第499話:二回戦までの経過
毎日更新:17/18
「それが出来るなら魔術ももう少し上達してもおかしくないと思うんだけどね」
「うっせぇ」
武具に魔力ではなく魔術そのものを纏わせると言うのは、口で言うほど簡単なものでは無い。
土ならまだしも、火はそのままならいずれ消えるし、水なら地に落ちる。
風などはそのまま霧散するかしかない。
木剣などに燃え移らせる事なく、剣の表面で火を発生し続けるには、相応の魔力を込め続ける必要があるのだ。
剣から飛ばさぬ様、その場に留め続ける。
普通の人ならやろうと思ってもなかなか出来る事では無い。
もっとも、普通ならとどめず相手に飛ばすだろうが。
剣に魔術を纏わせる事による効果は様々だが、土なら武具の防御力を上げたり重量の増加に伴う威力の増加。
水は主に赤系統の魔術に対抗する為、風は斬撃の鋭さや速度を上げる事が出来る。
そして赤は、切りつけると同時に燃やす事が出来る。
もちろんカルクにユーリを燃やそうとする意思はなく、今回は単純にユーリの放った魔術を切り裂く為に纏わせたのだ。
物理的な威力を持つ黄系統なら、魔術を纏わせずとも破壊する事が出来る。
だが、赤系統なら下手に切りつければこちらにも相応のダメージが及ぶだろうし、青系統の魔術はどれだけ切りつけてもすぐ元に戻ってしまう。
緑系統に至っては、ただ切りつけるだけでは何も効果はない。
魔術を纏わせ切りつける事で、相手の魔術をこちらの魔術で相殺するのと同じ事が出来るのだ。
魔術が不得手なカルクでも、これなら相手の魔術を切り裂くと同時に霧散させる事が出来るのである。
「放出系の相性が悪いのかね」
「わっかんねぇ」
身体に魔力を巡らせ強化するのが身体強化。
その延長に、身にまとう武具にも魔力を流し強化すると言う技術がある。
カルクのそれは、魔力ではなく魔術を纏わせ更なる威力の上昇を狙ったものであり、ある意味身体強化の延長にある技術と言えるかも知れない。
身体強化をより攻撃面に振った、と言い換えても良いだろう。
切ると同時に火のダメージも与える、何ならそのまま燃やす事だって出来るはず。
それでも剣に魔術を纏わせているだけであり、放つ事が出来ない以上近づかなければ意味はない。
ガージュと共に無詠唱へと至ったユーリなら、遠距離から一方的に攻める事も出来るだろう。
とは言えカルクなら、ユーリの魔術をその魔術剣で切り裂きながら強引に突っ込んでくるだろうが。
結局、カルクを相手にするならユーリも接近するしかないと言う事。
カルクの魔術剣は脅威だが、切られなければ何の問題も無い。
直接切り結べばさすがにこちらも熱いだろうが、使い手のカルクほどではないだろう。
ユーリだって身体強化をしている。
魔術に対する抵抗値を高めると同時に、熱などの耐性も上がっている。
故に、ユーリはいつも通り魔術で牽制しつつ接近し、カルクに剣で挑んだ。
レキ達ほどではなくとも至近距離から魔術を放つユーリに、カルクは魔術を纏わせた剣で応戦し続けた。
結果。
「や、やべぇ・・・魔力が」
常に剣に火を纏わせると言うのはつまり、常に魔術を発動させている様なもの。
要するに魔力を消費し続けているという事でもある。
ただでさえ身体強化で魔力を消費し続けていると言うのに、ここへきて魔術剣まで使い続ければどうなるかなど、魔力を使う事に慣れている者なら誰でも分かるだろう。
カルクとユーリの得意系統も関係していた。
カルクが得意とするのは赤系統、火属性。
対するユーリは青と緑、水属性と風属性の魔術を扱う事が出来る。
魔術の相性として赤は緑に強く青に弱い。
同じ威力なら、赤系統の火属性魔術は青系統の水属性魔術に打ち消されてしまうのだ。
剣に纏わせているとはいえカルクが扱えるのは初級魔術程度、ユーリなら苦も無く打ち消せてしまう。
緑系統の魔術で牽制しつつ、青系統の魔術を確実に当てる。
カルクに当てる必要は無く、剣で防いでもらえればそれで良い。
ユーリの青系統魔術なら、カルクが剣に纏わせた火を消す事が出来るから。
カルクとてそんな事は百も承知。
だが、現時点でユーリの魔術に対抗する術は、カルクが苦労して編み出したこの魔術剣しかなかった。
ユーリの放つ魔術を何度も切り裂き、その度纏わせた魔術が弱くなっていく。
消えてしまえばユーリの放つ魔術に対抗する術はなく、接近しようにもユーリの魔術の前ではなかなか近づけない。
結果、カルクは魔力枯渇に陥りその場に膝をつく結果となった。
言い方は悪いがカルクの自爆である。
「悪いけどこれで終わりだよ」
「くっそ・・・」
青ブロック、三回戦第二試合はユーリが勝利した。
――――――――――
黄ブロック三回戦は最上位クラス二番手、フラン=イオニアの出番である。
対するは中位クラス五番手のサラ。
「フラン、頑張って~
サラも頑張れ~」
昨年の武闘祭での対決以降仲良くなったサラと、学園に来る前からの親友であるフラン。
どちらも応援したいユミは、素直にどちらも応援する事にした。
「うむ、わらわの試合を見てるが良い!」
「ま、負けませんっ!」
なお、ユミを通じてフランとサラも仲良くなっている。
縁も無く、本来なら近づく事すら叶わなかっただろう王族のフランと平民のサラ。
生まれも育ちも違う二人は、学園と言う特殊な環境の下、ユミと言う共通の友人を介して交流を結び、そして仲良くなったのだ。
ユミも平民。
それでもフランやルミニアと仲が良い事が、サラを始めとした多くの生徒と、身分を問わず友誼を結ぶ手助けになっていた。
レキも平民だが、彼はフランを救った功績により王家の庇護下に入っている為少々事情が異なる。
純粋な平民であるユミだからこそ、皆の懸け橋となったのだ。
「それまで、勝者フラン=イオニア」
なお、試合はフランが勝利した。
――――――――――
緑ブロック。
こちらは下位クラス七番手とミームの試合である。
この試合に関して語る事はほとんどない。
クラスにおける実力差もあるが、何よりミームは昨年の準優勝者にして今年の優勝候補の一人。
レキと言う絶対に勝てないであろう存在がいるにもかかわらず優勝候補と言うのもどうかと思うが、万が一にも勝てる可能性があるかも知れない一人なのだ。
そんなミームに勝てる者などそうはいない。
「勝者、ミーム=ギ」
試合は一瞬で終わった。
どんな相手だろうと全力で戦うミーム相手に、あわれ下位クラスの生徒は何もできずに敗北してしまったのだった。
――――――――――
各ブロック三回戦までが終了し、残すはブロック決勝。
そして、各ブロックを勝ち抜いた者達による準決勝と決勝を経て、今年の学年代表が選ばれる。
最上位クラスが一人もいないと言う偶然により、逆に激戦となった赤ブロック。
結果的には次に強い上位クラスの実力が浮き彫りになったと言える。
最上位クラスの影に隠れ、目立たないが、上位クラスの生徒もその実力を着実に伸ばしているのだ。
先の野外演習で醜態を見せた分、張り切っている生徒も多かった。
赤ブロック決勝、戦うのは上位クラス一番手ミル=サーラと、同じく上位クラス五番手シーラル=レイザ。
青ブロックは昨年度優勝者のレキが相変わらず快進撃を見せる中、ブロックのもう片方ではレキと同じ最上位クラスの二名がやはりその実力を見せつけた。
そして、最終的に勝ち抜いたユーリ=サルクトが、準決勝進出をかけ一足先にレキへと挑む。
黄ブロック。
昨年の準決勝でレキに負けたルミニア=イオシスが、同じ最上位クラスのユミ、ガージュ=デイルガを下しブロックの決勝へと勝ち進んだ。
同じく勝ち抜いたフラン=イオニアと、やはり準決勝進出をかけて戦う。
主従関係であると同時に親友でもある二人はだが、試合となれば一切の遠慮なく全力でぶつかり合う。
緑ブロックは昨年度準優勝したミーム=ギが昨年の雪辱を晴らすべく、全ての試合を全力で戦いブロックの決勝へと進んだ。
相性の悪いファラスアルムの無詠唱魔術を強引に打ち破り、苦戦しつつも勝ち残ったミームに挑むのは、今年最上位クラスへと編入したルーシャ=イラー。
ライカウン教国で学んだ知識と魔術、編入してから身に付けた武術でミーム=ギに挑む。
残す試合もあと少し。
二年生の武闘祭は、その熱気をますます増していく。




