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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十二章:学園~二度目の野外演習~ 前編
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第437話:戦場離脱

「いいから一度戻ってくださいっ!」

「わ、分かったわよ・・・」


すごすごと引き返ってきたミームを加え、改めて隊列を組む。

既に二十匹以上のゴブリンを撃退しているにもかかわらず、周囲にはまだ大量のゴブリンがいるようだ。


「他のクラスはどうなのでしょうか・・・」

「ん~、分かんない」


ゴブリンがいるのは何もレキ達の周囲だけではない。

レキ達が戦い始めてから既に一時間以上が経過している。

魔力による探知が出来ない為、森全体のゴブリンを把握するのは少々厳しい。

戦っている気配だけは何となく察する事が出来るのだが、正確な数までは掴めないでいるのだ。


「僕達はどうしようか?」

「俺はまだ戦えるぜっ!」

「あたしだって!」


今回の演習目的はゴブリンとの戦闘ではあるが、なにも殲滅する必要は無く、一度でも戦えればそれで目的は達成される。

既に二十匹以上倒しているレキ達は、何時でも戦闘を止めて森の中心にある湖へ移動する事が出来るのだが・・・。


「ていっ!」

「やあっ!」


「私達もまだ余力はありますが・・・」


ゴブリン程度、今のレキ達は何の脅威でもない。

現に、戦闘中であるにもかかわらず話し合いを行う程度には余裕があった。


レキやカルク、ミームが時間を稼いでいるおかげでもあるが、戦場の真っただ中で急遽行われる話し合い。

撤退する、しないを決めるのは基本的に指揮官の役目だが、独断で決めてしまえば不満が出るだろう。

圧倒的な劣勢、それも今直ぐ撤退しなければ全滅する恐れがあるような状況下でなければ、指揮官はしっかりと考え、あるいは他者と相談して決める必要があった。


現状、レキ以外の生徒も十分な余力が残っている。

そもそもレキがいる時点でこちらが全滅する可能性は皆無だろう。

ゴブリンの残存数は不明だが、戦場を離脱するのも問題は無い。


「レイラス先生に聞くのはダメなのですか?」

「ダメ、と言う訳ではありませんが」

「野外演習中は極力自分達で、と言うのが決まりだ」


よほどの事が無い限り、生徒達自身で考え行動するのが野外演習の規則である。

ゴブリンに苦戦し、大けがを負ったなどという状況でもなければ、教師も護衛の騎士達も手は出さない。


もちろん今のレキ達もその段階とは程遠い。


「・・・殲滅が目的では無い以上ほどほどに戦えば良い、という事になります。

 私達は既に二十匹以上のゴブリンを撃退しました。

 野外演習の目的と言う意味では十分に果たしたとも言えます」

「では」

「はい、移動しましょう」


「「え~」」

「カルク、ミーム、うるさい」

「そうですよ、安全第一です」


不満気な前衛二人をガージュとルーシャが黙らせる。

指揮官であるルミニアの決定により、レキ達は森の中央にある湖へと移動を開始する事にした。


「殿はレキ様にお願いします」

「ていっ!

 うん!」

「前方はフラン様とミームさんで。

 左右はカルクさんとユーリさん。

 ガージュさんは中心で皆さんの指揮をお願いします」

「ああ」

「ルーシャさんはファラさんと後方の警戒をお願いしますね。

 ユミさんは私の補佐を」


決めてからの行動は早かった。

元より考えていた隊列を組み、移動を開始する。

レキに全力で魔力探知を行って貰えばより安全に移動もできるが、それは他のクラスにゴブリンを押し付ける行為である為却下。

今回は普通に移動する事にした。


「戦闘は極力避けて下さい。

 進行に邪魔だと判断した場合のみ排除をお願いします」


こちらに戦う意思が無かったとして、それをゴブリンが理解するはずも無い。

こちらから仕掛けるつもりは無いが、襲ってきたなら遠慮なく返り討ちにする。

もちろん深追いは厳禁。

ゴブリンとの戦闘という目的を達した以上、後は目的地である湖まで一直線に進むのみだ。


「早くいけばその分だけゆっくりできますしね」

「ピクニックじゃな!」

「お肉獲ってこようか?」


一応は警戒しつつ、ついでに襲ってくるゴブリン共を撃退しつつ、どこか呑気に移動するレキ達である。


「えいっ!」

「うにゃっ!」

「はあっ!」

「やあっ!」

「え~いっ!」


近づいていくるゴブリンを、レキを始めとした無詠唱魔術士組が遠距離から打ち倒していく。

歩みを止める事も無く、まるで息をするかのように魔術を放つレキ達。

以前はレキくらいしか出来なかったそれを、フラン、ルミニア、ファラスアルム、ユミの四人もいつの間にか出来るようになった。

武術だけではなく、魔術もしっかりと鍛錬している証拠であった。


「・・・あたしももっと頑張ろう」

「・・・俺も」


獣人ゆえに魔術が不得手なミームと、魔術より剣が好きなカルク。

どちらも魔術の鍛錬も行っているが、いまだ無詠唱には至っていない。


「・・・くそっ」

「・・・まぁ、楽でいいじゃないか」


それはガージュやユーリと言った、入学前からそれなりに魔術を扱える生徒とて同じ。

入学以降無詠唱に至ったのは、二年生ではまだファラスアルムだけ。

ガージュやユーリもだいぶ上達してはいるが、完全な無詠唱には至っていないのだ。


「・・・これが、レキ様のお導き」


フラン、ルミニア、ユミの三人は幼い頃にレキの無詠唱魔術にふれ、それを手本にひたすら頑張ってきた。

そんな四人に置いて行かれぬよう、落ちこぼれと称され自分を諦めかけていたファラスアルムは努力した。

彼女達がこれほどの魔術を身に付けたのは、確かにレキのおかげなのだろう。


そういう意味では、レキが彼女達を導いたと言うのも間違いではない。

だが、頑張ったのはあくまで彼女達。

レキも多少手ほどきはしたが、彼女達の努力が無ければこれほどまでには至らなかった。


それでも。


「ああ、レキ様」


ルーシャには、神話における人々を導いた光の精霊のように、レキがフラン達を導いたように思えてならなかった。


――――――――――


「終わったようだな」


今年の野外演習の目的であるゴブリンとの戦闘。

殲滅が目的では無く、何より数が多い。

明確な完了目標が無い為、いつ戦闘を終えるかもまた生徒自身で判断しなければならなかった。


戦闘が目的であって、勝つ事は目的では無い。

故に、一当てした後すぐ撤退しても問題は無かった。


肝心なのは逃げずに立ち向かう事。

昨年の恐怖を飲み込み、ゴブリンに対して剣や杖を向ける事にある。


誰もが今度こそはとやる気を出していた為、出遭ってすぐ逃げ出すような生徒はいなかった。

ただ、若干名昨年の恐怖を思い出し、満足に動けなかった生徒もいたらしい。

そんな生徒も、仲間の励ましを受け、あるいは死の恐怖にただがむしゃらに剣を振り回し、何とか動けるようにはなっている。


「ノルマは無い?」

「ええ、一年間鍛錬を重ねたとはいえまだ子供ですから」

「武器を持った程度で勝てるほど魔物と言う存在は甘くない」

「いつも通りの力が出せないのが実戦だからな」


故に、今年の目標はあくまでゴブリンに立ち向かうだけ。

それでも十分、生徒には試練になるはずだった。


「レキ達にも?」

「はい。

 逆に倒し過ぎないよう忠告はしていますが・・・」

「ちゃんと守ったようだな」


最上位クラスに限れば、今年の目標を昨年の時点で既に達成してしまっている。

それもレキが外れた状況でだ。

今年はレキも一緒に行動している為、他クラス程の試練にはなっていない。


「連携に難があるか?」

「良くも悪くもレキ中心だったからな。

 危なくなればレキに、という癖がついているのだろう」


そういう意味では、今年の野外演習は個々の実力を再確認する良い機会となっている。

レキがあまりにも特出しすぎている為、自分達の限界を知る機会がガージュ達には無かったのだ。

さすがに実戦で敗北の経験まで積ませるつもりは無いが、レキ抜きでどれだけ戦えるかを知っておくのは悪くない。


最初は戦闘に参加しなかったとはいえ、彼等にはレキもいれば一応レイラス達もいる。


昨年の様に、レイラス達が介入する事なく戦いを終えられたのは確かな成長の証と言えるだろう。

きりの良いところで戦闘を終える。

引き際を見極める事が出来る、と言う意味では指揮官として有能な証だ。

それに従い、不満を訴えつつもすぐさま戦闘を中断できる仲間達もだ。


昨年は全力を尽くして何とか戦い抜いた。

今年は余力を残して戦い終えた。


昨年も今年も戦い辛さを感じていたカルク。

昨年はそれが理由で危ないところが何度かあったが、今年は難なく切り抜けている。

ミームに合わせようと四苦八苦していたのも、四苦八苦する余裕があったと言い換える事が出来るだろう。


指揮をガージュに、遊撃をユーリに、盾としての前衛をガドに、最悪はレキに任せていた昨年と違い、考えながら戦う必要があった今年のカルク。

ただ剣を振るえば良く、いざという時は仲間が何とかしてくれると言う甘い考えは出来ず、かといって自分が何とかしなければと言う窮地に陥ったわけでも無い。

そもそも今のカルクにはそこまでの力は、仲間の窮地を纏めて救い出せるような、レキのような力はない。


改めて、己の立ち位置について考える良いきっかけとなった事だろう。


新たな仲間として自分の立ち位置を確立しつつあるルーシャと二人、得る物があったに違いない。

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