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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第49話:レキの力

誤字報告感謝です。

それは最初、黒い点でしか無かった。

時間が経つにつれ、黒い点は次第に近づき、その数を増やしていき、やがて黒い波となった。


それは騎士団のように統率されてはいなかった。

一匹一匹がギャーギャーと騒ぎながら、跳び跳ねる様に村へと近づいてきた。


まるでおもちゃの山を見つけた子供のように、我先にと飛び跳ねながら近づいてくる黒い点。

それは、ゴブリンと呼ばれる魔物の群れだった。


「ゴ、ゴブリンだ~!」

「来た、本当に来たっ!」

「お母さん~」

「聖霊様~」


ゴブリンが目視出来る距離まで迫り、それまで黙って見ていた村人達に恐怖が訪れた。

日々をただ平和に暮らしていた村人にとって、魔物と言う存在は脅威であると同時に、どこか別の世界の話でもあったのだ。


それが今まさに自分達を滅ぼさんと迫ってくる。

目を向ければ、村を滅ぼすであろう黒い波が押し寄せてくるのが見えた。

恐怖に目を閉じたところで、ギャーギャーと言う耳障りな声が聞こえてきた。

あと一時間もしない内に、あの波はこの村を飲み込むだろう。

苦痛と怨嗟の悲鳴を上げながら死んでいく自分達の声が村中に響き渡り、やがて全てが滅ぶのだ。


親しい人が目の前で食われていくのを見ながら、自分もまた生きたまま食われていく。

抗うすべを持たず、逃げ出す事すら出来ない村人達は、一時間後にはそうして消えていくのだろう。


昨日までの、多少辛くとも穏やかで平和な日々。

それが終わろうとしている。

いつか聞いた英雄譚の、その前章に記される魔物に滅ぼされた村の話。

それが今日、自分達の村で再現されるのだ。


村の入口付近でひとかたまりとなった村人達は、ただ恐怖に震える事しか出来ないでいた。

もちろん村の子供であるユミも、母親の腕にしがみついて恐怖に怯えていた。

実際に襲われた経験がある分、その時の恐怖を思い出し、ユミは他の村人達以上の恐怖に襲われていた。


そんな村人達の中には、レキ達一行の非戦闘員であるフランとリーニャもいる。

村人達と同様、迫り来るゴブリンの群れに対し何も出来ないはずのフランとリーニャだが、村人達とは違いとても呑気に構えていた。


「のうリーニャ、本当に風呂に入らねばならんのか?」

「エラスの街を出てから入ってないんですよ?

 レキ君だって入ると言ってますし、フラン一人だけ入らないつもりですか?」

「むぅ~」


既に一匹一匹の顔すら目視出来そうな程に迫っているゴブリンの群れを前に、フランとリーニャは終わった後の風呂について話し合っていた。

他の村人達は、あまりの恐怖に現実から目を逸らしたのだろうと考えた。

いっそ自分達も、などと羨む者すら出る始末。


多少なりともフランとリーニャを知るユミだけは、フラン達のその言動を正しく理解していた。

理解し、そして希望を見出した。

もしかしたら自分達は助かるのかもしれない。

だって自分は助けてもらったのだから。


森の奥、ゴブリン達に追われていたユミ。

もうダメだと思ったその時、自分の前に現れたのは・・・。


村の入口の前、自分達を庇うような位置に立つ少年をユミは見る。


「うわ~、たくさんいるね」

「うむ、これは五十匹どころか百匹近くいるな」

「問題ない。

 たかがゴブリン。

 私とミリスだけでもなんとかなる」

「いや、流石に少しきついかもな・・・」


迫り来るゴブリンの群れ。

そんなゴブリンと村の間に立つレキ達。

もうすぐゴブリンの群れがやってくるというのに、緊張するそぶりすらなかった。


「ミリスもフィルもゴブリン倒した事あるの?」

「当然」

「ゴブリンの群れの討伐は騎士団の仕事でもあるからな」

「そうなの?」

「ああ。

 ゴブリンは数にもよるがなかなか厄介な魔物だからな。

 放っておけば村や街にも被害が出るんだ」

「増えすぎたゴブリンは冒険者の手に余る。

 よって私達騎士団が派遣される」

「へ~」

「群れを相手にする場合、まず最初に魔術士団が大規模な魔術を放ち、群れの大多数を仕留める。

 その後騎士団が個別に撃破する」

「今回のレキと同じだな」

「そっか」

「ということでレキ、そろそろ」

「うん!」


ユミや村人、そしてフランやリーニャが見守る中、迫り来るゴブリン達に対し、レキが両手の剣を構えた。

魔術を放つ構えではないが、杖を持たないレキは剣の刃を飛ばすイメージを脳裏に描く。


両足を広げ、腰をしっかり落とし、両手を剣を胸の前で交差する。


「えいっ!」


掛け声と共に、レキが両手を振るった。

レキの剣から不可視の刃放たれ、ゴブリンの群れへと飛んでいく。


「ギャッ!」

「ブギャルァ!」

「ゴギャア!」


聞こえてきたのはゴブリン達の悲鳴。

先程まで聞こえてきた歓喜の声ではなく、それは村人達が上げるはずだった断末魔の悲鳴だった。

レキの放った風の刃がゴブリンの群れを切り裂いていく。

先程まで飛び跳ねながら迫っていた黒い波は、風の刃が通り抜けた後、その高さを半分にして崩れていった。


あとに残ったのはゴブリンだった物の残骸。

百匹近くいたゴブリンの群れは、レキの放った風の刃によって百匹近いゴブリンの死体となった。


「「「・・・」」」

「お~、やはりレキは凄いのじゃ!」

「ええ、相変わらず凄いですね、レキ君は」


村の入り口付近からフランとリーニャのレキを褒める声が聞こえてくる。

言い換えれば、フランとリーニャしか声を発していなかった。


「討ち漏らしは?」

「無さそうだな」


レキのすぐ後ろ、ミリスとフィルニイリスが油断なく冷静に戦況の確認をする。


念の為にと待機してはいたが、おそらくはこうなるだろうと思っていた。

初級魔術の中でも、殺傷力の低いけん制に用いる魔術で悪漢を押し流したレキである。

同じ初級魔術とは言え、比較的殺傷力の高い魔術を放てば、群れの大半は倒してしまうだろうと。

実際は大半どころか一発で殲滅してしまったのだが。


大切なのは村を守る事。

目的を考えたなら、レキの魔術はこれ以上なく達成した事になる。

ならば何も問題は無い。

そうミリスとフィルニイリスは判断した。


「レキお疲れ」

「うん!」

「殲滅するとは思わなかったが、結果的には大成功だな」

「へへ~」

「レキのおかげで村には欠片も被害は無い。

 周囲の森も無事。

 大成功」


「わらわ達もレキをねぎらうのじゃ!

 ゆくぞリーニャ!」

「あっ、待ちなさいフラン・・・もうっ」


そろってレキをねぎらうミリスとフィルニイリス。

そこにフランがリーニャを伴って参戦する。

いつもの光景、いつものやり取り。

先ほどまでの絶望はどこへやら。

村の入口で、レキ達五人の和やかな会話が続いた。


「・・・何が起きたんだ?」

「わ、わからねぇ。

 あの小僧がなんかしたみてぇだけど・・・」

「ゴブリンは?

 ねぇ、ゴブリンはどうしたの?」

「あぁ、聖霊様・・・」


反面、事態をつかめない村人達はただ唖然としていた。

村を襲おうとしていたゴブリンの群れ。

百匹程もいた魔物が、どこからともなく現れた子供の手によって全滅した。

まるで御伽話の英雄譚のような光景に、村人達は歓喜よりも驚きが優っていた。


「す、すごい!

 レキ凄い!

 ねえ、お母さん!!」

「え、ええ。

 本当に・・・」


ただ一人、レキの強さを知っているユミだけが、母親の手を握りながらフラン達同様はしゃいでいた。


――――――――――


「依頼は果たした」

「は、はい」

「約束道り、食料と馬の世話、それと風呂の用意を」

「は、はい。

 分かりました」

「それと、ゴブリンの後始末もお願い」

「あ、後始末と言いますと?」

「・・・あれだ」

「・・・あれ、ですか」


ゴブリンの殲滅が完了し、村の危機が去った後、ミリスとフィルニイリスは村長とその後について話し合っていた。

レキの凄まじい力を見せつけられたせいか、話は揉める事無く進んでいる。

元より要求した対価が少ないと言うのもあるのだろう。

ゴブリンの死体の処理について話した時になんとも言えない表情を見せたくらいで、特に何事もなく話は終わった。


「凄かったね!」

「うむ、さすがレキじゃな」

「へへ~」

「ねぇ、どうやったの?」

「えっとね、こう剣を構えて」

「うん」

「ふむふむ」

「魔力を込めて、えいっ!って」

「へ~」

「おぉ~」


一方、今回の英雄であるレキは、ようやくレキの戦いを間近で見る事が出来たフランと、自分と村を救ってもらったユミからこれ以上ないほどの称賛を受けていた。

レキとしてはフィルニイリスに言われた通り魔術を放っただけ。

あの一撃にそれほどの威力があるとは、放った本人も思っていなかった。

魔術を使わずともゴブリンの百匹程度どうとでもなるが、褒められて嬉しい事に変わりはない。


そんなレキ達を遠目に見る村人達の顔には・・・尊敬というより畏敬、もっと言えば畏怖の感情が浮かんでいた。


村の危機は去った。


集まっていた村人達も解散し、レキ達は約束道り用意してもらった風呂に入った。

折角だからとユミも巻き込んだ風呂。

唯一の功労者であるレキも皆と一緒に入り、順に背中を洗ってもらったりもした。

まだ幼いからか、あるいは両親と一緒に入った頃を思い出していたのか、恥ずかしいという感情は無かったらしい。


その後、夜中に起こされ、ゴブリンを撃退するまで起きていた為か、レキとフラン、そしてユミの三人は風呂から出てすぐ寝てしまった。

お子様三人の寝姿を横目に、ミリスとフィルニイリスが明日以降の予定について改めて話し合う中、リーニャは一人食事の材料が積んである馬車へと向かっていた。

本来なら明日(日付的には既に今日だが)食事を取った後は次の街へ向かう予定だったのだが、ゴブリンの襲撃という不測の事態が起きた為、予定を一日ずらす事にしたのだ。


そこまで急ぐ旅ではないが、長居するわけにもいかない。

あれほどのゴブリンの群れを一人の犠牲もなく殲滅したとあっては、領主から事情聴取が行われるだろう。

その時にレキ達がいれば、間違いなく素性を聞かれる。

領主との話し合いで身分を偽るわけにもいかない。

つまり、あまり長居をしてしまえばフランの身分を明かす必要が出てくるのだ。


とはいえ、明日中に村を出れば問題は無いだろう。

再びお世話になる事となったユミ達の為、リーニャは追加の食材を取りに来たのである。


馬車が置いてある村長の家では、案の定村人達の話し合いがもたれていた。

漏れ聞こえてきた声・・・その声を聞いたリーニャが、深く嘆息した。


「只今戻りました」

「お帰り」

「村の様子はどうだ?」

「そうですね・・・やはり早めに出立した方が良さそうですね」

「そうか・・・」

「予想はしていた。

 これも仕方ない」

「ああ、そうだな」


リーニャが聞いた声とは・・・レキの力に対する畏怖や恐怖の声だった。


"素性の知れない子供"が"信じられない力"を使って、"襲ってきたゴブリンの群れを一匹残らす殲滅した"。


- あれほどの力を持つ子供がただの子供のはずが無い。


- そもそも何故あれほどの数のゴブリンがこの村を襲うのだ?


- 聞けば森の奥でユミが襲われたそうじゃないか。

- それをあの子供が助けたということだが、じゃああのゴブリンどもはその報復に来たんじゃないだろうな?

- だったら村が襲われたのはあの子供の所為ってことでは?


- そもそも森にあれほどのゴブリンの群れがいる事自体おかしいんだ。

- 本当は森ではなく別の場所から連れてきたんじゃないか?

- ゴブリンの群れが来たのもあの子供達が来たすぐ後じゃないか。

- やはりこの襲撃はあの子供が仕組んだに違いない。


と言った具合である。


人は自分の信じたい事を信じると言う。

同時に、人は信じたくない事からは目を逸らすのだろう。


ゴブリンの恐怖から目を逸らした村人達は、それを一撃で殲滅したレキの力からも目を逸らした。

レキという英雄の存在を自分達の理解の及ばぬ化物として扱い、今回の襲撃の原因としてしまったのだ。


「フィルニイリス様はともかく、ミリス様までその反応ですか?」

「そういった経験は無くもないからな」

「村を救っても失われた命は戻らない。

 親しい人を亡くした者は、その原因を他に求めたがる」

「何故もっと早く助けに来てくれなかったんだ・・・と言う言葉は何度も聞いてるからな」

「そう、ですか」


苦笑気味に語るミリス。

魔物や野盗による大規模な襲撃に対して、街や村、あるいは冒険者ギルドからの要請で騎士団が赴くケースがある。

要請が出るという事は自分達では解決できないと言う事であり、駆け付けた時点で少なからず被害が出ている場合が多い。

間に合わないケースも、いくらかあった。


生き残った人達から向けられるのは非難や侮蔑、怨嗟の声。

もちろん敬意や感謝の声もある。

間に合ったケースやどうしようも無いと分かっている人からは、正しく感謝される事もあった。


だが、それはどうしても少数であり、大多数の人は自分達の受けた理不尽に対する八つ当たりじみた声をぶつけてくるのだ。

何故私が、どうして私の家族が、私達が何をしたというのか。

そういった声は自分以外の者に対して向けられ、最終的には駆けつけた騎士団にぶつけられる。


「まぁ、慣れているさ」

「戦う力を持たない者は、抗うこと無く死んでいく。

 生き残った者達は、目の前の理不尽を受け入れることが出来ず、ただ悲しむことしか出来ない。

 そして、自分の心を守る為に他者を攻撃する」

「彼らの言うことも一理あるわけだしな」

「そんなことは・・・」


ミリスの言葉は、まるで全てを救う事を諦めたかのようだった。

だが、ミリスをよく知るリーニャはそれが違う事を知っている。

ミリスは決して全てを救う事を諦めたわけではない。

だからこそ助けられなかった人達の言葉を受け止め、次へ繋ごうとしているのだ。


だがそれも、ミリスやフィルニイリスの様な強さがあってこそ。

大抵の人は魔物に抗う力を持たず、ただ理不尽に殺されていくしかない。

残された者は、自分達の力不足を嘆くのではなく、襲ってきた魔物を恨み、救ってくれなかった者を恨むのである。


だが、カランの村は全てが救われている。

村人はおろか建物にすら被害はなく、あるのは精々カランの村とエラスの街を繋ぐ街道に大量のゴブリンの死体が放置されている事くらい。

それですら村人達だけで十分対処できる事であり、村人はなんの犠牲を出す事無く救われているのだ。

にも関わらず、村人達はレキに感謝する事をせず、むしろレキこそが原因だと責めようとすらしていた。

自分達が受けた恐怖、目の当たりにした現実、それを認める事が出来ないという、ただそれだけの理由で。


「私やミリスが戦っていれば違った」


ミリスはフロイオニア王国騎士団の小隊長を務める程の力量を持つ剣士であり、フィルニイリスに至っては宮廷魔術士長である。

レキに比べればその力は劣るが、それでもゴブリン程度ならば苦戦する事なく仕留められるだろう。


なにより、その実力は村の人達からすれば十分理解できる範疇にある。


ミリスがゴブリンに近づき、手に持った剣で仕留める。

フィルニイリスが離れた位置から呪文を詠唱し、魔術を放つ。

それは正しく剣士と魔術士の戦いであり、村人達が理解できる戦いである。


村を襲うゴブリンの群れは、村に来た凄腕の剣士と魔術士によって撃退された。

多少の被害は出ても、それこそがこの村が正しく救われる形だったのだろう。


しかし、今回はレキが一人で、そして一撃で殲滅してしまった。

村人達からすれば、得体の知れない子供がただ剣を振っただけでゴブリンの群れが全滅したように見えたのだ。


誰ひとりとして理解できず、理解できないからこそ恐怖した。


人のなせる技ではないと、ゴブリン以上の化物だと、理解できないからこそ自分なりの言葉に当てはめた。


そして、ゴブリンの襲撃という理不尽と、迫り来るゴブリンに対する恐怖が重なり、レキという異常な存在を自分達から排除しようとするのだ。


「村の被害を最小限に抑える為にはレキが戦うのが一番だった」

「分かっている。

 分かってはいるが、その結果がコレではな」

「私達ならともかく、レキ君にそういう感情を向けられるのは、正直辛いものがありますね」


リーニャ達が何より許せないのは、レキだけが責められる事だろう。


純粋に村を助けたいと思ったからこそレキは戦ったのだ。

それは褒められこそすれ責められる話ではない。

にも関わらずこれでは・・・。

申し訳ないという気持ちが、リーニャ達の心に湧いてきた。


「今更どうもにならない。

 それに・・・」


そう言いながら、フィルニイリスは眠るレキ達に視線を向けた。

村人の感情も、それに対し頭を悩ますフィルニイリス達も知らず、幸せそうに眠るレキ。

その横には、レキに救われたフランとユミが、レキにしがみつくように眠っていた。


「レキに感謝してる者もいる」

「ええ、そうですね」


村を救った英雄レキ。

その事実を理解できない人々の、レキに対する感情。

リーニャ達は、それをレキに知られる前に村を出る事にした。

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