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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十三章:学園~二度目の野外演習~ 後編
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第450話:ライ=ジ

「てめぇらミルからどきやがれっ!」

「ライっ!

 くっ!」


仲間の窮地にライが飛び出す。


手に持つ斧を我武者羅に振り回し、周囲のゴブリンを退けながら全力でミルの下へ。

与えられた前衛と言う役割も今は関係ない。

ただ仲間の窮地を救おうとするライに、無謀だと引き留めようとしたヤックも伸ばしかけたその手を引っ込めた。


「ヤック、どうする?」

「・・・ミル様達を中心に戦おう」

「分かったっ!」


ライが作った望み。

一瞬の空白を利用し、ヤックが新たな指示を出した。


「うらっ!

 大丈夫かミルっ!!」

「ライ・・・ええ大丈夫です。

 私より彼等を」


幸い、ライのおかげかミルも特に怪我を負っていなかった。

ゴブリンに組みつかれても身体強化を解かなかった事も功を奏した。

彼女の日頃の鍛錬の成果だった。


「ミル様っ!

 ライっ!」

「私達は大丈夫です。

 それより彼等を」


遅れてヤック達もミルの下へとたどり着く。

ミルと、今もまだ立ち上がれないでいる生徒を中心に。改めて陣を組んだ。


「"ルエ・ヒール"」

「くっ・・・」


中位クラスの生徒達の傷は思ったより深く、戦力としては期待できない。

このままこの場所で戦い続けていても、いずれ体力や魔力が尽きてしまうだろう。

既に十匹以上倒しているにもかかわらず、その数を一向に減らさないどころか増えていくゴブリン。

ミルや他クラスを中心に陣を組んだヤック達、その周囲を更なるゴブリンが集い囲い始める。


レキ達の場所へ戻る為には、まずこの包囲網を突破しなければならない。

それも、中位クラスの生徒達を守りながら。


「うらあっ!

 はあっ、はあっ」


ライの体力も限界が近かった。

このままではいずれ・・・。


そう判断したヤックは、一つの決断を下す。


――――――――――


「くそっ!」


森の中、一人の少年が必死に走っていた。


なけなしの魔力を使い、全力で身体強化を施しながら、尽き欠けている体力を振り絞りただ必死に。


「くそっ!!」


少年は、故郷の街では一人の少女を除けば最強だった。

その少女は元冒険者である母親に憧れ、幼い頃から鍛錬を行っていた。

そんな少女に促され、あるいは少女と仲良くなる為、少年もまた体を鍛え始めた。


最初はただ、少女と一緒にいられれば良かった。

体を鍛えるのは獣人にとって当たり前。

子供にとっても遊びの延長のような物だった。

獣人に生まれた子供達は、鍛錬を通じて様々な事を学び成長していくのだ。


同じ街に住む同い年くらいの子供達は、鍛錬を通じて交流を深め、やがては一緒に狩りをしたり武を高めていく。


「くそっ!!!」


いつからだろう、少年が少女に勝てなくなったのは。


鍛錬と言ってもただ体を鍛えるだけではない。

手合わせなり模擬戦なりを通じて戦闘訓練も行っている。

少女は狩人か冒険者になる為、他の子供達も騎士や冒険者に憧れて、少年もまた少女と同じ冒険者になる為に頑張っていた。

もちろん一日中鍛錬していた訳では無いが、少女と競うのはそれだけで楽しかった。


毎日のように鍛え、手合わせして、気が付けば少年は少女に勝てなくなっていた。

少年だけではない、他の子供達も少女にだけはずっと勝てないでいた。


少女以外の子供には勝てる。

全勝とはいかないまでも、少年はどの子供にも勝ち越していた。

ただ一人、少女を除いて。


このままでは勝てないと、少年は少女に隠れて特訓する事にした。

勝ちたい、負けたままではいられないと言う負けん気と、少女に格好良いところを見せたい、格好良く勝ちたいと言う男の子らしい理由からだった。


少年のその行動は他の子供を触発し、特に同い年の男の子達は少女に勝つ為、少年同様隠れて鍛錬を行う様になった。

少女の幼馴染だった女の子は男子と違い少女と一緒だった。

だが、彼女は元々鍛錬より野原を駆け回る方が好きだったらしく、少女と鍛錬する事は無かった。

気が付けば少女は独りで鍛錬するようになり、少年はそんな少女に勝つ為少女に隠れて鍛錬を続けた。


少女がたった独りで鍛錬している事にも気づかず。


「俺がっ!

 俺のせいでっ!!」


この大陸の子供は十歳になったら学園に入る事が出来る。


強制ではない。

少なからず費用が発生する為、ある程度生活に余裕が無ければ学園に入る事は出来ないが、将来の事を考えれば間違いなく入った方が良い。

プレーター獣国の学園では特に、騎士や狩人、冒険者になる為の知識や武術が身に着くとあって、ほとんどの子供達が入学を希望する。

少年もまた、周囲と同様プレーター学園に入るつもりでいた。

ただその前に、自分がどれだけ強くなったか、どれだけ少女に近づけたか知りたくなった。


久しぶりに少女の家に行った少年は、そこで耳を疑う事実を知った。


少女が、純人族の国フロイオニアの学園に行こうとしている事を。


――――――――――


少女が故郷を離れ、ただ一人純人族の国フロイオニアの学園に行こうとしている事を知った少年は、自分も少女を追いかける事にした。

プレーター学園にこだわりは無かった。

少女が行くなら自分も、その程度にしか考えていなかった。

だから、その少女がフロイオニア学園に行くなら自分もと、碌に考えずついて行こうとしたのだ。


少年の希望を両親も後押ししてくれた。

少年が少女を意識し追いかけている事を両親は知っていたし、元より我の強い少年の我儘に両親も慣れていた。

友達といれば少しはおとなしくなるだろうと、ひそかに入学に要する費用を貯めていたくらいだ。

行き先がフロイオニア王国になった為移動費が更にかかるが、なんだかんだで可愛い息子の願いである。

叶えてあげるのも両親の務めだろうと、ただし自分の我儘で他国に行くのだからとお小遣いは少なめにした。

甘やかすのは良くない、という事だ。

それでも少年は両親に感謝し、日頃言い慣れない礼を述べて家を、国を出た。


全ては少女に追いつく為。


その際、他の子供達に少女と自分の行き先を告げなかったのは、何も少女を独り占めしたかったからではない。

ただ単に、そこまで頭が回らなかっただけの話だった。


――――――――――


少女を追いかけ、フロイオニア学園にやって来た少年は入学試験を見事突破する。

座学はちんぷんかんぷんで、文字は書けども問題の正解率はかなり低かった。

その分武術には自信があったが、流石に試験官である元王国騎士に勝てるはずも無く、それでもそれなりに戦えたという自負があった。

魔術はもちろんさっぱりだった。


結果、少年は上位クラスに入る事が出来た。


少年と少女の実力差はそれほど無い、はずだった。

むしろ秘密の特訓で少女に勝てるようになったとすら思っていた。

だが、少年が力をつける以上に少女は強くなっていた。


少年が上位クラスの三番手として入学し、少女は更に上である最上位クラスの四番手として入学を果たした。


――――――――――


少女を追いかけ、少年はわざわざ純人族の国までやって来た。


少女と同じフロイオニア学園に入学したは良いが、少女は最上位クラスで少年は上位クラス。

授業中に接点は無く、仮にあったとしても少年からは話しかける事が出来ないでいた。


少女が孤立し純人族の国に来た原因が、少なからず少年にあった事を知ってしまったから。

考え無しな少年と言えど、後ろめたさは感じていた。

ついでに、久しぶりとなる少女にどう話しかけて良いか分からなかった。


もし、同じ最上位クラスに入っていたのであれば、嫌でも話す事になっていただろう。

だが、別々のクラスになってしまえばそれも叶わない。

休日は休日で、少年は授業料以外のお金を稼がなければならず、少女と街で偶然出会うなども出来なかった。


それでも、少女が故郷の街同様一人であったなら、少年が話しかける機会もあっただろう。

謝罪する事は出来ないまでも、久しぶりだと手合わせを申し込む事は出来たかも知れない。


だが、食堂で見かけた少女は独りでは無かった。

少女の周りには彼女のクラスメイトが何時もいて、少女も含め皆楽しそうだった。

故郷の街では孤立していた少女は、純人族の国で友達が出来たらしい。


自分が原因の一つであるにもかかわらず、少年は自分を無視して楽しそうにしている少女に怒りを覚え、以降武闘祭まで声をかける事は無かった。


――――――――――


武闘祭で少年は森人族の少女に負けた。

いくら最上位クラスだとは言え、たかが森人族に負けるなど思ってもいなかった少年は、悔しさを怒りに変えて再戦を挑んでみたものの、今度は同じ最上位クラスの男子達にまで敗れてしまった。


自分と最上位クラスとの差をまざまざと見せつけられてしまった。

そんな最上位クラスで切磋琢磨し、武闘祭では準優勝を果たした少女との差はいったいどれほどなのだろうか。

うすうす感じつつも決して認められないでいた事実に、少年はこれまで以上に少女に突っかかるようになった。


つい先日まで声をかけられなかったとは思えないほど、少年は以前の様に少女に付きまとい始めた。

それは、幼い頃の故郷の街での日々と同じだった。

だが、少女の周りには自分より強い子供が何人もいて、少女と共に鍛錬を重ねていた。


少女に必要だったのは、少女と共に高みを目指す友人だったのだろう。

少年に必要だったのも、少女に勝つ為の鍛錬では無く少女と共に強くなる鍛錬だった。


それが分からないまま、少年は今でも少女に勝つ為に鍛錬を続けている。

違うのは、少女に隠れて行うのではなく、少女の近くで行っている事。

そして、何度負けても諦めず突っかかっている事。


少年はもう少女から離れるつもりは無い。

例え少女が少年を見ていなくとも、少年にとって少女は幼い頃からの目標なのだから。


――――――――――


学園に来てからというもの、ライの日々は充実していると言って良い。

最初は純人の国などと大して期待していなかったライだが、ライが思っていたよりもずっと純人族の子供は強かった。

上位クラスにすらライより強い子供がいるのだ。

最上位クラスに至っては、あのミームより強い生徒すらいる。


レキに関してはもはや純人だとか獣人だとか考えるのが馬鹿らしくなるほどで、実際六学園合同で行われた大武闘祭で一年生にして優勝を果たしている。

ミームが目標にするのも頷けると言うものだ。

ただ、最近のミームはレキに対して対抗心だとか競争心的な物を抱いていないような気がしている。

毎日レキと手合わせしては悔しがっているが、故郷にいた頃のような敵対心が無いのだ。

むしろ自分や他の男の子達がミームに向けていたような、憧れだとか恋慕だとかそういった感情のような・・・。


ライだってミームを好ましく思っていない訳では無い。

そもそも嫌っていたならミームを追いかけてフロイオニア学園になど入っていない。

だがそれは、あくまでミームに勝つことがライの目標だからであって、決して異性として好きだからとかそういう話では無い。


ミームがどうしてもというなら考えてやらないわけでも無いが、そうでなければ誰があんながさつで武術しか興味のなさそうな女など・・・。


そんな誰に対する者でもない言い訳をしつつ、ライはまるで幼い頃のようにミームとの手合わせを楽しんでいた。


ライは確かに強くなった。

だが、ミームはそんなライよりも更に強くなっていた。


それはレキと言う圧倒的な強者と毎日手合わせしているからであり、フランやルミニアと言ったライバルと日々腕を競い合っているからであり、ユミやファラスアルムと言った自分より弱くとも諦めず上を目指す者達と日々研鑽しているからだ。

ライはミームに勝てればそれで良く、ミルやヤック達はただ同じクラスに所属している同い年の子供でしかなかった。

少しばかりライより強いからと言って、いつも上からお説教をしてくるミルに最初はイライラしていたが、そんなミルが騎士を目指し日々努力している姿に、純人も少しはやるじゃねぇかと、少なくともその努力とそれによって身に付けた実力だけは認める事にした。

ヤックに関しては、そんなミルに振り回される苦労人と言った感じで、同じく日々ミルに小言を言われるライは妙な親近感を抱いていた。

他にも、上位クラスの連中は誰もが気の良い連中で、ライはなんだかんだ上位クラスを気に入っていた。


ライが自分勝手な行動を取っても、多少咎める程度で離れて行かない。

チーム戦で明らかにライの独断専行が過ぎた結果負けても、次は勝とうとライの肩を叩いてくれた。

ライだって負けるのは嫌いだ。

勝てるならとヤックの指揮に従ってみれば、確かに自分勝手に動いていた時より良い勝負が出来た。

それで勝てるほど甘く無かったが、それでも連携という事の大切さをライは知ったつもりだった。


ついでに仲間の大切さも。


一年間一緒に過ごしていれば嫌でも情が沸く。

それが気の良い連中ならなおさらだ。

ライが日々強くなろうと努力している事を馬鹿にすること無く、それどころか一緒に鍛錬してくれる仲間。


あの頃、ライが同じようにミームと一緒に鍛錬していれば、今頃ライとミームは仲良くプレーター学園にいたかもしれない。


もう二度と同じ過ちは犯すまいと、出発前にも声をかけ野外演習に臨んだライは、意気込みと負けん気と嫉妬の感情を抑える事が出来ず、再び失敗してしまった。

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