第500話:各ブロック決勝
「始めっ!」
各ブロックの決勝は同時に始まった。
どのブロックも同じクラスの生徒同士の戦い。
赤ブロックは上位クラス同士が、他は最上位クラス同士がそれぞれぶつかり合った。
「手加減はしませんっ!」
「望むところですっ!」
普段は同じクラスの仲間として切磋琢磨する間柄。
当然、お互いの実力や手札は分かり切っている。
だからこそやり辛さはあるが、余計な考えを捨て全力でぶつかるには都合が良かった。
赤ブロックのミルとシーラルが真正面からぶつかり、青ブロックのユーリはレキから距離を取りつつ魔術を放つ。
黄ブロックのフランがルミニアの槍に双短剣をぶつけ、緑ブロックではミームの全力の特攻を杖でいなしたルーシャが詠唱を始めた。
最初に決着がついたのはやはりというか青ブロックだった。
ユーリの放った魔術を、レキが同じ魔術で迎撃。
「まだっ!!」と追撃の魔術を放とうとしたユーリに、その隙を与えず距離を詰めた。
「やはり二度は無理か・・・」
分かっていたのだろう、魔術での戦いを諦めたユーリが剣を構え迎え撃つ体勢を取る。
ユーリの実力もこの一年で更に上がっている。
身体強化無しのレキが相手ならそれなりに戦える程度には、剣も魔術も向上した。
ユーリに限った話では無く、他クラスを含め誰もがその実力を向上している。
故に、今年のレキは身体強化をある程度許可されていた。
全力で行うのは禁止されているが、昨年の武闘祭の本戦や大武闘祭程度なら大丈夫だと言われている。
それもレキ以外の生徒が実力をしっかりとあげたから。
今のみんなの実力ならレキとも多少は打ち合える。
少なくとも、何もわからずただ負けるなどという事は無い。
生徒達が強くなればなるほど、レキもその実力を発揮する事が出来るのだ。
剣を構えるユーリに対し、レキが真正面から突っ込んで行く。
その体をうっすらと黄金に輝かせているのは身体強化を行っている証。
ユーリの実力を認め、昨年以上の力で持って戦うと決めた証なのだ。
両手に握られた双剣、その左の剣でユーリの剣を切り払い、がら空きとなった横っ腹に右の剣を叩きこむ。
「うぐっ!!」
体をくの字に曲げつつ、ユーリが場外へと飛んでいく。
青ブロックの決勝は、開始から数分と経たずにレキが勝利した。
――――――――――
試合に負けたと言うのに、ユーリはどこか満足感を抱いていた。
レキに負けることなど分かっていた。
口ではあんなことを言っていたが、ユーリもちゃんと全力で戦っている。
勝つ為と言うより悔いを残さない為なのだろう。
もしくは仲間に、そして自分に恥じない為にか。
最上位クラスの一員として恥じない試合をと言うルーシャ同様、レキ達の仲間として恥ずかしくない試合をしようと思っていた。
それは勝ち負けではない。
仲間であり、親友であり、目標であるレキに、今の自分の全力をぶつけたかった。
手加減など必要ない。
持ちうる全てをぶつけてなお届かない遥かなる頂、それがレキと言う親友なのだから。
レキは全力を出してない。
それは出せないと言った方が正しい。
レキが全力を出せばどうなるか、それをユーリは野外演習や王宮での鍛錬で知った。
もしレキが全力で戦ったなら、ユーリなど試合開始と同時に吹き飛ばされていただろう。
レキが加減してくれたからこそ、ユーリは全力を尽くす事が出来た。
人によっては「ふざけるな」と言いたくなるのかも知れない。
だが、ユーリの胸にはやり切ったという思いしかない。
それは多分、レキがわずかながらに身体強化をしていたから。
ユーリの攻撃を受けるのではなく相殺し、追撃の暇を与えられず、寸止めではなくしっかりと一撃叩きこんできたから。
加減していたのは確かでも、その度合いは他の生徒に比べて遥かに低く、昨年に比べればなお低い。
昨年の武闘祭、予選のレキは身体強化を一切していなかったのだから。
ユーリとの試合で身体強化を行った。
身体強化を行わなければ勝てなかった、と言う事ではないのだろう。
それでも身体強化を行ったのは、それだけユーリの実力を認めてくれたから。
ユーリの事を大切な仲間だと、友人だと思ってくれているから。
少なくとも、身体強化を行うだけの価値がユーリにはあったのだ。
その想いが伝わったのか、ユーリの中には充実感と満足感があった。
「負けて悔いなし、というやつだね」
「おう!」
そう言って、控室でカルクと笑い合った。
――――――――――
赤ブロック。
上位クラス同士の戦いは順位通りミル=サーラが勝利した。
ミルもシーラルもその実力を着実に上げている。
通常の授業は元より、中庭での鍛錬にも率先して参加し、ミルもシーラルも例年なら最上位クラスに入ってもおかしくないほどの実力を有している。
ミルに至っては最上位一位になってもおかしくないほどだ。
実のところミルとシーラルの実力差はそれほど開いてはいない。
実際、日頃の授業ではシーラルが勝った事も何度かある。
運や何かしらの要素がシーラルの味方をすれば、この試合も勝ったのはシーラルだった。
そうならないのは、やはりそれほどとは言えミルの実力が上回っていたから。
運や何かしらの要素がシーラルの味方をしなかった故に、純粋な実力でミルが勝利したからだ。
剣と盾を用いる騎士剣術で戦うミルに対し、シーラルは魔術士。
詠唱速度もかなり上がっているとは言え無詠唱に至っていないシーラルでは、果敢に攻めるミルに対応しきれなかった。
距離を取らねば魔術を放てず、詠唱する隙すら与えてもらえなかった。
それでも諦めず、最後まで戦い抜いたシーラル。
だが、上位クラス一番手のミルには敵わなかった。
――――――――――
黄ブロックは激戦となった。
最上位クラス二番手のフラン=イオニアと三番手のルミニア=イオシスの戦い。
レキに倣った双短剣と、レキを手本にした無詠唱魔術を扱う、素早さに優れるフラン。
槍のイオシスの二つ名を持つ武人ニアデル=イオシスを父に持ち、自身も槍を得意とするルミニア=イオシス。
幼い頃から活発で、レキが王宮に来てからはその元気を鍛錬にも向けてきたフラン。
レキやフランに負けじと魔術も習い、何より戦略に優れるルミニア。
仕えるべき主君とその臣下、幼い頃からの親友同士。
二人の戦いは、そんな間柄の一切を無視した全力での戦いだった。
「うにゃあ!!」
「甘いですフラン様っ!!」
背の低さを活かし、地を這うように攻め立てるフランに対し、ルミニアは槍を駆使しフランの行動を阻害する。
「ルミの方こそっ!!
やあっ!!」
「はあっ!!」
フランの眼前に突き立てられた槍の切っ先。
その目前で飛び上がったフランが、ルミニア目掛け空中で魔術を放つ。
入学前から習得していた無詠唱魔術。
今ではレキの様に掛け声一つで放つ事が出来るようになった。
それはルミニアも同じ。
フランを支える為、そしてレキの隣に立つ為努力してきたルミニアもまた、無詠唱魔術をフランと同等に扱える。
更にはその頭脳を活かし、フランの放つ魔術を一瞬で読み解き、対抗する魔術で相殺して見せた。
「うにゃあっ!!」
「やあっ!!」
親友であるルミニアの強さも賢さも誰より知っている。
空中で爆ぜた互いの魔術を隠れ蓑に、着地と同時にフランは再びルミニアへと切りかかる。
槍を回転させ、石突でフランの双短剣を受け止めたルミニアが、絡めとるように槍を回転させ、更にはフランへと叩きつけた。
「ふにゃっ!」
「そこですっ!!」
「あ、甘いのじゃっ!!!」
武舞台に叩きつけられる直前、とっさに手を着き横へと逃れたフランにルミニアが追撃をかけた。
ルミニアの槍が迫る直前、体勢を崩しながらもフランが手をかざし、牽制の魔術を放つ。
「っと、流石フラン様」
「ふふん、ルミには負けんのじゃ」
『おお~!!』
強制的に距離を取らされ、ルミニアが呼吸を整える。
試合は仕切り直し、両者体勢を整えつつ、その顔には笑みが浮かんでいた。
開始早々思わぬ熱戦に、試合を見ていた者達からも大歓声が上がった。




