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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第46話:村長とお話し

馬車の中、ユミと名乗った少女とレキ、フランの三人が仲良くおしゃべりをしていた。

助けた直後こそ恐怖と混乱が強かったユミも、レキやフランと一緒にいるうちに随分と元気になったようだ。


「ユミは何であの森にいたの?」

「薬草、採りに行ってたの」

「薬草とはユミが持ってるやつかのう?」

「うん」


フィルニイリスの代わりをするかのように、レキとフランがあれこれ質問した。

同い年であり、自分を助けてくれたレキと、同じく同い年で同性のフランが相手とあって、ユミも素直に答えていた。

因みに、フィルニイリスはミリスと共に御者台に座っている。


「一人で入ったの?」

「うん」

「危ないのではないか?」

「えっとね、昔はゴブリンが出たけど、最近はそうじゃないの。

 だから大丈夫だと思って・・・」


馬車に揺られながら少しずつ、でもしっかりとユミが質問に答えていく。

そんな三人を、リーニャが少し離れた場所から眺めていた。

先ほどのユミの様子に、まずは子供達だけで話しをさせようと考えたのだが、どうやら正解だったようだ。


しばらくはレキとフランが質問をしユミが答えるという状況が続いた。

ユミの父親が不在である事、母親が病気である事、それからユミの村の話を聞いたところで、御者台に座るミリスが振り返った。


「ユミ、といったか?

 きみの村と言うのはあの村で間違いないだろうか?」

「あっ・・・うん」


ミリスの指し示す方向、そこにある村を見てユミが頷いた。


――――――――――


「あの馬車に乗ってるのはユミじゃねぇか?」

「本当だ、ユミだ!」

「ユミだ、無事だったんだな!」

「お~い、ユミ!」


村の前には数名の男達がずらっと並んでいた。

よく見れば誰もが鍬やら木の棒やらを持っている。

おそらくはユミを探しに向かうところだったのだろう。


「あっ、おじさんだ。

 ・・・村長さんもいる」

「どうしたの、ユミ?」

「なんじゃ、もしかして内緒で出てきたのか?」

「う、うん・・・」

「へ~。

 でもよく分かったね?」

「わらわも良く抜けだしては怒られたからのう」


むん、と胸をはるフランにレキがいいのかな?と首を傾げた。

もちろん良くはないという事は、後ろにいるリーニャの、にこやかなながらどこか恐ろしい笑顔が物語っていた。


なお、フランの隣では、村の人達の様子から自分が心配をかけてしまった事を察したユミが、しょんぼりとしていた。


程なくして、馬車は村の入口へと到着した。


「ようこそカランの村へ。

 ユミを連れて来て頂きありがとうございました」

「いや、礼には及ばない。

 たまたま通りかかっただけだ」

「そう言って頂けるとありがたいですな。

 せめてお茶でも飲んでいってくだされ」

「ふむ、ならばお言葉に甘えようか」


渋るユミを馬車から降ろし、村へ向かわせる。

本格的な捜索が始まる前に辿りつけたのが良かったのか、ユミも村長らしき男から軽く叱られる程度で済んだようだ。

男達も解散し、村長の言葉にミリスが御者台に乗ったまま対応した。


ミリスが応対したのは騎士団での遠征で慣れているからだ。

御者台から降りなかったのもまた、万が一戦闘にでもなった場合にすぐさま逃げ出せるようにである。

例えユミが住む村でも安全とは限らない。

馬車の中にフランが乗っている以上、常に不測の事態に備える必要があった。


対応した村長に敵意は無く、傍に控えていた男達も感謝こそすれ害する気配は微塵も感じられない。

フィルニイリスも問題ないと頷き、レキとフランが競うように馬車から降りてユミの傍へ向かい、ユミも二人を笑顔で迎えた。


続いてリーニャとフィルニイリスが、御者台からもミリスが降りた。


「全員で五人でしょうか?」

「ああ、これで全員だ。

 馬車の中も見せた方が?」

「いえ、ユミの恩人を疑うような事はしませんとも。

 さ、こちらへ」


村長の案内で村の中へと進んでいくレキ達。

途中、すれ違う村人達もレキ達に笑顔で手を振り、感謝の言葉を投げかけてくれた。


しばらく村の中を歩き、やがてレキ達は村の中でもひときわ大きな家にたどり着いた。


「まずはこちらでおくつろぎください」

「ここはあなたの?」

「はい。

 村では一番大きな家ですので」


村で一番大きいと言われ、レキとフランがキョロキョロと周囲の家と見比べる。

そのあからさまな行為に、村長も苦笑した。


馬車を裏手に止め、中へと案内されたレキ達は、一番広い部屋に通された。

当事者であるユミも一緒だ。

「森で助けた」だけですむ話ではなく、レキ達の方にも確認したい事があるのだろう。


「まずはユミを助けて頂き、誠にありがとうございました」

「先ほども申し上げた通り、たまたま通りかかっただけですので」

「そうですか・・・。

 それで、森で何があったかお聞かせ願えますでしょうか?」


村長の言葉にリーニャとミリスが答えた。

実際に助けたのはレキだが、それを素直に言っても信じてもらえないだろう。

先ほど、ユミの口からレキに助けてもらったと伝えられたのだが、村長はただ笑顔で頷くだけだった。


「ユミは森でゴブリンに襲われていた」

「・・・そう、ですか」


フィルニイリスの言葉に、村長は渋い顔で頷いた。


「ゴブリンはここ数年目撃されていないとエラスの街で聞いている。

 でもユミは襲われた。

 何か心当たりは?」

「・・・いえ、正直わかりませぬ。

 あの森は私達も良く行きますので。

 以前はゴブリンが出て危険でしたので、なるべく森の浅い所で採っていたのですが」

「最近は見ていない?」

「はい」

「なるほど」


村長の言葉にフィルニイリスも頷いた。

エラスの街を出る際、領主である男からも森の奥まで行かなければ大丈夫だと聞いていた為、村長の言葉を疑うつもりはない。

だが、実際に森のそれほど深くはない場所にゴブリンが現れ、ユミが襲われている。

レキが間に合わなければ、今頃ユミはゴブリンの餌食となっていただろう。


村長がユミを見る。

本当にゴブリンが出たのか疑っているようだ。

いや、正しくは信じたくないと言った方が良いのか。

だが・・・。


「うん・・・ゴブリンだった」

「・・・間違い、無いのか?」

「・・・うん」

「・・・そうか」


襲われた事を思い出したのか、ユミが力なく答えた。

森にゴブリンが出た以上、今後はうかつに森へ入るわけにはいかなくなる。

入る場合は、これまで以上に用心する必要があるだろう。

最悪、護衛として冒険者などを雇う必要も出てくるのだ。


「前はゴブリン出たんだよね?」

「・・・ええ」


レキの言葉に、村長が辛そうな表情を見せた。

理由は分からずとも辛そうなのは分かったのだろう、ユミが村長を気使うような素振りを見せた。

そんなユミの素振りに、村長が重たい口を開いた。


「この村は数年前まで食べるのがやっとでした。

 もちろん畑などはありますが、何分村の規模が小さく税を払うのも厳しいものがありまして」


カランの村があるのはエラスの領内である。

当然、領主に税を納める必要があった。

豊かな村ではない為、税を払えば村人が食べて行くので精一杯だったらしい。


「どれだけ畑を耕しても豊かにならなず、我々は日々の暮らしで精一杯で、収穫が多い年は税が上がり、少ない年は生きていけるギリギリの税を取られました」


前領主の時代、領主が好き勝手やっていたという話はリーニャ達も聞いている。

それでも国として何も対策を取らなかったのは、国への報告に問題がなく、またエラスの街が王都から遠く目が行き届かなかったからだ。

それを良い事に好き勝手やっていた前領主。

それがこのカランの村を苦しめていた原因だったようだ。


だがそれも、領主が代わった事で改善されたはずなのだが・・・。


「エラスの街は領主が代わった。

 税なども見直されたのでは?」

「はい、二年ほど前から税は下がってはおるのです。

 ですが、前領主の時に幾人かの村人が村を出て行っておりまして・・・」


前領主時代の苦しい生活に耐え切れなくなった何人かが、領主が交代する前に村を離れていった。

結果、人手が足りなくなり、村全体の生活は苦しいままという状態が続いているのだそうだ。


「幸い、領主が代わる少し前より森からゴブリンの姿が見えなくなりましたので、木の実や薬草を採ったりしてはいたのです。

 領主が代わってからもそれは続いておりますが・・・」

「以前の生活に戻るのは厳しいと?」

「何分人手が足りませんので・・・」


新領主になってから税の方は大分改善され、生活も多少は上向きになったそうだが、離れていった村人たちは帰る気配をみせず、ユミの父親のように街に出稼ぎに出たまま戻らない者も多いそうだ。


「ゴブリンはもう倒したのじゃろ?

 じゃったら問題は無いのではないか?」


今回目撃されたゴブリンは全部で五匹。

その全てをレキが倒している。


「レキ、どう?」

「ん~、まだいっぱいいたよ?」

「どのくらい?」

「わかんない」


だが、ゴブリンは森の奥で巣を作り、群れで活動する魔物である。

群れの数は不明だが、さすがに五匹という事はないだろう。

最低でも十数匹、多い時には百匹を超えるほどの群れを作る場合もある。


「レキ、昨日のギルドでの話は覚えてる?」

「ん、どれ?」

「ゴブリンの討伐依頼を受けた冒険者が返り討ちにあったという話」

「あ、うん」

「依頼内容はゴブリン五匹の討伐。

 でも実際には数十匹の群れだった」

「うん、それで村は五匹じゃなくて五匹以上って報告する話だよね?」

「そう」


ゴブリンは群れで行動する。

逆を言えば、ゴブリンは滅多な事では単独行動はしないのだ。


そのゴブリンが五匹。

他の魔物ならばそれが全てである可能性もあるだろう。

だが、ゴブリンに限っては五匹で全部である可能性は極めて低い。

冒険者ギルドでは、依頼を出す側と受ける側との責任の例としてその話を持ちだしたが、現実的にはゴブリン五匹討伐という依頼などまず無い。

ゴブリンを見たら最低でもその倍はいる、というのが冒険者の中での共通認識なのだ。


だが、それはあくまで冒険者の認識の話。

冒険者ではない村長やユミにとっては、自分が見聞きした物が全てである。

それ以上の魔物が森の奥に潜んでいるといわれても、にわかには信じられないだろう。

いや、この場合信じたくない、と言った方が正解だろうか。


「・・・ゴブリン、まだいるの?」


レキとフィルニイリスの話に項垂れている村長に代わり、ユミがそう不安げに聞いてきた。


先ほど、ユミは五匹ものゴブリンに襲われたばかり。

あの時はレキがいたから助かった。

レキの強さがどれほどのものかは分からないが、少なくとも五匹程度のゴブリンなら問題は無い事も分かっている。

だが、もっとたくさんのゴブリンが出できたとしたら・・・

五匹なら倒せても、十匹なら?


「うん、森のもっと奥の方に凄いいっぱいいるみたい」

「・・・うぅ」


そんなユミの不安も知らず、むしろ不安を煽るような発言をしてしまうレキである。

レキの、魔物を察知する能力は優秀だ。

魔の森で鍛えられたその力は、平原においても夜の闇にまぎれて行動するゴブリンを向こうより先に察知できるほど。

同じ森ならなおさら。

まず間違いなく、ゴブリンは凄いいっぱいいるのだろう。


レキの腕をつかみ、ユミが涙目でレキを見た。

村長はもはや言葉も無いといった感じである。


「それでどうするのじゃ?」


沈黙を破ったのはフラン。

この場合の「どうする」は、もちろんそのゴブリンをどうするかだ。


「フランの言いたい事は分かる。

 でも、それを決めるのは私達ではない」

「にゃ?

 どういうことじゃ?」

「あの森にゴブリンが出て困るのはカランの村。

 村の問題は基本的に村で解決すべき。

 そして、解決できない問題は領主に報告する、それがルール」

「・・・むぅ」


フィルニイリスの言葉に、フランが考え込むような仕草をした。

まだ幼いながらも、王族であるフランには街や村の関係などもある程度教わっている。

フィルニイリスの話も、納得は出来ずとも理解は出来た。


「レキも」

「オレ?」

「この問題はあくまでこのカランの村の問題。

 レキが勝手に解決していい話ではない」

「で、でも・・・」

「レキは冒険者の仕事を奪うつもり?」

「ん~・・・」


そしてレキ。

フィルニイリスに釘を刺される前は、さっと行ってさっくり倒せばいいやなどと考えていた。

レキの力があれば、それこそ半日とかからずに解決するだろう。


だが、今回の事態はあくまでカランの村の問題である。

森にゴブリンがいると言っても、直接襲って来ない以上早急に解決する問題ではない。

今のところは直接的な被害も出ていないのだ。


村で話し合い、領主に判断をあおるなり、冒険者ギルドに依頼を出すなりすれば良い。

その為に村は領に所属し税を支払っているのだし、街には冒険者ギルドと言う組織もあるのだから。


今回のような事態こそ、冒険者の出番とも言える。


村から領主に報告が行き、領主から冒険者ギルドへ依頼が発行され、冒険者がその依頼を受けて森へ向かう。

その一連の流れは、レキが片手間で片付けて良いものではない。


そう諭され、レキもまた黙りこんでしまった。


「それで、どうする?」

「どうする、とは?」


レキとフランが黙りこんだのを確認したフィルニイリスが、再度村長に問いかける。

どうする、とは言わずもがなゴブリン対策である。


「村の近くにゴブリンが出た。

 数は不明。

 少なくとも五十匹以上は居ると考えた方が良い。

 通常なら領主に報告するべき問題」

「しかしですな・・・」

「既に村人がゴブリンに襲われている。

 ゴブリンが群れで行動することくらいあなたも知っているはず」

「え、ええ、それはもちろん」

「群れとは通常数十匹を指す言葉。

 五匹程度は群れとは言わない」


「そうなの?」

「しっ」


「以前にも森にゴブリンがいたと聞いている。

 その時はどのくらいいた?」

「そ、そうですな・・・やはり数十匹は」

「ならば今回も同程度はいると考えるべき」

「そう、ですな・・・」


フィルニイリスの説明に対し、村長の言葉は少しずつ力を失っていった。

ゴブリンは群れで行動する。

群れの数はまちまちではあるが、最低でも数十匹はいると考えた方が良い。

フィルニイリスの提示した五十匹というのは平均的な数である。


なお、森や洞窟内に巣を作り、数匹ずつに分かれて行動するのがゴブリンの習性である。

今回ユミが襲われたのも、分かれて行動していたゴブリンなのだろう。

森のさまざまな場所では、今も五匹前後のゴブリンが闊歩しており、奥にはゴブリンの巣が有るに違いない。


「へ~」

「さすが、フィルは物知りじゃのう」

「こらっ」


「それで村長、あなたはどうする?」

「・・・やはり、領主に報告するしかありませんな」

「そう」

「流石に、私達ではどうすることも出来ませんので」

「うん」


結局、現状ではどうする事も出来なず、この問題は領主預かりとなった。

レキが一人で森に赴けばあっさりと解決するのだが、それでは村と領主、そして冒険者との関係に軋轢を生みかねない。

よく分かっていないが、冒険者の仕事を奪ってはならないと言われて、レキも納得済みだ。

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