第472話:王宮内でのレキ
手合わせを望む騎士達に「今案内中だから」と断り、レキが次に向かったのは魔術士達の施設。
魔術士達が住む部屋や研究する部屋、鍛錬する場所などが一つになった魔術士達の為の場所である。
王宮魔術士の区画もレキにとっては行き慣れた場所。
午前中は騎士団と鍛錬し、午後は魔術士達と魔術について勉強する。
座学と合わせ、レキは学園に入る前からある意味勉強漬けだったのだ。
騎士達はレキと言う強者と手合わせする事で己を鍛えていたが、魔術士達もまたレキの魔力について研究したり無詠唱魔術のコツを教わったりもした。
つまりは持ちつ持たれつ。
レキが得たモノは多かったが、騎士や魔術士達が得たモノもまた多かった。
そんな魔術士達が日々の研究やら研鑽やらに励む場所。
レキが訪れた時には、ファラスアルムやジガ=グが宮廷魔術士達にあれこれと質問をしていたところだった。
「後天的に他系統を得る事は出来るのですよね?」
「そういった事例は確かにあります。
ただ、それが元々あった才能なのか、あるいは無から会得したかは分かりませんが」
「獣人で四系統会得した奴っておるんか?」
「歴史上確認されているだけでも数名いますね」
思えばレキも、フィルニイリスを始めとした魔術士達にあれこれと質問したものだ。
昔を思い出しつい懐かしくなるレキである。
昔と言ってもほんの一年と半年前だが。
「おお、これはレキ殿」
邪魔をしないよう、こっそり覗き見るようにしていたレキに気付いた一人の魔術士が声をかけた。
彼等にとってレキは自分達に無詠唱魔術をもたらし、また自分達を無詠唱魔術へと至らせてくれた恩人である。
フラン王女の恩人、王の庇護下にいる少年、宮廷魔術士長フィルニイリスのお気に入り。
そんな肩書を除いても、魔術士達のレキに対する敬意は揺るがない。
「何か御用ですか?」
「ん~ん、今皆を案内してるとこ」
「なるほど、よろしければお茶でもいかがですか」
「ん~・・・今度でいいや」
以前なら魔術の勉強の傍ら、お茶やお菓子を堪能していた。
残念ながら今は大事な役目の最中。
王宮にはまだまだレキが案内したい場所は多く、ここで時間をかけてしまう訳にはいかなかった。
後ろ髪を引かれる思いで魔術士達の研究施設を出たレキは、王宮の案内を再開する。
――――――――――
騎士団の鍛錬場、魔術士達の研究施設を経て、レキが案内したのは侍女達の集まる場所だった。
「レキ様っ」
「久しぶりっ!」
ここでも歓迎を受けるレキである。
レキにとって侍女達は平民である自分のお世話をしてくれた、所謂姉や親のような存在。
誰もが優しく親切で、嫌な顔一つせずレキの食事や着替え、お風呂の支度までしてくれた。
たまに食べさせようとした人、着替えを手伝おうとしたり、一緒にお風呂に入ろうとしたり。
少々子供扱いが過ぎる気がしないでもないが、親を失い一人で生きてきたレキにとって彼女達の献身は温かく嬉しかった。
侍女達の歓迎を受けつつ、ルーシャ達に侍女たち一人一人紹介する。
当たり前の様に全員の名前を憶えているレキである。
それだけ、侍女達との仲は良いと言う事か。
なお、ここにはユミがいて、侍女達と団らんしている最中だった。
昨年同様、侍女見習いだった自分が一方的にもてなしを受ける状況が耐えられず、朝からこうしてお手伝いを申し出ているのだ。
見習いとは言え侍女として働いていた経験がある為、王宮の侍女達もユミを歓迎してる。
お客としての扱いを止める訳では無いが、お客様のご要望を最大限叶えるのも侍女の務めですと、ユミのやりたいようにさせているのだろう。
「将来の為にも経験を積んでおきたいそうですよ」
そんなユミを見守るレキに対し、侍女の一人がこっそり教えてくれた。
どうやらユミは、学園卒業後は正式な侍女として働きたいそうだ。
「どこで、かは教えてくださいませんでしたけどね」
「?」
そんな情報を笑顔で追加する侍女である。
折角だからとお茶を頂きつつ、ルーシャ達共々歓待を受けるレキ。
丁度午前中の仕事が終わったのか、皆でお茶をするところだったらしい。
王宮の案内をいったんやめ、侍女達と共にお茶を堪能するレキ達。
「それでレキ君ったら・・・」
王宮でのレキについて、侍女達が楽しそうに語ってくれる。
少々恥ずかしい気がしないでもないが、ルーシャ達が身を乗り出しながら聞き入っている為止めるわけにもいかず。
若干の羞恥を味わいつつ、変わらないお茶とお菓子、そして空気に身を任せるレキである。
王宮に来た頃から、レキはこの部屋で侍女達に見守られながら食事をしたり、お菓子を頂いたり。
村にいた頃の様に、ただの子供として過ごす事が出来た。
侍女達にとってレキは王女フランの恩人。
本来なら最上位の客人として扱わなければならない相手だった。
だが、他ならぬレキ自身がそのような扱いを求めなかった。
お客様の要望に応えるのは侍女の務め。
最初は意識的に子供として扱っていた侍女達ではあったが、数日もしない内に本当の子供のような、あるいは弟の様に扱うようになった。
それこそが、レキが本当に求めていた扱いだった。
王宮で過ごした二年。
ただの子供として、皆に見守られお世話されながら健やかに過ごしたレキ。
この部屋一つとっても多くの思い出が残る王宮は、レキにとって間違いなく故郷の一つだ。
「早々、レキ君が一度私達の着替えを間違って持って行ってしまって・・・」
思い出の中にはあまり語って欲しくないモノもあったり。
案内したい場所はまだある為、レキはお茶を一気に飲み干し、この場所から退散する事にした。
――――――――――
それからも、レキはルーシャ達を王宮の様々な場所を案内した。
昨日手入れを頼んでおいた王宮内の鍛冶場で双剣を受け取り、仕上がりの確認の為にと剣舞を披露して見せる。
黄金の魔力を纏いながら踊るように剣を振るうレキの姿は実に神々しく、ルーシャ達でなくとも感激した事だろう。
もちろんルーシャ達も感激し、感涙し、跪ついて一心にお祈りをした。
食堂では休憩中の侍女や文官達と軽食をつまみ、庭園では食堂で受け取ったお茶とお菓子でルーシャ達を持て成した。
わずか二年。
それでも案内したい場所はいくらでもあり、とてもではないが一日では回り切れない。
明日以降も案内をするつもりでいるレキだったが、リーラ達ライカウン組は明日、王都の教会に顔を出すらしい。
「レキ様のお申し出は大変ありがたいのですが・・・」
「私達にも務めがありますので・・・」
「ええ、非常に残念なのですが・・・」
と、心からそう思っているのだろうリーラ達である。
もっとも教会に顔を出すのは明日だけで、その翌日は再び王宮で過ごすらしい為、案内の続きはその時で良いだろう。
「レキ様、そろそろ」
「うん、そうだね」
一応、めぼしい場所は一通り案内できた。
今日はここまでとして、レキはルーシャ達を最初に通された客間へと連れて行く。
「どうだった?」
「ええ、素晴らしかったです(レキ様の案内が)」
「やはり素晴らしいですね(レキ様が過ごされた)フロイオニアの王宮は」
「それに皆様とても(レキ様に)好意的でしたし」
客間に通されたレキ達は、侍女達が用意してくれたお茶を飲みながらしばし談笑する。
夕食までまだ多少時間があるが、鍛錬を行うには微妙な時間でもある。
他の場所に顔を出しても良いのだが・・・下手をすれば夕食の時間まで拘束されかねない。
レキ一人ならそれでも良いが、お客であるルーシャ達を放っておくわけにもいかないだろう。
「皆様、晩餐の時間までまだお時間がございます。
今のうちに汗を流されてはいかがでしょう?」
本日もまた、晩餐は王や王妃と共に取る事になっている。
他の貴族やその子供達が来るのは明日以降。
それまでの間、レキは王宮にいた頃の様に過ごす予定である。
リーラ達はレキやフランの友人として扱われ、夕食も友人の両親と同席するという形だった。
ルーシャはともかく、リーラとファイナまでもが再び同席する事に多少戸惑う二人ではあったが、レキのライカウン教国での扱われ方なども聞きたいと言われれば同席せざるを得ない。
昨日は主に聞く側に回っていたリーラ達。
ただでさえ他国の王族にくわえ、レキと同じ食卓を囲えると言う栄誉を放棄するのも心苦しい。
教会の者なら全財産を投げ出してでも参加したがるだろうその席。
明日教会で報告する為にも、リーラ達は再び同席する事を受け入れた。
となれば失礼の無いよう、汗を流し着替えておくのもマナーだろう。
ルーシャ、リーラ、ファイナの三人は、侍女達の案内で浴場へと向かった。
なお、レキも途中までは一緒だが、残念ながら(?)浴場は別。
「「「「レ、レキ様がどうしてもと言うなら・・・」」」」
などとルーシャ達が顔を赤くしつつ淡い期待を(?)込めてレキの方を見たが、既にレキは男性用の浴場へと向かった後だった。




