表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十一章:学園~二年目の始まり~
446/673

第425話:初日の見張り

年末年始と言う事で、しばらくは毎日更新いたします。

毎日更新:6/15

「結構みんな起きてんだな」

「初日だしこんなものだろう」


学園を出てから丸一日歩き通しだったにもかかわらず、多くの生徒達は元気が有り余っている様子だった。

これもまた一年間の鍛錬の成果なのだろうか。

最上位クラスで一番体力の無いファラスアルムですら、まだまだ元気そうだった。


学園のあるアデメアの街と目的地であるアデニアの森。

その間に広がる平原の一角に、二年生達は天幕を張り野営を行っている。

天幕の数は生徒の分だけでも二十個。

ある程度間隔を空けつつなるべく集まるように張られた天幕の外側で、ガージュ達は四方に分散しつつ見張りを行っている。


昨年であれば四方を二人で手分けして見張らねばならなかった。

だが、今年はガージュ達以外にも三クラスの生徒達がそれぞれに見張りを立て、あらかじめ任された方角に目を向けている。

人数は増えたが見張りの負担は減った為、ガージュ達も随分と余裕があった。


もっとも、この平原に魔物がいない事は既に把握している。

昨年の経験に加え、就寝前にレキが確認しているからだ。

レキの索敵能力をガージュ達は疑っていない。

大武闘祭が行われたプレーター獣国への道中、どこからともなく魔物を狩ってくるレキを何度も見ているからだ。

目には見えず、気配すらも感じられない距離にいる魔物を正確に突き止め狩ってくるレキの能力。

正直、レキがいれば見張りなどいらないのではと思えるほどだった。


まあ、これも演習。

将来冒険者になる為の練習だと思えば良い。


「ガージュはやっぱ家を継ぐのか?」

「今のところはそのつもりだ」

「へ~・・・ん?

 今のところ?」

「い、いや何でもない」


魔物の気配はなく、他クラスの生徒達からの報告も無い。

やる事と言えば、就寝前にルミニア達が用意してくれたお茶を飲みつつ、眠らないよう雑談に興じる程度。


時折他クラスの様子を伺いに席を外す事はあるが、基本的にはただ座っているだけの簡単な仕事である。


「下位クラスは異常ねぇって」

「次は上位クラスだな。

 良し、今度は僕が行こう」

「おう、任せた!」


昨年と違い、見張りも大人数で行う為こういった連携も必要だった。

中心となるのはやはり最上位クラス。

実力と実績、更にはその人柄すらも考慮に入れた結果である。


カルクはその持ち前の性格ゆえに、中庭での鍛錬では他クラスの生徒とも良く手合わせを行っている。

レキ達の陰に隠れてはいるが、カルクの実力もまた学園の上位。

気安い性格も手伝い、知り合いや友人もいつの間にか増えている。


そんなカルクと違い、ガージュは気難しそうな印象を周りに与えている。

だが、学園で過ごす内、持っていた傲慢さはなりを潜めている。

貴族としての矜持は残り、実力で劣るが故に身に付けた戦術を駆使してレキ達と戦う様は、民を導く貴族の姿を現していると言って良い。

チーム戦を経て指揮や戦術の重要性を知った他クラスの生徒が、ガージュに相談を持ち掛けるようになるのも当然である。

ルミニアや他クラスの指揮官を交え、最近では中庭で戦術論を交わしていたりする。


野営の際、必要なのはとっさの事態に対処できる能力だろう。

ガージュの指揮とカルクの実力は、他クラスの生徒に確かな安心感を与えていた。


そういう意味では、次のルーシャがレキと組んだのも正解だった。


ルーシャは編入生であり新参である。

いくら最上位クラスとは言え、人柄も実力も不明な者を頼れるはずもない。

それどころか、上位クラスの何人かはルーシャのせいで最上位クラスに入れなかったなどと逆恨みする者すらいる始末である。

仮にルーシャの編入試験の結果が芳しくなく、最上位クラスに入れなかったとしても、代わりに入れたのは上位クラス一位のミル=サーラ一人だけ。

そのミルがルーシャを受け入れ、仲良く接している以上逆恨みなど見当違いなのだ。


そんなルーシャが組んだのはレキである。

その実力は誰もが知っている。

一年生でありながら大武闘祭で優勝を果たしたレキを信頼しない者はいない。

昼間のミリスとの手合わせで多少評価が落ちてはいるが、それでも自分達より強い事に変わりはなく、何かあれば嫌でも頼る事になる。


ガージュ達の見張りが終わり、レキは今、ルーシャと共に焚火を囲っている。

周囲については交代早々レキが「この周囲は大丈夫だよ」と安全確認を済ませている。

レキの索敵能力の凄まじさについては事前に聞かされてはいるが、昼間の件が尾を引いている為若干の不安が残っていた。

とは言え、ただでさえ見晴らしの良い平原である。

周囲に異常など見当たらない。

交代時にガージュ達から「レキに任せておけば大丈夫だ」と念押しされている為、不安はあれど落ち着いて見張りを行う事が出来た。


因みに、やはりと言うか交代時には多少の騒ぎがあった。


と言うのもだ。

カルクとガージュは交代の際、当たり前のようにレキだけを起こしている。

昨年であれば、どちらがルーシャを起こしに女子の天幕へ行くか言い争い、そして最終的にレキに押し付けただろう。

今年はどちらも何も言わず最初からレキに押し付けた。


レキなら大丈夫という、良く分からない根拠だった。


起こされたレキは交代時の申し送りもそこそこにルーシャを起こしに女子の天幕へと赴き、昨年同様無遠慮に天幕の中へと入って行った。

一応ルーシャ以外は起こさないよう静かに、気配すら殺して侵入したレキはもはや暗殺者のそれである。

そしてルーシャだけを起こし、悲鳴を上げそうになったルーシャの口を塞ぎ、それがルーシャの感情を多いに刺激して目を回させてしまったりもしたが・・・。

何とか外へ連れ出し、ガージュ達と少しばかりの申し送りを済ませ見張りについたのだった。


交代時のあれこれもすっかり落ち着き、レキとルーシャは並んでお茶を飲んでいる。

野営も見張りも慣れているレキと違い、それまで孤児院でもライカウン学園でも規則正しい生活を送っていたルーシャは、見張り以前にこんな時間に起きている事自体初めてだった。

同じ年の異性と、夜、二人っきりで過ごすのも。


幸い、初日の見張りはそれほど警戒する必要も無く、むしろ見張りの練習と言っても良いくらいだ。

雑談でもして時間をつぶし、交代する。


それだけで良かったのだが・・・それだけの事が、今のルーシャには非常に問題だった。


――――――――――


崇敬するレキと二人っきりで行う見張り。


僅か二時間ほどとは言え、あのレキと二人っきりというシチュエーションである。

レキを好ましく思っている者は多く、恋慕の情を抱いている者も多い。

レキを崇敬する者だっている。

そんな者達からすれば、レキと二人っきりでの見張りなど全財産を支払ってでも代わって欲しい役割だろう。

ライカウン教国やフォレサージ森国の者なら特に。

レキとお近づきになりたい、仲良くなりたいと思う者にとって、今のルーシャは垂涎のポジションである。


だが、ルーシャは内心それどころでは無かった。

代わって欲しいとまではいかないが、どうすればよいか分からずにいた。

レキに対する崇敬の念が無くなったわけでは無い。

この組み合わせが決まった時など、創生神や光の精霊、更にはルミニア達に感謝したほどだ。

ただ、いざ見張りの番となった際、そういえば自分はレキ様について悩んでいたのでしたと思い出し、それでもレキ様と二人っきりでどんなお話をすればと戸惑い、いざ始まってみれば何を話して良いか分からず、昼間の件もあってどうにも御居心地が悪かった。


元々ルーシャはそれほどおしゃべりが得意な方では無い。

教国では人々を教え導く為の説法も習うが、一年生だったルーシャはそれ以前の教義を習い始めたところだった。

創世神話は孤児院でも聞いた事はあるが、人に聞かせる練習などしたことが無い。

第一、このような状況で創世神話など語っても、レキに呆れられるかもしれないのだ。


「野営は初めてなんだよね?」

「えっ?」


そんなルーシャの戸惑いや葛藤も知らず、レキが極自然に話しかけた。

あるいは話しかけ辛そうにしているルーシャを気遣ったのかも知れない。

心の機微、特に恋慕の情には疎くとも、観察力ならそれなりにあるのだ。


野営の際は雑談でもしながら過ごす。

周囲の警戒をおろそかにしてはならないが、眠ってしまわぬよう仲間同士声をかけあうのも大事なのだ。


野営についてはミリスやフィルニイリスからしっかり教わっているレキは、その教えに従い野営の時は常に仲間との会話を心掛けていた。

話題などなんでもいい。

それこそ今日学園を出てからの事でも、今レキ達の頭上に瞬く星の事でもいい。

ルーシャが来てから二週間の事でも、それ以前のお互いが出逢う前の事でも。

話題などいくらでもあるのだ。


レキはルーシャの事をまだ良く知らない。

知らないなら、お互い知り合えばいい。

時間などいくらでもある。

今日の野営が終わっても、この野外演習が終わってもだ。


「学園に来る時は?」

「あっ、はい。

 その時は教国の方々と一緒でしたので」


気楽に話しかけてくるレキに、最初は戸惑い、崇敬の念から恐れ多さを抱きつつも、応じなければそれはそれで失礼だからとルーシャは何とか言葉を返していく。

レキの話題は、それこそ昼間拾った面白い形の石の事だったり、お昼に食べたお弁当が美味しかった事だったりだ。

今のレキはただの十一歳の子供でしかなく、そしてルーシャもまた同じ年の子供だった。


どうでもいい話題ばかりなおかげで、ルーシャも特に何も考えずに言葉を返す事が出来た。

それが功を奏したのだろう。

最初にあったぎこちなさも、何か話さねばという余計な使命感も、何もかも消え去っていた。

崇敬の念こそ残っているが、それも今は関係なかった。

レキが話し、ルーシャも話す。

そこにいるのは、ただの十一歳の子供達だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ