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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十六章:学園~二度目の武闘祭・予選 後編~
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第504話:ミームVSルミニア

「あれが、レキ様の・・・」


控室。

意識を取り戻したミル=サーラが己の剣を見つめながら呟いた。


幼い頃、サーラ子爵領を襲った魔物の群れを撃退した騎士団に憧れ、自身も騎士になるべく鍛錬してきた。

指南役から太鼓判を貰い、意気揚々と入学試験を受けたが結果は上位クラス。

フロイオニア学園が完全なる実力主義であり、王族であろうと容赦なく下位クラスに入れられると聞かされていたミルは、最上位クラスに入れなかったのは己の実力不足であると己を戒めた。

実際、入学して間もなく始まった最上位クラスによる中庭での鍛錬では、自分の実力など足元にも及ばない者達がしのぎを削っていた。


その光景に奮起し、負けじと鍛錬を積み重ね、昨年の武闘祭で戦ってみればなるほど彼等彼女等こそがこの学園の最強なのだと心から納得できた。


いつかは自分も・・・。

憧れではなく目標として、レキ達最上位クラスの生徒達に頭を下げ、手合わせをしてもらうようになった。


二年生になり、今年こそはと試験に挑んだが結果は同じ上位クラス。

手合わせを通じてレキ達の実力は理解したつもりだったが、それでもガドが抜けた分自分にチャンスが・・・などと浅はかに思ってしまった。


そんな思いが祟ったのだろう。


最上位クラスは繰り上がりで入る場所では無い。

己の実力で勝ち取る場所である。


ミル達の年代は例年に無く優秀な生徒が揃っている。

加えてレキのいるフロイオニア学園に編入を希望する者は多く、たった一つの枠を競い他種族交えし烈な争いが行われたと言う。

そんなたった一つの枠を勝ち取ったルーシャが優秀であるのは当然。

決して座学だけではない事を、ルーシャは野外演習や今年の武闘祭で示した。


彼女は確かに、最上位クラスに相応しい実力の持ち主だった。


ではミルはどうか。


その答えを知る為、あるいは己に納得させる為挑んだ今年の武闘祭。

皮肉にも同じブロックにミル以上の実力者はいないと言う、他者からすれば幸運に、だがミルからすれば期待外れな組み合わせ。

ある意味、負ける為であった今年の武闘祭。

最上位クラスの誰でもいいから全力でぶつかり、その実力を教えて欲しかった。


自分の実力ではまだ足りないのだと。


自分などでは到底敵わないのだと。

それこそがフロイオニア学園の最上位クラスなのだと。

自分が目指したクラスは、今の自分ではたどり着けない頂であると、この身に教えてもらいたかった。


新たなる目標を得る為に参加した武闘祭で、ミルはこの世界で最強の存在と戦う事が叶った。


「レキ様・・・」


己の身勝手な願いに応え、全力でぶつかってくれた。


あの程度の鍛錬では最上位クラスになど入れるはずが無いと。

ミルが目標にしてきた最上位クラスは、見上げるほどの頂にあるのだと。


学園に入る前から、入ってからも欠かさず鍛錬してきた。

入学時の試験、一年次の評価。

それらは何かの間違いで、あるいは自分に足りないのは座学であり、武術なら最上位クラスにだって負けていないのだと。

ミルの思い上がりそうだった考えを粉々に粉砕してくれた。

上位クラスの一位だとか、実力なら最上位クラスだとか、そんな自惚れそうだった精神を叩きのめしてくれた。


先の野外演習で自分達を救ってくれた黄金の光。

幼い頃に憧れた騎士団以上の力に、ミルは新たなる目標を見出す事が出来た。


それは一朝一夕どころか一生を賭けても届かない場所かも知れない。

それでもミルは、これからも諦めずその頂に手を伸ばし続ける事だろう。


――――――――――


「準決勝第二試合。

 最上位クラス、ミーム=ギ」

「はいっ!」

「最上位クラス、ルミニア=イオシス」

「はい」


試合は続き、準決勝第二試合。

対決するのは昨年の準優勝者であるミームと、最上位クラス二位、先の野外演習でも二年生全体の指揮を執った才女ルミニア。


実力は互角。

今のところルミニアが勝ち越しているが、実力差はほとんどない。

武術・魔術に加え指揮にも明るいルミニア。

魔術は不得手だからと諦め、指揮を執る頭も無いからと、武術のみに全振りしているミーム。


才媛が勝つか脳筋が勝つか。

最上位クラスの仲間達も注目する試合である。


「今年は私が本戦に進ませて頂きます」

「こればっかりはルミにだってゆずれないわよっ」


この試合に勝った者は、後日行われる武闘祭本戦にレキと共に出場する権利を得る。


昨年はミームが出場し、惜しくも二回戦でフランの兄であるアラン=イオニアに敗北した。


今年こそはアランに勝ち、大武闘祭に出場して見せると今から意気込むミーム。

対するルミニアも、今年は本戦にレキ様と共に出場して見せますと、誰でもない自分自身に誓っている。


「それでは、始めっ!!」


両者とも気合は十分。

準備などとうに済ませている。


闘志を漲らせるミーム。

目を閉じ精神を集中させるルミニア。


開始の合図を待つ両者に、ようやく教師が宣言を下した。


「やあっ!」

「はあっ!」


開始の合図に二人が同時に飛び出す。

ミームは全身と小手に魔力を流し、ルミニアもそんなミームに真正面から対抗する為、槍と全身に魔力を流す。


武舞台の中央、ミームの小手とルミニアの槍がぶつかり火花が散った。


――――――――――


ミームにとってレキはいつか追いつくべき生涯の目標である。

一朝一夕で勝てる相手では無く、そも現段階ですらレキが手加減に手加減を重ねた上でなお完敗している。


むしろレキに稽古を付けてもらっていると言っても良いくらいだ。


それは大人と子供を通り越し、ドラゴンとホーンラビットに例えても過言ではない。

それでもレキと戦うのは楽しく、その他の感情も相まってミームはレキを追い続けている。


今ミームが戦っているルミニアはと言えば、こちらは負け越してはいるもののライバルである。

実力も戦績もほぼ互角なフランと違い、得意の武術ですらルミニアの方が上回っている。

魔術と戦術が加わる事で、最上位クラス二位の実力を持っている。


レキとは違い、決して勝てない相手ではない。

学園を卒業するまでには何とか、勝率を上げておきたい相手だ。


ルミニアの凄いところは武術・魔術に加えて戦術までもが高レベルである点。


武人であり槍のイオシスの名を持つ父親を持ち、学園に入る前から鍛錬を行っていたルミニア。

才能はあったのだろう、ただ幼い頃は病弱で、槍などろくに振るった事が無かったと言うのだから、相当な努力もしたに違いない。


実力にも地位にも驕る事無く、フランの世話をしながらも槍の鍛錬を欠かさないルミニアは、ミームにとって尊敬できる友人だ。


ミームが苦手な魔術を高レベルで修め、座学も優秀。

レキに次ぐ実力者でありながら戦闘では指揮をもこなす才女。


仮に学園にレキがいなくとも、ルミニアがいただけでもミームはフロイオニア学園に来た事を後悔しなかっただろう。


昨年の武闘祭では最後まで当たらなかったが、こうして戦ってみれば嫌でも分かる。

いつもの授業や中庭での鍛錬の時とは違う、決勝でのレキとの対戦や学年の代表の座を賭けた真剣勝負。

レキと共にあの大武闘祭に出場する為にも、尊敬する友人に何としても勝たなければならないと言うのに・・・。


お互い本気で、全力でぶつかり合う事の楽しさと言ったら・・・。


「あははっ!」


フロイオニア学園に来る前まで、自分と同い年の子供で自分より強い奴なんていないなどと思っていたミーム。

あの頃の自分がどれほど狭い世界で生きてきたかを、ミームはこの学園で思い知った。


レキ、フラン、ルミニア。


フロイオニア学園に来て良かった。

この学園に来て何度思った事か。


ルミニアと全力でぶつかり合いながら、ミームは喜びに打ち震えていた。


――――――――――


「さすがミームさんです。

 でもっ!」


現時点での順位はルミニアの方が上。

これまでの対戦成績でもルミニアは勝ち越している。


それでも油断できないのがミームと言う少女だ。


彼女には武術の才がある。

おそらくはルミニアよりも。


槍のイオシスの名を持つ武人を父に持つルミニアは、幼少の頃は武術とはほぼ無縁の生活を送っていた。

病弱でおとなしい性格のルミニアは、槍を振るうより部屋で本を読んでいた方が楽しかった。

親友であるフランと一緒に遊ぶのは楽しかったが、弱い体は無理をすればすぐ倒れ、フランにも心配をかけてしまう。


もどかしく、何とかしたいと言う思いはあったが、迷惑をかけるくらいならと諦めていた。

諦めた事で更に迷惑をかける事になるなど思ってもいなかった。


後悔し、奮起し、そして努力した。

自分に才能があるとは思っていないし、そんなものは必要としていない。

必要なのは努力、そして諦めない事。

フランの傍にいる為、レキの隣に立つ為、何より自分自身二度と後悔しない為。

ルミニアは才能に頼らず努力し続けた。


その結果、ルミニアはいつの間にか学園の才女と呼ばれるまでになっていた。


「はあっ!」

「きゃうっ!」


武人である父から槍を習い、レキやフィルニイリスを手本に魔術を研鑽した。

将来フランを支え、レキに足りない頭脳面を補う為、座学も頑張った。

趣味であった読書も、実用的なモノを中心に読むようになった。

たまには恋愛関係の本も読んだが、人の心の機微にも詳しくなれた。

一般的な知識のみならず、戦術にまで手を伸ばし、今ではチームの要となった。


「そこですっ!」

「きゃっ!!」


チーム戦では指揮官として戦うルミニアは、個人戦では槍と魔術を駆使して戦う。

レキがいなければ間違いなく二年生最強の生徒だっただろう。


「っと。

 さすがルミね。

 でも負けないからっ」

「私だって負けません」


そんな仮定に意味はない。

そもそもルミニアは、レキがいたからこそここまで強くなれたのだから。


「本戦に行くのは私ですっ!」

「レキと戦うのはあたしだからっ!」


レキがいなければルミニアはここにはいない。


フランを失い、ルミニア自身も無事ではすまなかった。

そんなレキの恩に報いる為にも、ルミニアは簡単には負けるわけには行かないのだ。


知識だけではない。

足手まといにならぬ様、迷惑を駆けぬ様、せめてレキが安心して戦いに赴けるように。


レキと出逢ってから今日までの成果を、決勝でレキにぶつける為。

ルミニアは今、全力で槍を振るっている。

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