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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第507話:決勝戦!!

「これより決勝戦を始めるっ!!」

「最上位クラス所属、レキ」

「はいっ!」

「最上位クラス所属、ルミニア=イオシス」

「はいっ!」


二年生による武闘祭予選、決勝戦。

昨年同様最上位クラスの生徒同士の戦いとなったが、組み合わせは昨年と違っている。


ルミニア=イオシス。

二年生が、否、フロイオニア学園が誇る才女。


武術、魔術、座学共に優秀で、野外演習では二年生全体の指揮を任されるほどの生徒。

学園での成績は武術が二位、魔術が三位、座学も二位。

これだけ見れば優秀ではあるが秀でたモノが無いようにも見える。

だが、総合成績ならレキを抑え一位である。

全ての分野が高レベルである証拠だ。


昨年の武闘祭は惜しくも三位に終わったが、準決勝の相手がレキだったのだから仕方ない。

むしろあのレキが思わず本気で切りかかってしまうほど、ルミニアの実力は高い。

当人は満足していたようだが、組み合わせが違えば昨年の本戦に出場していたのはルミニアだっただろう。


ルミニアはルミニアで、今年は私が本戦に出場して見せますと意気込んでいる。

ブロックの予選ではガージュ=デイルガ、ユミ、フラン=イオシスを打ち破り、準決勝では昨年の準優勝者ミームに勝利した。

普段はフランの御守やレキ達の面倒を見ている侍女のような振る舞いすらしている彼女だが、その実力を疑う者はいない。


最上位クラスの纏め役として、二年生の代表として、ルミニアが挑むのは学園はおろかフロイオニア王国最強の戦士レキ。


レキの実力や功績を今更上げる必要は無いだろう。

昨年は武闘祭の予選・本戦共に身体強化無しと言うハンデを背負いながら優勝し、更には六学園合同で行われる大武闘祭でも一年生にして優勝した。

その実力や名声は、既にフロイオニア王国の身に留まらず、他国にも広く知れ渡っている。


あれから一年。

ルミニアもレキもその実力を更に上げている。


レキは他の追従を許さずここまで圧勝し、ルミニアも苦戦はしつつもここまで勝ち抜いてきた。


レキにとっては連続優勝を賭けた一戦。

ルミニアにとっては・・・。


「今の私の、全力でお相手いたします」

「うん」


幼い頃、人攫いから助けてもらって以降あこがれ続けた少年。

憧憬は尊敬になり、今は恋慕の情も抱いている。


ルミニアにとってレキは特別な存在である。

敬愛する主であるフランを救い、自分をも救ってくれた英雄。

彼の足手まといにならぬ様、やがては彼を支えられる存在に成れるよう、今日まで努力してきた。

ルミニアにとって武闘祭は、今の自分がどれだけレキに近づけたか、レキに相応しい存在に成れているかを確認する為の場でもあった。


「レキ様が可能な限りの全力でお相手下さい」

「うん、分かってる」


それは準決勝でミル=サーラが願ったのと同じ。

勝てないと分かっていても、それでもレキとは出来る限り全力で戦いたかった。

もちろんそれが無理な願いである事は分かっている。

レキが全力を出せば、ルミニアはおろかこの武術場自体崩壊してしまうから。


それでも全力のレキと戦いたいと願ってしまうのは、今の自分がどれだけレキに近づけたかを知りたいから。

あるいは王宮で、父ニアデルが全力のレキと戦っている姿を見てきたからか。


脳筋だとは思っていても、ルミニアは父親を尊敬している。

脳筋とは言え領の運営はまともで、国王からの信頼も厚い。

領主としても優秀、ただ少しだけ武人寄りと言うか脳筋なだけなのだ。


そんな父親の背中を見て育ち、幼少期は体の弱さから武人方面は諦め、代わりに領の運営を手助けできるよう勉強を頑張った。

フランに出会い、フランの親友となり、将来はフランを支える為更に勉強を頑張った。

レキに救われ、己の弱さに嘆き、体を鍛えた今、ルミニアは文字通り文武両道の才女となった。


目指すべき頂、支えたい主君、そして何より、己を無言で導いてくれる大きな背中。

これまでの全てが、今のルミニアをつくっている。


武人であり領主である父親に倣い、将来はフランを支える為。

レキの傍に立ちたいという願いを叶える為。


この試合は、今のルミニアが将来の夢にどれだけ近づけたかをはかる為の試合。

せめて一太刀といつも願いながらも叶わない、どれだけ手を伸ばしても届かない存在。

そんなレキに今の全力をぶつける為。


「始めっ!」

「はあっ!」


開始の合図と同時にルミニアが飛び込んだ。


レキより僅かに高い背丈を活かし、穂先でレキの眉間を捕らえたまま、体を使い槍全体を押し出すようにルミニアが突きを放つ。

鋭いその攻撃は、レキの頭部を全力で貫かんとする基本にして必殺の突きである。


相手の視線に合わせた、線ではなく点としての攻撃。

並大抵の者なら距離感を掴めずそのまま貫かれてしまう必殺の・・・。


だが、レキには通じない。


それはルミニアが良く分かっている。

何せこの必殺の突きは、ルミニアの父ニアデルが初めてレキと戦った際に用いた突きだからだ。


あの時、レキはニアデルの突きに対し、かわすどころか更に前へと出た。

体をわずかに沈ませ、槍の下をかいくぐるかのように低い姿勢を保ち、そして。


「たぁっ!」


ルミニア以上の速度で前へと出たレキは、迫りくる槍を右の剣で切り上げ、同時に振るった左の剣でルミニアの胴体を捕らえた。


「あうっ!!」


勝負は一瞬。

うっすらと、軽くではあるが確かに身体強化を施しているレキに、今のルミニアの槍は届かなかった。


「それまでっ!

 優勝はレキっ!!」


『うおぉ~~!!』


誰もが予想した結果である。

だが、それでも生徒立は歓声を上げた。


生徒達は理解した。

今のやり取りのレベルの高さを。

あるいは才女と名高く、野外演習でもその実力をいかんなく発揮していたルミニアを一蹴した、レキの本当の実力の、その一端に触れ興奮したのかも知れない。


「・・・あぁ、レキ様」


ほんのわずかに施した身体強化。

全身がうっすらと黄金に輝いていたレキが描いた軌跡に、ルーシャが魅入っていた。


ルーシャだけではない。

準決勝で敗北したミルも、同じブロックで戦ったユーリやカルクも。

今大会では戦う事の無かったガージュも。

更にはフラン、ユミ、ミーム、ファラスアルム。

同じ最上位クラスの生徒ですら、レキの姿に見惚れ、魅入っていた。


武闘祭予選、決勝戦。

勝利したのはレキ。


フロイオニア学園の二年生代表は、レキとルミニア=イオシスで決定した。


――――――――――


「ねえルミ、さっきの技って・・・」


試合後、レキはルミニアを抱きかかえながら控室へとやってきた。


手加減しているとは言えそれなりの力で攻撃してしまった。

ルミニアの願いとは言え相手は女の子。

実際、ルミニアはレキの一撃で場外まで飛ばされ、意識を失っている。

怪我はなく、だぼくによるあざもレキが治しているとはいえ、念には念を入れた方が良い。


幸い、ルミニアはレキが抱き起した際に意識を取り戻している。

即座に状況を把握し、赤くなり慌てるルミニアを宥めつつ、なるべく動かさない方が良いと言われてそのまま控室へと行こうとした。

その際、ちょうどお姫様だっこな形になった為レキの腕の中で非常におとなしかったルミニア。

レキに見られぬ様縮こまり顔を隠していたルミニアだが、その顔はこれ以上なく赤かった。


控室にたどり着き、椅子に座らせ、「あ、ありがとうございます・・・」と小声で言うルミニアは、まるで出逢った頃の彼女の様だったとレキは思った。


しばらくして・・・。

顔の赤みも薄くなったルミニアに、レキが気になっていた事を尋ねた。


「はい。

 レキ様の考えている通り、あれは父の技です」

「やっぱりっ!」


ルミニアが使用した技。

それはレキが初めてルミニアと出逢った日、ルミニアの父であるニアデルがレキとの模擬戦で使用した技だった。

相手の目線に槍を構え、線ではなく点で攻撃する槍技。

相手の距離感を惑わし、確実に相手を貫く槍の基本にして必殺の技である。


一見すれば単純な技だが、だからこそ確実に相手を貫くには技量がいる。

初動を見抜かせず、ぶれずに真っ直ぐ突く。

腕のみならず体全身で真っ直ぐに突くには何より鍛え抜かれた体幹が必要だ。


ニアデルのような体躯の持ち主ならまだしも、ルミニアのようなほっそりとした女性が扱うには非常に難しいはず。

それをルミニアは、身体強化で補ったのだ。


殺傷力も高く、対人戦で用いれば相手を確実に貫き殺してしまう。

そんな技を学生の試合で、それも恋い慕う相手に使うのはどうかと思うかも知れないが、レキ様なら大丈夫だと言う信頼感がルミニアには合った。

それよりも、今の最大の技をもってレキ様と戦いたいと言う想いが、この技を繰り出したのだ。

守勢に回れば何もできずに終わってしまう。

故に、ルミニアは必殺の一撃に賭けたのである。


結果はともかく、己の今の全力を出せたルミニアはそれなりに満足していた。


「レキ様」

「ん?」

「明日のチーム戦、それに武闘祭の本戦も頑張りましょうね」

「うんっ!」


スッキリした顔で、ルミニアはレキと共に控室を出た。

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