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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十二章:学園~二度目の野外演習~ 前編
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第439話:おすそ分けと話し合い

「折角ですから他のクラスにもおすそ分けしましょう」

「それは良いですね!」


成果は予想以上に多く、とてもではないがレキ達だけでは消費しきれそうになかった。

数日かければ消費できるだろうし、青系統の魔術を用いれば学園に持ち変える事も出来るだろうが、流石に荷物になってしまう。

一応はまだ野外演習中、明日もゴブリンと遭遇するだろう事を考えれば、獲れた魚は本日中に消費した方が良いだろう。


ルミニアの提案により、獲れた魚は他の人達におすそ分けする事となった。


まずは普段からお世話になっているレイラスやミリス、フィルニイリス、サリアミルニスに。


昨年同様、教師や護衛達は生徒から少し離れた場所で野営を行っている。

今日の戦果や被害を踏まえ、明日からの演習内容に変更が無いか相談しているのだ。


演習とは言え実戦。

毎年数名の生徒が怪我を負い、時には演習続行不可能なほどの深手を負う者も。

場合によっては演習を中止し、学園に帰還する年もあった。


今のところそのような事態にはなっていない。

多少怪我を負った生徒はいるが、演習を継続する事に支障はない。

疲れてはいても野営や食事の支度を行えているのがその証拠だろう。

思う様に戦えなかった事に対する自分や仲間達への憤りはあるが、昨年の様に恐怖しているわけでも無い。

むしろ明日こそはと奮起する生徒の方が多いくらいだ。


今年の二年生は実に優秀である。


教師陣の天幕では、そんなやり取りが行われている最中だった。


「失礼します」

「ん?

 誰だ?」

「最上位クラス所属、ルミニア=イオシスです。

 おすそ分けをお持ちしました」

「おすそ分け?

 ・・・ああ」


会話を途中でやめ、やって来たルミニアを天幕へと誘う。

演習中は基本、生徒だけで何事も行う事を推奨している。

不測の事態、前述した怪我や病気、あるいは昼間の戦闘行為の恐怖で誰かが逃げ出した等。

そう言った事態が発生した時は教師への報告が必要だが、それ以外では基本生徒は生徒、教師は教師で過ごすのが演習中の野営の過ごし方だ。


とは言え禁止しているわけでは無く、何より先ほどまでレキ達が湖で何をしていたかを見ていたレイラス達は、ルミニアの訪問理由にやれやれと苦笑を漏らした。


「すいません、レキ様が少々張り切り過ぎまして・・・」


何故か申し訳なさそうに天幕へと入ってくるルミニア。

その後ろには、大量の魚を抱えたレキが誇らしげに立っていた。


湖で魚を獲る事に問題は無い。

そうやって食料を確保した生徒も過去にはいた。


ゴブリンの巣食う森ではあるが、中心にある湖とその周辺には学園の用意した結界が張られ、そのゴブリンが立ち入る事はほとんど無い。

故に、湖には天敵のいない魚が大量に泳いでいるのだ。


そもそも食べられる類の魚なのか?

という疑問がガージュやユーリから(レキ達が大量に獲った後に)出たが、例年野営を行う森の湖に居る魚に毒があるとは考え辛い。

実のところ、ゴブリンと遭遇し荷物すら放り出して這う這うの体で逃げ出した生徒が食事にありつける為の魚でもあるのだ。


そんな事情は知らずとも、野営先の湖に毒を有する魚が泳いでいるとは考えづらい。

仮に食べられない、食べてはいけない魚であれば教師達が忠告するだろう。


死にはせずとの腹痛などに見舞われ、演習を断念する可能性も無くはないが、最悪治癒魔術を用いれば良い。


念の為レキが毒見をするという提案がレキ本人から出たが、微量な毒を含むゴブリンの肉すら食べられるレキでは意味が無いと却下された。

実際は竜をも殺す毒草すら平然と食べていたのだが、そんな事情は知らずともレキなら多少の毒くらい平気だろうと言う謎の信頼がそこにはあった。


「うむ、有難く頂こう」


折角の生徒からの申し出を無下にするのも気が引ける。

それに、レイラス達も干し肉ばかりでは飽きもする。

ある意味では賄賂に相当するそれも、持ってきたのが最上位クラスであるルミニア達なら何の問題も無い。

総合一位のルミニアと大武闘祭優勝のレキが賄賂を贈る理由も無いだろう。


「では失礼します」


煮るも良し、焼くも良し。

調味料も持ってきている為、簡単な料理も可能だ。


満天の星空の下、焚火を囲いながらの食事。

これもまた、キャンプの醍醐味である。


・・・実際はキャンプではなく野外演習、それも実戦の演習に来ているのだが。


――――――――――


「ん?

 どうしたレキ?」

「相談事?」

「おすそ分けっ」


教師達の後は護衛として今年も付き添ってくれているミリス達に。

他クラスの護衛である騎士や魔術士達も含めれば三十名以上いるが、レキが獲った魚の量は十分すぎるほどあった。


「この湖は魔素も少なく魚の魔物もいない。

 いても食べられるから大丈夫」


先程も議論になった「獲った魚が食べられるかどうか」という疑問に関し、ここへきてフィルニイリスから回答を得る事が出来た。


魔素により生物が変質したのがこの世界の魔物と言われており、そこには当然魚も含まれる。

全ての生物が魔物になるわけでは無く、そこには一定の条件、例えば生物が住んでいる環境の魔素濃度などが挙げられるが、この湖の様に魔素の少ない場所ではまず大丈夫である。

そもそも魔物になっていたとしてもそれだけで食べられなくなるわけでは無く、オークやソードボアの様に美味しく食べられる魔物も多く存在している。


この湖にいる魚はどれも食用であり、魔物になったところで美味しく食べられる、と言うのがフィルニイリスの説明だった。


「良かった」

「ええ。

 まあ、レイラス先生が受け取った時点で分かってはいましたが」


毒があるとは考え辛かったが、それでも万が一がある。

レイラス達に渡したのも、フィルニイリスに確認を取ったのも、ある意味答え合わせのような物だ。

教師達を毒見役にしたわけでは決してない。


ミリス達に感謝され、お次は他クラスへおすそ分けに向かった。


「まあ、ありがとうございます」

「けっ、俺の方がもっと獲れるぜ」


「ル、ルミニア様から頂けるなんて」

「レキ様、ありがとうございます」


「ふんっ、魚なんぞ」

「サマクは要らないのか?」

「い、要らないとは言っていないっ!」


「えっ、この湖にいんの?」

「俺達も獲ろうぜ!」

「いや、もう暗いし無理だろ」

「それに疲れたし」


どのクラスも軒並み喜んでくれたようだ。


魚を獲ろうとしたのがレキ達だけなのは、みんな心身ともに余裕が無かったからだろう。


昨年はゴブリンの恐怖にそれどころでは無かった。

今年は、それなりに戦えた生徒は高揚感に、戦えなかった者は不甲斐なさに落ち着かず、心ここに非ずに近い状態で黙々と野営の支度を行っていた。

加えて三日間の移動と戦闘における疲労もあり、ある物で食事を済ませ明日に備えようと誰もが考えていたのだ。


昨年は見張りすらろくに出来なかったと言うのだから、他クラスの疲労がどれほどのものかが良く分かる。


今年も皆疲れていた。

だからだろうか、レキ達のおすそ分けは非常に喜ばれた。

他クラスの生徒達も成長した、という事だろう。


おすそ分けを配る際、各クラスの纏め役やチームのリーダー何人かから相談を持ち掛けられた為、前日同様食事の後に話し合いが行われる事になった。


――――――――――


魚は美味しかった。

学園を出てから干し肉中心の食事だったと言う事もあるのだろう。

ただ焼いただけでも十分だが、塩をまぶして焼けばそれは素晴らしいご馳走となる。

戦いの後、と言うのもスパイスになっているのかも知れない。

心身共に疲れている生徒達にとって、獲れたて焼きたての魚は英気を養うに十分だった。


「ゴブリンって本当に弱いんですよね?」

「騎士や冒険者の基準で言えば弱いですが、平民の方からすれば十分脅威です」

「で、でも俺達でも勝てるって」

「実際に何匹かは倒しているのですよね?」

「そりゃ何匹かは・・・でも最後は逃げて・・・」

「魔物と戦い、全員無事にいられるだけでも十分では?」

「で、でもゴブリンだし」


そんな食事の後に行われた、明日に向けての話し合い。

明日は森を抜け学園へと戻るのだが、おそらくは再び戦闘になるであろう事から、今日の戦いを振り返りつつ話し合いをする事になった。


話してみて分かったのは、やはりゴブリンごときと侮っていた生徒が多い事。

昨年受けた恐怖も、一年も経てば随分と薄れてしまうのだろうか。

あるいはあの時より強くなったと言う自信が過信となったのか。


確かに強くはなったが、実戦では必ずしも強い方が勝つとは限らない。

地形やその日の体調、あるいは数。


ゴブリンに関しては森と言う環境と数で圧倒的に向こうが有利だった。

加えて、最初は何匹か倒せてしまった事が慢心を生み、油断や体力の配分をミスし最終的には押されてしまったのかも知れない。


最後まで一定の調子で戦い続けられるほどの経験が生徒達には無いのだ。


命のやり取りと言う事を考えれば、本当の実戦はこれが初めての生徒も多いくらいだ。

昨年はただ命懸けで逃げただけ。

今年行われたのは互いの生死を賭けた実戦である。

それがどれほど過酷な事かを、生徒達はようやく理解したのだった。


「ゴブリンの強さは個体の強さよりも数です。

 加えて森と言う地形もゴブリンには有利です。

 そもそも殲滅する事は目的では無いのですから、ある程度倒したら移動しても良かったのですよ」

「そ、そりゃそうだけど・・・」

「群れの殲滅など騎士団や高ランクの冒険者、あるいはレキ様くらいしか出来ません」

「・・・レキは出来るのかよ」

「ええ、何度か」


正直に言えば、今の生徒達の実力はゴブリンとほぼ互角と言ったところである。

下位クラスに至っては若干劣っているくらいで、チームで連携を用いたからこそ勝てたに過ぎない。

こちらを上回る数のゴブリンに囲まれれば、上位クラスですら危うかっただろう。


余裕をもち、殲滅すら視野に入れて戦えるのはレキを加えた最上位クラスくらいなのだ。


「追加が来る前に速攻で倒していく、という戦術もあると聞いていますが」

「それは誰に?」

「えっと、ミリス様です」


目の前の個体に手間取っている最中に増援が現れ、気が付けば囲まれる。

そんなケースを避ける為、目の前の敵を即殺する事で常に退路を確保しておく、あるいは囲まれるのを防ぐという戦術。

囲まれる前に倒してしまえ、という実に脳筋的にも聞こえる戦術ではあるが、殲滅が目的でないのであれば案外有効だったりするのだ。

特に、今回の様にある程度倒したら移動するというケースでは、移動先の確保は重要である。


「ルミニア様達はどうやって?」

「目の前のゴブリンを全力で打ち倒した後、レキ様を殿に移動しました」


接近戦から遠距離による魔術戦に移行し、ゴブリン達からの距離を確保した後、周囲を警戒しつつ速やかに移動を開始したルミニア達。

戦力に余裕があったからこそ、戦闘中にもかかわらず相談が出来、足並みそろえて移動する事が出来たのだが、流石に他クラスでは無理だろう。


左右から来るゴブリンはフラン達が警戒し、後方から迫るゴブリンはレキが都度対処した。

ゴブリンの移動速度はそれほど速くはないとはいえ、ルミニア達がいるのは森の中。

木々が邪魔をして移動もままならず、下手をすれば追いつかれたり囲まれたりしてしまう。

特に、後方から追ってくる魔物は対処しなければ挟み撃ちにされてしまう為、あらゆる場面で最も警戒しなければならないのだ。

故に、仲間の中で一番強いレキに殿を任せたのである。


「レキ様ですか・・・」

「なるほど・・・」


フロイオニア学園の二年生でレキの強さを知らない者はいない。

武闘祭で一年生ながらにして優勝した姿は、全学園生が見ている。

先日の手合わせでは負けたが、相手はレキの師匠にして剣姫と名高いミリスである。

その剣姫相手に魔術も、身体強化すら行わず戦ったレキの実力は、分かる者には分かるだろう。


あれがレキの本当の実力だと思う者は少ない。

もっとも、レキの全力など誰も見た事はないのだが。


それでもレキがいるのかと、正直誰もがルミニア達を羨んでしまう。

レキがいれば自分達だってもっと楽に・・・と思ってしまうのは仕方のない事だ。


「あくまで殿、後方の警戒をお任せしただけで、戦闘中は極力レキ様には手を出さないようお願いしましたよ」

「えっ?

 何故?」


全てをレキに任せる。

これほど楽な事は無い。

演習とは言え実戦である。

用いる手札を使う事に何の遠慮が必要だろうか。


言うなれば自分達の最強の手札を使わずに戦っていたようなもの。

何匹か倒しているとは言え、苦戦し、あるいは負けそうにもなった生徒達から当然のごとく疑問の声が上がった。


「レキ様に全てを任せてしまえば、私達の経験になりませんから」


今の自分達がどれだけ戦えるようになったか。

それを確認する為、最初はレキの手を借りずに戦う必要がルミニア達にはあった。


「そ、そういえばルミニア様達は昨年もレキ様抜きで戦われていたのですよね」

「はい。

 それでは演習にならないからと」


昨年は魔物の脅威をその身をもって知る為。

レキがいれば、どんな魔物だろうと取るに足らないように見えてしまう。

それを避ける為、昨年はレキが一人で片面を受け持ち、残る片面をルミニア達だけで戦った。


ゴブリンごときと侮った者は誰もいなかった。

最後まで力の限り戦ったルミニア達だが、数に押され最後はレイラスやミリス達に任せる事になってしまった。


今年は最後まで自分達の力で戦い抜こう、と言うのがルミニア達が立てた野外演習の目標である。

他クラス同様、ルミニア達も昨年のリベンジをしに来ているのだから。

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