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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第508話:二度目のチーム戦に向けて

それから二日後。

武闘祭予選、チーム戦の日がやってきた。


形式は昨年と同じ、各クラス二チームずつの計八チームがトーナメント方式で競う。

一チームは五人、最上位クラス以外はあらかじめクラス内で選考を行い、代表となった二チームが出場する。

最上位クラスは人数の都合上全員参加である。


「うぅ・・・」


相変わらずのファラスアルムが緊張した様子で周囲を見渡している。

昨年からずっと、なんだかんだ戦ってきているファラスアルムではあるが、苦手意識が無くなる事は無い。

自己研鑽はむしろ人一倍行っている為、それを披露する場と考えれば悪くはないのだが、他者を傷つけるのが何よりも恐いのだ。

魔術の腕が上がっている今なら尚更。

あのミームとすら渡り合える実力は、他者の命すら脅かす者。


ただ・・・。


武闘祭が友人と競い合う場であるなら、出場するのをいとうつもりはない。

入学して以降共に研鑽に務めてきたかけがえのない友人達。

彼女達と競い合えるのは素直に誇らしく、勝てたならなお誇る事が出来る。

他でもない自分自身にだ。


拳で語り合い分かり合うと言う脳筋的な言い方はともかく、自分がどれだけ成長できたかを友人達と確かめ合う場所でもあるのだ。


そう言った理由から、今年のファラスアルムは武闘祭に関しては比較的前向きである。

ではなぜ、そんなファラスアルムがオドオドしているかと言うと・・・。


「いつも通り戦えばいいよ」

「そうじゃ!

 ファラはわらわ達の後ろでどっしり構えておればよいのじゃ」

「ファラは私が守るからねっ!」

「は、はいっ!」


これがチーム戦だからだろう。


――――――――――


チーム戦に必要なのは言わずもがなチームワークである。

各々がそれぞれの役目を果たし、皆で力を合わせて戦う。

前衛、遊撃、後衛。

剣士や魔術士、指揮官と、自分達が出来る事を全力で行い、お互いにぶつかり合う。

誰かがミスをすればフォローし、助け合う。

お互いを庇い合い、助け合いながら戦う様子は素晴らしい。


一人でも逃げ出せばチームは瓦解し、何もかもが終わってしまう。

実力が足りなければ足を引っ張ってしまう事になる、それは仕方ない。

だが、足手まといになってしまう事と、足を引っ張る事は違うのだ。


己に出来る事を精一杯行い、仲間同士助け合い戦う事で始めて勝利を得られる。

それがチーム戦と言うモノである。


ファラスアルムが緊張している理由は、自分が足手まといになり、足を引っ張ってしまわないかと言う不安があるから。

ただでさえ今年はレキと同じチームなのだ。

そのレキの足を引っ張り負けてしまったら、ファラスアルムは下手をすれば一生自分が許せなくなってしまうかも知れない。


昨年の武闘祭。

本戦で、ファラスアルム達のチームは一回戦で敗退した。

相手は四年生。

年齢や経験からすれば負けても仕方ない。

だが、相手チームのエースには個人戦でミームが勝利している。

実力的には負けていなかった。

あるいは勝てたかも知れない試合なのだ。


敗北したのはやはり経験だろうか。

チームワークでは負けていなかった。

指揮も、個々の実力も。

魔術に関してはミーム以外全員が無詠唱で扱える。

にもかかわらず負けたのは、試合にかける執念。

ティグ=ギは個人戦でのリベンジを果たす為、他のチームメンバーは四年間の集大成を披露する為。

試合にかける熱意、それがおそらくは差となった。


それでも、ファラスアルムは自分が一番足手まといだったと考えてしまうのだ。


ファラスアルムの友人達は皆素晴らしい。

フラン、ユミ、ルミニアは武術も魔術も優れ、ミームは魔術こそ不得手だが武術のみで個人戦の代表になった。

魔術しかないファラスアルムは、皆の後方から魔術で支援する事しか出来なかった。


それが魔術士としてのファラスアルムの役割だったとしても、ただ守られながら魔術を放つしか出来ない事に、ファラスアルムは己の実力不足を感じざるを得なかった。


ファラスアルムに限った話では無い。

フランやルミニア、ユミにミーム。

もっと言えば昨年のチーム戦に出場し、敗北した全ての生徒達に共通する話である。

出場できなかった生徒だって。

あの時ああしておけば、もっと上手く戦えれば、もっと鍛錬を重ねていれば・・・と言った思いがあったかも知れない。


今年の武闘祭は、そんな経験をバネに頑張ってきた生徒達が再び競い合う大会なのだろう。


もちろんファラスアルムだって頑張ってきた。

それでも緊張し、尻込みしてしまうのがファラスアルムと言う少女なのだ。


「大丈夫です。

 ファラさんも頑張ってきたのですから」

「うう、ルミニアさん」


ファラスアルムの頑張りはここにいる誰もが知っている。

誰もファラスアルムを足手まといだなどと考えていない。

ファラスアルムがいなければきっと、もっと早く試合が終わっていた。

そう考える者はいても、いなければ良かったなど思うはずが無い。

ファラスアルムの実力は、ファラスアルム本人以上に仲間が認めているのだから。


つまりは誰もが昨年の敗北を自分のせいだと考え、今年こそはと張り切っている。


ただ・・・。


「私達にはレキ様もいますし、万が一にも負けはありませんよ」

「うぅ・・・」


どんな劣勢でも覆し、たった一人でも勝ち抜いてしまう存在。

今年のファラスアルム達には、そんな英雄たるレキがいる。

チームとしての敗北は万が一にもありえない。


まあ、だからこそ余計に自分が足を引っ張ってしまうのではないかと考えてしまうのだが。


「レキ様だって全力を出せないのですから、今の私達なら十分レキ様のお力になれるはずです。

 一緒に頑張りましょう」

「は、はい・・・」


全力を出してしまえば一人で試合を終わらせてしまうからと、昨年に引き続き個人戦同様全力を出すのを禁止されているレキである。

レキ本人は全力を出せない事よりみんなと一緒に戦える事に喜んでいるのだが、自分達が不甲斐ないせいでと考えてしまうのは仕方ない。

ルミニアだってそう考えてしまうのだ。

だからこそ、自分達の精一杯でレキを支えようと誓い合った。


「その分わらわ達が頑張ればよいのじゃ」

「レキの分まで頑張ろうねっ!」

「フラン様、ユミさん・・・」


「ファラがそんなんじゃ私達が勝っちゃうわよ?」

「ミームさん」


「レキ様のチームメンバーと言えど手加減は致しません。

 全力で戦う事こそがレキ様への礼儀なのですから」

「ルーシャさん」


「す~・・・は~・・・はい」


チームメンバーのフランやユミ、更には敵チームとなったミームやルーシャからも発破をかけられ、ファラスアルムもようやく覚悟を決めた。


「ふんっ

 今年も勝つのは僕達だ」

「フラン様達と言えど手加減はしませんからね」

「よっしゃっ!

 やるぞっ!」


「よしっ!」


二度目の武闘祭、チーム戦の部。

最上位クラスの気合は十分だ。


――――――――――


二日後のチーム戦に向け、各クラスでは入念な準備が行われている。

個人戦と違い、チームワークと戦術がモノをいうチーム戦。

昨年は戦術もチームワークも知らず、まるで蛮族のような戦いを繰り広げたクラスも、今年こそはまともに戦おうと授業を通じ鍛錬を重ねてきた。


何より勉強になったのは他クラスの試合。

昨年のレキ達最上位クラスは元より、本戦における他学年の試合も、あれがチームの戦いなのだと知る事が出来た。

自分達も、来年こそはあのように戦いたいと思わせるには十分で、今年はその成果を発揮する場となっている。

他クラスにとっては今年こそが武闘祭の本番、昨年は武闘祭がどのようなものかを知る為にあったと言っても良い。


ただ、優勝できるかは別問題。

個人でチームを圧倒してしまうレキがいる以上、他クラスの優勝は難しい・・・と考える者は多い。

一応、レキもチーム戦であれば負けた事が何度もあるのだが、それも相手がフランやルミニア達だからだろう。


今年はそんなフランやルミニアがレキと同じチームである。


個人戦最強の生徒レキが、二年生全体の指揮をも務めたルミニアと手を組む。

はっきり言って、優勝は確実だろう。


そんな最強チーム結成の話題にめげず、今年こそはと意気込むのは上位クラスの面々。

特に、個人戦で四位と言う好成績を残したミル=サーラはチームでは負けませんと気合を入れ、今年はミームはレキと別かよとわずかな可能性を見出すのはライ=ジ少年。

確かに、個人の技量とチームワーク、そして先の野外演習で本当の戦いを経験したミル達なら、レキチームは無理でも他のチームなら十分勝機はある。

それこそ、カルクとミームと言う暴走しがちな二人を抱えるガージュチームなら、戦術と連携次第では勝てるかもしれない。


ガージュの指揮能力は高く、個人の技量も高い。

まともに戦えば勝てる可能性は低い。

それでもレキチームに比べればまだ勝てる可能性がある。


そんな風に思われ、と言っても思っているのはライくらいだろうが、それでも明らかにレキ達より下に見られさすがのガージュも怒りを覚えた。

ついでに、「そういうあんたは個人戦どうだったの?」とミームに聞かれ、「い、一回戦は勝った・・・」などと言葉を濁した、二回戦でレキに瞬殺されたライであった。


ガージュ達とて昨年大武闘祭で優勝した経験がある。

大半がレキのおかげとは言え、大武闘祭では相手チームの何名から「君達だって十分強い」という評価を貰っている。

(何故か)解説役だったあのフィルニイリスにさえ「十分」だと評価を受けているのだ。

レキがいなくとも、せめて予選くらいは突破して見せなければ。

ある意味では背水の陣で挑むガージュ。


不安要素はやはり・・・。


「うっし、今年も優勝すんぜっ!!」

「フランにルミっ!

 覚悟してなさいっ!

 勝つのは私達よっ!!」


やる気が溢れすぎて暴走しがちなこの二人だろうか。

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