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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十四章:学園~レキと二年目の学園~
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第480話:とある男子生徒の父親

そんな少年のなけなしの矜持ではあるが、残念ながら父親には通じない。

伝えようとしていないのだから当たり前で、矜持が邪魔をして伝えることも出来ない。


彼の決して伝わらない信念は、残念ながら貴族としての体裁の邪魔でしかなかった。


父親に腕を引かれ、鍛錬場にやって来た彼は、レキの前に立ち口ごもりつつも何とか言葉を発する。


「きょ、去年はその・・・」

「えっと・・・誰だっけ?」

「なっ!」


レキに悪気はなかった。

去年もまた様々な事があった。

新しい友達、野外演習、武闘祭に大武闘祭。

彼のと一幕など、レキの思い出の中の一欠片でしかない。


中庭でも散々絡んでいた彼ではあるが、レキにとっては学友の一人でしかない。

昨年の件も、彼やその家にとっては大事だったがレキからすれば些細な事。

絡まれた事すら覚えていないほどだ。


良く言えば気にしていないとも取れたレキの発言。

流石に謝罪すべく勇気を出して声をかけた側からすれば、なぜ覚えていないのだ!と憤ってしまうのも無理はない。

ここで激昂し、剣を抜かなかっただけ彼も成長しているのだと褒めるべきだろう。


そもそも彼が行った行為など、レキの鍛錬中に挑んだ事と、野外演習で窮地を救われた事くらい。

実のところ謝罪する必要すらない程度なのだ。

父親がうるさく言うので仕方なく。

その程度の気持ちで謝罪に来たのであり、どうしてもと言う訳では無い。


レキが覚えていなかったのは、鍛錬中に突っかかってきただけの、剣の一振りで解決してしまった話。

それ以降、彼が突っかかる事も無くなっていた為、忘れてしまっていたのだ。


貴族故の傲慢なのかも知れない。

相手が名前を知っている前提で話を進めてしまうのは。


例えば彼が王族でレキが貴族の子供であれば、自らが仕える相手を知らないと言うのは不敬に当たる。

あるいはレキが、彼の親が治める領地で生まれ育ったのであれば、自分の住む街の領主くらい覚えて桶と叱責する事くらいは出来ただろう。

だがレキは平民で、彼は辺境の男爵家の子供。

レキとは縁もゆかりもない相手であれば、この反応も無理はない。


彼は彼で、レキに絡んでいた時はとにかくレキに勝つ事しか頭に無く、以降はなるべくレキを避けてきた為、名乗る機会をすっかり失っていた。

武闘祭でも対戦しておらず、というか彼は中位クラスの上位十名に入っていない為出場していない。

一応鍛錬自体は真面目にこなしているつもりだが、レキを避けている為中庭での鍛錬には参加できておらず、隠れて剣を振るうしかない。

鍛錬の量なら他者と同じでも、質という点で遥かに劣っている。

故に、クラス内の順位も下がる一方なのだ。


何とか挽回しようと張り切った二度目の野外演習。

自分の真の実力を見せつけようとして・・・あの醜態に繋がってしまった。


今の彼の状況は中庭でレキに突っかかった事から始まったのだ。


レキに一撃で倒され、隠れて特訓しても敵わず、それでも懲りずに勝負を挑もうとした。

ルミニア達に妨害され、仕方なく特訓を繰り返し、自分がどのくらい強くなったか知る為、昨年の光の祝祭日の休暇に王宮騎士団の鍛錬場に見学に来てみれば、騎士と手合わせするレキがいた。

何故あいつがと疑問に思いつつ、あいつが参加できるなら僕だってと混ざろうとして・・・失敗してしまった。


それ以降、悔しさをばねに特訓を続けていたが、武闘祭に参加する事も叶わなかった。

大人しく(?)見学していた武闘祭で見せつけられたのはレキの本当(?)の実力。

予選・本戦で優勝し、加えて大武闘祭でも優勝したらしいと聞かされ、心底面白くないと思ったものだ。


そんなレキが、今年も自分を差し置いて騎士達と鍛錬している。

多くの貴族達が注目し、学年を越えて仲良く鍛錬している光景の中心にレキがいる事に、彼は心底気に入らなかった。

かと言ってあの状況でレキをどうにか出来るはずも無く、と言うか鍛錬場には謝罪に来た為怒りを抑えるしか無く、心の準備すら出来ないままレキの前に立ってみれば、レキの口から出たのは「誰だっけ?」


彼の心境を察するに、むしろ不憫さすら感じてしまう。


それでも一応の謝罪を終え、折角だからとレキが手合わせに誘い、そして・・・。


――――――――――


こう言っては何だが、レキと手合わせが出来ると言うのはある種光栄な事である。

特に、レキの強さに心底惚れこんでいるどこぞの獣王からすれば、日々の政務を放り出してでも希望したいほどだ。

同じ学生と言う理由だけで叶うのだから、同じ年、同じ国、同じ学園の生徒である事を光栄に思うがよい、とある者はいうかも知れない。

純人族であり、脳筋ではない、むしろレキを敵視すらしている一介の学生からすればたまった者ではないが。


同じ考えを持つ者はどうやらこの国にも一定数いるらしい。

特に騎士達。

獣王ほどではないがレキの実力を認め、強者への敬意を持つ者達からすれば、レキとの手合わせは何よりの糧になるらしい。

レキとの手合わせが終わった彼に、良かったななどと気さくに声をかける者も多かった。

本人は何が良かったかなどさっぱり分からないが、何故か称賛され肩を叩かれ、次は私とするかなど声をかけられた。

これが騎士を目指す者なら悪い気はしなかっただろうが、残念ながら彼は騎士を目指していない。

観衆の中で手も足も出ず、恥をかかされたと顔を真っ赤にして震える彼をみて、よほどレキ殿との手合わせが嬉しかったのだろうと勘違いする騎士達とはおそらく分かり合えないのだろう。


「良くやった!」

「・・・」

「これでお前とレキ殿との不仲も解消されたに違いない」

「・・・」

「ああ、これで私も陛下に堂々とご挨拶が出来ると言う者だ」

「・・・」

「ん?

 どうした?」

「・・・いえ、なにも」

「そうか!」


手合わせを終え、一秒でも早くこの場を立ち去りたい彼に、父親は笑顔で近づき先ほどの騎士達同様肩を叩いて褒め称えた。

実の息子がぶっ飛ばされたと言うのに、実に嬉しそうである。

親の心子知らずと言うが、子供の心情もまた親には伝わらないようだ。


――――――――――


レキは覚えていなかったが、ルミニアは彼の事をしっかりと覚えている。

昨年の愚行に加え、今年の野外演習で彼の失態もだ。


直接の原因は上位クラスのライ=ジだったかも知れないが、そのライ=ジのおこぼれに預かろうと勝手について行ったのは彼である。

ミル=サーラの話によれば、彼等はライ=ジの窮地にただ震えるだけで助力しなかったらしい。

それどころか、クラスメイトの下へ戻った彼等は、勝手について行ったにもかかわらずライ=ジの事を役立たずだなどと罵ったそうだ。


役立たずどころかお荷物になったのは自分達だと言うのに・・・。


ライ=ジに迷惑をかけた事はどうでもよいとしても、お友達であるミル=サーラの足をも引っ張った彼に、ルミニアの心証ははっきり言って悪すぎる。

昨年の彼等のレキに対する様々な行為もだ。


そんな彼がレキに手合わせを挑んだ。

恐らくはレキとの仲を見せようとする家の考えなのだろう事はすぐわかったが、その程度で改善されるほど彼の心情はよろしくない。

何なら思いっきりぶっ飛ばし、同情でも誘った方がまだ良いくらいだ。


もちろん心優しいレキがそんな真似を出来るはずもない。

とはいえ親に言われて嫌々レキと手合わせし、一方的に負けて退場した彼である。

親は喜んだが、その分息子の心境は最悪である事は想像に容易い。


「あの分ならもうレキ様にはかかわろうとはしないでしょうね」


レキに勝てない事など始めから分かっていたはず。

武力でも権力でも、そして人望でも。

そもそもレキと敵対する必要も無いのだ。

最初にレキに突っかかり、勝手に敵視し、嫉妬し、失敗から避け続けているのは彼の方。

レキ本人は気にしていないのだから、極端な話適当に謝罪すれば後は握手一つで友人にもなれただろう。


そうしなかったのは彼なりの矜持ゆえ。

ライバル視するならまだしも、敵視している以上こちらからする事は何もない。

後は勝手に自滅するはず。


ルミニアはそう判断し、これ以上彼に対して何かする必要は無いでしょうと放置する事を決めた。


――――――――――


彼の心情はともかく、父親としては大成功である。

これで他の貴族との交流も、宴の際国王への挨拶も滞りなく行える。

辺境故に王都の事情に明るくなかった彼ではあるが、だからこそこういった機会に情報を得る必要がある。

特に、王都から遠く他国に近い辺境の貴族であるが故に、他国の事情を知り、フロイオニア王国との関係性に気を付けなければならない。


つまり、他国の代表から一目も二目もおかれているレキは、辺境に住む者としても関心を向けなければならなかったと言う事だ。


そんな彼にとって、そして多くの貴族にとって宴とは社交の場である。

特に王都で行われる様々な宴は、国中から有力な貴族が集まり情報のやり取りが行われる。

宴に参列した者は国内のあらゆる情報を得ることが出来るだろう。

参列が叶わなかった者は、他者より一歩も二歩も後れを取る事になってしまう。


昨年は息子のしでかした醜態により宴に参列する事無く自領へと戻ったその男は、今年こそはと気合を入れる。

その息子はと言えば、宴にこそ参加すれどなるべく目立つことなく、壁の隅に寄り添いながら過ごす予定だ。

出来るだけ誰も、特にレキやフラン、ルミニア達を意識せず、視線を向ける事無く過ごすつもりで。


だが、意識しないようにすればするほど逆に意識はそちらに行ってしまうもの。

チラチラと向ける視線の先では、レキが多くの女子に囲まれ困惑する姿があった。

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