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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第47話:ユミのお家で

誤字報告感謝です。

村長の家を出たレキ達は、次にユミの家へ向かった。

最初は村長の家で世話になるつもりだったのだが、ゴブリンの件もあり客人を持て成す余裕がなくなったようだ。

身分を明かせば優先してもらえるだろうが、ゴブリンの件に関しても王族預かりになりかねないのでおとなしく家を出たのである。


代わりと言っては何だが、ユミが家に招いてくれた。

助けて貰ったお礼をしたい、そう言われれば断る理由も無かった。

他に泊めてくれそうな家もなく、レキ達はその申し出を有難く受け取る事にしたのだ。


なお、エラスの街を出る際に渡された手紙は、タイミングを失ってしまい今もフィルニイリスが持っている。


「ただいまっ!」


ユミが元気よく家に入って行く。


「そう言えば、ユミさんのお母様は・・・」


母親が数日前から寝込んでいる、ユミからはそう聞かされている。

ユミがゴブリンに襲われた原因も、母親の為森へ薬草を採りに入ったからだ。


「ご病気でしたっけ?」

「症状は軽い、とも言ってた」


母親の状態について、ある程度の事は聞いている。

病気に関する知識がユミには無く、具体的な症状までは分からなかったが、話に聞く限りではおそらく過労なのだろう。

父親が街へ出稼ぎに行っている為、母親が村の仕事の手伝いとユミの世話を一人でこなしているそうで、その疲れが溜まったのではと推測された。


「折角じゃから見てやって欲しいのじゃ」

「世話になる対価としてなら」


こういう状況でも、やはり下手に手を出すのはよろしくない。

フィルニイリスが治癒魔術を使えるからと言って、無償で施しては他の治癒士の面目が立たなくなってしまうからだ。

治療には対価が必要であり、それで治癒士が生計を立てている以上、フィルニイリスが無償で治療するという事はその治癒士の仕事を奪う事でもある。

村長の家でレキに忠告したのと同じ、軽々しく治療するわけにはいかないのだ。


「今回は良いと思いますけどね」

「ユミは友達じゃからな」

「むぅ・・・」


リーニャの言葉にフランが純粋な目をフィルニイリスに向けた。

二人に不満気な顔をしつつ顔を背けたフィルニイリスだったが、向いた先にいたレキも、キラキラした目でこちらを見ていた。


「何?」

「フィルは治癒魔術も使えるの?」

「一応」

「お~・・・」


フィルニイリスの回答にレキの目がさらに輝いた。

レキも治癒魔術を習いたいのだろうか?

と考えたフィルニイリスだが、実際は母親と同じ治癒魔術の使い手だと分かり、嬉しくなったのだ。


「みんなどうぞっ!」


ユミが家からひょっこりと顔を出した。

レキ達は、ユミに招かれるまま家の中へと入って行った。


ユミの家は、こういった村には良くある簡素な作りをしていた。

大きさで言えば、魔の森の小屋の方が幾分か大きかった。

とはいえ、家族三人で暮らすには十分過ぎる大きさだ。

レキ達五人が入ってもなお、幾分余裕があるほどだ。


「ユミ、そちらのみなさんが?」

「うん」


不躾に家の中をきょろきょろ見るレキとフラン。

そんな二人をリーニャが嗜めていると、家の奥から声がかかった。

この家のもう一人の住人、ユミの母親である。


「突然の訪問失礼致します。

 私達は・・・」

「いえ、お話はユミから伺っております。

 この度はユミを助けて頂き、ありがとうございました。

 何もないところではありますが、どうかゆっくりしていって下さい」

「ありがとうございます。

 お言葉に甘えさせていただきますね」


布団から上体のみを起こし、リーニャにお礼を述べるユミの母親。

ユミを助けた事に対する感謝の気持ちもしっかりと伝わってきて、リーニャも笑顔で応じた。


「フィル」

「分かってる」


ユミの母親とリーニャとのやり取りを眺めつつ、フランがフィルニイリスに指示を出す。

これはあくまで泊めてもらう事への対価。

無償で治療するわけではない。


何より主たるフランが指示を出したのだ。

フィルニイリスもしっかりと応じた。


「過労で寝込んでいたと聞いている。

 具体的な症状を教えてほしい」

「え、えっと、あなたは?」

「私はフィル。

 彼女たちの護衛であり魔術士。

 世話になる対価としてあなたの病気を見る事にした」

「えっ、いえお世話をするのはユミを助けて頂いたお礼ですので・・・」

「ユミを助けたのはレキ。

 そのお礼はレキだけが受け取る権利を持っている」

「いえいえ、そんな・・・」

「私はあなたの病気を見て、その礼として一晩の宿を借りる。

 リーニャは食事の支度を、フランは雑用?

 ミリスは・・・無い」

「い、いや。

 何かあるだろう」

「何も提供出来ないミリスが悪い」

「待て、いや待ってくれ。

 私だって何かするぞ。

 例えばその・・・」

「その?」

「薪割りとかですかね?」

「それだっ!」


ミリスを巻き込む形で、フィルニイリスが治療の話を強引に進めた。

リーニャも交えた三人のやり取りに、家の中は和やかな雰囲気になった。


「わらわはリーニャの手伝いじゃな」

「ふふっ、では一緒にやりましょうか、フラン」

「うむ!」


フランも雑用にやる気を見せる。

更には。


「オレも薪割りやる!」

「ふむ、ならば一緒にやるか」

「うん!」


もう一人のお子様にして一番の功労者も、お手伝いにやる気を見せた。


「あ、あの・・・」

「ふふっ、自分でやりたいと言っているのでお気になさらずに」

「・・・ありがとうございます」


ユミを助けてもらったお礼にと、精一杯持て成そうと考えていた母親である。

気が付けば、お客であるフラン達の方が率先して家の仕事を始めてしまった。

自分の病気すらも見てもらえるとあって、嬉しさよりも戸惑いの方が強くなってしまう母親だった。


「私もお手伝いする」

「ならばわらわと一緒にリーニャの手伝いをするのじゃ!」

「うんっ!」


フラン達につられて手伝いを申し出た娘の姿に、ユミの母親もようやく笑顔を見せた。


――――――――――


「疲労。

 栄養不足による体力の衰え。

 食事と睡眠をとれば数日で回復する」

「じゃあお母さん大丈夫なの」

「保証する」

「・・・良かった」


フィルニイリスの診断にユミが安堵した。

突然倒れ、なかなか布団から起き上がれなかった母親に、一人で森に薬草を取りに行くほど心配していたのだ。


万が一深刻な病気だったら・・・。


そんな考えすら浮かんだ。

ユミの行動も仕方が無かったのだろう。

それでレキ達と出逢えたのだから、世の中何が起きるか分からない。


「栄養不足ですか・・・。

 失礼ですが、ここ最近はどのような食事を?」

「お恥ずかしい話ですが、村の作物が不足がちで、最近では野草や木の実ばかりを・・・」

「それじゃあ栄養が不足するのも仕方ありませんね」

「村全体が不足気味なのではないか?」

「いえ、月に一度は街の食料が手に入りますので」

「ふむ、そこまで深刻な話ではないのだな」

「はい」


幸い、母親の症状は過労と栄養失調で、適切な食事と睡眠さえ取れば回復するようだ。


本来なら数日と経たずに回復するのだろうが、カランの村は現在慢性的な食糧不足に陥っているらしい。

餓死者が出るほどではなく、満足に食事がとれないという程度だが。

畑が不作気味で、足りない食事は野草や木の実で補っている。

月に一度、エラスの街から訪れる行商人が肉などの食料を売ってくれる為、最低限の栄養は摂れているらしい。

母親が栄養不足にも関わらずユミが元気なのは・・・つまりそういう事なのだろう。


前回食料が手に入ってからまだ十日ほどしか経っておらず、このままでは母親は完全にダウンするところだったようだ。


「父親がいない今、ユミさんが頼れるのはあなただけなのですから、もう少しその辺りを考える必要がありましたね」

「・・・はい、お恥ずかしい限りです」


念の為、リーニャが母親に釘を刺した。

母親に万が一があればユミがどうなるか・・・。

己の身を犠牲にしてまでフランを救おうとした経験があるだけに、リーニャの言葉には芯がこもっていた。


「今晩の食事は何か栄養の付くものを用意しなければなりませんね」

「ユミ、何かある?」

「・・・コレ」


フィルニイリスの問いかけに対し、ユミが差し出したのは森で採ってきた薬草だった。

元々は病気である母親の為に採ってきた物。

その母親が食べて寝れば治るらしいと分かった今、病気の人が食べるくらいだから栄養は高いのだろうと考えて差し出したのだろう。

薬の材料になるだけあって、もちろん滋養はある。

あるのだが、それと食材として適切かと言われれば・・・正直微妙だった。

もちろん体に良い事は間違いない。


「そうですね。

 では今晩の料理に使わせていただきますね」


使うかどうかは別として、ユミの真心を考え、リーニャは笑顔で受け取った。


「あとはそうですね・・・レキ君~」

「なに~」


もちろん薬草だけで料理が作れるはずもない。

自分達の夕食も一緒に作る為、食材を分けてもらおうとリーニャがレキに声をかけた。


返事は家の裏手から聞こえてきた。

裏手に出てみれば、そこには薪の前で剣を構えるレキと、レキを咎めているミリスがいた。


「だから、薪を切るのに剣を使うな」

「え~、この方が早いよ?」

「剣士にとって剣は大切な誰かを守るためのものであって、決して薪を切るためのものではないのだぞ?」

「父さんもやってたよ?」

「なっ!」


「あの、お取り込み中申し訳ないのですが・・・」

「レキの父親は何を考えて・・・」

「何、リーニャ?」

「いえ、今晩の食事に干し肉を使わせていただこうと思いまして・・・」

「うん、いいよ」

「・・・レキの父親は冒険者だったな。

 彼らは効率を重んじるから・・・」

「ありがとうございます。

 では薪割りがんばってくださいね」

「うん!」

「でもレキはまだ冒険者ではないのだから・・・」


何やらぶつぶつ言ってるミリスを放置し、リーニャは干肉を取りに馬車へ向かった。

いくつかの干し肉を手に、ユミの家に戻る。


「まったく、折角のミスリルの剣をそんな風に使ってどうする」

「父さんの剣もミスリルだったよ?」


「ふふっ」


なんだかんだ言いながら、切った薪を仲良くまとめ出した二人を後に、リーニャは家の中へと入って行く。

ミリスの背丈より高く積まれた薪はこの際見なかった事にする。


・・・まあ、たくさんあって困る物でも無い。


――――――――――


「おぉ、美味いのじゃ」

「うん、美味しい」

「干し肉から上手く出汁が取れたようですね」


夜、レキ達はユミの家で仲良く食事を取った。

もちろんユミ達も一緒だ。

食材はほぼレキ達が提供したが、ユミが取ってきた薬草もちゃんと入っている。

料理次第では薬草もそれなりに美味くなるのだ。


ユミも手伝った料理はとても美味しかった。

大勢で食べれば尚更だ。


「・・・美味しい」

「ええ、とっても」


ユミとユミの母親も満足である。


「いかかです?

 お味の方は」

「ええ、大変美味しいです」

「ふふっ、お口にあったようで何よりです」


「今日のご飯はユミと一緒に作ったのじゃぞ!

 のう、ユミ」

「えっ、わ、わたしはちょっと手伝っただけだよ」

「ちゃんと野菜も切ったし、火も見てたのじゃ」

「や、野菜は手でちぎっただけだし、火は見てただけだよ」

「ちゃんと手伝ったのじゃ」


「まったく、だからやりすぎだと言ったんだ」

「薪は作れる時に作るべきだって、父さん言ってたし」

「入りきらないほど作ってどうするんだ」

「村の人達も喜んでたよ?」

「苦笑いだっただろう」


「薬草が良いアクセントになってる。

 でもこのオーク肉の干し肉が・・・」

「フィル?」

「通常の干し肉でコレほどの出汁が出るとは思えない。

 肉そのものが違うと考えるべき」

「フィルって味にうるさいの?」

「いや、あれは興味があるだけだな」


道中の馬車にてすっかり打ち解けていたユミとフランは、お手伝いを通じてその仲を更に深めたようだ。

同い年で同姓というのが良かったのだろう。

フランの天真爛漫さに、母親の事で気落ちしていたユミも楽し気である。


「レキの魔術ってすごいね」

「うむ、レキはすごいのじゃ!」

「うん、だってえぃっ!ってやれば火が出るんだもん。

 えぃっ!って」

「うむ、えぃっ!じゃ」


同い年のレキも加わり、賑やかさは増していく。

森で助けられたからだろう、レキともすっかり仲良くなっていた。


「レキの魔術は通常のとは若干違う」

「そうなの?」


話題が魔術になったからか、食材を見極めていたフィルニイリスが会話に混ざった。

レキの魔術もフィルニイリス達の魔術同様、魔力とイメージによって発動する。

ただし、レキは通常の魔術と違い呪文の詠唱を必要としていない。


「通常、魔術とは魔力と詠唱、そしてイメージを重ねて発動する。

 でも、レキの魔術には詠唱が無い」

「えいしょう?」

「例えば赤の基本魔術。

 "赤にして勇気と闘争を司りし大いなる火よ"、"エド"」


魔力を指先に集め、フィルニイリスが呪文を詠唱する。

呼応するかのように、フィルニイリスのかざした指先に火が灯った。


「「おぉ~」」

「すごい・・・」

「これは赤系統の基本魔術、エド。

 指先に火を灯すだけの魔術。

 薪に火を付けるだけならこれで十分」

「えいしょうってさっきの?」


目の前で使われた魔術に感動するユミ。

レキとフランも何やら感心した様子だ。

二人とも基本魔術など何度も見ただろうが、ユミの感動に釣られたようだ。


「呪文は魔術を使用する為に必要。

 詠唱する呪文は魔術ごとに異なる」

「じゃあ魔術を使いたい人はそんだけ呪文覚えなきゃいけないの?」

「普通はそう。

 でもレキは必要ない」

「へっ、なんで?」

「レキは詠唱せずに魔術が使える。

 今更呪文を覚えても、詠唱する時間が無駄になるだけ」

「そっか~・・・」


折角だからと、フィルニイリスが魔術の講義を始めた。

目の前に魔術に興味を持つ者がいる以上、フィルニイリスはいつだって先生となるのだ。


「系統は魔術を分類分けしたもの。

 赤、青、緑、黄、それぞれが魔術の属性を司る。

 赤なら火、青なら水、緑なら風、黄色なら土」


「魔術を使用するには魔力が必要。

 魔力は誰もが持っている。

 その強さは人によって異なる」

「えっ、わたしにもあるの?」

「持ってる」

「じゃあわたしも魔術使える?」

「練習すれば使える」

「ほんと?」

「本当」


「幼い頃から魔術の鍛錬をすれば魔力は強化される」

「そうなの?」

「今から練習すればユミも強くなれる」

「レキみたいに?」

「・・・それは分からない」


ユミと、ついでにレキへ魔術の講義をするフィルニイリス。

伊達にフロイオニア王国宮廷魔術士長にして、フロイオニア王女フラン=イオニアの魔術指南役はしていないと言ったところだ。


「う~む、良く分からんのじゃ」


残念ながら生徒であるフランの覚えは悪かった。


「魔術が習いたければエラスの街に行けばいい。

 冒険者の中には魔術指南を生業とする者も居る」

「で、でもお金が・・・」

「なら今のうちに各系統の基本となる呪文だけでも覚えて練習すればいい。

 基本魔術が使えれば仕事には困らない」

「どうせならレキの様にえぃっ!で出来るようになるのじゃ!」

「えぇ~、無理だよ」

「そんなこと無いのじゃ。

 レキが出来るのじゃ。

 わらわ達だって頑張れば出来るはずじゃ!」

「ん~・・・」

「わらわは明日から練習するぞ。

 ユミも一緒にやるのじゃ」

「う~・・・。

 わかった、頑張る」

「うむ!」


レキの魔術に感化されたフランが張り切り、それにユミが引っ張られた。

同い年の少女たちのほほえましいやり取りである。


フランとユミ、辺境の村で出会った二人は「めざせ、えぃっ!魔術」という目標に向かい、努力することを誓い合った。

フィルニイリスが系統ごとの呪文をユミに教え、それをレキも覚えようと何度も復唱し、そこに混ざろうとしたフランが「教えたはず」とフィルニイリスにジトっとした目で追い返されたりしながら、カランの村での一日は平和に過ぎようとしていた。

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