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黄金の双剣士  作者: ひろよし
三章:レキの力
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第45話:ユミとの出会い

森の中、一人の少女が走っていた。


少女は森からほど近い村に住んでいる。

数日前から寝込んでいる母親の為、森に生えている薬草を採りに来ていた。

父親は少女の村から一日ほど行った場所にある、エラスという街に出稼ぎ中である。

最初はただの過労だと思い看病をしていたのだが、なかなか治らない母親を見て、薬草を採りに森に入ったのだ。


森にはゴブリンがいる。

森の近くにある村に住む者なら、森にどのような魔物が生息しているかは生きる上で必要な情報である。

村の近くの森にも、他の森同様ゴブリンが住み着いている。

だが、森のごく浅いところなら遭遇する事は滅多に無い。

ゴブリンのような集団で行動する魔物は、基本的に森や洞窟の深部に巣をつくる。

少女が今いる森もまた、最奥にはゴブリンの巣があるらしい。


正直に言えば怖かった。

魔物の中では下級のゴブリンと言えど、戦う力のない村人からすれば十分脅威なのだ。

少女のような幼い子供にとっては、ゴブリンは自分達を襲う獰猛な魔物でしかない。

捕まったら確実に殺される、正しくは食べられてしまうのだろう。

そう考えたらとてもじゃないが森になど近づけなかったが、苦しむ母親に何かしてあげたい一心で、少女は勇気を出して森へと入っていった。


村を出て約半日、少女は薬草の群生地へとたどり着いていた。

村の近くのこの森は、昔から村の人達が薬草や木の実を採りにくる場所である。

木の実は村の食料に、薬草は村の大切な収入源となっている。


森の浅いところなら、少女も何度か来た事があった。

薬草が生えている場所は、普段立ち入る場所より少しだけ奥にある。

多少迷いつつもなんとかたどり着き、少女はその場にしゃがみこんで薬草を採取した。


そして・・・。


採取を終え立ち上がった少女が見たものは、森の奥からゆっくりと近づいてくる、五匹のゴブリンだった。


――――――――――


「あと半日ほど進めば村が見えてくるはずだが・・・」

「なんにも無いね~」

「森と道しかないのじゃ」


御者を務めるミリスが馬車を進める。

その両脇には、馬車の中は飽きたのかレキとフランが陣取り、周りの景色を楽しんでいた。


エラスの街を出てから約半日。

道中は実に平和で、街を出る際に襲ってきた男達以外は何事もなく馬車を進める事が出来た。

男達の襲撃はレキの魔術の暴発(?)によりあっけなく終わっている。

・・・街道が少しばかり悲惨な状態になった事は、若干問題ではあったが。


街の外というのが幸いしたのか、あるいは襲撃してきた男達がエラスの街の札付きだったからか、過剰とはいえ正当防衛であった為に街の衛兵からのお咎めは無かった。

それでも過剰な力を振るった事に変わりはなく、いくら殺傷力の低い魔術だったとしても数人の男達をまとめて吹き飛ばすような魔術を安易に使ったのは悪い事だとして、しばらくの間レキは馬車の中で反省させられていた。


食料も十分確保していた為、休憩中にレキが狩りに行く必要は無かった。

今度こそ狩りについていこうとしていたフランが若干不満気だったが、そもそも街から半日程しか離れていない場所で魔物と遭遇する事は滅多に無い。


そして現在、地図によればもうそろそろ村が見えて良さそうな位置にまで、レキ達はやって来た。


「村か~。

 どんなとこかな?」


元々は魔の森近くの村に住んでいたレキ。

街という未知なる場所には期待をこれでもかと膨らませていたレキだが、村は村で街とは違う思いがあるようだ。

望郷の思いに駆られた、という訳では無く、単純に自分のいた村との違いに興味があるのだろう。


「これから行くのはカランの村。

 畑と森の木の実、森で採れる薬草が主な収入源の村」

「ふ~ん」

「面白い物はあるかのう?」

「多分ない」


村についての説明をフィルニイリスから受ける。

街と違い村はあくまで人が住む為の場所であり、ほとんどの村にはこれといった店は無い。

人通りの多い村なら宿屋くらいあるが、あいにくエラスの街へ行く者は少なく、当然その途中にあるカランの村には宿屋も料理屋も無いのだ。


「そっか~・・・ん?」


そういえば自分の村にも何もなかったな~と、納得したレキがふと向かって右側、森の奥へと視線を向けた。


「レキ、どうした?」


ミリスの問いかけに反応するより先に、レキが御者台から飛び出した。


「レキっ!」

「ゴブリンっ!

 あと誰か襲われてるっ!」

「なっ!」


そう言い残し、レキが森の奥へと文字道り飛んで行った。

止める間もなく飛んで行ったレキ。

仕方なく、ミリスが馬車を止めた。


レキを追いかけたいところだが、何分こちらにはフランとリーニャがいる。

レキの言う事が本当なら、目の前の森にはゴブリンが生息している事になる。

いつゴブリンが出てくるか分からない状況で、フランとリーニャを置いてレキを追いかけるわけにはいかなかった。


「全くっ!

 レキはまた勝手にっ!」

「問題が無いわけではない。

 でもレキの言葉を信じるなら事は一刻を争うかもしれない」

「誰かがゴブリンに襲われている、か」

「そう」

「でしたらレキ君の行動は間違いとは言い切れませんね。

 この中で一番強く一番速いレキ君が救出に向かい、ミリス様とフィルニイリス様が馬車に残るのが最も確実ですから」

「む~・・・」

「人の命がかかっているならなおさら。

 間に合わなくなる前に行動すべき」

「う~・・・」


今回もまた一人で飛び出していったレキに、フランが頬を膨らませた。

以前とは違い、人の命がかかっているという状況に不満はあれど文句を言う訳にはいかなかった。


森で魔物に襲われるというシチュエーションが、自分達と重なったという事もあるのだろう。


ただ、今回も「行ってきます」の一言が無かった事に、フランの頬がさらに膨らんだ。


――――――――――


フランの頬の膨らみ具合も知らず、レキは一人森の奥へと向かった。


姿は見えずとも、レキは気配で魔物を察知する事が出来る。

魔の森での暮らしで必然的に身に着けたその能力で、レキはゴブリンの存在を完全に捉えていた。

同時に、そのゴブリンの群れから必死で逃げているか弱い存在も。


(ゴブリンは五匹くらいかな?

 逃げてるのは、ん~・・・子供?)


近づくに連れ、ゴブリンの正確な数も逃げてる存在もはっきりと認識できるようになる。

五匹のゴブリンが跳びはねるように移動している様子も、その前方を人の子供らしき存在が必死に走っている事も。


そして、両者の距離が徐々に近づいている事も。


レキは全身に黄金の魔力を纏い、木々の間を飛ぶように駆け抜けた。


「いたっ!」


やがて、レキの視界がゴブリンを捉えた。

五匹のゴブリンと、追われている少女。

魔術を使えば牽制の一つも出来るのだろうが、あいにくと今のレキの魔術では少女を巻き込みかねない。

下手すれば森の一角すら吹っ飛ばしかねない為、レキは全身に魔力を纏わせただひたすらに駆けた。


あと少しというところで、少女が木の根に足を取られて転んでしまった。


「あっ!」


倒れた少女にゴブリン達が近づく。

疲労のせいか、それとも転んだ時にどこか痛めたのか、立ち上がる事が出来ない少女の周りを、まるではしゃぐように飛び跳ねながら少しずつゴブリンが近づいて行った。

しりもちをついた格好で、少女もまた必死になって距離を取ろうと後ずさるも、それはもはや悪あがきにしか過ぎなかった。


近づいたゴブリンが、少女を捕まえようと手を伸ばす。


母親の為に採ってきた薬草を大事に抱え、少女は恐怖に目を閉じた。


「てやっ!」


直後、レキの剣がゴブリンの首を両断した。


――――――――――


今まさに少女を捕まえようとしていたゴブリンの首をはね、すぐさま残りのゴブリンも仕留めたレキ。

目の前の現実に追いつけないのか、しきりにまばたきをしながら少女がレキを見る。


「大丈夫?」

「・・・あっ、えっ?」


レキの声に我に返ったのか、少女が反応を示した。

ただし、現状を認識するにはもう少しかかるようだ。


「えっと・・・」

「・・・ひっ!」


少女になんと声をかければ良いか分からず、レキが戸惑う。

そんなレキの様子に、少女がつい周囲を見渡し、小さく悲鳴を上げた。


少女の周りには、首のないゴブリンの死体が転がっていた。


再び怯え始めた少女に「どうしよう」とレキが首を傾げる。

だが、いつまでもこんな場所にいても仕方ないと少女に手を伸ばした。


「えっ?えっ?」

「とりあえず森を出よ?」

「あっ、うん」


差し出された手をただ見つめる少女に、レキが森を出ようと伝えた。


現状を把握しきれていない少女だが、それでも分かる事はある。


自分はゴブリンに殺されそうだった。

そのゴブリンが自分の周りで死体となっている。

おそらくは目の前の少年がゴブリンを倒してくれたのだろう。


そして・・・自分の手には薬草があった。


目の前の少年が何者なのか。

分からない事だらけな状況ではあるが、自分が何の為にこの森に来たのかを思い出した少女は、目の前の少年の手をとった。

そして・・・


「またゴブリン出るかも知んないから、ちょっと急ぐね」

「う、うん」


少女が手を掴むと、レキはその手を軽く引いて少女を立たせる。

そのまま右手を少女の首後ろに、左手を少女の膝裏に当てて持ち上げた。


「きゃっ!」

「しっかり捕まってて!」

「えっ、きゃ~~~~っ!」


少女は両手で薬草を抱えている。

背負う事は難しく、仕方なくレキは両手で少女を抱え上げた。


いわゆるお姫様抱っこだった。


「~~~~!」


両手に薬草を持っているせいか、いまいち不安定な体勢でただレキに抱かれるしかない少女が、それでもなんとか振り落とされないよう体を必死で丸める。

自分が落ちないように、それ以上に手に持つ薬草を落とさぬよう、少女はレキの腕の中でただただ丸くなるしか無かった。

そんな少女をレキはしっかりと抱き、来た道を戻り始めた。


――――――――――


「帰ってきたようですね」


街道では、置き去りにされたフラン達が何をするでもなくただ馬車の中で待っていた。

レキを置いて進むわけにはいかず、かといってレキを追いかけて森に入るわけにもいかない。


相談も無しに飛び出していったレキ。

事が事だけに咎めるわけにもいかず、とりあえず戻ったら詳細を聞き出そうとおとなしく待っていた。


リーニャの指差す方向から、ここ数日でそれなりに見慣れた黄金の光が近づいてきた。

最初はただの点の様に見えたその輝きは、瞬きする間に大きくなった。


「ただいまっ!」


「おかえりなさいレキ君。

 それで、何があったか教えてくれますか?」

「えっとね、森でこの子がゴブリンに襲われてたから助けてきた」

「それはご苦労様でした。

 お怪我はありませんか?」

「大丈夫っ!」


出迎えたリーニャにレキが元気よく報告する。

初めてのお使いに行ってきた子供の様で、リーニャも思わず笑顔になった。


独断専行は褒められた行為では無いが、人の命がかかっていたのであればやむを得ないだろう。

一刻を争う状況では、相談する時間すら惜しい場合もあるのだ。

見たところ少女の方にも怪我は無く、レキはちゃんと間に合ったらしい。


「その子は?」


レキの腕の中、不安そうにリーニャ達を見る少女についてフィルニイリスが尋ねた。

森へ向かう際「誰か襲われてる」とレキが言っている以上、その少女こそが襲われていた誰かなのだろう。

案の定「ゴブリンに追いかけられてた子」とレキが報告した。


「レキ、もう少し詳しく聞きたい」

「うん」


事後報告としても内容が少なすぎるレキに、フィルニイリスが護衛としてさらなる情報を求めた。


ただ、残念ながら報告しようにも何をどう話せば良いか、レキは分からないらしい。

フィルニリスも理解したのか、自分の方から質問するという形での報告となった。


「まずその子の名前。

 どこから来たのか。

 何故森にいたのか。

 ゴブリンに追われていた理由は?」

「えっと・・・」

「何も聞いてない?」

「うん」


残念ながら、レキはここへ来るまで何も聞いていなかった。

これが騎士団の任務であれば失態だろう。

助けた相手が敵である可能性もあるのだ。


「質問、いい?」

「えっ、あ、はい」


まあ、レキの腕の中で所在なさげにしている少女が敵だとは思えないが。

見たところレキやフランと同い年くらいだろう。

恰好からすればおそらく平民の、それも簡素な村の少女と言ったところだ。


「あなたはカランの村の子?」

「う、うん」

「その手に持っているのは薬草?」

「うん」

「森へはそれを採りに?」

「うん」

「何故一人で?」

「う・・・」


ゴブリンに襲われたからか、あるいは森の中抱えられた状態で移動したからか、若干の怯えが見える少女にフィルニイリスが矢継ぎ早に質問をする。


少女は、レキ達がこれから向かうカランの村の少女だった。

薬草を手にしているところを見れば、森にいた理由は薬草の採取なのだろう。


森にはゴブリンがいた。

魔物がいる森に子供が一人で入るなど、襲ってくださいと言っているようなものだ。

村の子供であればゴブリンがいる事くらい知っていたはず。

それでも少女がたった一人で森に入った理由。


おそらく、親しい誰かの為薬草が必要だった、と言ったところだろう。


だからと言って一人で森に入るのが良いはずがない。

実際、少女はゴブリンに襲われていたのだ。

あと少しレキが遅かったなら、今頃は・・・。


「森にゴブリンが出るという話は聞いてる。

 そんな森に何故一人で?」

「あ~、とりあえずそこまでにしておけフィル」


まるで詰問する様なフィルニイリスに少女も口ごもり縮こまった。

別に、フィルニイリスとしては彼女の行動を咎めるつもりは無かった。

むしろ、彼女の身を案じているが故にこのような厳しい口調になっているのだが、初対面の少女にあまり厳しい事を言っても仕方ないだろうとミリスが止めに入った。


「これは大事な事」

「それは分かるが、何もこんなところで話す必要はないだろう。

 彼女もいろいろあって混乱しているようだしな」

「・・・仕方ない」


少女を気遣うミリスに、フィルニイリスもあっさりと引いた。

少女の方も、フィルニイリスの質問に反省しているのだろう、小さく「ごめんさい」と呟いた。


「名前はなんというのじゃ?」


そんな少女にフランが名前を尋ねる。

天真爛漫で好奇心旺盛なフランは、初対面の相手にも物怖じしない。

ましてや相手は自分達と同い年くらいの少女。

お話ししたくなったようだ。


「・・・ユミ」

「ユミじゃな。

 わらわはフラン!

 よろしくなのじゃ」

「あっ、俺はレキ。

 よろしく」

「う、うん」


元気なフランとレキに、少女、ユミもようやく笑顔を見せた。

大人達とは違い、子供達は打ち解けるのも早いのだ。

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