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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第505話:ミームVSルミニア 決着!

ルミニアとミームのこれまでの対戦成績はルミニアが上。

ミームが魔術を使えないから、と言うのはその理由ではない。

武術のみの対戦でも、勝率はルミニアの方が高いのだ。


槍術の高さ、間合いの取り方、戦術。

身に付けた格闘術と身体能力に任せてがむしゃらに攻めるミームにとって、実のところルミニアは相性の悪い相手である。

考えるのが苦手で、考えるより先に手が出るタイプのミームは、常に思考を巡らし、相手の隙を付く、隙が無ければ作らせながら戦うルミニアの格好の獲物。

稚拙な戦術なら実力で突破できるミームでも、高度な戦術に実力さえも上回るルミニアに何度も撃退されてきた。


多少のダメージを覚悟で、槍の間合いの更に内側に入り込めれば勝機も見いだせるのだが、ルミニアの槍をかいくぐるのは至難の業。

仮に入れても、ルミニアはそんな間合いの内側の敵を撃退する術すら身に付けている。

ルミニアの槍をものともしないレキや、小さな体躯を活かし攻め立てるフランを相手にしてきたからこそ、身に付ける事が出来た技術は、ミーム相手にも有効なのだ。


ただでさえ強いルミニアが、武闘祭では魔術をも駆使して戦う。

武術のみでも上回っていると言うのに、持てる全てを使ってミームと戦っているのだ。

それはミームと言う友人に対する礼儀。

武人の娘であるルミニアは、ミームの全力でぶつかりたいと言う想いに最大限応えている。

一切の手加減なく、相手に対する遠慮も無く、ただ全力で。


他ならぬミームがそれを望んでいるから。

下手に手を抜けばミームは間違いなく起こるだろう。


第一ミームは手加減して勝てる相手ではない。


決勝でレキと戦う為、この試合を譲るわけには行かない。

お互い目指すべき相手と戦う為、そして友人の想いに応える為。


ルミニアの槍をかいくぐろうと身を低くして特攻したり、苦手なフェイントを用いて槍の矛先を誘導したり。

下段から迫るミームを槍を回転させて応じ、ミームの稚拙なフェイントに引っかかる振りをしてこちらの有利な状況に持ち込む。


拳だけでなく蹴りをも駆使し、全力でルミニアに勝利しようと全力で挑み続ける。

槍と魔術、そして戦術を持ってミームの全力に全身全霊で応じる。


今二人は、お互いの想いを全力でぶつけ合っている。


――――――――――


ルミニアは賢い。

だが、座学の成績だけで見ればファラスアルムの方が上である。

にもかかわらず彼女が指揮を執るのは、ルミニアは知識を活かす能力にも長けているから。


指揮官には臨機応変に対応する能力が求められる。

事前の情報が満足に揃っていない、あるいは事前の情報と異なる場合などは特に。

とりあえず当たってみる、負けてもいいから一当する。

それが許されるのは個人の戦いだけ。

チームで戦うなら、常に最善を求めなければならない。


ルミニアにあってファラスアルムに無いのは応用力。

知識を知恵に変える力、あるいは知識を活かす力。

ファラスアルムの知識をも活かし、ルミニアは常に最善の方法を模索している。


普段なら個人戦でそのような能力は不要。

だが、ルミニアはその戦術をも駆使してミームと戦っている。


相手の攻撃を学習し、対応する能力がミームにはある。

反面、ルミニアは戦闘中に相手の能力を分析し、戦術を組み直す力がある。

知識を活かすと言うのは、何も事前に得た情報に限らない。

戦闘中に得られる情報もまた重要であり、ルミニアにはそれをも活かして戦う事が出来るのだ。


半ば本能的に対応していくミームと頭を働かせながら対応していくルミニア。

前者は無意識で、後者は意識的に行っていると言う違いはあれど、試合中に強くなっていくと言う点ではどちらも同じ。

元より実力はルミニアが上回っている以上、ミームが勝つにはルミニアの予想を上回る攻撃を繰り出す必要がある。


才女と呼ばれるルミニアを上回る攻撃をだ。


「やあっ!」

「はあっ!」


ルミニアの槍とミームの蹴りが交差する。

弾かれた反動を活かし、武舞台上で回転しながら追撃を繰り出すルミニア。

その攻撃に半ば本能的に応じるミームは、しゃがみこみながらルミニアの懐へと入り込もうとして・・・。


「そこですっ!」

「きゃっ!!」


ミームの眼前に槍の穂先が突き刺さる。

後半歩、ミームが踏み込んでいれば槍に自分から突っ込んでいたかも知れない。

直撃すれば、いくら刃引きされているとは言えダメージは大きかったはず。

下手をすれば意識を失い、その時点でミームの敗北は決まっていた。


「はあっ!!」


とっさに後方へと跳び、直撃こそ避けられたミームだが、それを見逃すルミニアではない。


槍を武舞台に突き立てたまま、ルミニアが魔術を発動する。

用いたのは青系統中級魔術ルエ・ウェイブ。

周囲の水を集め、津波を生じて相手を押し流す魔術である。


学園に来てからも研鑽を怠らなかったルミニアは、中級魔術ですら一呼吸で発動させる事が出来るようになった。

とっさに下がったが故にわずかに体勢が乱れたミームに、ルミニアの魔術が容赦なく襲い掛かった。


「くっ!!」


威力、精度共にルミニアの魔術が学園有数。

ルミニアが発動したルエ・ウェイブの規模は大きく、上にも横にも逃げられない事を悟ったミームは小手に魔力を纏わせ耐える事を選んだ。

武舞台に片膝を立てた状態で体を固定し、流されぬ様身体強化を高め何とか耐えたミームだったが・・・。


「はっ!」

「がふっ!!」


津波を追いかけるように迫ったルミニアの突きを腹に食らい、ミームが苦悶の声を漏らす。

更に。


「やあっ!」

「きゃうっ!!」


追撃の槍。

突き出した槍を手元に引き寄せつつ、体を回転させミームの後方へと回ったルミニアの槍が、ミームの後頭部を打ち据えた。


眼前で十字に交差し防御に徹した腕。

流されぬ様力を込めた下半身。


無防備な腹を突かれ、更には後頭部へと追撃を喰らったミーム。

鮮やかで容赦のない連撃に、流石のミームも武舞台へと沈んだ。


「それまでっ!

 勝者、ルミニア=イオシス!」


準決勝第二試合。

レキとの対戦をかけた試合を制したのは、才女と名高いルミニアだった。


――――――――――


「あぁ~~~っ!

 負けたぁ~~~~!!」


簡単に勝てる相手は無い事はミーム自身良く知っている。

それでも、昨年同様今年もレキの待つ決勝には自分が行くのだと心に誓っていた。

本戦に出場し、アランに昨年のリベンジをしたかった。

そしてあの大武闘祭に、今年はレキと共に出たかった。


ミームだけではない。

恐らくは誰もが武闘祭の本戦に、そして最上位クラスの面々は大武闘祭に。

昨年の武闘祭を終え、誰もが一度は夢見た。


武闘祭の本戦に個人で出場したミームはそれが人一倍強かった。

想いは時に実力以上の力を発揮する。

それでも、ルミニアには一歩及ばなかった。


勝敗を分けたのは何だっただろう。

単純に言えば実力差。

武術でもルミニアが上回り、戦術でもルミニアが上を行く。

加えてミームが苦手とする魔術もルミニアは高レベルで使用する。


武術で負け、総合力で負けた。

客観的に考えれば、この結果は順当だったのかも知れない。


それでも負けるつもりで戦う者は居らず、ミームはレキにすら勝つつもりで挑んでいる。


ミームが弱かったわけでは無い。

ただ、それ以上にルミニアが強かっただけの事。

理解はしていても、それでも悔しいものは悔しいのだ。


「ルミお疲れっ!」

「良くやったのじゃルミっ!」

「す、すごかったですルミニアさんっ!」

「ええ、素晴らしかったです!」


皆のいる場所へとやって来たルミニアに、仲間達が心から祝福を送る。

槍を振るい、魔術を用い、戦術を駆使したルミニアの戦いは見事と言うしかない。

フロイオニア学園の才女。

その名に相応しい戦いっぷりであった。


「魔術の差だね」

「いや、槍だって凄ぇだろ」

「頭の差だ」


一歩離れた場所で今の試合を振り返り、ミームに足りないものを述べるユーリ、カルク、ガージュの三人。

纏めれば全てにおいてミームの上をいったという事であり、実際にそうとしか言いようがない。

武術のみで最上位クラス入りしたミーム。

昨年の彼女は、その武術のみで予選を突破し一年生の代表になった。

だが、それが通じるほどこの学園は甘くない。


武術のみでの戦いの限界か。

あるいはルミニア達の無詠唱魔術が、新たな戦い方をもたらした結果か。

いずれにせよ、今のミームではその内限界が来るのだろう。


ミームだって分かっている。

今の自分では、レキは当然ルミニア達にも追いつけなくなるかもしれないと言うことくらい。


ファラスアルムは無詠唱魔術によってミームとも戦えるほどに強くなった。

元より無詠唱魔術が使えるルミニアやフラン、ユミとも最近では負け越すようになった。

フランやルミニアに至っては魔術を使われたらほとんど勝てないくらいだ。


女子だけではない。

ガージュやユーリも無詠唱魔術を覚え、カルクは魔術剣という技を編み出した。

誰もが武術だけでなく魔術にも力を入れている。


そんな中、ミームだけが武術のみで戦い続けている。


獣人は魔術を使えない訳では無い。

確かに相性は悪いが、四年生になったアランチームの獣人ジガ=グのような生徒もいる。

ミームだって覚えようと思えば覚えられるはずなのだ。


それをしなかったのは彼女の意地と下手なプライド。


母親と同じ狩人を目指すミームは、戦闘スタイルもまた母親を倣っている。

当然魔術など使わず、これまでは考えすらしなかった。

武術のみで有数の冒険者になった母親と同じく、ミームも武術のみで戦う事を選んだ。


学園に来て、自分と互角の戦いをするフランやルミニアと出逢い、彼女達に負けじと鍛錬を続けてきた。

武術だけでなく魔術にも精を出すクラスメイトを横目に「自分は武術だけで強くなってみせる!」と決意したのは、己が理想とする戦い方を捨てたくなかったからだが、もしかしたら不得手な魔術をどれだけ頑張ってもみんなのようには使えないと言う諦めがあったのかも知れない。


そんな決意は自分の世界を狭めるだけ。


今はまだフランやルミニアとも何とか渡り合えているが、時期に勝てなくなるだろう。

武術のみならという条件も、見方を変えれば相手にハンデを強いているだけでしかない。


手を抜いている相手に勝って何が嬉しいか。

フラン達とこれからも全力で戦う為には、まず彼女達と同じ場所へと上がらなければならない。


もはやプライドなどと言っている場合では無く、不得手だからと目をそらしていることも出来ない。

そうしているうちに皆はどんどん遠くに、高みへと昇って行ってしまう。

今はまだ負けた事の無いルーシャやミル=サーラにだって、いつかは勝てなくなるかもしれない。


ファラスアルムがみんなに置いて行かれぬ様努力する気持ちが、今のミームには良く分かった。

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