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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第50話:約束とその後

夜中に起こされ、その後明け方まで起きていた為か、レキ達が目覚めたのはお昼頃だった。

かなり遅い朝食をとった後、出立の準備をリーニャ達に任せ、お子様三人は元気に村中を駆け回っていた。

仲良くなったユミとも明日にはお別れ。

レキ達は目いっぱい遊ぶ事にしたのだ。


レキの力を畏怖する村人達も、村を救ったレキに表立って何かする事はなく、ただ遠目に見るだけに留まった。

強大な力を持っていても、フランやユミと仲良く遊ぶレキの姿はただの子供にしか見えなかった。

下手に手や口を出してしまえば、ゴブリンの群れを一掃した力が自分達に向けられるとでも思ったのだろうか。

極力レキ達に近づかないよう、村人達は総出でゴブリンの死体を始末していた。


そんな村人達をよそに、レキ達は目いっぱい遊んだ後も昨日同様賑やかな夕食をとり、何事にも邪魔される事無く朝を迎えた。


「もう行っちゃうの?」


ゴブリンの襲撃も去り、すっかり元の明るさを取り戻したユミも、レキ達との別れが近づくにつれてその顔に寂しさを浮かべた。


村にはユミと同年代の子供はいない。

レキとフランは、ユミに出来た初めての友達なのだ。


「申し訳ありません。

 あまり長居をするわけには」

「「「う~・・・」」」


お別れが寂しいのはフランやレキも同じ。

リーニャのお断りの言葉に、三人が声をそろえて不満を訴えた。


「もう一日くらい良いのではないか?」

「本来ならば昨日の内に出るつもりだったのですよ?」

「まだあの森を探検してないのに」

「レキ君は十分駆け回ったではありませんか」

「私も、もっといろんなとこ案内したい」

「・・・はぁ」


ため息を付くリーニャ。

あれほど仲の良い姿を見せられれば、別れの際にはこうなることが目に見えていた。

だからと言ってフラン達の我儘に付き合う訳には行かない。

今後もいくつかの街や村を経由するのだ。

その都度別れを惜しむようでは、いつまでたっても王都になどたどり着けないだろう。

何より、一日延ばせばその分だけ仲良くなり、それだけ別れの辛さが増していくだけなのだから。


「まだレキ達にお礼してない」

「いえ、お礼なら十分ですよ?」

「えっ、だって・・・」


寝床や食事の場所を提供してもらっただけではない。

この村で唯一となってしまったユミとその母親の、レキへの好意的な態度にリーニャ達も救われていたのだ。


少し立ち寄るだけのつもりだった村。

予定外の事が重なり二日ほど留まってしまったが、本来は既に出発しているはずだった。

いつまでに帰らねばならない、と言った期限こそ無いものの、あまりに帰りが遅ければその分心配をかけてしまうだろうし、騎士団が捜索に出る可能性も高い。

自分達を襲った野盗に扮した何者かの動向も気になる。

あまりのんびりとはしていられないのだ。


「むぅ・・・」

「う~・・・」

「ふふっ、すっかり仲良しさんですね?」

「ユミは友達じゃからな!」

「うん!」

「あらあら」


食事の支度を一緒に手伝ったり、一緒に村中を駆けまわったりもした。

同い年で同姓と言う事も手伝い、フランとユミは友人を超えて親友レベルとなっていた。


だからこそ、別れが寂しいのだ。


「それならユミも来れば良い」

「「えっ?」」


別れを惜しむ二人に、フィルニイリスが唐突にそんな事を言いだした。


自分達は王都に向かっていると言うことは既に伝えている。

目的や身分こそ伝えていないが、王都に家がある事は伝えてある。

王宮を家と呼んでよいかどうかは分からないが、住んでいる事は間違いではない。


「今すぐじゃない」


たまたま立ち寄った村の子供を王都へ連れていくなど、人さらいの所業である。

ユミが希望したところで、簡単に連れていけるはずもない。


「フランは十歳になれば学園に入学する。

 そこにユミも入れば学園で会える」

「おぉ!」

「わぁ」

「もちろんレキも」

「えっ、オレも?」

「そう」


自分は関係ないと思っていたレキが驚きの声を上げた。


レキを王都に連れて行くと決めた時から、フィルニイリス達は十歳になったらフランの護衛兼友人として学園に入学させようと考えていたのだ。

フランと同い年でこれほど強い者などおらず、人柄も信頼できる。

フランもすっかり懐いており、これほどの適任者はいないだろう。


「うむ!

 それは良い考えなのじゃ!

 のうユミ?」

「ん~」

「なんじゃ、ユミは不満か?」

「ん~ん、あのね・・・」

「ん?」

「"がくえん"って何?」

「にゃ!?」

「あっ、オレも知らない」

「にゃにゃ!?」


残念な事に、ユミもレキも学園の存在を知らなかった。

王都から離れた村で生まれた子供達は、その村で生涯を過ごす者が多い。

領内の街ならともかく、それ以外の場所の情報など知る由もないのだ。


好奇心旺盛な者や、領内での生活が厳しい者などが、遠く離れた街や王都へ赴く場合もあるが、大抵の者は生まれ育った村を離れず過ごす。

ユミもまた、村以外の生活についてはほとんど知らず、学園の話など当然のごとく初耳だった。


「学園とは十歳から十四歳までの子供が集団で学ぶ場所。

 そこでは貴族平民の区別なく平等に学ぶ事ができる。

 内容は多岐に渡る。

 この国や世界の成り立ちから魔術、武術、薬草の知識など、あらゆる事が学べる」

「ついでに一般常識もですね」

「「へぇ~・・・」」

「学園は王都から馬車で三日ほど行った場所にある。

 よって入学後はそちらで過ごす事になる」

「えっ、ユミも?」

「学園は全寮制。

 王族だろうと学園にいる間はその寮で暮らす事になる」


学園は全寮制であり、貴族はおろか王族であっても学園に在籍する間は学園の寮で共同生活を送る事になっている。

寮に入る事によって、貴族や平民の垣根を強制的に排除するのだ。

様々な問題は起こるが、それすら教育の一環である。


「私も入れるの?」

「十歳の子供なら誰でも入れる。

 ユミも問題ない」

「本当?」

「本当。

 詳しくは村長かエラスの領主に聞けば良い」

「うん!」


学園に入学する条件は十歳の子供というただそれだけであり、他に必要な条件は特に無い。

試験や、入学時に支払う授業料は必要だが、平民の場合お金に関しては国や領からある程度の補助が出る事が多い。


学園の設立目的の一つに、才能のある子供を広く集め、後の国家運営に役立つ人材を育成するというものがある。

この人材というのは王宮に務める武官・文官だけでなく、各領を繁栄させられる者も当然含まれている。

学園でさまざまな事を学んだ子供が、生まれ故郷に戻って領を繁栄させたという例も多く、それゆえに各領主は学園に協力的なのだ。


「領主に認められなければ入学できないかも知れない」

「えっ!?」

「なんじゃ!

 どういうことじゃ?」

「ユミが将来この領の役に立つ存在だと思われなければ、入学させるだけ無駄になる。

 領主も無駄なお金は使わない」

「えぇ~」

「ユミさんが優秀になれば問題ありませんよ」

「えっと・・・」

「うにゃ?」

「今から頑張れば良い、と言うこと」

「・・・分かった。

 頑張る!」

「それでいい」


昨日教えた魔術の練習を続ける様、フィルニイリスはユミに伝えた。

「目標はレキじゃ!」とフランが強く宣言し、それにユミが賛同したところで、レキ達はカランの村を出立すべく村長の家へと向かった。


――――――――――


「それでは村長、世話になったな」

「い、いえ。

 こちらこそ村を救って頂き・・・」

「いや、礼には及ばない。

 対価も受け取ったしな」

「そう言って頂けると・・・」


村長の相手をするミリス。

あれほどの力を見せつけた後では、フィルニイリスの淡々とした物言いではいらぬ誤解を与えかねないと思ったのか。

騎士団の遠征などで慣れている為、ミリスもそつなく挨拶を済ませた。


「ユミ、絶対じゃぞ?

 絶対学園に来るのじゃぞ?」

「うん、絶対行く!」

「絶対、絶対じゃからな!」

「うん!」


その後ろでは、二年後の再開を誓い合うフランとユミの姿があった。

共に過ごした時間は三日でも、親友になるには十分だった。


そんな微笑ましいやり取りをする二人を見守りながら、リーニャとフィルニイリスは村の様子を気にしていた。

"村を救った英雄"と言っても過言ではないレキの出立を見送る村人は、村長を除けばユミとその母親しかいなかった。

「ゴブリンの後始末や村の仕事で手が離せないのです」などと村長は言っていたが、それが嘘である事は分かる。

少しでも早く厄介者が出て行くのを隠れて見ている。

そんな雰囲気だった。


「忘れてた。

 村長、コレ」

「・・・これは?」


懐から手紙を取り出したフィルニイリスが、村長に渡した。


「この手紙を届けるよう、エラスの領主に依頼されていた」

「はっ?」

「このメダルを見せれば領主からの依頼だと分かるはず」

「こ、これは・・・」


そういいつつ、フィルニイリスが続けて取り出したのは領主から渡されたメダルである。

本人は冒険者の振りをしていたが、彼が領主である事はエラスの街では有名な話。

フィルニイリス達も冒険者ギルドで聞いていた。


フィルニイリスが渡されたメダルと言うのは、その領主が依頼をする際に渡すメダルであり、ある意味領主代行の証でもあった。

渡された手紙とメダルを見た村長の額には、分かりやすく汗が噴き出していた。


「確かに渡した。

 それでは行こう」

「ああ、ではな村長」

「お世話になりました」

「あ・・・あ・・・」


「じゃあなユミっ!

 また学園で会うのじゃ!」

「うん!

 絶対また会おうねっ!」


遠ざかっていく馬車が見えなくなるまでユミは手を振り続けた。

レキ達の用意した食事のおかげか、大分回復したユミの母親もまた、遠ざかっていく馬車に精いっぱいの感謝を込めて頭を下げ続けた。


村長は、渡された手紙を手に固まっていた。


――――――――――


レキ達の馬車がすっかり見えなくなった頃、どこからともなく村人達が集まってきた。

てっきり、見えなくなったレキ達にそれでもお礼を言うのだとユミは思ったが・・・。


「ようやく行ったか・・・」

「ええ、まさかもう一日泊まるなんて・・・」

「それは仕方ないだろう。

 何せあれだけの事をしたのだから」

「それでも気が気じゃなかったというかな・・・」

「まぁまぁいいじゃないか。

 こうして出て行ったんだしよ」


聞こえてきたのは、まるで厄介者が出て行ったかのような言葉だった。


信じられない者を見るように、ユミは目を見開いた。

そんなユミに気付かず、村人達の言葉は留まる事を知らない。


「あんな得体の知れない連中、村に入れる事が間違ってたんだ」

「ゴブリンなんか連れて来やがって」

「俺達が食われてたかも知れないってのに・・・」

「大体ゴブリンを殺してそれっきりというのが気に食わん。

 殺したなら後始末くらいするべきだろう」

「全くだ。

 あの死体の山を片付けなきゃ街や森にも行き辛くてかなわん」


次から次へと出てくるレキ達への不満。

不満を通り越し、今回のゴブリン襲撃すらレキ達の所為になっていた。

挙句の果てには、村人達が頼まれ、了承したはずのゴブリンの後始末すら、レキ達がやり残しを押し付けていったかのようだ。


「・・・何を、言ってるの?」

「ユミ」

「お母さん。

 みんな、何を言ってるの?」

「ユミ、よしなさい」

「だって、レキは私を助けてくれたんだよ?

 お母さんだって助けてくれたし、村だって・・・」

「ユミ、分かったから。

 お母さんは分かってるからね」

「なんで?

 なんでレキが悪者になってるの?

 こんなの・・・こんなのおかしいっ!」


村人達のあまりの言い分に、ユミが叫んだ。

村人達が気づいた時には、ユミはもう自分の家の方へ走り去っていた。


「・・・な、なんだ子供のくせに」

「そ、そうだそうだ」

「だ、だいたいあの子供がゴブリンに襲われなけりゃ・・・」

「あ、ああ・・・」


ユミの言葉にも言い返す村人だが、レキ達に向けた言葉ほどの力はなかった。

ユミがゴブリンに襲われたのは不可抗力であり、例えユミが襲われなくとも村の誰かが襲われていただろうことくらい分かっているのだ。

・・・にもかかわらずレキ達を責めるのは、レキの力に対する畏怖があるから。


村人達を睨みつけながらも軽く頭を下げ、母親はユミを追いかけた。

母親もまた、レキ達に心から感謝していた。

ただ、表立って村人達を非難してしまえば、これからの村での生活に支障をきたす恐れがある。

自分ではなくユミが、だ。

だからこそ、この場は何も言わず、ただ睨むだけにとどめてユミを追いかけたのだ。

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