近づく事すら叶わないかも知れないのだ。
「ぐるる・・・」
昨年の借りを返そうと、試合が終わったばかりだと言うのに意気込むライ。
武術だけならミルにも迫る実力の彼も、昨年の個人戦でファラスアルムの無詠唱魔術に敗北した一人だ。
今年は個人戦で当たらなかったが、当たっていたとしたらおそらく今年も負けていただろう。
もはや魔術士だからと言って獣人が有利に戦える相手ではないのだ。
相手が中位クラスとは言え、レキを除いた四人での戦い。
四対五と言う人数差を覆したのは、実力差もさることながら戦術や連携だったように思う。
実力で上を行く者達が、なおも連携を駆使して戦う。
ルミニア達に勝つには、もはや死力を尽くすしかない。
挑まないという選択肢は無い。
これが学園の行事であるからなどと言う理由では無く、ミル達が挑戦者だからだ。
「おらっ!
とっとと終わらせるぞっ!」
愛用の斧を持ち、ライが控室から出て行く。
その後ろ姿は覇気に満ち、あるいは意気込みが過ぎて足下を掬われる可能性が無いとも限らない。
だが、それを抑えようとする者はいない。
何故なら。
「ええ。
この試合に勝てば、次はいよいよ・・・」
ミルもまた、同じ気持ちだからだ。
――――――――――
続く第三試合。
昨年の優勝チームからレキと、一人前の鍛冶士になる為学園を去ったガド=クラマウント=ソドマイクが抜け、代わりに代わりに昨年の個人戦、準優勝のミーム=ギとライカウン学園からの編入生ルーシャ=イラーを加えたチームである。
戦力的には大幅なダウン。
鉄壁の防御力を誇った前衛のガドも抜け、戦術的にも見直さざるを得なかった指揮官のガージュ。
ただでさえ暴走しがちなカルクがいると言うのに、カルク以上に暴走しがちなミームも加わった事で、ガージュの指揮もいよいよ気が抜けない。
ミームの実力も高いがレキほどではない。
魔術は仕えず、近づいて殴る蹴るしか出来ないとはいえ、出来ることが限られている分指示は出しやすい。
なまじチーム内での実力が最も高く、考えるより殴った方が早いと言う性格な為、ガージュが指示を出すより先に跳び出す事もしばしば。
様子見と言う単語の意味すら異なるらしく、相手の出方を伺う方法も、とりあえず殴って見るというのだから始末に負えない。
いっそのことこれと言った指示は出さず好きに戦わせ、こちらがフォローした方が良いくらいだ。
カルクはまだチームとしての役割を弁えており、頭に血が上らない限りこちらの指揮に合わせ戦ってくれる。
とは言えレキに代わるチームのエースである事に変わりはなく、ミーム中心に戦術を組む必要があった。
「誰がエースだ」
「いいじゃない」
一回戦の相手は中位クラス第一チーム。
昨年は第一試合の中位クラス第二チーム同様、碌な戦術を持たず戦ったチームだ。
今年は流石にどのチームも戦術を練り、連携を駆使して戦おうとするが、流石にガージュ達には及ばない。
個々の実力も圧倒している以上、まず負けは無い。
不安要素はやはりミームで、ついでに新参であるルーシャは昨年のチームにはいなかった完全な後衛の魔術士。
それでも中位クラス相手なら・・・。
そう自分に言い聞かせつつ、同時に油断もしない様気を引き締めながら挑んだ一回戦。
「個人戦では負けましたがチーム戦なら分かりませんよっ!」
中位クラスで指揮を執るのは、個人戦でガージュに敗北したウェディ=スール。
指揮官にも相応の実力が必要だとガージュに高説を述べ、その実力で敗北した少女である。
彼女の本分はどうやら指揮にあるらしく、ただ昨年はクラス全体が指揮を軽んじていた為出番が無かったらしい。
「ん?
そっちのお前が指揮官じゃないのか?」
「えっと・・・」
ウェディは昨年の武闘祭からその実力を伸ばし、中位クラスの七番手から四番手に上り詰めた。
流石に一位にはなれなかったようだが、その実力と指揮能力を評価され、第一チームの指揮官に抜擢されている。
昨年のチーム戦で、一応は指揮(と言うより号令)を出していた生徒もチームにはいるのだが・・・。
「最後まで決まらなかったので、試合ごとに交替するという事になりまして・・・」
「それでいいのか・・・」
彼もまた、指揮や戦術の重要性を昨年知り、この一年必死になって勉強してきた。
野外演習ではルミニアやガージュに指導を乞い、それなりに戦術も練ってきたのだが、生来の気弱な性格が災いし、ウェディに指揮官の座を取られそうになったらしい。
とは言え一応は中位クラス一位の実力者。
実力で黙らせる・・・と言うのは性格的に難しくとも、実力者の言う事は一応聞くと言うウェディの性格が幸いし、交代で指揮を執ると言う事に落ち着いたとの事。
武術より魔術、そして座学が得意なのも強気に出られなかった原因か。
ウェディの指揮も悪くはないらしく、チームメンバーもそれぞれに指揮に従い戦う事を了承しているそうだ。
「信頼のおけない指揮官に従う者などいません。
故に指揮官が最初にする事は皆の信頼を得る事なのです」
「まあ、それはそうだが・・・」
その信頼を得る事に誰もが苦労しているのだが・・・。
相変わらずの問題児を抱えるガージュが、それが出来れば苦労はしないと思いつつそっと目を反らした。
「ガージュって何かしたか?」
「まあほら、ガージュの指揮は最初から悪くなかったしね」
「他に指揮する人がいなかっただけじゃない」
「私は不満はありませんが?」
レキは強いが指揮を執れず、ユーリは賢いが指揮を執るタイプではない。
カルクは指揮を執れるような頭を持ち合わせておらず、ガドは寡黙で指示を出せない。
今年からメンバーになったミームは言うに及ばず、ルーシャはまずチームに馴染む事から始めなければならなかった。
今も昔も、ガージュが指揮を執るのは状況に流されただけ。
信頼を得たからでは無かった。
「大丈夫、ちゃんと信頼してるから」
「おう、問題ないぜ」
「レキと同じようにしなさいよね」
「レキ様を指揮したその手腕は頼りにしております」
「お、おぅ」
揶揄ったかと思えば信頼している風な言葉を投げかける仲間にガージュが戸惑う。
若干その耳が赤くなっていたのは照れているからか。
最上位クラスは、チームワークだけなら相変わらずどのクラスにも負けていないようだ。




