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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十四章:学園~レキと二年目の学園~
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第479話:とある男子生徒

「・・・くっ」


王宮の鍛錬場。

様々な者達がとある生徒を中心に剣を振るう光景に、一人の男子生徒が歯噛みした。


彼は昨年、レキをただの平民と侮り一方的に突っかかって返り討ちにあった生徒である。

加えて彼は、今年の野外演習で単独行動をとったとある獣人の生徒のおこぼれにあずかろうと勝手について行き、魔物に囲まれたあげくレキに救われた生徒だ。


一応は貴族の子息である彼は、王宮で開かれる光の祝祭日の宴に参加すべく、今年も半ば無理矢理連れてこられた。

宴の日まではなるべくレキと遭遇しない用、おとなしく王都の宿屋で過ごすつもりだったのだが、宴も近い事から父親に連れられ王宮へとやってきたのだ。


本来なら、父親の用事が終われば即宿屋に帰るつもりだった。

だが、鍛錬場の賑わいに気付いた父親に連れられ、因縁の場所へとやってきた彼は、そこで因縁の相手の姿を見つけたのだ。


言わずもがなレキである。


いい加減レキに構う事無く過ごそうとしていた矢先の事。

しかもレキは、自分などとは違い実に楽しそうに剣を振っている。

そのレキの周囲には、フランを始めとした学友達も姿もあった。

中庭での鍛錬で仲良くなったのだろう、彼と同じ中位クラスの生徒の姿すら。


ルミニア=イオシス公爵令嬢と対峙しているのは、彼の記憶が確かなら昨年の武闘祭本戦一回戦でレキに敗れたベオーサ=キラルという元学生。

フラン=イオニアと対峙しているのは、昨年の武闘祭でレキと戦ったローザ=ティリル侯爵令嬢。

獣人の癖に最上位クラスに所属しているミーム=ギは騎士の一人と戦っている。


レキはと言えば、騎士団長ガレムとニアデル=イオシス公爵二人を同時に相手していた。


他の生徒も、例えばカルクという平民は王宮の騎士に指南を受けているようだし、ユミと言う平民もまた騎士から長剣の扱いについて助言を受けているようだ。


賑やかな鍛錬場。

多くの生徒が騎士達と共に、仲良く剣を振るう光景を、彼はただ見ている事しか出来なかった。


――――――――――


彼は元々王都になど来たくなかった。

光の祝祭の宴にはフロイオニア全土の貴族が集まるが、必ず参加しなければならない訳では無い。

宴は各領でも開催される為、領主によっては自領の宴に注力する者もいる。


彼の家は彼が生まれる前からこの宴に参加していたが、それは自領の宴より貴族との繋がりを重視したから。

自分の家の発展の為、高位の貴族との繋がりを作ろうとした結果だ。


学園に入ったのも両親に言われたから。

幼い頃より座学に武術に魔術にと教育を施されてきたのも、学園で高位の貴族と繋がりを持たせる為。

特に彼の代には王女や侯爵令嬢も入学する。

自分の家とは比べ物にならないほどの英才教育を受けた彼女達であれば、間違いなく最上位クラスに入るだろう。

そんな二人とお近づきになる為、少しでも彼の才能を伸ばしておかねばならなかった。


そんな両親の思惑は、彼の実力とうぬぼれ、何よりその無知によって砕かれた。


昨年のやらかしに続き、野外演習での失態。

どのツラ下げて宴に参加しろと言うのか。

レキやフラン、ルミニア達にも何を言われるか分かった者ではない。

鍛錬場にだって来たくなかったと言うのに、学園の生徒の多くが親を伴い参加しているのだと聞けば、自分の親が加わろうとするのは当然。

仕方なく、鍛錬場の隅の方で、中心にいるレキ達に見つからない用こっそり剣を振るうので精一杯だった。


昨年の醜態。

宴に参加するのはある意味反省した証でもある。


国の英雄たるレキを知らなかったとはいえ、彼がレキを軽んじた事と投げかけた数々の暴言。

子供のした事だからと許されてはいるが、それはあくまで昨年までの話。

レキの価値が他国にも知れ渡った今となっては、反省のみならず少しでもレキと友好な関係を築かねばならない。

それがどれほど困難な事でも、少しでも蟠りを解消しておかねば、下手をすれば家にまで迷惑が掛かってしまう。

少なくとも、他国との繋がりなど絶望的だろう。


だからこそ避けるわけには行かなかった。

避けず参加し、改めて謝罪しなければならなかった。

分かってはいたが、それが出来るなら今の彼はいない。

レキを知らず、ただの平民だと侮り、見下し、そして今に繋がったのだから。


こっそり参加しつつ、一応はタイミングも伺っては見た者の、レキの周囲にはフラン達や王宮の騎士達、他学年の生徒達と常に囲まれている。

それこそ、昨年のような傲岸不遜な態度で強引にでも行かねば無理だろう。

もちろんそんな真似が出来るはずもなく、結局彼は一人剣を振るい続ける事しか出来ないでいた。


出来るなら今すぐ宿に帰りたいのに、父親が許すはずもない。

父親としては、ここでしっかりと息子に謝罪をさせる必要があった。

ただでさえ昨年は逃げ帰るように自領へと引き返した彼等である。

今年の野外演習も加わり、ただ逃げるだけでは許される状況ではなくなっている。


国の恩人たるレキへの無礼を公式に謝罪し、国への反旗が無い事を証明する。

その為には、息子本人に謝罪させるのが最も良い方法なのだ。


息子の方とてこのままで良いとは思っていない。

仮にも貴族の子息である。

英雄であるレキといつまでも敵対するわけには行かず、何よりこのままではレキと懇意にしているフラン王女やルミニア公爵令嬢からの印象も悪くなってしまう。

彼の家は辺境にある男爵家。

彼はそこの次男であり、長男が優秀である為家を継ぐ可能性は低い。

それでも貴族の家に生まれた以上家の損失に繋がる行為は避けねばならず、家の利益になる行動を取らなけばならない。


今回の場合、謝罪は最低限の条件、レキと和解し仲良くなれれば上々と言ったところ。

あわよくばフラン王女やルミニア公爵令嬢とも友好に・・・と言う願望は高望みを超える。

調べるまでも無く三人は非常に懇意で、ルミニア嬢に至っては恋慕すら抱いている。

つまり、今の彼はレキを慕う二人からも疎まれてしまっていると言う事だ。


そもそも二人はレキに窮地を救われている。

レキはいわば二人の、そして王国の恩人である。

少し調べれば分かる事。

知らなかったのは無知故か。


彼の家が辺境にあり、王都の政治から物理的にも距離があったと言うのは言い訳にもならない。

どれだけ離れていても彼の家は王国の貴族、由緒ある(?)男爵家である。

貴族として、王族の変事には常に気を配っておかねばならないのだ。

昨年の失態は、いわばそれを怠ったツケである。


故に、それを挽回する為にもまずはレキに謝罪をしなければならないのだが・・・。


「・・・くっ」


辺境の男爵家の次男が飛び込んで行くには、あまりにも状況が悪かった。


――――――――――


「何をしておる!

 早くせんかっ!!」

「し、しかし父上」


なかなか動こうとしない息子に業を煮やしたのか、父親が叱責する。

父親としては、この機会に何としても息子をこの場で謝罪させる必要があった。

謝罪したと言う事実を、王宮に来ている貴族達に周知するためだ。

レキとの間に蟠りはもう無いという証明の為であり、また自身の失態を挽回する為。

昨年の失態は王族の危機やレキの事を知ろうともしなかった父親自身の失態でもある。

つまりは息子にちゃんと教えましたよというアピールなのだ。


もちろん息子にとっても良い機会である事に変わりはない。

後日行われる光の祝祭日の宴。

王宮内の広間で行われる盛大な宴で肩身の狭い思いをしない為、今のうちに謝罪しておく必要があった。


そんな父親の思惑は理解している者の、なかなか足が動いてくれない。

因縁の相手であるレキに観衆の中で謝罪すると言うのは、彼の性格からして厳しいのだ。


今更レキが平民である事など関係ない。


一年以上学園で学んでいれば、流石にもう爵位など何の意味がない事を嫌でも理解する。

何よりレキは、同い年でありながら武闘祭本戦に引き続き大武闘祭でも優勝している。

フランやルミニアが一位だったらやはり貴族は素晴らしい・・・などと言う話になったかも知れないが、レキやユミ、カルクなどの活躍も彼は見ている。

嫌でも認めざるを得なかった。


だが、認めているのは実力であり立場としては同じ学生、上も下も無い。

クラスはレキが最上位で彼は中位。

武術も魔術も、何なら座学の成績すらレキの方が上だが、それでも同じ学生であることが、今の彼の矜持になっていた。


彼にとってレキは、いずれ超えなければならない好敵手のような存在である。

好敵手と言っても、例えばフランとミームの様な勝ち負けを競う相手ではなく、所謂超えるべき相手という意味がこの場合は近いだろう。

決して超えられない、どんなに目を凝らしても見る事が出来ない高すぎる目標であっても、同じ学生である以上好敵手である。

いや、好敵手でなければならない。

そうでなければ、彼は完全にレキの下になってしまうのだから。


いずれは超えて見せる相手に対し、どんな理由があろうと頭を下げるわけには行かないという良く分からない矜持。


誰に何を言われようと、それが彼の決して譲れない信念である。

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