第430話:前日の見張り、後編
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最悪の事態を想定し打開策を考えるのがガージュなら、最悪の事態を想像しあたふたするのがファラスアルムという少女である。
それでも最近は自信を持つようになり、想像はすれどまずは落ち着こうと言う思考が出来るようにはなっている。
フランやルミニア、更にはレキと言う心強い仲間がいるからだろう。
とは言えファラスアルムという少女の本質は変わっておらず、想像してしまうのも不安に駆られてしまうのも相変わらず。
それでも目の前の森に恐怖を感じないのは、彼女が成長しているからだろうか。
あるいは就寝前、レキが大丈夫と言ってくれたからか。
「何かあれば起きるしっ!」
とは、食事中にレキが言った言葉だ。
それが嘘では無い事は、フランやユミが保証してくれている。
だからこそ、ファラスアルムも心からその言葉を信じる事が出来た。
夜の闇は深く、目の前にはゴブリンの巣食う森がある。
おぼろげに見える森は、まるで一つの生き物のようだった。
以前のファラスアルムなら、いつその森がこちらに牙を向けるか分からず怯えていただろう。
今の彼女は違う。
森にゴブリンがいるのであれば、彼女のする事は怯える事では無く警戒をする事。
万が一現れたなら、その時は彼女に出来る事をするだけだ。
例えば仲間を起こす為、天幕に向けて初級魔術を放つとか・・・。
「さ、さすがにそれは・・・」
「レキは毎回そうやって僕達を起こしてるんだけどね」
緊急時なら確かにそれも有効だろう。
訓練された騎士団ではなく、まだ子供の生徒達ならこういった事態でも起きない可能性がある。
魔術を放ち無理やり起こすと言うのも、こういった事態ではやむを得ないのだ。
ファラスアルムが得意とする青系統の魔術は元々殺傷能力が低く、故に人を起こすのに向いている。
初級魔術であるルエ・ボールなら眠気覚ましにはぴったりである。
顔を洗うのにも適しており、眠そうなフランにレキも良く使っていた。
もちろん今のファラスアルムは中級魔術も使える。
仲間を起こしつつ足止めの魔術を放つ事だって出来るだろう。
落ち着いてさえいれば、今のファラスアルムは十分頼りになるのだ。
まがりなりにも一年間、同じクラスで過ごしてきたユーリは知っている。
彼女が最上位クラスの名に相応しい生徒である事を。
と、いうか。
「今のファラは僕より強いしね」
「い、いえそんな。
ユーリさんの方がいろいろできますし・・・」
レキを除けば女子の方が強い。
武術が不得手なファラスアルムは、それを補って余りあるほどの魔術の使い手である。
魔術有りの模擬戦ならあのミームとだって良い勝負が出来るほど。
そんなファラスアルムを頼もしいと感じつつ、女子に負け続けている今の状況は悔しくもあった。
「じゃあ行ってくるよ」
「はい。
お願いします」
だからこそ、ユーリは常に自分に出来る事をやってきた。
剣を鍛え、魔術を磨き、座学にも身を入れている。
戦闘でも剣と魔術を器用に使い分け、遊撃からガージュのフォローまで。
レキとガド、頼りになるチームメイトが二人も抜けた分、ユーリの負担も増している。
それでもユーリはユーリなりに頑張るしかないのだ。
今ユーリが出来る事は他クラスとの協調。
自信を付けつつあるファラスアルムがいまだに苦手としている対人関係を、ユーリが一生懸命フォローする。
そんなユーリの頑張りもあり、二人の見張りも問題なく終了した。
――――――――――
ユーリとファラスアルムペアの見張りが終わり、レキとルミニアが見張りに立った。
このペアに関して言う事は何もないだろう。
索敵能力にも優れるレキと、最上位クラスの纏め役であり判断力に優れるルミニア。
実力も他クラス含めて一位と二位とあっては、もはや他クラスの見張りすらいらないほどだ。
あえて不安要素を上げるのなら・・・。
「レキ様、お茶が入りました」
「うん、ありがとルミ」
「いえ・・・ふふっ」
嬉しさのあまり、ルミニアが少々舞い上がっている事くらいか。
「お茶のお代わりはいりませんか?」
「ん~、それよりお腹空いた」
「いけません、食料には限りがありますから」
「え~」
「ふふっ」
以前も、大武闘祭へ出場する為にプレーター獣国へと向かう道中、ルミニアはレキと二人っきりで街を歩いた事があった。
必要な物資の買い出しではあったが、ルミニアにとってあの時間は恋する異性との街の散策、すなわちデート以外の何物でもなかった。
二人っきりでは無かったとしても、学園に入ってから五指に入るほど至福な時間だと言って良かった。
今、ルミニアはその時を上回るほどの幸せな時間を過ごしている。
満天の星空の下、恋愛感情を抱いている殿方と二人っきりという状況。
ルミニア達に与えられた役割は前方の森の警戒。
固まる必要は無いが必要以上に大声を上げるのは現金であり、故に息がかかる距離で二人並んで座っている。
時折他クラスの様子を伺いに離れる必要はあったが、それでもこの二時間余りは誰にも邪魔されない二人っきりの時間。
そんな幸せな時間は、幸せだからこそあっという間に過ぎてしまった。
名残惜しくとも、明日の事を考えれば少しでも睡眠をとらねばならない。
慣れないルーシャの為にもう少し延長しても・・・とも思ったが、同じクラスの仲間としてそこは公平に行かねばならないだろう。
若干の名残惜しさを残しつつ、見張りは最後のカルクとルーシャペアに交代した。
――――――――――
ルーシャは男子が苦手である。
今更と思うかも知れないが、ルーシャ自身気付いていなかったのだから仕方ない。
育った孤児院に男子はおらず、親代わりの職員も女性ばかりだった。
ライカウン学園は何故か女子の比率が多く、ルーシャの学年も女子生徒ばかり。
女性の方が信仰心が深いとも、男子は己が力で切り開こうとする為創生神や精霊に頼らないからとも言われている。
何にせよ、フロイオニア学園に入るまで、ルーシャは異性とあまり接した事が無かった。
何も全ての異性が苦手という訳では無い。
レキは当然苦手ではなく、むしろもっとお近づきになりたい存在である。
ただ、その理由はどちらかと言えば崇敬から来る感情であり異性に抱く感情とは少々違う。
それでもレキに対する苦手意識は無く、あるのは他の男子に対して。
正直どう接して良いか分からず、つまりは苦手だった。
入学してからこれまで、レキ以外の男子生徒に興味がなかった弊害なのかも知れない。
ガージュはルーシャが属するチームの指揮官であり、新参であるルーシャと戦術に関し言葉を交わす機会が多かった。
年齢の割に落ち着きがあり、指揮を任されるだけの知性もある。
それでいてレキやカルク、ユーリに揶揄われる姿は実に微笑ましかった。
実力は足りずとも、皆を導くだけの能力は持っている男子生徒だ。
ユーリはそんなガージュと仲の良い、実に気さくな生徒である。
レキやカルクとも仲が良く、女子生徒との距離感も絶妙。
波風立たせず上手く立ち回りつつ、本人も日々楽しそうにしている。
ガージュが指揮官なら、ユーリはその指揮を支える要のような存在だ。
カルクはこう言っては何だが一番年相応な生徒である。
純朴であり、レキのような純粋さも持っている。
生まれも育ちも平凡な、言っては何だが普通の少年。
実力こそ男子で二番目だが、それ以外はこれと言って特徴の無い、ごくありふれた男子生徒。
レキを除いた男子全員に言える事だが、彼等は特別頭が良い訳でも、圧倒的な実力を持っているわけでも無い。
魔術が得意なわけでも無く、魔力も平均並み。
最上位クラスに相応しい実力はあっても、あくまで学生レベルの話である。
外見も、それなりに整ってはいても絶世の美男子という訳でもない。
相変わらず可愛らしいという表現が似合うレキの方が、ルーシャの好みだった。
入学以来そんなレキにばかり気を取られていたルーシャである。
あまり接点の無かったカルクとの見張りに何を話して良いやら、どう接して良いか分からないでいた。
カルクはカルクで、いつも鍛錬ばかりしているせいかこれまでルーシャと接点を持とうとしなかった。
チーム戦における連携はガージュに丸投げで、今回の野外演習に関しても基本的にはまかせっきり。
見張りの順番やペアについても一任していたが、カルクの方は誰と組もうと構わないと考えてるからだ。
実際、カルクはある意味ではユーリ以上に気さくで、細かい事は考えない性格をしている。
考える事が出来ないと言い換えても良いのかもしれないが、とりあえずやってみよう、当たって砕けろという精神の持ち主だ。
最近ではガージュ達に相談する事を覚えたとはいえ、それも考えるのが面倒くさいから丸投げしているに過ぎない。
「俺、上位クラスの方行ってくる」
「えっ」
「ルーシャは中位クラスの方頼むな」
「あ、はい」
そんなカルクだからこそ、ルーシャにも普通に接した。
これまであまり話をしたことが無かったが、そんな事も気にしない。
ルーシャは最上位クラスの仲間、カルクにはそれだけで十分なのだ。
戸惑うルーシャに気付かず、誰に対しても同じような態度でルーシャに接する。
見張りを行う上で必要な話をし、暇になったら適当な雑談を振る。
ルーシャの反応が鈍くとも気にせず、一応は反応を返してくれる為話を続ける。
「俺もレキみたいに森とかで生活した方がいいのかな」
「・・・レキ様は決して自ら望んで行った訳では」
「そりゃ知ってるけどよ。
でもレキに追いつくにゃ普通に鍛錬してもダメなんだよな」
「・・・カルク様はまず、魔術の鍛錬をした方は良いのでは?」
「うっ・・・」
「レキ様の実力は身体能力と剣術、そして魔力による身体強化と魔術。
そのどれもが高水準であるが故です。
カルク様の鍛錬で鍛えられるのは身体能力と剣術のみで、魔力と魔術は鍛えていませんよね?
それでレキ様に追いつくのは無理なのでは?」
「そ、そりゃ分かってるけどよ・・・」
それが功を奏したのか、気が付けばルーシャはカルクと普通に話が出来るようになっていた。
それどころかカルクの相談に乗っているほどだ。
若干小言めいた助言すら与えるルーシャにカルクが苦し紛れに返すというやり取りを普通といって良いかは分からないが。
それでも見張りを始めた時の様な戸惑いはなく、心なしか打ち解けているようにも思えた。
「そもそもカルク様は平民なのですから、皆様以上に座学を頑張らねばならないのでは?」
「け、けどよ・・・」
「座学の重要性は分かっているはずです。
この学園で学べることは、冒険者になっても有用なはず。
でしたらもう少し身を入れて勉強なさる必要があるのでは?」
「で、でもレキだって・・・」
「レキ様が授業中居眠りされるのは、既に学んでいる範囲だからだとお聞きしています。
つまり学園に入る前からレキ様もお勉強されていたという事です」
「うっ・・・」
「第一誰かと比べるなど言い訳を探しているようなもの。
座学の勉強はカルク様ご自身の将来に必要なものなのです。
レキ様と比べる必要はありません」
「うぅ・・・」
ついでに、両者の力関係もはっきりしたようだ。




