表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の双剣士  作者: ひろよし
二十一章:学園~二年目の始まり~
443/648

第422話:ルーシャの想い

年末年始と言う事で、しばらくは毎日更新いたします。

毎日更新:3/15

レキが崇敬を集める理由の一つに、その圧倒的な強さがある。

武術では獣人を寄せ付けず、魔術で森人を封殺する。

絶対的な実力を持つレキは、時に周囲を驚愕し、更には畏怖すら抱かせるほどだ。


創生神や精霊もまた、人とは隔絶した存在である。

黄金の魔力を纏い君臨するレキの実力は、まさに神話の存在であるかのような神々しさをも持っていた。


姉代わりのファイナから聞かされていたレキの実力。

たった一人でプレーター学園の代表生徒数名を相手取り、フォレサージ学園の代表生徒五名を魔術で圧倒した。

何よりレキの体から溢れる神々しいまでの黄金の魔力。

学園長はおろか教皇様までもが認めた光の申し子様。


フロイオニア学園で出会ったレキは、ファイナ達が語る姿そのものだった。


元々教会の孤児院で育ったルーシャである。

信仰心はある程度もっており、何より姉代わりのファイナや教皇までもが語るその言葉を疑う事無く信じ、まだ見ぬレキに崇敬こそ抱かなかったが憧れの感情は抱いていた。

実際にレキの実力と黄金の魔力を見て、ルーシャの憧れは崇敬に至った。


レキ様こそが創生神様や光の精霊様がこの地上に遣わしてくださった申し子様に違いありません。


そんな結論にすら至っていたルーシャである。

そのレキが負ける姿を見て、ルーシャの中に芽生えたレキに対する信仰心が音を立てて崩れていくような、そんな錯覚にとらわれていた。


ルーシャはまだレキの真の実力を見た事が無い。

武術で最上位クラス全員を相手に圧倒した時も、上位四系統の魔術を無詠唱で放った時も、レキは全力を出していなかった。

故に、先ほどの模擬戦もレキの実力だと思ってしまったのだ。


光の精霊の申し子様たるレキの敗北。

その光景は、ルーシャにとって世界が崩壊するほどの衝撃だった。


――――――――――


相手は剣姫と称される騎士ミリスである。

彼女の名は他国にも広く知れ渡っているが、それはあくまで他国の騎士や戦士、冒険者の間での話。

一般の、戦いとは無縁な人にまで知れ渡っているかと言えばそうではない。

ましてや他国の孤児院の子供になど。

将来騎士になりたいと夢見る子供ならまだしも、ルーシャのような精霊学に傾倒すしていた子供にとって、他国の騎士は興味の対象ではなかった。


故に、剣姫とはいえただの騎士にレキが負けた事にショックを受け、しばし呆然としてしまっていた。


ルーシャが我を取り戻したのは、昼の休憩が終わってからだった。


――――――――――


ルーシャほどではないが、レキが負けた事はそれなりに衝撃だったらしい。

昼休憩が終わり、移動を開始しても生徒達は先程の模擬戦の話題で語り合っていた。


一応は野外演習中。

あまり騒ぎすれば魔物を呼び寄せるかも知れない。

一応は注意する教師達だが、おそらくは無駄だろうと誰もが思っていた。

それほどまでに、先ほどの模擬戦は見応えがあったのだ。


身体強化をしていないからこそ、今の生徒達でも十分目で追う事が出来た。

レキもミリスも全力で戦っていたわけでも無いし目にも止まらぬ速さで動いていたわけでも無い。

その場からほとんど移動せず、ただただ身に付けた技術のみで戦っていた。


レキの剣とそれを受け流すミリスの技術。


学生レベルを遥かに超える攻防に、生徒達の興奮はなかなか冷めないでいた。


「ルーシャさん?」

「・・・」

「ルーシャさん、大丈夫ですか?」

「・・・えっ?」


そんな中、一人思いにふけっているルーシャにルミニアが声をかけた。

ルーシャが静か理由など先程の模擬戦が原因である。

その程度を察するのはルミニアなら容易い。


あれほどレキを信仰し、絶対視していたルーシャである。

そのレキが負けた光景に、少なくないショックを受けたのでしょうねと心配していた。


実際は世界が崩壊するレベルのショックを受けているが。


「ああ、ルミニアさんですか・・・」

「どうします?

 先生に言って少し休ませてもらいますか?」


レキが負けた衝撃はまだ収まっていない。

それでも周りに心配をかけてはいけないとルーシャが顔を上げてみれば、そこにはいつもの賑やかな光景があった。


レキとミリスを中心に、ミルや最上位クラスの面々が輪を作り和気藹々と話ながら歩いている。

他のクラスも、先ほどの模擬戦についてあれこれ語り合っている。

中には、レキなんて大したことは無いだとか、所詮レキも子供、騎士の相手では無かったのだだとか、模擬戦前のルーシャであれば即魔術を撃ちこんでもおかしくないような事を語っている者すらいた。


「・・・」


レキが負けた事に対してショックを受けているのは、どうやらルーシャだけだったようだ。

他の生徒達も、少なからず驚いてはいたがショックまでは受けていなかったらしい。


ルーシャが不思議に思うのは、レキに近しい者ほどレキの敗北を素直に受け止めている事だろう。


レキがミリスに敗北する事など王宮では良くあった。

フランやルミニアにとってはいつもの事。


昨年王宮にお邪魔したミームやユミ、ファラスアルムもその事は知っている。


故に、レキが負けても相手がミリスなら仕方ないと納得しているのだ。

ミリスのファンであるミルなどは、むしろミリスが勝った事にはしゃいですらいる。


レキを慕っているのはミルも同じ。

だが、彼女にとってレキは兄弟子のような存在であり、真に慕っているのはその師匠であるミリスなのだ。

故に、レキが負けても何も思わない。

ミリス以外に負けたのであればまた違ったのだろうが、その時はミリス様に習っておきながらと憤慨したかも知れない。


今回の相手はそのミリスである。

師匠であるミリスに弟子のレキが負けても、むしろ当然とすら思っているのだ。


因みに、レキとミリスのこれまでの戦績はミリスがかろうじて勝ち越している。

もちろん全力を出さないという条件下での試合だが、剣術だけならまだまだミリスの方が上なのだ。


ついでに、魔術の場合もレキはフィルニイリスに負け越していた。

こちらも全力を出してしまえば魔術演習場どころか学園そのものが崩壊しかねない為、あくまで初級魔術のみに限定した上での勝負である。

それでも魔力量や行使速度で勝るレキより、知識と経験で勝るフィルニイリスの方が現時点では上なのだ。


つまり、知識や経験、そして技術に置いてレキはまだまだと言う事。

それを知るフラン達は、レキが負けても仕方ないと思っている。

それを知らないルーシャは、例え相手が剣姫だろうとレキが負けるがずがないと思ってしまう。

それがルーシャとフラン達の違いである。

その違いが理解できないルーシャは、移動中も悩み続けるのだった。


――――――――――


ルーシャがレキに抱いた崇敬は本物だが、果たしてそれはレキに対するものなのだろうか。

あるいはレキの実力や黄金の魔力に対するものなのかも知れない。


崇敬は心の底から自然と生まれる。

相手が強いとか、頭が良いからという理由で抱く敬意とは違う。

相手の存在そのものに対して抱くのが本物の崇敬である。

故に、レキが誰に負けようともその想いが消えるはずが無い。

実際、レキがミリスに負けた事で多大なるショックを受けていても、レキに抱いた崇敬の想いまでは消えていない。


だからこそ、ルーシャは改めてレキについてどう思っているか。

その想いがどこから来ているのかを考える事にした。


なぜファイナや、ファイナと同様昨年のライカウン学園代表だったリーラ=フィリー、更には教皇までもがレキに対しあれほどの崇敬を抱いたのか。

ファイナもリーラも教皇も、レキと合ったのは大武闘祭の時が初めてである。

実際に戦い、一緒に街を歩いたリーラはともかく、ファイナや教皇などはレキの戦う姿こそ見れどろくに会話もしていない。

大武闘祭の慰労の宴で多少は接する事が出来たようだが、それもわずかな時間。

それでもファイナ達のレキに対する崇敬は本物である。


レキと過ごした時間なら既にルーシャの方が上。

だが、崇敬の想いはファイナ達の方が圧倒的に上。

それは何故だろうか。


ルーシャの崇敬の想いが弱くなっていたなら、あるいはこれほど悩まなかったかも知れない。

ファイナ達はレキの凄いところしか見ておらず、ルーシャはレキの情けないところも知っている。

座学で居眠りしてはレイラスに頭を殴られ、食事のマナーを無視してカルク達と大食い早食い勝負をしたりする。

中途半端に着替えてはルミニアに注意されたり、夜本を読みながら寝てしまい寝ぐせや顔に文字の後が残っていたりする。


それでもルーシャのレキに対する想いは欠片も変わっていない。

例えレキが弱くとも、座学の時間にどれほど居眠りしようとも、ミリスやフィルニイリス、サリアミルニスとの話しに夢中になるあまりガージュに小言を言われようともだ。


ルーシャはレキの強さに対して崇敬を抱いているわけでは無かった。

では、この想いは一体どこから沸いたのだろうか。


その疑問に対する答えは、少なくとも一人では出せそうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ