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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十三章:学園~二度目の野外演習~ 後編
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第447話:俺だって!

「も、申し訳ございませんルミニア様、皆で止めたのですが・・・」

「わ、私もその・・・」

「すいません」

「・・・仕方ありません。

 今はまず現状の打開を目的としましょう。

 ある程度波が収まったら、急いで移動します」

「「「はいっ!」」」


ライ=ジに続けと言わんばかりに、何人かの生徒が隊列を離れ森の中へと行ってしまった。

ついて行ったのは中位クラスの生徒だったらしい。

中位クラスの纏め役の生徒が慌ててルミニアに謝罪した。


一応それなりの実力を有してそうな生徒とはいえ、森の中ゴブリンの群れを相手に別々のチームの生徒で立ち向かうのは正直無謀と言わざるを得ない。


誰もがレキの様に戦えるわけでは無いのだ。

最上位クラスですら、ルミニアやガージュの指揮の下みなで力を合わせて戦っている。

日頃から連携訓練を重ね狂を迎えているのだ。

そんな最上位クラスに実力で劣る者達が、指揮官の下を離れバラバラに立ち向かえるほどゴブリンは弱い魔物ではない。

正しくはゴブリンの群れは、だが。


「それでどうしましょう?」

「わ、私達で追いかけて・・・」

「放っておくのはどうだ?」

「えっ!?」

「それも考えたのですが・・・」

「ええっ!?」


このままライ=ジや他の生徒を放置してしまえば返り討ちに合うかも知れない。

現時点での目的は全員無事に学園に帰る事。

それ以前に、同じ学園の生徒としてこのまま見捨てる訳にもいかない。

いくら勝手な行動を取ったからと言って、彼等もまた学園の仲間なのだから。


「森に入って行った方と同じチームの方は、申し訳ありませんが追いかけて下さい」

「連携を考えての事ですね」

「ライさんならある程度は持ちこたえると思いますが・・・」

「森にはまだ多くのゴブリンがいるはずだ。

 レキ、向こうにはどのくらいいる?」

「ん~・・・五十くらい?」

「ま、まだそんなに・・・」

「あっちも同じくらい」


ライ=ジの向かった方には五十、反対側にもほぼ同数のゴブリンが森にはいる。

いったいこの森にはどれだけのゴブリンがいるのやら。

若干げんなりしたガージュ達ではあるが、それよりまずライ=ジ達の救出・・・と言うより引きずり戻しに行かねばならない。


「急いだ方が良いでしょうね。

 各クラスの纏め役の方は改めて編成をお願いします。

 残りの方は中央に集めて下さい。

 ライさん達が戻ってくるまで、この場を死守します」

「はいっ!」

「は、はいっ!」

「分かった」


下手に移動してしまえば合流できないかも知れない。

そう判断したルミニアは、ライ=ジや他の勝手な行動を取った生徒達を待つべく、この場での抗戦を決意した。


「帰ったらお仕置きしましょう」

「ええ、もちろんです」


森に向かおうとするミル=サーラと二人、不敵な笑みを浮かべつつ、手に持つ槍に一層の力を込めるルミニアだった。


――――――――――


「レキ様は前方の対処をお願いします」

「うんっ!」

「上位クラスの方はこちらまで下がってください。

 他のクラスの方もです。

 この場でゴブリンとの戦闘を行います」


一か所にとどまって戦う事を余儀なくされたルミニア達。


そこそこの空間があるとはいえ、ここはまだ森の中。

はぐれた(?)仲間を引きずり戻しに行った生徒を除いても、この場にはまだ80名以上の生徒がいる。

80名が存分に戦えるほど、森と言う環境は戦闘に適していないのだ。


「各クラスはチームに分かれ、それぞれ交戦をお願いします。

 各チームは他のチームとの連携を取りつつ、目の前のゴブリンに集中してください。

 倒す必要はありません。

 仲間が戻ってくるまで持ちこたえて下さい」


故にルミニアが指揮を執る。

チームごとの戦闘は各自既に昨日で経験済み。

木々が乱立しているとはいえ、チームで戦う分にはそれほど支障はないはず。


ここには他のチームもいる。

万が一倒されそうになっても、近くのチームが助けてくれる。

そうして生徒同士助け合いながら戦えば、ライ=ジ達が戻ってくるまでの間くらい持ちこたえられるだろう。


「てやっ!」

「あ、ありがとう」

「うんっ!」


何よりレキがいる。

レキがいれば、少なくともゴブリンごときに負ける事は無い。

万が一誰かが組みつかれようとも、即座にレキが来てゴブリンを蹴飛ばしてくれるだろう。

致命的な攻撃さえ喰らわなければ大丈夫。

治癒魔術を使える生徒も多く、命さえ無事なら学園に帰れるはずだ。


「カルクとユーリは前に出ろっ!

 ルーシャは二人の支援だっ!」

「おうっ!」

「ああっ!」

「は、はいっ!」

「中位クラスっ、お前達は右前から来るゴブリンに気を付けろっ!

 姿が見えたら一斉に魔術だっ!

 弓使いもだっ!

 奴らを近づけさせるなっ!」

「お、おう」

「わ、わかった」

「任せろっ!」


ゴブリン戦におけるもっとも多い敗因は、数に押され囲まれ、端から食いつかれる事。

一人一人の実力は優れていても、次から次へと襲ってくるゴブリンに体力と魔力が尽きてしまい、最後は数十匹のゴブリンに一斉に襲い掛かられ命を落としてしまう。

それは騎士だろうと冒険者だろうと変わらない。

数で勝るゴブリンに勝つには、まず人数を揃える事から始めた方が良い。


その点、今回の野外演習は二年生全員で挑んでいる。

勝手な行動を取った数名を除いてもまだ80人。

数でも十分、ゴブリンに対応できるのだ。


「フラン様はいったん下がってくださいっ。

 ミームさんなぜこちらに?」

「ガージュがこっちに行けって」

「あ~、では下位クラスの援護をお願いしますっ」

「分かったわっ!」

「ユミさん、ファラさん。

 ミームさんの援護をお願いします」

「うんっ!」

「は、はいっ!」


最上位クラスが中心となってゴブリンを撃退する。

他クラスは魔術による支援、遠距離から攻撃に専念してもらう。


近づけさせなければゴブリンなど敵ではない。

奴等は魔術を使えないのだ。

無理に倒そうなどと考えなければ、二年生でも十分戦い続けられる。


このまま、ゴブリンを追っていった生徒が戻ってくれば・・・。


そう誰もが考えたその時。


「た、助けてくれっ!!」

『っ!』


森の奥から、生徒の悲鳴が聞こえてきた。


――――――――――


時は少し遡る。


最上位クラスばかりが戦い、活躍していた光景に不満を抱いた生徒達は、自分達だってゴブリンくらい倒せるのだと森の奥へと追撃を仕掛けて行った。


今年の野外演習、上位クラスのライ=ジは昨年の屈辱を晴らそうと意気込んでいた。

昨日はライもゴブリンを何匹か倒し、それなりの成果を上げている。

ただ、同じチームのミル=サーラはライより多くのゴブリンを倒し、ヤック=ソージュは仲間達と連携ししっかりと立ち回って見せた。

以前のライならそんな事お構いなしに自分の成果のみを誇っただろう。

だが、ライが危なげなく戦えたのはヤック達の補佐があったからであり、戦いの最中ゴブリンの反撃を防いだのはライと競う様に戦果を上げていたミルだった。

それが分かる程度にはライも成長していた。

だからこそ、今日は個人で成果を上げようと躍起になっていたのだ。


ミルやヤック、仲間達には感謝している。

だが、ライは武を重んじる獣人であり、ミル達チームの前衛、特攻役でもある。

どんな相手だろうと恐れず常に前に出て斧を振るうのがライの役目。

故に、最上位クラスに守られてばかりではダメなのだ。


「うらっ!」


ライの振るう斧がゴブリンの首から上をぶっ飛ばした。


今年の二年生は例年に無く優秀だと言われてる。

それは何も最上位クラスに限った話では無く、と言うか最上位クラスの日課である中庭での鍛錬に他の生徒達が参加するようになって、どの生徒もその実力を軒並み上げている。

もちろんライもだ。


元はミームに勝つ為、彼女を追いかけてこのフロイオニア学園に入学したライは、学園で自分より強い者達に出会い身の程というのを嫌と言うほど理解した。


最上位クラスに入れなかったとはいえ、武術なら最上位クラスにも勝てると思っていた。

だが、実際は上位クラス一位のミルにすら勝てず、最上位クラスに至っては誰もがライより強かった。

森人であり魔術士であるファラスアルムにすら、武闘祭でライは勝てなかったのだ。

ライの実力など、所詮は生まれ故郷の街でしか通じない程度だった。


「どうだっ!

 ゴブリンごときオレ様の敵じゃねぇんだっ!」


敗北を認めないのは武を重んじる獣人として恥である。

負けた事実を何とか呑み込みつつ、今度は勝ってやると武闘祭終了後に再戦を挑んでみた。

戦いが嫌いだというファラスアルムに代わり、ライの挑戦を受けたのは最上位クラス九位のガージュ。

結果は敗北。

それどころか、ライは最上位クラスのレキ以外の男子全員にも負けてしまった。

森人に負け、山人に負け、純人に負けた。

元々上位クラスのミルに負けていたライだったが、ここへきてようやく強さに種族は関係ない事を理解した。


獣人だから強いのではなく、努力したから強い。

分かってはいたが、それでも獣人の身体能力なら他種族になど負けるはずが無いと思っていた。

同じ努力をしても純人は獣人に勝てない。

それは生まれ持った種族の特性であり、どうしようもない差のはずだった。

だが・・・。


「ラ、ライ=ジ、まて」

「い、行き過ぎだ、少し戻れ」


そんな差など知った事かと、最上位クラスの連中は誰もが種族の差を努力で覆した。

生まれ故郷のイーファンの街で負けなしのミームは、フランと言う互角の相手と毎日模擬戦を行い、勝者はルミニアと言うレキに次いで強い生徒とレキとの手合わせ権を賭けて戦っている。

ユミはその見た目にそぐわない力で実力を上げ、今ではミームとも良い勝負を繰り広げていると言う。

武術が不得手なファラスアルムですら、魔術有りならミームに勝った事があるらしい。


男子も男子で、カルクやガージュ、ユーリは他クラス相手なら今のところ負けなし。

同じ最上位クラスの女子達には勝てないらしいが、それでも他クラスとの差は歴然である。


そして・・・。


「レキだってやってんだ。

 だったら俺だって!」


レキは二年生はおろかフロイオニア学園で最強の生徒であり、他校と行われた大武術祭でも一年生でありながら優勝したという。

大武術祭にはライ達の故郷であるプレーター獣国の生徒も出場している。

武術に関して、プレーター学園は他校の追従を許さず、多くの年て優勝を果たしてきたという。

そんなプレーター学園で女子ながらにして抜きんでた実力を持っていたと言う昨年の代表を、レキは圧倒した。

更にはチーム戦でも、プレーター獣国の代表生徒数名を同時に相手し寄せ付けなかったと言う。

どれも伝え聞いた話だが、レキの実力ならと納得している。


納得してしまうほど、レキの実力は圧倒的だった。


強さに敬意を抱かない獣人はいない。

嫉妬や色恋沙汰による敵意を抱く者もいるだろうが、ライはレキの強さに敬意と共に憧れを抱いた。

自分もあのくらい強ければ、ミームを見返す事が出来るのにと。


そもそもライが純人の国フロイオニアの学園に来たのはミームに勝つ為だった。

ミームに勝って、自分の事を認めさせようと思ったから。

認めさせた後にどうするかなどは考えていない。

ただ、ミームに勝てず隠れて鍛錬していた自分を、探そうともせず独り鍛錬を続けていたミームに、オレ様はこんなに強くなったんだと自慢したかったのだ。

どうだみたか、もうあの頃の弱く泣き虫だった自分はいないんだと、強くなった自分をミームに認めさせたかった。


だが、久しぶりに会ったミームは自分の事を忘れていた。

弱い相手などいちいち覚えてなどいられないと言う気持ちはライも分かる。

だが、幼い頃から一緒に遊び、鍛錬や手合わせをしてきた自分を忘れるなどあんまりじゃないか。


それもこれも自分が弱かったから。

だがらこそ、強くなってミームを見返したかった。


一年間必死に鍛錬し、時には純人であるカルク達にも付き合ってもらい、レキには何度も模擬戦を挑み、ライも強くなった。

相変わらず上位クラスでの順位は三位だが、それでも昨年までのライより遥かに強くなった自信がある。


実際、昨年は逃げる事しか出来なかったゴブリン相手にも、こうして真正面から叩き潰せるくらい強くなっているのだ。


今のライは故郷のイーファンにいた頃の泣き虫な子供ではない。

ミームだってもう、ライを忘れる事は無いはずだ。


だが、目の前で繰り広げられる最上位クラスの戦いを見て、ライは自分はまだまだだと痛感させられた。

レキが強いのは知っている。

だが、他の最上位クラスの面々まであんなに強くなっているとは思わなかった。

ルミニアやガージュの指揮の下、縦横無尽に駆け回りゴブリンを倒していく様は、まるでプレーター獣国の騎士や狩人のようだった。

あのミームですら、ルミニアやガージュの指示に従いフラン達と協力してゴブリンを倒していった。

もうあの頃の、独りで鍛錬しているミームはいない。

ルミニアを信頼し、フランと張り合い、ユミと協力し、ファラスアルムの支援を受け、意気揚々と戦うミームの姿に、ライはレキとは違う憧れを抱いてしまった。


自分もあんな風に戦ってみたいと思ってしまったのだ。


それはライの考える強さとは違う。

ライの考える強さとは、一言で言えばレキの様に一人で圧倒出来る強さだ。

ゴブリンの群れだろうと他国の代表生徒だろうと圧倒してしまうほどの強さ。

そこまでの強さは無くとも、せめてミームに勝てるくらいの強さが欲しかった。


だが、そのミームはライとは違う強さを手に入れていた。

もちろんミームも十分強くなっている。

だが、それ以上に仲間と力を合わせて戦うミームは、ライが追いかけ追い越そうとしていた以前のミームとは明らかに違っていた。


「・・・ちっ」


それが羨ましく、だが自分にはおそらく手に入らないであろう強さ。

憧れ、手を伸ばし、決して届かないであろうそれを振り払うべく、ライはこうして森の奥へと入って行った。

仲間と連携などせずともゴブリンくらい倒せるのだと証明する為。


要するに、ライの行動はただの八つ当たりだったのだ。

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