第468話:レキと教会
十日に一度に休暇。
入学以来、レキはこの貴重な休暇をフラン達と共に過ごしている。
基本的には茶葉やお菓子の買い出しや学園で使用する消耗品の買い足し。
二年生になってからは武具の手入れの為、街にある武具屋へ赴く事も増えた。
フラン達と行動を共にする事に不満はなく、しいて言うなら服屋で試着をさせられまくる事くらい。
最初は女子の服すら着せられそうになったレキである。
今はもうそんな事は無いが、相変わらずフラン達の好みの服を着せされてはきゃあきゃあと騒がれる。
一応みな喜んでいるし、騒ぐと言っても素敵だとか格好いいとか言われるので悪い気はしていないが、下手をすれば半日以上着せ替えを行うのは面倒くさいし疲れるのだ。
たまにはカルク達男子だけで、とも思うが、カルクは鍛錬を、ユーリは他クラスの生徒といろいろおしゃべりを、ガージュは自室にこもって出てこない。
やる事と言えば鍛錬くらいで、それならフラン達の護衛を兼ねて街に出た方が楽しいに決まっている。
二年生になり、他クラスとの交流も盛んになったせいか、最近は他クラスの生徒からのお誘いも増えたのだが・・・。
今のところ、レキはフラン達以外の生徒と過ごすつもりは無かった。
二年生になって替わった事と言えば、新たにルーシャ=イラーやミル=サーラが加わった事だろう。
ルーシャは最上位クラスの仲間として、ミルは上位クラスだがフラン達とも仲が良く、自然と輪の中に溶け込むようになった。
他にもライラ=イラやシーラル=レイザ、マーチャなども良く中庭でお茶を飲んでいるが、彼女達は彼女達で行動しているらしい。
特にライラは、休暇中は中庭にも出ずとある男子生徒と過ごしているとか・・・。
ルーシャが加わった事で休暇の日はアデメアの街の教会に顔を出す事も増え、ミルが加わった事で街中の武具屋にも詳しくなった。
レキ達だけでは足を運ばなかったであろう、庶民向けの場所や穴場のような店、教会の者達が利用する場所やらミルの友人達が良く行く店なども紹介され、休暇の過ごし方は更に充実している。
ただ、どんなに同行者が増えようとも男子がレキだけと言うのは何故だろう。
そんな疑問にレキが至るのは、当分先の話である。
教会では、立ち寄る度に猛烈な歓迎をしてもらっている。
流石にこう何度もとなれば気も引けるのだが、ライカウン教国でしか売られていないお茶などはフランやルミニアの舌も満足させてくれた。
お菓子は手作りらしく、ライカウン教国などでは孤児院の子供にも振舞っているらしい。
ルーシャも幼い頃に良く食べていたと言う想いでの味。
作り方も覚えているそうで、今度学園でも振舞ってくれると約束してくれた。
お茶やお菓子に舌鼓を打ちながら聞くライカウン教国の話。
レキの知らない、授業でも習わない庶民の暮らしなどは、レキならずとも興味を惹かれるらしい。
レキも、冒険者になったら絶対行こうと心に誓った。
あるいはそれが、リーラやファイナ達の狙いだったのかも知れない。
「それじゃね~」
「はい、ぜひまたお立ち寄りください」
「いつでも歓迎いたします」
見送りに出てきたリーラやファイナ達に手を振りつつ、教わったお店へと足を向ける。
最近では、リーラ達にお勧めのお店を教わる事も多くなった。
十日の内九日を学園で過ごすレキ達と、アデメアの街の教会から毎日のように買い出しやらで出かけるリーラ達。
いくら一年以上過ごしていても、毎日出かけている彼女達の方が街にも詳しくなるようだ。
実のところ、リーラ達はレキ達が好みそうなお店を探すべく教会の住人たちと日々手分けして街を散策していたりする。
教会に顔を出す度に新しいお店の情報が得られる為、レキ達が教会に立ち寄る頻度も上がっている。
それもまた、リーラ達の狙いである。
教皇からもレキ様達との親睦を出来るだけ深めて下さいと厳命されているが、予想以上に上手くいっているようだ。
「今度の光の祝祭日の宴だけど、リーラ達も来る?」
「えっ?」
「来るとは、どちらにでしょうか?」
「えっと、お城」
それも彼女達の予想以上に。
――――――――――
「お、お城とは、もしかしてフロイオニア城でしょうか?」
「うん。」
光の祝祭日の前後十五日は学園も長期休暇になる。
レキ達は昨年、その休暇を利用して王宮に赴き、宴に参加した。
フランは王族として、ルミニアも公爵家として、レキはフランの護衛として。
宴は基本貴族かその子息子女しか参加できないが、紹介されあれば平民でも問題は無い。
昨年はユミやミーム、ファラスアルムも参加し、今年もまたルーシャが参加する予定である。
レキはそこに、ルーシャの姉であるファイナやファラスアルムの恩人であるリーラも呼ぼうと考えていた。
「そ、それは・・・」
「わ、私達でよろしいのですか・・・」
「うん!」
レキ直々に御呼ばれされ恐縮しきっているリーラとファイナである。
光の祝祭日とはいわばこの世界を生み出した創生神と、人々を導いた精霊に感謝をする日。
ライカウン教国にとって最も重要な一日である。
そんな重要な日に、光の精霊の申し子たるレキと共に過ごす事が出来る。
それもレキ直々に招待され、レキが暮らしていたフロイオニアの王宮に行く事が出来る。
これほどの幸運。
今まで何度も思った事だが、改めてここアデメアの街に赴任されて良かったと、二人は創生神と精霊への感謝を強くした。
因みに、光の祝祭日の宴はライカウン教国でも行われる。
また、各国各街にある教会でも様々な催しが行われる為、本来ならリーラとファイナはアデメアの教会で神事を行う予定だった。
光の精霊の申し子たるレキ直々のお誘い。
断る等ライカウン教国の住人としてありえなかった。
「謹んでお受けいたします」
「お誘いありがとうございますレキ様」
厳粛に受け止め、深く、それはもう深く頭を下げるリーラとファイナ。
まるで国王からの褒章を受け取るような、そんな態度である。
それじゃね~。
そう言って無邪気に手を振り去っていくレキをいつまでも見続けていた二人は、レキの姿が見えなくなると同時にその場に崩れ落ちた。
「「ああ・・・創生神様、光の精霊様」」
レキが教会から去った後、二人はしばらくの間聖堂内で祈りを捧げ続けた。
光の祝祭日は創生神と精霊に祈りを捧げる日。
二人は今日ほど、創生神や精霊に感謝を捧げた日は無いのかも知れない。
なお、その後二人は光の祝祭日の宴にレキ様直々にお誘いを受けましたと教会の者達に報告し、それはもう盛大に羨ましがられたそうだ。
――――――――――
そんなこんなでやって来た光の祝祭日、その休暇。
レキ達は予定どおりフロイオニア城で開かれる祝祭日の宴に参加すべく、朝も早くから学園を出て馬車の待合場所へと赴いた。
一緒に行くのはフラン、ルミニアの二人は当然として、ユミ、ミーム、ファラスアルムのいつもの三人に加え、今年はカルクとルーシャも一緒だ。
昨年は学園に残り鍛錬に勤しんでいたカルクも、今年は最上位クラスで残るのが自分だけとあって参加する事にしたのである。
宴やその料理にも興味はあるが、それ以上に昨年レキ達から聞かされていた騎士団の鍛錬に参加したくなったようだ。
どうせ寮に残ってもやる事は鍛錬くらい。
ならレキや、後で合流する予定のガージュやユーリと過ごした方が良いに決まっている。
ルーシャに関しては、リーラやファイナと同じ理由だった。
恐れ多くもレキ本人に誘われ、断ると言う選択肢は彼女達には無いのである。
更には将来は王宮の騎士団に入りたいと願っている上位クラスのミル=サーラも加わり、二年生だけでも十人。
なかなかの大所帯である。
ガージュとユーリは昨年同様家族と合流してから参加するらしく、二人もまた学園を出ている。
同じ領出身だからという理由でガージュはライラ=イラを伴っていたが、果たしてそれだけの理由だろうか。
殆どの者は他に理由があると察している。
代わりと言っては何だが、今回もフランの兄でありフロイオニア王国王子であるアラン=イオニアも昨年同様クラスメイトを伴い同伴、追従している。
同じ馬車ではないのは単純に人数の問題であり、別段フランがアランを嫌っているわけではない。
それどころか、学園に入ってからと言うものアランのフランの前では見せない様々な顔を見たせいか、以前ほど鬱陶しいとも思わなくなった。
まあ、それでもあえて同じ馬車に乗ろうとは思わないが・・・。
なお、婚約者であるローザのみならず、チームメンバーのフィルアやジガ、ラリアルニルスも同伴している。
この内、フィルアは昨年も共に王宮の宴に参加したが、ジガとラリアルニルスは今年が初めてだ。
昨年はクラスメイトとは言え平民かつ他種族の自分達が純人族の王宮で開かれる宴に参加するのはどうだろうかと控えていた。
恐らく、たまたまアランのクラスメイトになったからと言う理由で誘われるのを良く思わなかったのだろう。
例えアランが思わずとも、そこまで厚かましい真似をしたくなかったのだ。
反面、フランは昨年も獣人のミーム、森人のファラスアルムを伴っている。
フラン自身は特にこれといった思惑も無く、ただ学園で仲良くなった新たな友達と宴に出たかったと言う理由だけだったが、純人の王族であるフランが他種族の子供と仲良くする姿はフロイオニア王国や学園の理念に沿うものだった。
他種族排斥派に対する良いけん制にもなったと、後に宰相アルマイス=カラヌスは語ったと言う。
それならばと、将来王を継ぐ身として今から他種族と仲良くしている姿を宴に集まった貴族達に見せておきたい。
協力を頼めるか?
等と言われれば、ジガもラリアルニルスも否とは言えない。
そもそもアランとジガ、ラリアルニルス達の関係は親友と言っても良いほどで、今更なんの遠慮が必要なのですか?
などとローザには首を傾げられ、慣れない気は使わない方がいいとフィルアにも揶揄われてしまった。
「うっさいわっ!」
「こうなれば騎士団の鍛錬に乱入してやろう」
等と負け惜しみのようなセリフを吐いた後、思わず緩む顔を見せまいと背を向ける二人に、アラン達も苦笑を漏らさずにはいられなかったと言う。
他にもアランのクラスメイトや他の貴族の子供達も同伴し、今年レキ達と共にフロイオニアの王宮へ向かう生徒は二十人を超えた。
「・・・本当に私達が同乗してよろしかったのでしょうか」
「うん」
フランを迎えに来たリーニャ達が手配したのは六人乗りの馬車である。
学園から同行するフィルニイリス、サリアミルニスの二人に加え、王宮から迎えとしてやって来たリーニャやミリス、他の騎士の面々を加えれば三十名近い集団。
当然一~二台で移動できるはずもなく、五台ほど用意する必要があった。
折角だからと、レキ達二年生は馬車に乗るメンバーをくじで決める事。
本来、レキは学園の外ではフランの護衛と言う立場を担っているが、今のレキはあくまで学園の生徒。
いつも同じメンバーで乗るより、他の生徒とも交流を持つべきだと言われ、従う事にしたのだ。
最近のフランなら不満の一つも漏らしそうだが、ここにいるメンバーが見知った者達しかいないからか、特に反対する事無く「楽しそうじゃな」と賛同している。
なお、一回目のくじの結果、最初にレキと同乗する栄誉(?)を授かったのは二年生のカルクとファラスアルム、四年生のジガ=グ、フィルア、そして外部参加のファイナ=イラーの五人だった。
道中は休憩の度に馬車のメンバーを入れ替える事にしている為、フラン達もまだチャンス(?)はあるはずだ。
「野外演習でミリス様と手合わせしたと聞いた」
「うん、勝てなかった」
「えっ!?
そうなん!?」
四年生のフィルアやジガ=グとは昨年の武闘祭、大武闘祭を通じてレキも知己を得ている。
ファイナに関しても同じく大武闘祭や、最近では休暇の度に教会で顔を合わせている為、若干人見知りの気があるファラスアルムも問題なく会話する事が出来た。
カルクはファラスアルムほどファイナとは交流していないが、人見知りのひの字もないカルクが緊張するはずも無い。
ジガ=グやフィルアはさすが四年生と言ったところか、そんな二人とも話題を振ってくれている。
教会に務めているだけあって、ファイナも自然と溶け込んでいた。
「レ、レキ様が負けたのですか?」
「うん、だってミリス強いし」
「あれやろ?
身体強化も魔術も無し、剣技のみの勝負なんやろ」
「うん」
流石に話題はレキ中心になりがちではあるが、このメンバー含め誰もがレキに興味を持っている為仕方のない話である。
その分レキも来年や再来年の授業や学園行事について教わったり、プレーター獣国やフォレサージ森国、ライカウン教国についていろいろ教わったりと有益な時間を過ごせていた。
「・・・そう言えば、ミリス様はレキ様の剣のお師匠様でしたね」
「剣姫ミリス。
その強さは他国にも広まっている」
「へ~、やっぱすげぇんだな」
「うんっ!
だってミリスだしっ!」
学園のあるアデメアの街からフロイオニアの王都まで三日。
途中、二~三時間ごとに休憩を取る事になっており、その都度馬車のメンバーを交替する事になった。
これも交流の一環。
他の生徒達もこれと言った不満も無く、なんだかんだと楽しそうにおしゃべりに興じているようだ。
今年初参加となるミル=サーラとルーシャ=イラー。
更には教会に務めるリーラ=フィリーとファイナ=イラーの二人もまた、四年生達との交流を深めている。
四年生の中には、ミル同様騎士を目指す者もいる。
ライカウン教国について知りたがる者からすれば、教国出身の三名はぜひとも話を聞きたい相手だ。
リーラとファイナはレキが誘わなければフロイオニア王宮で行われる宴に参加するなど出来なかった。
レキに誘われた、声をかけてもらった時点で既に感謝してもし足りない彼女達ではあるが、少しでもその恩を返そうとアランを始めとした四年生達からの質問に快く答えている。
彼女達には教会での仕事があった。
流石に卒業したての若輩者に重要な仕事は任されていなかったが、光の祝祭日が近づくにつれやる事はどんどん増えていった。
教会では毎年光の祝祭日当日に催事が行われる。
その準備に奔走していた二人ではあるが、レキの誘いとあらば断わるはずもない。
精霊信仰の中心であるライカウン教国の教会である以上、光の祝祭日ともなれば、それこそ教会に務める者達総出で、丸一日様々な行事や催事を務めなければならないはずだった。
教会に残った先輩方に申し訳なさを感じつつ、その分レキやアランの為になろうと親身になって相談にも応じた。
二人がこうしてレキ達と同伴しているのは、もちろん光の精霊の申し子たるレキに誘われたからで、レキと共に光の祝祭日を過ごせるなどライカウン教国の者なら何をおいても優先すべき事柄である。
ついでにフロイオニアの王族とも知己を得られればいう事なし。
ある意味これも仕事だった。
もっとも。
「ファイナ、交代です・・・どうしました?」
「・・・夢のような時間でした」
彼女達の頭の中から、そんな事はすっかり消え去っていた。




