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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十五章:学園~二度目の武闘祭・予選 前編~
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第491話:一回戦開始!

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。


毎日更新:8/18

「二番、上位クラス所属、ヤンライ」

「おうっ!」

「三番、上位クラス所属、トーチェ」

「はいっ!」


予選は各ブロック同時に始まった。


赤ブロック一回戦、第一試合は上位クラス同士の戦いである。

ヤンライは昨年の武闘祭、チーム戦でライラ=イラのチームに所属していた男子生徒。

チームでは主に前衛を務めていた。


対するトーチェ。

こちらはミル=サーラのチームにて後衛を務めていた男子生徒だ。


同じクラスであり、授業などで競ってきた仲間。

武術の順位はヤンライが十番手でトーチェが九番手。

ほぼ互角な二人は、男子同士であり共に平民の出という事もあって行動を共にする事が多い。


「ふっふっふ。

 いよいよどちらが強いか決着をつける時が来たなっ!」

「いや、僕の方が順位は上だけど・・・」


近しい実力に似たような出身。

性格こそ違えど気の合う二人は、いつの間にか親友と言っても良い間柄となった。


「僕が勝ったらミル様のチームに入れるよう説得してくれ」

「ミル様のチームは前衛が多いから無理だと思うよ?」


お互いの役割もあり、所属チームが違う為時にライバルのような関係にもなる二人。

ミルやライ=ジ要する第一チームには後衛のトーチェが、ライラやシーラルといった後衛が充実している第二チームには前衛のヤンライが所属している。


「もうタムの考えにはついて行けないんだっ!」

「それは誰でも同じだと思う、うん」


貴族出の多い学園。

平民出身の二人は同じ悩みを抱える同士でもある。


「そ、そっちは女子ばかりじゃないかっ!

 替われっ!!」

「ライラ様もシーラル様も貴族だっ!

 僕がどうにか出来るはずないじゃないかっ!!」


レキやカルクと違い、性に対する意識もそれなりに育っているらしい。

もちろん女子に不埒な真似をするつもりは無く、そもそも出来るはずもないが。


「大体うちのクラスは女子が強すぎるんだ。

 もう少し男を立てるとか・・・」

「そ、そう言う事は言わない方が・・・」


この年代の子供は女子の方が成長が早く、それは精神面のみならず武術や魔術にも現れている。

最上位クラスでもレキを除けば女子の方が順位は上で、上位クラスもミルが一位。

文武どちらでも勝てない二人は、平民と言う事もあり若干肩身が狭かった。

流石に二年生ともなれば誰も出身など気にもしなくなるが、その分実力がものを言い始めた為ミル達に逆らえなくなっている。


もっとも、ミルを始め二年生の上位に位置する女子生徒は誰もが性格も良く、理不尽な命令などされた事は無い。

それでも女子に負けっぱなしでは男が廃る、と考えるのはこの年頃の男子特有なのだろう。


とは言えそれが出来るなら苦労はなく・・・。

家柄は当然、実力でも負けている以上どうする事も出来ないでいた。


「個人戦でいい成績を出せば・・・」

「うん、評価にもなるしね」


結局、今より上を目指すにはまずこの武闘祭を頑張らなければならないという事である。


「そろそろ良いか?

 では、始めっ!」


「いくぞトーチェ!」

「こい、ヤンライっ!」


親友と言っても過言ではない二人の戦いは、後衛でありながらも相手の性格や癖を見切ったトーチェに軍配が上がった。


――――――――――


青ブロックでもまた上位クラス同士の戦いが行われた。


上位クラス三番手のライ=ジと八番手ライラ=イラの戦い。


獣人の身体能力をフルに活かし特攻するライに対し、チームの指揮官で培ってきた判断力を活かし、距離を取りつつ応戦するライラ。

武術もそれなりに仕えるライラではあるが、流石に第一チームの前衛を担うライには敵わなかった。

性格には難があれど、ライとて上位クラスの三番手。

魔術を使わない(使えない)純粋な武術のみの実力で三番手に位置しているライに対し、武術と魔術、それに指揮能力の総合力で八番手に位置しているライラでは、一対一の戦いでは勝ち目が無かった。


それはライラ自身良く分かっている。

伊達に一年以上ライと同じクラスで過ごしていない。

ライの性格も戦い方も嫌と言うほど見てきた。

武術では勝ち目が無く、魔術と戦術を加えてもなお敵わない。


それでもライラは最後まで諦める事無く戦い続けた。

ここにはいない誰かに胸を張れるよう、最上位クラスの指揮官として大武闘祭で優勝した、心から慕う誰かの横に立てるように。


「へっ、あがくじゃねぇか」

「あ、当たり前です。

 私だって上位クラスなのですから」

「そうかよ・・・でも、てめぇは俺には勝てねぇ」

「そんなの、最後までやってみなければ・・・」


無様でもいいから、最後まで。


「それまでっ!

 勝者、ライ=ジ」


全力を尽くしたライラ。

負けた事は悔しかったが、それでも今の自分を出し切れたことに充実感はあった。


何より・・・。

彼女の試合を見ていたレキ達が、その奮戦模様をとある男子生徒に伝えてくれたらしい。

武闘祭終了後、ライラはとある男子生徒の胸で慰められたそうだ。


――――――――――


黄ブロックの一回戦、最初の試合は最上位クラスのガージュ=デイルガ対中位クラスの女子生徒との戦い。


最上位クラスの中では実力派とは言えないガージュだが、彼も立派な最上位クラスの生徒。

実力は、最上位クラスの中では九位と目立たないが二年生全体で見れば間違いなく上位。

否、最上位クラスの十人はそのまま二年生全体の上位十位と言ってもそん色ないほどであり、他クラスの生徒に早々負けるはずが無い。


それでもガージュの実力が目立たないのは、彼が指揮官タイプだからだろう。

昨年の武闘祭でも、個人戦が振るわなかった分チーム戦で指揮官として大活躍した。

今年の野外演習でも、ルミニアとともに指揮を振るった。


最上位クラスの頭脳派にして男子チームの指揮官。

それがガージュの評価であり、反面武力はあまりないと思われている理由である。


チーム戦では、ガージュが前に出ることが少なく、また出る必要が無かった。

強すぎるレキに指示を出すには指揮に専念する必要があり、魔術での援護が精々。

個人戦で早々に敗退した事もあり、ガージュの実力を知る機会が少なかった弊害だった。


プレーター獣国で行われた大武闘祭であれば、ユーリとの見事なコンビネーションを披露していた。

フォレサージ学園やプレーター学園の生徒達と正面から切り結んだこともある。

だが、それを伝え聞いただけの、実際に見ていない生徒の中には、レキの実力に任せ指揮するだけの、大して強くない頭だけの生徒という認識を持たれているのが現状。


「あなたがガージュ=デイルガですね」

「ああそうだ。

 そういう貴様は?」

「私はウェディ=スール。

 スール伯爵家の者です」


対戦相手である中位クラスの女子生徒、ウェディ=スールもそんな間違った認識を持った生徒の一人。

武門の家に生まれた彼女は、最上位クラスに所属しながら後ろで指揮を執るばかりのガージュの実力に懐疑的だった。


昨年の武闘祭以降、彼女も中庭で行われているレキ達の鍛錬に参加するようになった者の一人である。

武門の家に生まれた彼女は、昨年の武闘祭にもそれなりの自信を持って出場した。

入学時こそ中位クラスだったが、剣の実力には自信があったのだ。


一回戦で運悪く同じ中位クラスの、それも順位的には彼女より上の者に当たってしまったものの、相性の良さもあり見事に打ち破った。

格上に勝利し、やはり武術ならもっと上なのだと自信を持った彼女はしかし、続く二回戦で最上位クラスのユミと当たり、あっけなく敗れた。

幼少の頃より剣を習い、実力なら最上位クラスとも互角のはずと意気込んでいた彼女は、最上位クラスとは言え平民かつ同性の少女に負けた事でようやく自分の実力を知り、同時に最上位クラスのレベルの高さを痛感した。


武闘祭以降、中庭での鍛錬に参加するようになった彼女は、レキやフラン、ルミニア、ミーム、更には上位クラスのミル達と手合わせする事で、己がいかに未熟かを嫌と言うほど思い知らされた。


それでも折れずめげず鍛錬を続け、更にはレキ達との鍛錬にも積極的に参加するようになった彼女は、当然の如くその実力を著しく向上させた。

昨年は中位クラス七番手だった彼女が、今年は四番手として出場しているのがその証拠だろう。


一方、ガージュは中庭での鍛錬にあまり参加していない。

全く参加していない訳では無いが、どちらかと言えば同じ中庭で同じ指揮官タイプの生徒達と戦術論について討論している事の方が多く、鍛錬や手合わせは時間があればと言った程度。


そんなガージュ達を、ウェディは以前より「何しに中庭に出てきているのか」と疑問視し、蔑んですらいた。


中庭でどう過ごそうかは本人次第。

レキ達の鍛錬を見ながら優雅にお茶に興じる者だっているのだ。

ただ、ウェディ的にはお茶をするのは武術に興味が無く、かつ自分より実力が下の生徒であり、自分より上の生徒は皆その実力を伸ばすべく日々鍛錬に精を出している、出していなければおかしいと思っていた。

最上位クラスの内、ファラスアルムは森人であり魔術士であるから仕方ないとしても、純人のガージュが鍛錬していないのはおかしい。

彼はおそらく向上心が無いのだろう、あるいは武術より魔術か指揮を執るしかないのかも知れない。

そんな風にすら考えていた。


「聞けばあなたも昨年の武闘祭は二回戦で敗退しているとの事。

 悔しくは無かったのですか?」

「・・・相手が相手だからな」


その相手はもちろんレキ。

昨年の優勝者にして大武闘祭で初めて一年生ながらにして優勝して見せた規格外の生徒。


レキが相手なら負けても当然。

悔しくないかと問われればもちろん悔しいし、ガージュとへ最初から諦めていた訳では無く、勝てないまでも全力で挑んでいる。

故に負けた事に納得しているし、しっかりと受け止めている。

まあ、そんなレキと早々に当たってしまった己のくじ運の無さに思うところはあるが。


別に武術を捨てているわけでは無く、ただそれより戦術を磨いた方が良いと判断したから。

授業ではしっかりと鍛錬や手合わせ、模擬戦などもこなしているし、女子に後れを取ってる魔術だって研鑽に励んでいる。


ただ、己の短所を補うより長所を伸ばした方が、よりチームに貢献できるだろうという判断なのだ。


自室で自分なりに前述を考え、中庭で他の生徒達と議論する。

おかげでガージュの指揮力は向上し、先の野外演習でもルミニアと二人で二年生達を支える事が出来た。


総合的に見ればガージュも実力を上げている。

ただそれが目に見える物では無い、というだけの話なのだ。


残念ながらガージュの実力はウェディから見えない。

それどころか、碌に剣も振るわない弱者にすら見えていた。


幼い頃から女だてらに剣を振るい、いつかスール家の後を継ぐのだと己を厳しく鍛えてきた。

同じ武門の家に生まれ、最上位クラス二番手の実力を持つルミニア=イオシスに敬意を抱き、王族でありながらそのルミニアに次ぐ実力のフラン=イオニアに忠誠を抱き、朝夕欠かさず鍛錬に参加し、何度負けても諦めずレキへと立ち向かうミーム=ギに好感を抱いた。


昨年の武闘祭で敗北したユミ。

森人でありながら上位クラスの獣人ライ=ジに勝利したというファラスアルム。

最上位クラスの女子生徒は、誰もが最上位クラスに相応しい実力の持ち主だった。


そんな女子達に比べ、男子生徒はレキを除けば皆不甲斐ない者ばかり。

マシなのはせいぜいカルクくらいで、ユーリ=サルクトはへらへらと、ガージュ=デイルガは後方で偉そうに指揮をしているだけ。

昨年はカルクと共に前衛で斧を振るい、攻守に活躍していた山人の生徒もいたが、今年はその生徒の姿も無い。

別に指揮官を軽んじているわけでは無いが、ウェディの考える指揮官とはそう言う者ではない。


「皆の上に立とうとする者が腕を磨かないでどうするのですか?

 あなたが弱ければ誰も付いて来ませんよ?」

「・・・」


皆の上に立つ者は、誰よりも強くあらねばならない。

弱者には誰もついてこないのだから。


と言うのがウェディの考えだった。

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