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黄金の双剣士  作者: ひろよし
二章:王都への旅
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第43話:フィルニイリスの考察

「私からの報告は以上だ」


宿屋の一室、子供達が寝ている傍らで、リーニャ達は話し合いを続けていた。

エラスの街の実状と周辺の状況確認を踏まえ、明日からの行動について改めて確認を行う。


「馬車の手配は済んだ。

 必要な物資を積み込んだら、次はトゥセコの街だな」


エラスの街から王都までは、いくつかの街や村を経由する。

トゥセコはエラスからおよそ四日ほど移動した場所にある街だ。

街の規模は普通。

エラスより栄えていると思われる街だが、事前に聞いていた情報と実際の状況が異なる場合は良くある。

最果ての街、吹き溜まりの街と呼ばれていたここエラスの街ですら、王都で聞いていたより遥かに栄えていたのだ。

トゥセコの街もどうなっているか分からない。


情報道りなら問題なし、栄えているならなお良し。

逆に廃れているのなら、最悪は立ち寄らず進む事になるだろう。


「この街は聞いていたよりよっぽど良い街でしたね」

「ん?

 どうしたリーニャ?」


幸い、必要となる物資はここエラスで揃うだろう。

最悪を考えた場合、トゥセコの街に立ち寄らずとも良いよう、買える時に買った方が良い。

そういう意味では、エラスの街が情報より栄えていたのは幸運だったと言える。


リーニャの言葉に頷きつつも、今更何をと首を傾げるミリスだが、リーニャが不必要な事を話すとも思えず続きを促した。


「フラン様が身分を偽る理由は、この街の治安が悪いからでしたよね?

 状況次第では王都から迎えが来るまで屋敷に監禁されるからと・・・」

「あぁ、確かそうだったな」

「実際のこの街は予想とは全然違いました。

 東側は言うまでもなく、西側もある程度開発が進んでいましたし、まあ一度だけ絡まれましたがそれ以降は何もありませんでした」

「ふむ」

「ミリス様もお気づきかと思いますが、冒険者ギルドでレキ君達の相手をして下さった方、あの方が今の領主ですよね?」

「だろうな」

「ギルドで聞いた領主の人柄と実際にお会いした感じから、あの方なら頼っても問題ない気がします」

「つまり、無理に私達だけで行動せず、領主の庇護を受けようと?」


その提案は、フランの身の安全を考えればむしろ最善かも知れない。


王族が野盗に襲われ、近くの街に逃げ込んだのであれば、その街の領主は王族を庇護する義務がある。

フロイオニア王国の領地である以上、領主もまたフロイオニア王国に使える貴族だからだ。

領主になるのは国の、ひいては王の認可を得なければならない。

国が領主を決めるのだ。

領主とは王の配下であり、王に仕える者。

よって、王族に何かあれば配下として助けるのは当然の事である。


訪れたのがエラスの街以外であれば、最初からそうしただろうその提案。

却下したのは王族であるフラン自身だったが。


「フラン様が嫌がるよう、あえてそう仕向けたのですよね?」

「そう」


実際は、フランが却下するようフィルニイリスが言葉を選んだだけだ。


「姫様が断るようフィルが仕向けたと?」

「そう」

「つまり、領主の庇護を得ず自分達だけで旅をする様、姫様に提案をしたと?」

「提案ではない。

 庇護を受けたら姫の自由は無くなるという事実を述べただけ」

「それでもフラン様の安全を考えたら庇護を受けるべきだったのでは?」


確認するよう問い詰めるミリスにフィルニイリスが頷いた。


いくらミリスとフィルニイリスがいても、レキという強大な力を持つ少年がいるとしても、こちらはフランを除けば四人しかいない。

ただでさえ王都から一緒にいた護衛部隊と別れている状況で、野盗の追撃を受けたなら・・・。


「レキがいれば大丈夫、とはいかないだろうな」

「はい」


野盗が数十人、数百人束になったとて、レキが負けるとは思えない。

魔の森のオーガを苦もなく撃退したレキに、たかが野盗の数十人や数百人、むしろ数万人集まったところでなんら脅威ではないだろう。

それでも、レキに頼りすぎるのを三人は良しとしない。


「レキ一人に無理をさせるわけにはいかないからな」

「そうですよ。

 いくら強くたってレキ君はまだ子供なのですから」


レキはあくまで子供。

付いてきてくれたのは自分達がお願いしたから。

護衛をお願いしたのではなく、恩を返すべくに王都へ連れていく為に。


そんな恩人であるレキに、これ以上何を頼ろうと言うのか。


「魔の森のオーガを瞬殺した」

「・・・」

「リーニャを追い詰めた野盗も」

「・・・」

「山程の魔物を狩り、はるか遠くのゴブリンの気配に寝ながらにして気づき、アースタイガーを瞬殺した」

「・・・いや、そのな」

「ええ、レキ君の強さはもう」

「街で絡んできた男達を魔術で撃退している。

 しかも加減を誤った、使ってみたかった程度の魔術で」

「「・・・」」

「何が問題?」


レキの実力は嫌というほど見てきた。

出会ってから僅か数日の間に知ったレキの強さ。

その事実を並べれば、領主を頼る必要性がない事が分かる。

レキに無理をさせているわけではない。

むしろやりすぎだと注意する必要があるほどに、レキの力は強すぎるのだ。


「レキ一人に戦わせるつもりは無い。

 むしろレキは姫の護衛に徹してもらい、危険は極力私とミリスで追い払う。

 昼間の連中のように」

「でも、昼間も結局はレキ君が撃退しましたよね?」

「結果的にはそうなっただけ。

 あれを見たからこそ、レキ一人に任せるわけにはいかなくなった」

「・・・確かに」

「何より、私達だけで王都に向かう理由がある」

「領主を頼らない理由か?」

「安全な手段を放棄して、わざわざ危険を伴う道を選ぶ理由ですか?」

「そう」


自分達だけで王都へ向かう理由、それは・・・。


――――――――――


「確証は無い。

 でも、私達がこの街を訪れていることや王都へ向かっている事は知られない方が良い」

「理由は?」

「私達がこの街に滞在していると知れたら、襲われる可能性がある」

「それは野盗に?」

「さすがの野盗も街の中までは・・・」

「襲ってくるのは野盗とは限らない」

「・・・まさか、領主が?」

「いえ、流石にそれは無いかと」

「この街の領主はおそらく大丈夫。

 むしろ事情を説明すれば協力してくれるはず」

「ええ、先ほども護衛の斡旋しようとしてくださったくらいですしね」

「では誰が?」


野盗ではない、頼るべき領主が実は敵、という話でも無い。

ミリスの疑問にフィルニイリスが答えた。


「野盗ではない何か」

「・・・?」

「もっと言えば、野盗に扮した何か」

「・・・それは、どういう?」


漠然とした考えを語るフィルニイリスに、リーニャが首を傾げた。


「最初に疑問を感じたのは、襲ってきた野盗が手練だったこと」

「確かに、護衛部隊が足止めにしかならなかったな」

「逃げ出した私達を別働隊が襲ってきた」

「ええ、確かに」


友人のいるフィサスの街からの帰還中、街から約一日ほどしか離れていない地点で突然襲ってきた野盗。

最初に襲撃してきたのは数十名、左右から包囲しつつ迫ってきた野盗に対し、護衛部隊では足止めするので精いっぱいだった。

実力が足りなかったわけではない。

人数が足りなかったのだ。


このままではとフィルニイリスの判断に従い、フランの乗る馬車をその場より離脱させたが、それを予想したかのように別働隊が現れ、魔の森の方へと追い立てられる事になった。


「野盗の人数、統制された動き、別働隊の存在、王国の騎士や魔術士を相手に出来るほどの実力、どれもただの野盗とは思えない」

「・・・ああ、そうだな」

「そんな連中がわざわざ王族の馬車を狙うはずがない」

「リスクが高すぎるからでしょうか?」

「そう。

 ただの野盗なら王族の馬車と分からず襲ったのかも知れない。

 でも今回襲ってきたのは相当の手練。

 王家を敵に回すリスクくらい分かるはず」

「ただの命知らずという可能性は?」

「その程度の相手に遅れを取るほど、私達は弱くない」

「ああ、私やフィルはもちろん、護衛の騎士や魔術士もそれなりに精鋭を揃えたつもりだ」

「始めから一人も逃すつもりが無かった、というのは?」

「私達の同行は王宮も公爵も把握している。

 帰還が遅れれば騎士団が総力を上げて調査をする。

 必ずしっぽはつかめる。

 つまり、それすら見越して襲ったという事。

 連中は始めから王家を敵に回すつもりだったか、それとも・・・」

「野盗に扮した何者か、ということなのですね」

「そう」


「野盗に扮した何か」という推論について、フィルニイリスが順に説明していく。

王国の精鋭が務める護衛部隊を相手に出来るほどの実力、統率された行動。

王族だと分かった上での襲撃。


考えられるのは二つ。

王家を敵に回す事を恐れないほど、大規模かつ精鋭ぞろいの野盗か、あるいは野盗に扮している何者かの仕業か。


王家を敵に回せるほどの野盗、という考えについてはフィルニイリスが否定した。

それほどの存在なら王国が情報を掴んでいるからだ。

だが、少なくとフィルニイリスはそんな情報を聞いた覚えはなく、フィサスの領主からも聞かされていなかった。

王族であるフランがわざわざ訪ねてきたのだ。

それほどの相手が潜んでいるのなら、情報を伝え、安全な場所まで護衛を出してもおかしくは無いだろう。


そもそもあれほどの人数が街の近くに潜めるとは考えにくい。

もし、フィサスの街の近くを根城にしているのであれば、やはりフィサスの領主が何かしら掴んでいただろう。

フラン達を襲ってきた人数から言っても、今まで影も掴ませず潜伏できたとは思えない。


つまり、相手は王家を敵に回せるほどの大規模で精鋭ぞろいの野盗などではなく、野盗に扮した何者かである可能性が高い。


「連中は野盗ではない。

 野盗に扮した何者か。

 それが姫を狙った」

「「・・・っ」」


フィルニイリスの言葉に、リーニャとミリスが息を飲んだ。


偶発的だと思われた野盗の襲撃。

実際は、野盗に扮した何者かによる王族への襲撃だった。


「しかし、いや、でも・・・」

「・・・」


混乱するミリスと考え込むリーニャ。


「・・・そう、ですか」


しばし後、リーニャがなんとか口を開いた。

内容が内容なだけに、その口調は重い。

それでも口を開いたのは、今後の事を考える必要があるからだ。


「相手が野盗ではないと言うことは分かりました。

 なら、なおさらこの街の領主の庇護を受けるべきでは?」

「違う、むしろ逆。

 連中が野盗では無いというのであれば、例え領主の庇護下にあっても襲撃される可能性が出てくる」

「それはどう・・・っ!」

「うん」


リーニャも気づいたようだ。

自分たちを襲撃した集団、精鋭ぞろいの護衛部隊が足止めにしかならないほどの手練れ。

野盗ではないなら、その正体はおそらく騎士団。

それも王国の騎士団を上回るほどの規模の。


仮に、その集団が騎士団だったとして。

その一団が何らかの理由でこの街にきたのであれば、領主は歓迎して街に入れるだろう。

その時、身分を明かしたフランが領主の庇護下にいたなら、事情を説明した上で姫の護衛として紹介してくるかも知れない。

むしろ彼らの方から名乗りを上げるだろう。

そうして街を離れ、そして・・・。


「私達は身分を隠す必要がある。

 同時にこの街の領主の庇護に入るわけにもいかない」

「・・・はい」

「分かった」


フィルニイリスの結論に、リーニャとミリスが納得した。

ただの野盗の襲撃だと思っていたのが、実は初めからフランを狙った何者かの計画だった。

しかも相手は野盗ではなく正体不明の精鋭部隊。

もしかしたら別の街の、あるいは別の国の騎士団かも知れない。

そんな連中が相手では、例え街の中であっても安心など出来ないのだ。


得体の知れない相手に、リーニャ達もより一層気を引き締める必要があるようだ。

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