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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十五章:学園~二度目の武闘祭・予選 前編~
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第485話:学園への帰還

毎日更新:2/18

「わっ!」


無詠唱で放たれた不可視の刃がレキに迫る。


ジガが、いや、レキやフラン達以外の生徒が無詠唱で魔術を放つ事が出来ると言う情報をレキは知らない。

アランですら、昨年は魔術名を唱えなければ魔術を行使する事は出来なかった。

その他の現四年生、ローザやジガ、ラリアルニルス、フィルアの四人も同様。

少なくとも昨年までは、詠唱しなければ魔術を行使する事は叶わなかったはず。


ジガ本人、これまで無詠唱で魔術等行使出来んわいと言っていた。

練習では何度か成功したが、実戦ではまず無理だと・・・。。


確かに今は実戦ではない。

それでも、圧倒的な強者であるレキとの戦いの最中に、高度かつ消費魔力の多い無詠唱魔術が行使できるとは思えなかった。


それもこれもジガの仕込み。

ただでさえ魔術が不得手な獣人であり、詠唱魔術が精々と思わせる事こそがジガの作戦だったのだろう。


流石のレキもこれには不意を突かれた。

だが、レキの驚異的な身体能力と反射神経は、ジガの確実なる風の刃を右の剣で切り裂いた。


「まだやっ!」


本音を言えば今の一撃で決まって欲しかった。

だが、レキの実力を知るジガは、おそらくは対処されるであろうとも思っていた。


足を止め魔術に対抗するレキに、ジガが追撃の刃を放つ。

まだ不慣れなのだろう、わずかに間をおかれつつその手の平から矢継ぎ早に風の刃が放たれた。

初撃こそ慌てた風のレキだったが、二度目は無い。

次から次へと迫る刃を、レキは魔力を纏わせた双剣で難なく切り裂いていく。


「はあっ!」

「やあっ!」


武舞台上に居るのはジガだけではない。

ジガの魔術に合わせるようにラリアミルニスの大剣が迫り、横から回り込んだフィルアの剣がきらめく。


ラリアミルニスの大剣を双剣で受け流し、フィルアの剣を切り上げた。

今もなお飛んでくる不可視の刃を、レキは二人に対処しながらかわし逸らし、フィルアとは逆方向へと逃れた。


「むんっ!」


レキに受け流され、地面へと突き刺さった大剣へとラリアミルニスが魔力を流す。

彼の魔力に呼応するかのように、武舞台から石の杭が生み出された。


「行けっ!」


ラリアミルニスの号令に従い、石杭がレキへと飛んだ。


「お~」


ラリアルニルスの無詠唱。

しかも杖ではなく大剣を用いた魔術行使に、レキが思わず感嘆の声を漏らした。

驚きはしても体は冷静に、飛んでくる石杭を双剣で切り落としていく。

ジガより更に不慣れなのか、ラリアミルニスの魔術はその一度だけだった。

それでも、レキをその場に留まらせる事には成功した。


追撃の刃はフィルア。

石杭を追う様に迫るフィルアの攻撃を、レキは真正面から受けようとして・・・。


「やあっ!」


フィルアの剣が届くまで後一歩と言うところで、彼女が突き出さした剣先から火の矢が飛んだ。


――――――――――


ジガ、ラリアミルニスに続きフィルアまでもが無詠唱で魔術を放つ。

これこそが、三人が会得した新たなる力。

昨年の武闘祭で惜しくも敗れた三人が、今年こそはと必死になって身に付けた力だ。


昨年、アランと共に学園の代表として大武闘祭に出場したジガ達は、決勝に進むことなく敗れた。

相手は優勝候補の一角、プレーター学園の生徒達。

武闘祭という武を競う大会では、どうしても武術に力を入れているプレーター学園が有利である。

過去の大会でも、優勝経験で圧倒的な回数を誇っている。


そのプレーター学園の生徒を、個人/チーム共に打ち破ったのがレキだ。


レキの武術は獣人を圧倒した。

獣人との戦闘では行使する隙が無く、使いどころがないはずの魔術すらも、無詠唱と言う技術を用いて使用してみせた。


ジガ達の友人であり、チームのリーダーであるアランもまた、レキ同様無詠唱で魔術を行使できる。

その有用性は、学園での武闘祭本戦、六学園合同の大武闘祭共に、個人の部決勝で二人が競った事でも分かるだろう。


チーム戦ではそんなアランを有しながら準決勝で敗れてしまっている。

要因は一つではないのかも知れない。

だが、その内の一つに、自分達の力不足がある事は、外ならぬ自分達自身が良く理解していた。


身体能力で上を行く獣人達。

その獣人に対する為、他種族は魔術を用いる。


詠唱する隙を与えず攻めてくる獣人にも、無詠唱魔術であれば十分有効である事を、誰であろうアランが示してくれた。

そんなアランの力になるべく、そしてアランをチーム戦でも勝たせる為、三人はこの一年必死に努力してきた。


そして、この王宮でフィルニイリスを始めとした王宮魔術士団との特訓で、ようやく戦闘中でも無詠唱で魔術が放てるようになったのだ。

今回の手合わせには、その確認の意味もあった。


――――――――――


「良かったのですか?」

「ん?

 何がだ?」


四年生三人の思わぬ健闘。

最初は魅入っていたファイナがアランに問いかける。

武闘祭を控えるこの時期、自分達の手札をここまで見せて良いのか?という事だろう。


武舞台上にはレキとアランの仲間達以外にも多くの生徒がいる。

先程からレキとフラン達、そしてジガ達との攻防にあっけに取られ、あるいは割り込む隙を見いだせないらしく、今はまだ傍観者に徹しているようだが、生徒達もまた学園に戻れば武闘祭で競い合うライバルとなる。

学年は違えど武闘祭の本戦に進んだなら当たるかも知れない。

武舞台上で戦うジガ達は、そんな生徒達に、何よりもレキに対し、自分達の手札をこれでもかと見せている事になる。


「何、自分たちの手札はこれだけではない。

 それに・・・」

「それに?」


今レキと戦っているのはアランチームの内の三人だけ。

本番には武闘祭・大武闘祭共に準優勝したアランと、そんなアランのパートナーであるローザが加わる。

三人の連携も見事なものだが、指揮官であるアランとその補佐役のローザが加わったアランチームの実力は今の比ではない。


「今の自分達がどれだけレキと戦えるか、それを知りたかったのだろう」


レキと戦うには、武闘祭の予選を勝ち抜き、本戦まで勝ち進まねばならない。

もちろんアラン達は予選を勝ち抜く自信はある。

だが、何が起きるか分からないのが試合と言うもの。

万が一負けてしまえば、今年学園を卒業するアラン達がレキと戦う機会は二度とないかもしれない。


今の自分達の実力を確かめる機会を逃したくなかったのだ。

相手がレキなら昨年との比較も出来る。


昨年より格段に上がった実力と連携力。

それを試すには、レキは絶好の相手なのだ。


「後輩達の前で無様な試合は出来ないしな」


先行したフラン達がどういう気持ちでレキに挑んだかは分からない。

ただ、おそらくフラン達は手など抜かずに戦ったに違いない。


レキを相手に手を抜けるほどフラン達は強くはなく、何よりそれでは何のためにレキと試合をしているか分からない。

レキが手加減するならまだしも、フラン達が手加減して得られるモノなど何もないのだから。

それが分かっているからこそ、フラン達は出し惜しみせず最初から全力で挑んでいる。


そんな光景も見せられた以上、ジガ達が手を抜くなど出来るはずが無い。


最強であるレキに挑めるまたとない機会。

フラン達の上を行く連携、三人が三人共に会得した無詠唱魔術。

アランとローザを除いた三人でどれだけ食らいつけるかを計る為にも、とりあえず全力で挑む必要があった。


加えて、武舞台上にはフラン達以外にも多くの生徒達がいる。

レキに挑むよりジガ達との戦いを見学する事を選んだのか、先ほどから武器も構えずただ魅入っている彼等の多くは後輩である。

先輩として、恥じる事の無い戦いを見せなければならなかった。


「本戦では僕とローザも出場する。

 五人での連携は当然今以上だ。

 まあ、レキに通じるかは別だがな」


戦うからには勝つつもりで挑まねばならない。

勝てないと分かっていてもだ。

それは武闘祭でもこの模擬戦でも同じ。


それもまた先輩としての矜持なのだから。


――――――――――


「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」

「や、やっぱ通じんか・・・」

「くっ・・・これまでか」


武舞台上に膝をつき、剣を支えにするフィルア。

体力も魔力も尽きたのか、五体を地に着いて空を見上げるジガ。

大剣を持つ力も無くなったのだろうか、地面に突き刺し項垂れるラリアルニルス。


あれから、三人は全力でレキに挑み続けた。

時に武器で、時に無詠唱に至った魔術を用いて。

その連携は十分洗練され、実力的にも並の騎士や冒険者以上だった。

あるいはレキにも匹敵しているのでは?

端から見ればそう思えるほどに、三人はレキを相手に善戦、持ちこたえて見せた。


だが、現実は違う。


「次はわらわ達じゃ!」

「うん!」


三人の奮戦の間休んでいたフラン達が再び立ち上がる。


三人の猛攻を受けきったレキにはまだまだ余力は十分。

フラン達や、まだ参戦していない他の生徒達を相手取る余裕があった。


フラン達もそれは分かっている。

レキに対し手加減などまだまだ必要なく、むしろレキの方が手加減している事を。

レキは強者で自分達は相変わらず挑戦者である。

今回の試合も、レキと言う圧倒的な存在に全員で挑む一対多の試合である。

昨年はそこに、レキにも手加減の練習と言う課題があった。

だが、今のレキは手加減も完全に会得し、武術の指南役のような存在にすらなっている。


フラン達が行うべきは全力を出し切る事。

後日行われる武闘祭に向け、己の今の実力をレキ相手に確かめる事だ。


しばらくの後、全力を出し切ったのだろうフラン達が武舞台の外に寝転び、体力が回復したのだろうジガ達が再度挑んだ。

当初はフランやジガ達と共にレキに挑む予定だった他の生徒達は、間近で見たレキの実力に己との差を思い知り、結局最後まで挑む事は無かった。


一通り試合が終わったレキは、まだまだ余力があったらしい。

騎士団との鍛錬を再開し、ガレムや騎士達、参戦してきたニアデルを元気にぶっ飛ばしていた。


――――――――――


レキと交流を持つ一番手っ取り早い方法が、騎士団との鍛錬に参加する事である。

とは言えそこは王宮騎士団。

見知らぬ生徒がお邪魔しま~すと言って参加できる者ではない。

鍛錬場は決して社交の場ではないのだ。


その鍛錬を今回間近で見た生徒達は、以降光の祝祭日の休暇が終わるまで鍛錬に参加する事は無かった。

興味はあったのだろう、数名の生徒は遠目に見学するにとどめ、他の生徒は早々に領地や学園へと戻って行った。

ごく一部、レキと言うよりレキに挑むフランやジガ達に感化された生徒達は、親や騎士達に頼み込み、鍛錬に参加していた。


ジガ達が使って見せた無詠唱魔術もまた、かなりの影響を及ぼした。

今までは限られた者、すなわちレキとレキに教わった者達のみが使えていた無詠唱魔術を、レキから習ったわけでは無いジガ達が使って見せた事で、ようやく無詠唱魔術は特殊な技術ではなく努力次第で誰でも身に付ける事が出来る物だと理解できたのだ。

生徒の中には、騎士団の鍛錬場ではなく魔術士団の施設に足を運ぶ者もいたと言う。


そうして日は過ぎていき、光の祝祭日の休暇もようやく終わった今日この頃。


「武闘祭の本戦で会おう」

「うん!」


学園の入り口で、レキとアランが握手を交わし合っていた。

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