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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十三章:学園~二度目の野外演習~ 後編
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第448話:仲間達

「てめぇらも少しは協力しやがれっ!」

「なんだとっ!」

「上位クラスだからってっ!」

「お前こそ魔術の一つも使って見せろっ!」


ライ=ジに追従するかのように森の奥へとやって来た数名の生徒達。

昨日からずっと良いところが無かった。

もやもやした思いを抱えつつの移動中、上位クラスであるライが単独行動をとったのを見て、あいつが行くなら僕だってと思わず追従してしまった。

一人でゴブリンを倒せる自信も実力も無く、昨日だって仲間が戦っているのを後ろから援護しただけ。

矢面に立てるはずも無ければ別クラスのライといきなり連携を取れるほどの器用さも慣れも無い。


それでもこのまま見ているだけでは何のためにここに来たのか分からず、せめてライが取りこぼしたゴブリンに魔術を放つ事で戦って見せた。


最初はそれでも良かったのだが、後から後からわらわらと現れるゴブリンにいよいよ対処が追いつかなくなってきていた。

魔術が使えないライは真正面から一匹ずつ倒す事しか出来ず、数が増えれば当然手が回らない。

取りこぼしを狙っていた他の生徒達も、最初から自分達の方へ迫るゴブリンへの対応に必死になっていく。


大した知恵の無いゴブリンだが、狩猟生物の本能なのか弱い個体を優先的に狙う傾向がある。


魔物とて食べなければ生きていけない。

ゴブリンの好物は人の肉。

それも女性や子供の柔らかい肉を好む。


人の子供、それもライのように真正面から挑んでくる子供より、その後ろで震えながら魔術を放つだけの子供を狙うのは当然だった。


次第にライを避けるように、後ろの生徒達を優先的にゴブリンが狙い始める。


弱者を見下しがちなライと言えど、弱者を見捨てるような真似はしない。

弱くとも同じ学園の生徒。

この一年、ミル達と過ごすうちにライにも多少は仲間意識が芽生えているのだ。


「うっせぇ、戦う気がねぇならすっこんでろっ!」


ただし、ライが仲間と認めるのは共に戦える実力を有している生徒だけ。


今、ライの後ろについてきている生徒達は、離れた所からちまちま魔術を放つだけの臆病者。

ライの取りこぼしを狙い、あるいは自分達に向かってくるゴブリンに魔術を放つだけの、仲間とは言えない生徒達だ。

一応ゴブリンと戦えるだけの実力は有しているのだろうが、自ら前に出て戦う勇気はない。

むしろライに釣られて思わず森の奥へ入ってしまっただけの、考え無しな生徒達だ。


チームメンバーともはぐれ入ってしまった生徒達。

いつも的確な指示を出してくれる指揮官の生徒もおらず、自分達の前に出てゴブリンを引き付けてくれる前衛の生徒もいない。

代わりに戦っているライに、負担を押し付けようとすらしていた。


「お、お前が奥に行くからっ!」

「そ、そうだっ!

 レキでもない癖に一人で戦おうとするからっ!」


ライは前衛、彼等は後衛。

普段は仲間に指揮を押し付け、だがいざとなればその指揮を無視して戦う身勝手な彼等は、その指揮の無い状況では満足に戦えないでいる。


仲間のありがたみ、指揮官の重要性。

それらを彼等が理解するのはもう少し後。

その前にまず、彼等は今の状況を打開しなければならない。


四方より更に迫りくるゴブリンの増援と戦い、仲間の下へ戻らなければならないのだ。


――――――――――


「ぐあっ!」


流石のライも一人では限界がある。

上位クラス三番手、二年生全体で見ても上位に位置するライだが、ゴブリンの群れと戦い続けられるだけの実力は無い。


元より単独主義の強いライである。

四方から襲われている最中、完全に足手まといとなった他クラスの生徒を背に、上手く立ち回れないでいた。


もっと的確な援護なり、指揮官による適切な指示なり、せめてもう一人前衛でもいればまた違っただろう。

あるいはライ本人が集団戦に慣れていれば、矢継ぎ早に迫るゴブリン共の連携すらとれていないその隙を突き、現状を打開できたかもしれない。


右から迫るゴブリンに気を取られ、背後から迫るゴブリンに引っかかれる。

痛みに思わず背をのけ反らせ、後ろを向こうとした隙に右のゴブリンに腕を取られ、更には左からくるゴブリンにのしかかられた。

かろうじて手に持つ斧で姿勢を維持し、倒れ込む事は防いだライだが、更に四方から来るゴブリンに対処が間に合わず、結局地面へと倒れ込んでしまう。


「ど、どうするっ!?」

「ど、どうするって・・・」

「た、助けないと・・・」


少なくとも自分達より強いライがゴブリンに組み敷かれる様を、後を着いてきた生徒達がなす術も無く見ていた。


彼等とて戦えない訳では無い。

魔術の一つでも放てばそれだけでライを助ける事が出来ただろう。

だが、そうすれば間違いなくゴブリンの矛先が自分達に向いてしまう。

ただでさえ数が多く、今もライを無視して襲い掛かってくるゴブリンの対処で忙しいと言うのに。

上位クラス三番手のライですら組み敷かれる現状に、彼等は自分達が何が出来るとも思えないでいた。


「た、助けるってどうやって」

「ま、魔術で」

「あ、あいつに当たったらどうすんだよ」


頼みの魔術もそれほど得意ではないのだろう。

ましてやこのような乱戦、さらには命のかかっている状況では、落ち着いて狙いを付けられるほどの技量も集中力も無い。

実戦すら昨日が初めてだったのだ。


仲間と協力して何とか撃退出来たと言うのに。

その仲間と別行動をとった彼等がどうにかできるほど、ゴブリンは容易い魔物ではない。


「で、でもこのままじゃ・・・」


このままライを見捨てるか・・・。

あるいはなけなしの勇気を振り絞って助けに入るか・・・。


「何やってるっ!

 早く助けるんだっ!」


決断を迫られた彼等だが、救いの手はそんな彼等の後方より現れた。


「っ!」


勝手にゴブリンを追いかけて行った彼等を救うべく駆け付けた、彼等が置き去りにした仲間達。

仲間の重要性が分かりかけていた彼等に、これ以上ない援軍がやって来た。


――――――――――


「何やられているのですかライっ!

 あなたそれでも上位クラスですか!?」

「う、うっせぇ」


勝手な行動を取った仲間を援護すべく、ルミニア達に言われ追ってきたチームメンバー達。

もちろんライのチームメンバーであるミル達上位クラスの生徒もこの場に駆け付けている。


「君はそもそも多対一の戦闘を不得手にしているんだ。

 例えゴブリンだって君には厳しいだろう」

「くっ・・・」


あと少し遅ければ、今頃ライはゴブリンに殺されていたかも知れない。


身体強化を施す事で肉体は頑強になり、ゴブリンの牙や爪ごときでは傷つかなくなる。

だがそれも魔力が続けばの話。

種族的にも魔術が不得手が故に、これまで魔術関連の鍛錬をおろそかにしているライの魔力保有量は他者より少ない。

魔力が尽きるより先に倒してしまえばいいという脳筋思考も、彼の魔力量が一向に増えない要因である。

組みつかれた時点ではまだ余裕のあったライも、倒され上からのしかかられ四方から襲われれば魔力が尽きるのも時間の問題だっただろう。

ミル達が間に合ったのは幸運だった。


「そのまま、治療します」

「まったく、せめて僕らに一言位言ってからにして下さい」

「くっ・・・」


皆、ここぞとばかりにライを責めた。

責めつつも、ミルは近づいてくるゴブリンに剣を振るい、ヤックは皮肉を言いつつゴブリンに魔術を放つ。

ライの治癒をするトーチェ、トーチェとライを守るように盾を構えるカタル=ザイン。

四人はライのチームメンバーだ。

勝手が過ぎるライを時に諫め、叱り、揶揄い、守り、癒す。

一年間、そうしてライと共に過ごしてきた仲間達である。


「ルミニア様だって一人でゴブリンと戦おうとは思わないって言ってましたよ?

 それが出来るのはレキ様くらいだって」

「だ、だから・・・」

「あなたの好きなミームさんだって」

「だ、誰があんな奴っ!」

「「「「・・・はぁ~」」」」

「うぐっ、てめぇら・・・」


ライやその周辺に群がっていたゴブリンを一掃し、とりあえず安全は確保された。

ライの治療も終わり、立ち上がったライをここぞとばかりに揶揄うミル達。

ライの恋心など端から見れば一目瞭然。

もちろん本人は認めておらず、加えてミームはライに興味が無いらしく気にもしていない。


「まあ君がレキに対抗意識を燃やすのは仕方ないとはいえ、流石に無謀だったのではないか?」

「くっ・・・あいつに出来て俺に出来ねぇはずが」

「レキ様は三年もの間あの魔の森で過ごされたのですよ?

 私達とは育ってきた環境が違うのです」


先程まで窮地だったにもかかわらずそんな強がりを言うライに、仲間達はいつもの事だと気にもしない。


レキを目標にする事は何も悪い訳では無く、勝てないからと張り合わないのは諦めているようなもの。

むしろこんな事で負けん気が人一倍強いライが負けを認めるはずも無い事を、仲間達は良く分かっている。


危機的な状況を脱し、ライ含め生徒達にもようやく余裕が生まれ始めていた。


――――――――――


「そちらの皆様も、大丈夫でしたか?」

「あ、ああ・・・」


ライの窮地をただ見ている事しか出来なかった他クラスの生徒達。

助けに入ろうとすれば、ゴブリンの矛先が自分達に向けられるのではと恐れてしまい、足がすくんでしまっていた。

せめて昨日程度に戦えていればまだしも、いざ自分より強いライが窮地に陥った事で、ゴブリンの脅威や死の恐怖を改めて感じてしまったのだろう。


「ライさんがご迷惑をおかけしたようで」

「いえ、そんな・・・」


ライに便乗し、追従した彼等。

確かにライが行かなければ彼等も追従する事は無かっただろう。


とはいえ自分の意志でついて行ったのも事実。

助けてくれたはずのミルの謝罪に、生徒達も思わず口ごもった。


「ミル様が謝罪する事はありません。

 彼等は彼等の意志でライさんについて行ったのですから」


そんな生徒を押しのけ、彼等のチームリーダーらしき生徒がミルの謝罪に返した。


「そうですよ。

 むしろついて行ったにもかかわらず戦いもせず見ていただけ・・・。

 一体何しに来たのやら」

「う、うるさいっ!」


一応は彼等も、最初は魔術で援護していた。

ゴブリンの狙いが自分達に移って言った為、ライを援護する余裕がなくなっていたのだ。


ライを前衛に見立て、ライの負担を減らす様に援護していれば、あるいはライももっと自由に戦えただろう。

そうなれば必然、自分達を狙うゴブリンもライが倒す、けん制するなど出来たかも知れない。

まあ、下手に手を出せばライの不興を買う可能性もあったが、援護していればライが窮地に陥らなかったかも知れないのだ。


「いきなりライと共闘しろと言うのが無理でしょう。

 ライは協力するのが苦手なので」

「いえ、でも最近はだいぶマシになってますよ?」

「それは私達だからでしょう」

「不器用だからなぁ、ライは」

「うっせぇ」


とは言えライが行かなければこんな事態にならなかったのも事実。

誰が悪いかと言えば、原因はおそらくライにある。


助けず見捨てるところだったことは事実でも、実力的に言えば彼等もまた殺されていた可能性がある。

自分が助かる為に見捨てる。

そう言ってしまえば聞こえは悪いが誰だって自分が大事なのだ。

誰かの為に命懸けで助けに入れるほど、彼等は心身ともに強くない。

彼等もまだ生徒なのだから。


「さ、いつまでもこんな場所にいるわけにも行きません。

 早く戻って森を出ましょう」

「叱られるのは覚悟しとけよ、ライ」

「けっ」

「レイラス先生にもな」

「くっ・・・」


一先ずライや他の生徒との合流は果たした。

後は戻り、他の生徒達と共に森を出るだけ。

そう考え、戻ろうとしたミル達だったが・・・


「・・・うそ」


気が付けば、ゴブリンの群れに囲まれていた。

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