第465話:植物学とは
「薬草と言ってもその効能は様々だ。
傷を治す物、毒を打ち消す物、病に効く物から精神を落ち着かせる物など様々な効果を持つ植物がある。
そう言った薬効のある植物の事を総じて薬草と呼んでいる」
選択授業とはいえ座学は座学。
椅子に座り、机に教科書を広げ教師の話を聞くのは変わらない。
内容が専門的である事を除けば、昨年までの座学と同じなのだ。
自分で選択した授業。
加えて、今聞かされているのは将来冒険者になった時にも役に立つ内容。
興味もあったのだろう、レキやカルク達も選択授業中に居眠りをしたことは今のところまだ一度も無い。
「大抵の植物はそのまま食しても対して効果は出ない。
細かくすりつぶし、煎じ、様々な手を加える事で成分が凝縮され高い効果を発揮するようになる。
薬士の中には青系統の魔術を用いて加工し、より高い効果のある治癒薬を生成する方もいる。
こちらはまた別の知識が必要だがな」
薬草は大抵の森には生えているが、似たような植物もまた多い。
中には薬効どころか毒を持つ植物すら森には生えている。
そう言った植物を正しく見分ける為にも、植物学の授業は有用だ。
例えば将来、冒険者ギルドから薬草採取の依頼を受けた場合・・・。
薬草を見分ける事が出来なければ依頼を達成する事は困難だろう。
手あたり次第採取し、適当に詰め合わせて納品してしまえば、選別と仕分けと言う余計な仕事を冒険者ギルドに与えることになる。
当然、その冒険者の評価は下がり、ついでに報酬からも引かれてしまう。
薬草だと重い採取納品したのが毒草だった。
そうなればもはや厳罰もの。
冒険者にも正しい知識は必要なのだ。
なお、冒険者は誰もが青銅ランクから始まる。
いくら魔の森のオーガを倒せるレキとて、最初はこう言った薬草採取から地道に実績を重ねなければならない。
上のランクに上がる為にも、レキ達はこの選択授業はとてもまじめに聞いている。
「同じ薬草でも採取した場所によって効果が異なる場合がある。
理由は様々だが、特に魔素の濃い地域で採取された薬草はその効果も大きいらしい」
食用植物に関してはある程度知っているレキだが、薬草に関しては正直さっぱりである。
これは何もレキだけに限った話では無く、大抵の怪我は治癒魔術で治ってしまう為、青系統の魔術を使える物は薬草や治癒薬に頼る必要が無いのだ。
しいて言うなら魔力回復薬くらい。
重度の毒や病など、高価な治癒薬で無ければ治らない物もあるが、よほどの事が無い限り青系統の魔術で事足りてしまうのである。
逆を言えば、魔術では治らない毒や病が存在すると言う事。
どれほど魔術が発展しても、治癒薬やそれの原料となる各種薬草の需要は無くならない。
「この世界の人は誰だろうと魔力を持っている。
だが、全ての人が魔術を使える訳では無い。
魔術を使えるからと言って青系統に適性があるとも限らない。
治癒薬と言うのは魔術を使えない者達にとって必要な物であり、その効果も魔術に劣るものではない」
そもそも魔術士自体それほど多い訳では無く、村に一人いれば良い方で、実際カルクやユミのいたカランの村には魔術士は一人もいなかった。
獣人などはそもそも魔術に適性が無く、怪我の治療にも治癒薬を頼っているのが現状である。
平民のみならず、冒険者にも薬草や治癒薬の需要はある。
青系統が使えない者は当然として、使える者も魔力の節約や魔力が切れた場合を想定し、念の為にと持ち歩く者は多い。
もちろんその分荷物になる為持ち歩く量は考えなければならないが、大抵の冒険者にとって治癒薬は無くてはならない物なのだ。
それは騎士とて同じ。
故に、冒険者ギルドには薬草採取の依頼が常設されており、魔木(見習い)や青銅(初心者)ランクの冒険者が日銭を稼ぐ為に受ける事も多い。
薬草や治癒薬は、人々に生活に必要な物なのだ。
植物学とはそう言った知識をも学ぶ。
薬草の効能からどういった利用方法があるのか、需要と供給など。
植物その物の知識に加え、そういった知識まで学ぶ事が出来る。
「世の中には薬草によく似た植物も多く、中には毒を持つ植物もある。
間違った知識や浅い知識を元に採取してしまえば、最悪その毒で他者を死に至らしめてしまう可能性もあるのだ。
そうならない為にも、学ぶなら正しく学び、しっかりと理解しろ、いいな」
因みに、毒草は毒草で需要はある。
調合次第で解毒薬になったり、毒自体魔物を仕留める際に利用する事もある。
竜殺しの毒草から抽出した毒を塗布した矢を用いてワイバーンを仕留めたり、あるいは洞窟に潜むゴブリンを一掃する為に散布したり・・・。
扱いには注意が必要だが、毒も時に役に立つのだ。
中にはあえて摂取する事で毒に対する免疫や耐性を得ようとする命知らずもいるが、成功率はあまり高くない。
そんな一部の阿呆はともかく、毒だからと言って最初から忌避するのではなく、正しい知識を得て理解するのが重要なのだ。
「先ほどの話に出てきた竜をも殺す毒草だが、現物を見た者は非常に少ない。
もはや現存していないのではと言う意見すらあるほどだ。
希少価値は当然高いがまず見つからないだろう、ただ万が一見つけてもそれを毒草と知らねば間違って食べてしまう恐れがある。
故に毒草の知識もしっかりと身に付けるべきだ」
なお、その竜殺しの毒草は魔の森にあるとある小屋の裏手に今も大量に生えている。
他にも発情したオークすら眠らせる毒草や死者を生き返らせる薬(ただし知性も理性も無い生ける屍として)などもある為、植物学を専攻する者にとってあの場所は宝の山に違いない。
もっとも、そこにたどり着ける者など限られているのだろうが。
「大昔の賢者が研究していた、とも聞いた事があるが、定かではない」
「へ~・・・」
その賢者が建てた小屋に住み、賢者が育てた幻の毒草を食べていたレキ。
本人に自覚は無いが、レキの存在こそ最も希少性が高いのかも知れない。
――――――――――
さほど人気の無い植物学。
だからこそそれを専攻した者は基本的には真面目に授業を受けようとする者ばかり。
将来の為にとレキ、カルク、ミームですら居眠りせず真面目にしっかりと授業を受け、冒険者になった時に活用しようと頑張っている。
頑張っているのはキ達以外も同じ。
自分で選んだ授業に真剣になるのは当たり前の事。
「同じ薬草でも効果に違いがあるのは分かりました。
では逆に、違う薬草でも同じ効果のある物はあるのでしょうか?」
「もちろんある。
例えば治癒薬を生成する際、別の薬草で代替する場合もな」
「なるほど・・・」
授業中にはこうして積極的に質問する生徒も多い。
「では二種類の薬草を混ぜる事で効果が上がったりは?」
「それは薬学や錬金学の分野だな。
薬草の成分、と言う意味では植物学でも多少は扱うが」
「なるほど・・・」
例えば将来、家を継ぐ事の無い次男三男辺りの生徒も、植物学などを学んでおけば将来薬士や錬金術士になれるかも知れない。
あるいは薬草などを専門的に扱う商人になるのも良い。
幸い需要はあるのだ。
今から将来を決める必要は無いかも知れないが、早いに越した事はないのも事実。
「先生、この植物はどのような味がするのでしょうか?」
「味については実際に試さねば分からんだろうな。
ああ、毒草についてはとても食べられた味ではないと言うのが一般的だが、中には非常に美味な物もあるらしい。
もちろん食べたら死ぬがな」
「え~」
興味本位で授業を選択した者も、選択した以上は真面目に受けているようだ。
適当に選んだ生徒はおらず、意識も高い。
時に子供らしい純粋な質問も飛び交う中、本日の植物学も無事終わった。




