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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第44話:出発!

「動けない・・・」


「おはようござますレキ君。

 ゆっくり眠れましたか?」

「おはよう、レキ。

 まだ朝食の時間まで大分あるそうだぞ」


もはやおなじみとなりつつある状況と挨拶。

レキの左右にはフランとフィルニイリスがしっかりと抱き着きながら寝ていた。


フランはともかくフィルも一緒に寝たっけ?

などと考えるレキである。

思えば、出会ってからずっと朝はこんな感じであり、いい加減慣れたのか、あるいは諦めたようだ。


なお、昨晩はフカフカのベッドに感激したレキが飛び込み、ひとしきりはしゃいだ後、大の字で横になって眠っている。

王宮では決して出来ないその行動を羨んだフランが、リーニャの顔色を窺いつつも真似をしたのだが、ひとしきり堪能した後何故かレキのベッドに潜り込んできたのだ。

そこまではレキも覚えている。

ただ、いつもよりはしゃいだせいかフランより先に寝てしまったので、以降の事は知らなかったのだ。


フランが抱き着いたのはただの癖。

フィルニイリスが抱き着いた理由は・・・良く分からない。


その後、フランとフィルニイリスをいつも道り起こし、レキ達は宿屋で朝食を済ませた。


本日は馬車を受け取り、必要な物を購入してエラスの街を出発する予定である。

少々早い時間ではあるが、急ぐに越した事はないとレキ達は早速行動した。


馬車屋で馬車と馬を受け取り、食料や野営の道具、毛布や薬など必要な物を買っては馬車に載せていく。

途中、フランがお菓子をねだったりつまみ食いしそうになったりしたが、準備は概ね順調に進んだといって良い。


太陽が頂点に達するより前に、レキ達は全ての支度を終えてエラスの街の門前にやってきた。

来た時とは逆方向、王都方面の門である。


「忘れ物はないな?」

「無い」

「大丈夫です」

「お菓子欲しかったのに・・・」

「俺も・・・」

「では行こう」


子供二人の不満をさらっと聞き流し、御者台に座るミリスが馬を進めた。

と、そこに。


「お~い、坊主達!」

「あ、おじさんだ!」


前方、門の手前に大剣を背負った禿頭の男が立っていた。

冒険者ギルドでレキ達にあれこれ世話を焼いた男、料理店で女性と子供だけのレキ達を心配して護衛はいるかと聞いてきた男である。

その正体はエラスの街の領主。

因みに名前は知らない。


「やっときたか、待ちくたびれたぜ」

「おじさんどうしたの?」

「いやよ、折角会ったのに何も言わずにお別れってのもなんだしよ。

 一応見送りをと思ってな」

「なんじゃ、顔に似合わず律儀じゃのう」

「うっせ、顔は余計だ」


リーニャ達はこの男が領主である事を把握しているが、レキやフランはそれを知らない。

知ったところでレキなら「おじさん偉いんだね」で済むだろうし、フランなら「うむ、ご苦労なのじゃ」の一言で終わるだろうが。


目の前の男が身分を隠す理由も、リーニャ達はなんとなく察している。

昨夜の話し合いもあって多少警戒するリーニャとミリスに対し、フィルニイリスはいつも道り男に声をかけた。


「本当に見送りだけ?」

「いや、それなんだがよ・・・」


フィルニイリスの問いかけは図星だったらしい。

男は懐から封書を取り出し、フィルニイリスに渡した。


「コレは?」

「この先の村の村長に当てた手紙だ。

 悪いけど届けてくんねぇか?

 ただとは言わねぇ。

 ちゃんと礼はするし、村までの護衛も付けっからよ」

「・・・ふむ」


男の依頼にフィルニイリスがしばしの間考えこむ。


手紙を届けるのは問題ない。

どうせこの先の村には寄るつもりだからだ。


護衛は不要。

自分達と、そしてレキがいるのだから・・・。


考えるのは何故護衛を付けようとするのか、その理由だが。

この男はおそらく・・・


「手紙は届ける。

 でも、やはり護衛は要らない」

「・・・そうかよ」


フィルニイリスの言葉に、やはりあっさりと引き下がった男。

昨日の料理店でもそうだが、あまりにあっさりとした態度にフィルニイリスが確信を得た。


「あなたの配慮は感謝する。

 でも、こちらも考えがあってのこと。

 私達はこの街に来る途中アースタイガーを撃退した。

 実力に問題はない」

「なっ、本当かよっ!」

「本当」


男の配慮に感謝を述べつつも、フィルニイリスは護衛が不要である理由を示した。


アースタイガー、それはこの男がかつて命がけで撃退した魔物である。

その功績によって上位ランクになった男だが、あの戦いは一緒に戦った者達の援護と娘の治療、それに運がなければ死んでいただろう。

あれから更に強くなったつもりだが、それでも一人で勝てるかと言えば正直分からなかった。


そんな魔物を目の前の魔術士は撃退したと言う。

簡単には信じられない話なのだが・・・。


「・・・いや、あんたが言うなら本当だろうな」


男はその話を真実と判断した。


「んじゃ護衛は必要ねぇな」

「そう、不要」

「いや~、余計な世話やいちまったな、悪ぃ悪ぃ」

「問題ない。

 それに配慮には感謝している」

「そう言ってもらえっと少しは気が楽になるな・・・よし」


護衛の件はこれで終わり、と話題を変えた男が、懐から更に何かを取り出した。


「コレを見せればオレからの依頼だと分かるはずだ。

 護衛に持たせるつもりだったんだけどな」


渡されたのは一枚のメダル。

表にはエラスの街の紋章が、裏にはこの男の名前がそれぞれ記されていた。


「なるほど、了解。

 確かに届ける」

「おう。

 因みにそのメダル見せりゃ寝床くらいは用意してくれるはずだぜ」

「分かった。

 重ね重ね感謝する」

「いや、こっちも用事頼んだし、お互い様よ」


メダルに付いて深く追求しないフィルニイリスと、こちらもあえて語らない男。

フィルニイリスが確信を得た様に、男もまたある程度察しているようだった。


冒険者であり領主でもある男と、フラン達の護衛でありフロイオニア王国宮廷魔術士長フィルニイリスとの話し合いは無事(?)終了した。


――――――――――


「ここから村までは一日ほどだ。

 街道沿いを進めば迷わず着くからよ」

「了解」

「途中の森にゃゴブリンが居るが、まあ奥まで行かなきゃ大丈夫だ」

「わかった」


依頼を受けたフィルニイリスに、男が村までの道のりや周辺の状況を説明してくれた。

自分の足で確かめたのだろう、途中の給水ポイントや休憩場所など、村へ行く際に覚えておけば便利な情報まで詳しく丁寧に教えてくれる。

さすがお節介な男である。


「とりあえずんなとこだな。

 他になにかあるかい?」

「問題ない」

「そうか、んじゃ気ぃつけてな」

「了解した」

「坊主と嬢ちゃんもな。

 無事に着く事を祈ってるぜ」

「うん!」

「まかせるのじゃ!」


一通りの情報を得たフィルニイリスと男が握手を交わし、ついでとばかりにレキ達にも挨拶をする。

レキ達もすっかり馴染んだようで、二人共笑顔で応えた。


「さて、行くか」

「うん!」


衛兵に出立の手続きを済ませ、レキ達はエラスの街を出発した。


魔の森を出たレキが初めて訪れた街エラス。

事前に聞いていた様子とは違ったが、レキにとっては刺激の多い街だった。


次の街はどんなとこだろう?

レキが早くも次の街に想いを馳せた、そんな時。


「おうおう待ちなねーちゃん達」


街を出てから小一時間ほど進んだ場所。

右手に広がる林の奥から、どこかで見たような男たちが現れた。


「あ~・・・一応聞くが何か用か?」


男達にうんざりしつつミリスが尋ねる。

用など尋ねるまでもないが、聞かねば話が進まないのだ。


「決まってっだろ!

 昨日のお礼だ!」

「そうだそうだ、昨日は汚ねぇ真似しやがって!」


ミリスの問いかけに早くも激昂する男達である。

間違いなく昨日の報復なのだろうが、汚い真似というのは良く分からなかった。

疑問が顔に出ていたのだろう、ミリスの仕草に男達はますますヒートアップする。


「汚い真似?」

「そうだ、昨日はいきなり魔術なんざ使いやがって!」

「おかげで俺らのねぐらが流れちまったじゃねぇか!」

「ねぐら?

 ああ、あの小汚いゴザのことだな。

 そうか、アレはお前達の物だったか」

「こぎ・・・んだとコラァ!」

「アレが俺らのだったらなんだってんだ!」

「いや、無関係な人の物では無くて何よりだと思ってな。

 うむ、実に良かった」

「んだとコラァ!」

「てめもういっぺん言って見ろ!」


激昂する男達に対し、ミリスが笑顔で対応する。

間違いなく煽っているのだろうが、ミリスの言葉に男達は良いようにのせられていた。


「早く行かないと日が暮れる」

「ああ」


馬車の前に立ちふさがる男達は、ミリスに煽られながら聞くに堪えない罵詈雑言を吐き続けている。

そんなミリスと男達とのやり取りに、フィルニイリスも参戦した。


「昨日より綺麗になってる。

 大量の水のおかげ?

 でも礼には及ばない。

 当たり前の事をしただけだから」


馬車から降りつつそんなことを言うのはフィルニイリスである。

見るからに魔術士の格好をしたその姿に、昨日の魔術を思い出したのか男達は一瞬怯んだ。


「てっ、てっ、てっ・・・」

「手?」

「てめぇ~~~~!!」


怯んだのは一瞬。

昨日の怒りもあったのだろう、男達が更に激高する。

もはや言葉にもならず、手に短剣やナイフを持ち男達が突っ込んできた。


「仕方ない、ミリス」

「ああ。

 しかし少々煽り過ぎじゃないか?」

「狙いが私達に固定された。

 これで馬車は安全」

「いやまぁそうなのだが・・・」


迫り来る男達を前に、二人はなんとも呑気なやり取りを交わす。

片やフロイオニア王国宮廷魔術士長、片やフロイオニア王国騎士団ミリス小隊の隊長。

実力的にもこんなスラムの男達に負けるはずが無いのだ。


前衛であるミリスの後ろ、魔術士としての立ち位置を確保したフィルニイリスが右手をかざして言葉を紡ぐ。


「"緑にして探求と調和を司りし大いなる風よ"」


「げっ、また魔術か」

「こ、この距離なら間に合うはずがねぇ!」


昨日の魔術を思い出し、男達が焦りだす。

だが、今更焦っても意味はない。

それに、昨日とは違い男達は既に駆け出しているのだ。


並の魔術士なら間に合うはずのない距離。

だが、フィルニイリスは並の魔術士ではない。


「"我が手に集いて立ちはだかりしモノを討ち砕け"、"リム・ブロウ"」


詠唱が完了し、右手から生み出された風の塊が先頭の男を吹き飛ばした。


リム・ブロウ。

緑系統の初級魔術。

風の塊を飛ばし、相手にぶつける魔術。


緑系統は風を司る系統であり、その特性は速度にある。

初級魔術であるリム・ブロウはあらゆる攻性魔術の中で最も素早く発動出来る魔術だと言われている。

フロイオニア王国宮廷魔術士長フィルニイリスが使えば、その発動速度はまさに神速と言える。


「ぶぇあっ!」

「何しやがる!」

「今のは警告。

 これ以上やるのであれば容赦はしない」


先頭の男がまともに食らい、数mほど吹き飛び、周りの男が声を荒げた。

かざした右手をそのままにフィルニイリスが発した警告は。


「うるせぇ、やっちまえ!」


やはり相手の怒りを買うだけだった。


先ほどの魔術も足止めにすらなっていなかった。

初級魔術だからだろう、吹き飛んだ男に大したダメージは無く、他の男達同様声を上げながら再び迫ってくる。

迎え撃つのはミリスとフィルニイリス。


「あれっ!?」

「なんじゃレキ?」

「あれってリムだよね?」

「うにゃ、違うぞ。

 あれはリム・ブロウじゃ」

「違うの?」

「うむ、違うのじゃ」


その後ろでは、フランが昨日同様レキにフィルニイリスの使用した魔術に対して説明を始めた。


道中、フランが使ったのは緑系統の基本魔術リム。

風を生み出し周囲の砂やほこりを吹き飛ばしたり、焚火の火をあおったり、髪の毛を乾かしたりするだけの魔術である。

威力もなく、むしろ緑系統の魔術を習得する為の、練習用の魔術と言って良い。


対して、目の前で使用されたのは同じ緑系統でも初級魔術に分類されるリム・ブロウ。

魔術により生み出した風の塊を相手にぶつける魔術である。

同じ風ではあるものの、ただ風を生み出すだけのリムと、風の塊をぶつけるリム・ブロウとでは用途が違う。

前者は純粋に風を生み出すだけの魔術であり、後者はれっきとした攻性魔術である。


先ほどから聞こえてくる、ミリス達以上に呑気なやり取り。

昨日の再現のような会話に嫌な予感がよぎるミリスとフィルニイリスだが、迫り来る男達から目を背けるわけにもいかなかった。

頼むから余計な事はするなよと、心で祈りながら二人は男達を迎え撃とうとした。


「もう容赦しねぇ、覚悟しろよ!」

「さっさとこいっ!」


こうなれば一刻も早く終わらせるしかない。

そう考えたミリスだったが・・・。


「こうかな・・・あっ!」


ミリスの剣と男の短剣が切り結ばれる直前、ミリスの背後から風が吹いた、いや吹き荒れた。

それはもはや風の塊などと表現出来るものではなかった。

例えるなら暴風。

レキの腕から放たれた風は、ミリス達に対峙する男達をまとめて吹き飛ばした。


「あぎぇ~・・・」

「うぎゃぁ~・・・」

「うぐぅえぇ・・・」

「あばぁあ~・・・」


数秒後、ミリス達の前には誰もいなくなっていた。


「「・・・はぁ」」

「・・・ご、ごめんなさい」


嘆息交じりに振り返るミリスとフィルニイリスに対し、レキの口から昨日と同じ言葉が発せられた。

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