第454話:森を出て・・・
多くの生徒が寝始めているとは言え時刻は夜になったばかり。
何時もなら部屋で課題やら鍛錬の続きやらお茶などを嗜んでいる時間。
それでも夜は夜。
そしてここは野外。
戦闘を終え、森を抜け、誰もが疲労困憊であろうと見張りは立てなければならない。
「ミルさんも見張りですか?」
「ええ、私はまだ眠くありませんから」
見張りはクラスごとに相談して立てる事になっている。
別段決まりはなく、なんなら他クラスと相談しても良い。
ある者は他クラスの意中の生徒と一緒に見張りをする為、ある者は他クラスの男女を好意か悪戯か一緒にしようと我策したりもする。
もちろん状況によって見張りに立つ人選を代える事も。
何せ誰もが疲労困憊。
いつもより幾分も早く寝入っているのだ。
今まで通りの見張りでは、時間にズレが生じてしまう。
上位クラスは話し合いの末、時間ではなく交替の回数を増やして対応する事にした。。
何時もは二時間ずつ五交代のところを、本日は二時間ずつの六交代制。
最初の見張りはミルとライの二人である。
「で、そのライは?」
「ライは巡回中です」
まだ早い時刻ではあるが警戒するに越した事は無い。
何せつい数時間前までは森の中で戦闘行為を行っていたのだ。
森からだいぶ離れているとはいえ、多くの生徒は危機感を抱き警戒している。
反面、最上位クラスのレキ達は初めての野外演習に疲れ切ったルーシャを除いて全員起きている。
最上位クラスが今も起きていると言う事実は、他クラスの生徒にもいくばくかの安心を与える結果となっていた。
その最上位クラスは、往路と同じく森の方面を警戒(?)しながら野営を行っている。
何かあれば対処する為だ。
ただでさえ昨日今日と戦いが続き疲弊している他クラスである。
少しでも早く、長く、そして安心して眠りたいのが本音。
まだまだ余裕のある最上位クラスが最も警戒すべき方面を担当してくれる事がどれほど心強いか・・・。
ただでさえ疲れている他クラスでは見張りも満足にこなせないかも知れないのだから。
もちろん疲れ切っているのはミルやライも同じ。
ただ、昼間の勝手な行動の罰という事でライは他の三方面を見回り、ミルは上位クラスの面々と話し合いを行う事にしたのだ。
「それはまた・・・」
「いい薬です。
それに・・・」
何も無しではライ自身納得できないだろう。
罪悪感に苛まれ、責任を取って退学する可能性だって・・・。
「まあ、無いな」
「無いわね」
「ええ、流石にそこまでは無いでしょう」
そこまで繊細なら、初めからあんな真似はしない。
とは言えそこまで愚かでもないからこそ、仲間を守る為あれほど奮戦し、尽きかけた体力を振り絞り助けを呼んだのだ。
繊細では無くとも仲間を想う気持ちはあった。
だからこそ、そんな仲間が自分を助けに来たせいで傷ついていく様子に少なからず罪の意識を抱いたのだろう。
ミルの指示に素直に従い、面倒な巡回を請け負っているのが良い証拠だ。
「中位クラスの連中はどうした?」
迷惑をかけたと言うなら中位クラスの生徒達もそうだ。
ライの様に率先してゴブリンを追ったわけでは無いとはいえ、追従した時点で同罪だろう。
ライやミルが窮地に陥ったのも、言ってみれば彼等を守る為なのだ。
「満足に戦う力も無いくせにあんな行動を取る方が悪い」
自信がないなら最初から行くな、という事である。
冒険者で例えるなら、ちょうどギルドのランクシステムが参考になる。
中位クラスの実力を、仮に下から二番目の青銅クラスだとしよう。
受けられる依頼は主に森の浅い所での採取やホーンラビットなどの比較的弱い魔物の討伐。
その依頼を受けた彼等が、あろう事か森の深部へと赴きゴブリンと対峙、窮地に陥っていたところをたまたま通りかかった上位ランクの冒険者に助けられたとする。
通常なら助けられた時点で己の力不足を理解し、これ以上は邪魔になるからとそのまま街へ戻るべき。
だが、彼等は何故かその助けてくれた冒険者の後をこっそりついて森の奥へと向かってしまう。
自分達では倒せないであろう上位の魔物、それを討伐する上位の冒険者のおこぼれにでも預かろうとしたのかも知れない。
あるいは森の奥にしかない素材を採取する為、助けてくれた冒険者を隠れ蓑にでもするつもりなのか。
いずれにせよ許されざる行為である。
己のランクに見合わぬ行動と考えれば、何かしらの罰則すらあり得る。
それが助けてくれた上位ランクの冒険者の窮地を招く結果であれば尚更。
下手をすれば冒険者ライセンスのはく奪だってあるかも知れない。
そう考えれば、ライを始めとした上位クラスの生徒達のお荷物でしかなかった中位クラスの面々もまた、何かしらの罰を与えるべきである。
「本来ならライと同様周辺の見張りを行わせるべきなのでしょうが・・・」
ミル曰く、彼等にはそんな体力も気力も残っていないらしく、食後まるで糸が切れたかのようにそのまま寝入ってしまったそうだ。
「その分明日の見張りは彼等に長めに行ってもらうそうです」
とは言え、あれほど身勝手な生徒達が果たして素直に従うだろうか・・・。
そんな懸念を抱くルミニアに対し、ミルがこうも言った。
「と言うのがレイラス先生の提案です」
「なら安心ですね」
つまりそれらの罰を与えるのはレイラスという事。
その罰は間違いなく施行されるだろう。
流石に同情の余地も無いのか、ルミニアも笑顔だった。
――――――――――
中位クラスの行動は目に余る点が多かった。
何より問題だったのは、己の実力を弁えず勝手な行動を取った事である。
下手をすれば死んでいた。
自分達だけではない、助けに行った者達を道ずれにして。
レイラスのお仕置きは相当な物になるだろう。
そんな話をしながら、レキ達はミルを交えてしばし話し込んでいた。
そして。
「本日の最初の見張りはレキ様、お願いできますか」
「うん、任せてっ!」
森の移動と戦闘、更には索敵に加えてミル達の救出と一日中活躍しっぱなしだったレキ。
そんなレキに最初の見張りを頼むのは気が引けたのだが、この中で一番体力が余っているのもレキだった。
生徒達はつい先ほど森を出たばかり。
森にはまだ多くのゴブリンがいて、そんな森を突っ切ってきたのだ。
音や気配を辿り、ゴブリンが追ってくる可能性はある。
森を出て油断している今が一番危険なのだ。
森を出てからずっと、最上位クラスの生徒全員で森を警戒していたのもそれが理由である。
ゴブリンの活動は昼夜関係なく、いつ襲い掛かってくるか分からない。
日が沈み、夜の闇が周囲を包み始める。
視界も悪く、腹が満たされ睡魔に襲われる今が一番警戒すべき時なのだ。
ルミニア達とて疲れていない訳では無い。
それでも見張りは予定どおり交代で行うつもりであり、その為にも最初は余力があり索敵に優れるレキに任せ多少は眠っておきたかった。
「レキ様の次は・・・」
「おっ、俺やるぜっ」
「じゃああたしもっ!」
「うむ、ならわらわはその次じゃな」
「僕もやろう、ユーリはその次だ」
「うん、わかったよ」
「では私も。
ユミさんとファラさんはルーシャさんと最後にお願いします」
「わ、分かりました」
「うん、任せて」
交代の時の事を考え、相変わらず男女でペアになるレキ達。
最初がレキ一人で見張りを行う為、最後に三人で見張りを担う。
最後の見張りの担当者は朝食の準備なども行わなければならない為、人手が大いに越した事は無い。
既に眠っているルーシャを最後に回したのは、初めての野外演習と実戦で疲れている彼女を考えての事だ。
誰からも文句が出ない当たり、最上位クラスには仲間を気遣うだけの余裕があった。
「ミルさんはこのままこちらで見張りを続けますか?」
「えっ!?」
いいのですか?」
「ええ、最も警戒すべきは森ですから」
ライは他クラスを回っている。
ミルがここに残ると言う事はつまり、上位クラスが担当する方面の見張りは誰もいなくなると言う事になるのだが、本日の野営はこれまで以上に密集している。
やはり森での戦闘が響いているのだろう。
つまりはここからでも十分、上位クラスの方面も見張る事が出来るのだ。
「それに、レキ様なら周辺全域を探知できますから」
「うん!」
そう言ってしまえばレキだけいれば良いという事になってしまう。
実際にそうではあるのだが、レキだって人である。
体力も魔力も人一倍あるとはいえ、眠くなれば集中力だって続かないかも知れない。
例え眠っていても魔物の接近に気付き飛び起きる事が出来る、と言うのはこの際関係ない。
そもそもこれは演習であり学園の行事である。
レキ一人に見張りを押し付けて良いはずが無いし、ルミニア達もそれを許さない。
本日の見張りの様な、一時だけレキ一人に任せる事はあってもだ。
その分レキには最初の見張りをお願いし、後は朝までぐっすり眠ってもらうつもりなのだから。
「一応上位クラス側も気にかけていてくださいね」
「任せてっ!」
なお、今回の見張りは最上位クラスが森の方面を、上位クラスは反対の学園側を見張っている。
最も危険なのは森の方面ではあるが、これから向かう先である学園側だって十分警戒に値する。
もっとも、往路と同じ道を進む為、よほどの事が無い限り問題は無いのだが。
「それでは私達はそろそろお休みさせて頂きます。
レキ様、ミルさん、後はよろしくお願いしますね」
「うん」
「はい、お任せください」
「お先なのじゃ」
「ごめんね、おやすみ」
「申し訳ありません」
「よろしくね」
「じゃあな!」
「後は任せた」
「頼んだよ」
レキとミルに声をかけ、最上位クラスの面々が天幕へと入って行く。
後に残されたレキとミルは、焚火を囲いルミニアの入れてくれたお茶を飲みながら、二時間ほど二人っきりで見張りを行う事となった。




