第498話:カルクの切り札
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続く二戦目。
赤ブロックは上位クラスのシーラル=レイザが中位クラス六番手を下しブロック決勝へと駒を進める。
注目すべきは青ブロック。
レキとの対決を賭けた青ブロックの準決勝第二試合は最上位クラス同士の戦い。
最上位クラス五番手のユーリ=サルクトと同じく最上位クラス六番手のカルク。
どちらも最上位クラスの男子。
昨年に引き続き、今回の武闘祭でも同じチームで戦う仲間。
入学してからの付き合いではあるが、既に親友と言って過言ではない。
冒険者になる為、故郷の村を出てフロイオニア学園へとやってきたカルク。
冒険者に習った剣の腕前は村一番。
入学試験でもその実力を認められ、平民でありながら見事最上位クラス入りを果たすものの、そこにはレキを筆頭に自分より強い者達で溢れていた。
一応、男子の中ではレキに次ぐ実力を持っているが、クラス全体なら六位。
魔術が苦手な分、総合的な戦闘力ではユーリの方が上だったりもする。
それでも前向きな性格は、相手が誰であろうと決して怯む事は無い。
対するユーリはサルクト子爵家の三男として生まれた、家を継ぐ必要のない身軽な身分である。
最初の頃は貴族の家に生まれた事と、にもかかわらず家を継げない事に対する葛藤が確かにあった。
だが、レキやカルク達と共に過ごすうち、その事に対するわだかまりはすっかり消え去った。
最初は冗談半分だった冒険者という夢も、最近では真面目に目指すようになった。
二人の兄からそれぞれ教わった剣術と魔術、それらを合わせた戦いはユーリの性格も合わさり学年一柔軟かつ応用力に長けている。
「お手柔らかに頼むよ」
「へっ、言ってろ」
いつものように気軽なユーリに、カルクも笑顔を返す。
今のやり取りも散々繰り返してきた事。
いざ試合が始まれば、お互い遠慮抜きの全力でぶつかってきた。
親友だからこそ、二人はいつも全力で競い合ってきたのだ。
同じ冒険者を目指す者同士。
遠慮も手加減も必要ない。
決勝には、二人の親友にして目指すべき頂点に君臨する英雄、レキが待っている。
「悪いけど勝たせてもらうよ」
「そりゃこっちの台詞だぜっ!」
「始めっ!」
最上位クラスの生徒は、誰もが他クラスの生徒より頭一つ抜きんでていると言って良い。
編入したばかりのルーシャですら、他クラスの生徒にはそうやすやすとは負けない実力を身に付けているくらいなのだ。
ましてやこの二人、カルクもユーリも入学当初から何度もレキと手合わせを重ねてきた。
強者と戦う事で得られる経験値。
それが二人の実力を上げているのだ。
「おりゃ!」
「はっ!」
武舞台の真ん中、カルクとユーリが初手からぶつかった。
お互い最初から全力
遠慮も手加減も無く真正面から。
お互いの戦い方など嫌と言うほど理解している。
小細工など不要。
カルクもユーリも、持てる全ての力をただぶつけるのみだ。
「はっ!」
ユーリも研鑽を重ねてきた。
剣技はカルクやレキと共に、魔術だってレキやガージュと。
その結果、ユーリの実力は入学した時とは比べ物にならないほどに向上した。
特に魔術は、レキ達に教えを乞い、ガージュと共に研鑽を重ね、ついには無詠唱に至った。
「うおぉ~りゃ!!」
至近距離から放たれる魔術。
それをカルクが剣で切り裂いた。
魔術が不得手なカルクはしかし、それを気にしたことはあまりない。
使えた方が何かと便利だとは思うが、苦手なのだから仕方ないとある意味割り切っていた。
魔術が使えないならその分剣を鍛えればいい、そう考えていたのだ。
レキ達の無詠唱魔術は確かに凄いが、それに頼らずとも勝てればいいと。
みんなが武術と魔術、その両方の鍛錬に励んでいる中、カルクは剣に力を入れてきた。
多少は魔術も鍛錬したが、他の、特にファラスアルムなどに比べればその入れ具合は遥かに低かった。
今更魔術を身に付けたところで勝てるとは思えず、追いつけるとも思っていない。
だからこそ、得意な剣を更に磨こうと思ったのだ。
入学して以降、カルクはカルクなりに一生懸命頑張ってきたつもりだ。
得意の剣の腕だって村にいた頃とは比べ物にならないほどに。
だが、周りのみんなはそんなカルクより更に強くなった。
元より強いレキは、学園に来てから様々な生徒との手合わせを経て更にその腕を上げた。
フランやルミニア、ミームもまた、入学前より力を付けている。
入学時点ではカルクより下だったユミも、武器を持ち変えて以降その実力を更に伸ばし、気が付けばカルクより強くなっていた。
レキ、フラン、ルミニア、ユミの四人は無詠唱魔術まで扱える。
武術だけでも勝てないと言うのに、四人には魔術もあるのだ。
ファラスアルムまでもが無詠唱魔術を習得し、その実力を飛躍的に伸ばした。
魔術有りの戦いでは、ファラスアルムにすら負ける事が多くなった。
今はまだ勝ち越しているが、いずれは・・・。
いよいよもって、カルクは自分の実力に限界を感じ始めていた。
魔術が使えるに越した事は無い。
そんな事は言われるまでも無く分かっている。
赤系統なら火を、青系統なら水を生み出す事が出来る。
風を操る緑系統は、攻撃のみならず索敵にも使えるし、黄系統なら物理的な壁を生み出し盾とする事が出来る。
いずれも将来、冒険者になった時に有利だろう。
不得手とは言えカルクも一応は魔術が使える。
村にいた頃、便利だからと教わった基本魔術エド。
手の平に火を生み出し明かりや種火とする魔術であり、魔力さえあれば誰でも使える赤系統の基本魔術だ。
普通はそこから更に研鑽を重ね、初級、中級、そして上級へと至るのだが、カルクが使えるのはまだ初級のみ。
試合で使えるほどでは無く、使えばただ隙を晒すだけ。
その分剣の腕を磨けば良い、そう思っていた。
ガドと共に前衛を任され、ただがむしゃらに剣を振るった。
ガドが抜け、カルクの負担が増え、更に剣を振るった。
それでいい、そう思っていた。
――――――――――
「まだまだっ!」
「ふっ、それでこそカルクだっ!
はあっ!」
風は不可視である。
だが、魔術で生み出された風は確かに存在する。
その風めがけて剣を振るえば、当たらずとも霧散させる事が出来る。
レキに教わり、必死になって身に付けた技の一つだった。
「出し惜しみは無しだぜっ!!」
周りに置いて行かれぬ様必死に努力したファラスアルムは、その努力が実り無詠唱魔術に至った。
落ちこぼれと称され、逃げるように他国の学園に来た彼女も、今では最上位クラスでも上位の実力者だ。
そんなファラスアルムに負けじと、ガージュやユーリも魔術の研鑽に力を入れている。
カルクだって一応は魔術の授業は真面目に受けている。
初級魔術しか使えないとは言え威力も上がったし、詠唱速度も少しは速くなった。
残念ながら試合で使えるほどでは無いし、他クラスの生徒が相手ならともかくレキ達には通じないだろう。
そもそもカルクの魔術などけん制程度にしか使えないのだ。
不得手と言うのもあるが、カルクの村にいた冒険者だって剣技のみで戦っていた。
そして、カルクが目標としているレキもまた、どちらかと言えば剣を主体に戦っている。
魔術は使えればいいな程度で、冒険にも役に立つからと覚えただけ。
理想はあくまで剣のみで圧倒する事。
だから、これ以上魔術を覚えるつもりは無かった。
「レキに教えてもらったからなっ!」
「ああ、あれだね。
レキがゴブリンの群れを剣で切り裂いたって」
「そうそう、それだ」
レキの戦いはカルクの理想そのもの。
特に、昨年の武闘祭本戦で見せたレキの戦い。
フラン達のチームを負かした四年生チーム、その代表選手であるティグ=ギを打ちのめしたレキの剣。
双剣を巧みに操り圧倒したレキの姿は、カルクの目指す理想の剣士そのものだった。
剣だけでも圧倒出来る。
カルクが武術に更に力を入れたのは、憧れの姿を目の当たりにしたから。
剣だけでも勝てる事を、友人であるレキが証明してくれた。
そんなレキに追いつこうと、カルクは今日までずっと剣を振ってきた。
――――――――――
もちろん今のカルクにレキと同じことが出来るはずもなく、それは誰に言われるまでもない事。
剣だけで圧倒するには圧倒出来るだけの実力が必要である。
昨年の武闘祭、レキは本戦でもほとんど身体強化をしていなかったと言う。
にもかかわらず上級生をも圧倒したレキは、つまり剣技のみで戦っていたようなもの。
カルクとは実力差があり過ぎた。
このまま鍛錬を続けていけば、剣の技術だけなら追いつけるかもしれない。
身体能力だって、追いつけないまでも今より向上はするだろう。
だが、カルクが強くなればレキだって強くなる。
今のまま鍛錬を続けても、もしかしたら一生レキには追いつけないかも知れない。
昨年の武闘祭、個人戦でレキに負け、チーム戦でもあまり活躍できなかったカルク。
今年もまたレキと同じブロックになり、更にはチーム戦でもレキと別のチームとなった。
レキと戦うのは楽しい。
だが、負けて良いなどとは一度も思った事は無い。
相手が誰であろうと、常に勝つつもりで全力で戦ってきた。
そうでなければ相手にも失礼だからだ。
今のままで勝てないのであれば、勝てるよう頑張らなければならない。
身体能力で勝てず、身体強化したところでその差を埋めるまでは行かない。
身体強化していないレキに、今のカルクでは全力で身体強化しても届かないのだ。
かと言って剣や身体強化以外、つまりは魔術に頼ろうとも・・・詠唱有りの初級魔術しか使えない今のカルクでは焼け石に水、それどころか詠唱の隙を晒すだけ。
そもそも剣技だって、村にいた冒険者に習っただけのほぼ我流のカルクと、他国にもその名を知られている剣姫ミリスに習ったレキとでは雲泥の差がある。
身体能力で勝てず、魔術で勝てず、剣で勝てず。
それでも諦めないカルクが、考えて考えて考え抜いた結果・・・たどり着いたとある戦い方。
以前、レキは剣の一振りでゴブリンの群れを一掃したと言う。
それは純粋な剣技などではなく、覚えたての魔術を無意識に剣に纏わせ振るった結果だった。
ミームもまた、小手を体の一部とし、身体強化の魔力を小手にも纏わせ魔術を撃ち破っている。
そして親友である山人のガドは、黄系統の魔術で武具に干渉すると言う鍛冶技術を教えてくれた。
それらを総合した結果、カルクは己の武器に魔術を纏わせるに至ったのだ。
「しっかしそれ、熱くないのかい?」
「おう、意外と平気だ」
カルクが適性を持つ赤系統の魔術を用い、刀身に火を纏わせる。
通常、魔術は指先や手の平、あるいは杖などの先端から発動する。
指や腕、杖全体から発動させる事は無い。
いうまでも無く火傷などで己にもダメージがいくからだ。
レキの様に風を纏わせたなら自傷する事は無いだろう。
ミームやガドの様に魔力で干渉すればそもそもダメージなど無い。
だが、赤系統しか使えず、魔力の扱いにもあまり自信がなく、何より魔力を纏わせただけでは魔術に対抗する事が出来ない為、あれこれ考えた結果生み出した技術。
これなら相手の魔術に対抗できる。
魔術を直接ぶつけるのと同じ。
違うのは相手に向けて飛ばさない事だけ。
あとはまぁ、少しばかり熱い事くらいだ。
それだって火を纏わせた結果であり、その分攻撃力を高める事になっている。
カルクが苦心の末に編み出した技。
それは・・・。
「魔術剣だぜっ!」




