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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十三章:学園~二度目の野外演習~ 後編
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第455話:ミル=サーラの目指す騎士

「あの、レキ様」

「うん?」


野外演習四日目の夜。

諸事情により、レキは上位クラスのミルと見張りを行っている。


クラスの違う二人ではあるが知らない間柄ではなく、むしろ仲は良い方だ。


昨年の武闘祭以降、中庭での鍛錬にはミルもほぼ毎日参加するようになった。

レキがミリスの愛弟子という事もあり、最近では手合わせを通じて指南のような事を行ったりもしている。

二年生になってから始まった選択授業でも、レキとミルは魔物学などで一緒に授業を受けている。

共通の話題も多く、二人っきりで話す事も結構ある方だ。


にもかかわらず、どこか居心地が悪そうにするミルである。

おそらくは昼間助けられた事に対する申し訳なさと感謝の気持ち、あるいは情けないところを見られてしまった羞恥か。

あるいは初めて見たレキの本当の実力に圧倒されたからか。

それとも・・・。


「昼間はありがとうございました」


ミルも決して弱くはない。

上位クラス一番手の実力は伊達ではないのだ。

実際、昨日の戦闘では数体のゴブリンを撃退している。


ミルは今まで命の危機に瀕した事は無かった。

昨年の武闘祭では、個人戦でミームに、チーム戦ではレキ達のチームにそれぞれ敗北してるが、それはあくまで試合の話。

実戦で負けた事は当然ながら無く、ましてや殺されかけた事などあるはずが無い。


ミルは幼少の頃より騎士を目指し鍛錬を重ねてきた。

そのかいあってか実力は上位クラスで一番手、最近ではユーリやカルクにも勝てるようになっている。

昨年の武闘祭を圧倒的な実力で優勝したレキ、ルミニアやフランと言う高位の貴族子女でありながらミルを上回る実力者を目標に鍛錬を重ねるミルは、慢心する事無く向上心を持ち続け、相応の実力を持った優秀な生徒である。


それでもミルはまだ学生で、どこか油断があったのかも知れない。


昼間の戦闘。

ライを探しに向かったミル達は、そこでゴブリンと戦っているライと、そのライが庇っている中位クラスの生徒達を見つけた。

ミルが中位クラスの生徒を、残る仲間がライを中心に戦うのは実力的に正しかったはずだ。

中位クラスを中心にミル達が守りながらと言う手もあったかも知れないが、あの状況では難しかった。

あの場面では手分けするしか無く、実力的にはミルが向かうしかなかった。


それでも。


「大丈夫だった?」

「はい、皆さん無事です」


ミルは騎士を目指している。

ミルの成りたい騎士は弱者を守る存在だ。

弱気を助け強気をくじき、民の為に命をかける事が出来る者。

それがミルの憧れる騎士だ。


昼間のミルの行動は、まさにミルが目指す騎士の行動だったと言って良い。

ライを助け、中位クラスの生徒を守り、己が傷ついても最後まで守るべきものを背に戦った。


恐怖はあった。

それでもミルに後悔は無かった。


決して死にたかったわけでは無い。


当たり前だ。

誰だって生きていたいと思う。

死を覚悟する事と生を諦める事は違う。

国に忠誠を誓い、任務の為命を落とす騎士は多いが、その騎士達も最初から死ぬつもりは無かっただろうし、最後まで諦めなかったはずだ。


それに、ミルが諦めていれば中位クラスの生徒達も命は無かったかも知れない。

最後まで諦めなかったからこそ助かったし、助ける事が出来たのだ。


それこそが騎士としての正しい姿。

「大丈夫だった?」と言うレキの問いに、真っ先に仲間の無事を思い浮かべたミルは、きっと将来素晴らしい騎士に成れるだろう。


――――――――――


「それでこうやって」

「なるほど、双剣にはそういう使い方もあるのですね」

「うん、あと・・・」


レキは別に騎士を目指しているわけでは無いが、王宮で騎士達と共に鍛錬してきただけあって騎士についてはかなり詳しい。

彼等の大半が脳筋である事や、毎日欠かさず鍛錬を重ねている事。

ミリスに教わった様々な剣技や騎士達のアドバイスで磨いた双剣についてもだ。

日頃手合わせを通じて稽古を付けているせいか、レキにとってミルは妹弟子のような存在でもあった。


「ゴブリンは一匹一匹確実に倒す事が大事だって」

「ですが・・・」


ミルもまた、レキに対して師匠の様に感じつつあった。

以前はレキが憧れのミリスの愛弟子という事もあり、勝手に兄弟子のように思っていたが、武闘祭以降直接剣を教わるようになったからだろう。

最近では、むしろカルクやミームより手合わせの回数が多いくらいだ。


両者にあるのは師弟に近い関係だった。

だが・・・。


「・・・」

「それで、フランが・・・どうしたの?」

「い、いえっ!

 な、何もありません」

「・・・そっか」


人間関係と言うのは、様々な事がきっかけで変わるものである。


――――――――――


騎士を目指しているせいか、ミルはこれまで異性を意識する事が無かった。

と言うか恋愛自体興味が無かった。

尊敬と言う意味ではレキに惹かれていたが、それはあくまでレキの実力や技量に対しての事。

異性として見た事などこれまで一度も無かった。


女性なら誰もが空想する。

自分の窮地を素敵な殿方が助けてくれる場面を。


フランは魔の森で、ルミニアは王都で、ユミは故郷の村の森で。

ファラスアルムもアデメアの街で助けてもらい、ミームも昨年の野外演習でその命を救われている。

そんな話を聞くたび、ミルも年頃の少女よろしく「いいな」と思ったりもした。

だが、同時に自分は騎士を目指しているのだからと、助けられるのではなく助ける側にならなければならないと己を自制していた。

それでもミルの少女の心が、自分もいつか素敵な殿方に出会い、助けられる場面を嫌でも空想させた。


ミルは強い。

そんなミルを助けられる者などそうはいない。

むしろミルが率先して仲間を助けなければと、昼間もそうしてライを救いに赴き、中位クラスの生徒の盾にもなった。


この世界にはミルが勝てない存在は多くいる。


ミルは強いがあくまでそれは学生にしてはの話。

それだって学生で一・二を争うほどではない。

圧倒的なレキに比べれば、ミルもまたレキの足下の影にすら及んでいない。

レキを除いた二年生全体で見ても、ミルの実力は良くて四~五番目。

最上位クラスのユミと互角と言ったところだ。


それでも上位クラス一位の矜持と、将来は騎士にならんと重ねてきた鍛錬の日々が、ミルを強者の側に立たせてきた。


そんな強者であるはずのミルは今日、幾度も危ない目に遭いながらも戦い続け、最後はレキに救われた。


フランの様に殺されかけたわけでも無く、ルミニアの様に身動きが取れなかったわけでも無い。

ユミの様に無力だったわけでも、ファラスアルムの様にただ怯えていたわけでも無い。

ゴブリンに組み敷かれ、危うく食われかけたミームとも違う。


体力と魔力は尽きかけ、余力は確かに無かったかも知れない。

それでも死にかけていたとは言いづらく、もうしばらくは持ちこたえられたはずだった。


人によっては余計な事をと思うかも知れない。

実際、守られるだけだった中位クラスの生徒の中には、レキに対し助けられてなお敵意を抱いている者もいた。

上位クラスにそういった者がいないのは、己の実力を把握しているからだろう。

あと少しレキが来るのが遅ければ、あるいは危うかった、下手をすれば命を落としていたかも知れないと考える事が出来るからこそ、上位クラスの面々はレキに対し心から感謝する事が出来たのだ。


その点はミルも同じ。

違うのは、黄金の魔力を纏ったレキが、今まさにミルに襲い掛からんとしたゴブリンを一掃したからだろう。

ミル達が苦戦していたゴブリンの群れ。

それを一掃したレキの圧倒的な実力。

レキの強さは知っていたつもりのミルは今日、レキの本当の実力を見た。


黄金の魔力を纏ったレキの神々しい姿を、ミルは初めて目撃したのだ。


なるほどファラスアルムが事あるごとに感涙したり感極まって意識を失うのも分かるという話。

ミルもまた、レキの神々しい姿に意識を奪われていたのだから。


圧倒的な強さと神々しい姿。

これまで異性に惹かれた事の無いミルが意識し始めるきっかけとしては十分だった。

今はまだ憧れや尊敬に近い感情なのかも知れないが、今後どうなるかは誰にも分からない。

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