第420話:野外演習開始
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「これからアデニアの森へ向かう」
野外演習当日。
アデメアの街から少し離れた場所に、レキ達フロイオニア学園の二年生全100名が集まっていた。
「目的はアデニアの森のゴブリン討伐。
殲滅する必要は無い。
各クラスで連携し無理のない範囲で討伐する事」
レイラスを中心に横に並ぶ教師達の前に、レキ達がクラスごとに分かれて整列している。
最上位クラス十名、上位・中位・下位クラス三十名。
全100名が揃って行動する予定だ。
「移動は基本各クラスごとにまとまって行う予定だ。
常に固まって動けとは言わないが、演習である以上規律は守るように。
雑談程度なら問題ないが注意だけは怠るなよ。
魔力探知が出来る者は交代で行っておけ。
いつどこから魔物が襲ってくるか分からないからな」
目的地であるアデニアの森は昨年も向かったところである。
名前を知らなかったのか、教師の説明中首を傾げるレキ達にルミニアが「森の名前です」「昨年と同じ場所ですよ」「地図にも書いてあります」などと小声で教えていた。
「森の手前までは全クラスで移動する。
野営なども一緒だ。
見張りなどは各クラスで立てる様に」
昨年と違い、今年は一学年全100人での移動となる。
騎士団の遠征なら普通の規模だが、生徒達にとってこれほどの大人数で移動するのは今回が初めてだった。
レキ達最上位クラスですら、大武闘祭に出場する為プレーター獣国へ向かった時以来。
その時ですら、護衛である騎士を含めても三十名にも満たなかった。
今年は二年生全100人と教師、護衛である騎士団を含めれば150名近い人数が並んでいる。
その中にはレキの見知った騎士の姿もちらほらあった。
「念の為言っておくが、これはあくまで演習だ。
決して遊びではない。
気を抜かず真面目に行動するように」
護衛は最上位クラスに二名、他のクラスにはそれぞれ十二名ずつ配属される。
各クラス六チームそれぞれに二人の護衛が付く計算である。
レキ達最上位クラスのみ一人ずつしかつかないが、その分剣姫ミリスと宮廷魔術士長フィルニイリスが付き添っている。
と言うかレキがいる以上護衛は不要であり、ほぼ体裁の為といって良い。
護衛は騎士と魔術士が一人ずつ。
当然戦闘を視野に入れての事。
森での戦闘は基本的に生徒任せとなるが、いざという時は護衛が助けに入る。
実戦を想定した野外演習とはいえ、生徒を無駄に死なせるつもりなど学園には無い。
「森の中では各クラスごとに分かれて行動してもらう。
その際、教師や護衛の言う事を良く聞くように。
決して慌てず、身勝手な行動を取るなよ。
ましてや単独で森の奥に進むような愚行だけはするな。
いいな」
例年、突然現れた魔物に驚き、我先にと逃げ出してしまう生徒というのはいる。
昨年等ほとんどの生徒がゴブリンに驚き、恐怖し、逃げ出しているのだ。
その際、何名かの生徒ははぐれて森の中をさ迷っていた。
護衛の騎士や魔術士がいなければ、あるいはそのままゴブリンに殺されていたかも知れない。
今年は最初からゴブリンと戦闘する事が目的である。
各人心構えは出来ている、はず。
それでも毎年、一年目の恐怖からか、あるいは対峙して勝てないと思ってしまうのか、勝手に逃げ出す生徒と言うのが毎年出てきてしまうのだ。
事前にあれこれ説明をしているものの、それもいざとなればきれいさっぱり忘れてしまうもの。
そういった生徒を救う為にも、魔力探知が出来る魔術士が一チームに一人護衛として付き添っているのだ。
「最後に、森で行われるのは実戦である。
学園で行ってきた模擬戦ではなく、あるのは命のやり取り、殺し合いだ。
殺さねばこちらが死ぬ。
それを頭に入れておけ、いいな」
あらゆる事態を想定し、学園も騎士団も準備は怠っていない。
それでも何事にも例外、想定外の事態と言うのは起こりえるもの。
討伐対象であるゴブリン。
魔物であるゴブリンはあらゆる手段で生徒達を殺しにかかる。
手に持つ武器で、爪で、牙で、あるいはそこらへんに落ちている石や枝で。
ゴブリンにあるのは純粋な殺意、あるいは食欲。
試合ではなく、正々堂々襲い掛かってなど来ない。
そんなゴブリンと戦う為に必要なのは実力ではなく覚悟である。
生徒達はこの一年で実力を随分と伸ばしている。
いつも通り戦えば、まず殺されることはないはずだ。
ましてや生徒達はチームを組み、連携を持って戦うのである。
いつも通り戦えば間違いなく勝てる戦い。
そう、これはただの訓練である。
それでも、多くの生徒は初めてとなる実戦を前に緊張気味だった。
あのミームですら、昨年の事を思い出し真剣な表情を見せている。
「あっ、レイクだ」
「ふむ、ガレムはおらんのじゃな」
ごく一部の生徒だけは、いつも通り呑気にしていた。
――――――――――
「では出発!」
教師の合図でレキ達は移動を開始した。
先頭を歩くのはレキ達最上位クラス。
他クラスがその後を続く。
最初は真面目に言葉少なく歩いていた生徒達も、時間が経つにつれて気が緩んだのか少しずつ口を開くようになった。
緊張もそう長くは続かないのだろう。
ましてや生徒達はまだ十一歳の子供達。
ゴブリンと戦うのは二日後、今から緊張していては心身ともに疲れてしまう。
何より、最上位クラスの生徒達が最初から和気藹々と歩いている為、緊張しているのが馬鹿らしくなったり恥ずかしくなったのかも知れない。
レキほどの実力者だからこそああして余裕でいられる。
そんな風に考えられる生徒は、どうやらいないようだ。
もちろん今は森へ向けての移動中。
見渡す限りの平原。
魔力探知を併用しても危険など見当たらず、護衛の騎士達も平然としている。
実際、少しくらい気が緩んでも問題は無い。
気が緩み、口が開けば隊列も乱れてくる。
一年間共に切磋琢磨してきた生徒達は、中庭での交流も手伝い今ではすっかり仲良しだ。
天気も良く、風も心地よく、久しぶりの学外とあって演習という意識も薄れ始めていた。
隊列すら乱れ、昼を前にもはやピクニック状態だった。
「・・・あいつら大丈夫なのか?」
そんな事を言うガージュも、この辺りが安全である事は知っていた。
昨年の記憶も新しく、何より先頭を歩くレキが平然としている。
危険が迫ればレキが動く事をガージュは知っている。
楽しそうに歩いているレキが、それでも警戒をしている事もだ。
レキはそれこそ息をするように魔力探知と気配察知を行っている。
前者はサリアミルニスに教わり、後者は魔の森で生きてきたが故に身に付けた能力である。
いつの間にか護衛であるミリスやフィルニイリス、付き添いのサリアミルニスと一緒に楽しそうにおしゃべりしているからと言って、決して警戒を緩めてなどいないはず。
少なくとも、それに関して今更疑いなどはしない。
「だ、大丈夫なのですよね?」
「大丈夫だよ?
だってレキがいるし」
「そ、そうですよねっ!
レキ様がおられるのですから」
ユミの言葉にすっかり気を取り直したルーシャが、ファラスアルムと共に地図を眺めている。
野外演習の初日はまずまずの滑り出しであった。
――――――――――
「あ、あの」
「ん?
君は確か」
「はい、ミル=サーラと言います!
レキ様にはいつもお世話になっていますっ!」
剣姫ミリスの名はフロイオニア王国のみならず他国にも広く知れ渡っている。
宮廷魔術士長であるフィルニイリスも含め、フロイオニア王国三大有名人の一人だろう。
あと一人は騎士団長にしてフロイオニア最強の騎士ガレム辺りだろうか。
一応は騎士団長としての職務に忙しくなかなか他国へ行く機会の無いガレムより、ミリスやフィルニイリスの方が有名なくらいだ。
あるいは昨年の大武闘祭で一躍その名と実力を知らしめたレキの方が、今では有名かも知れないほどである。
ミリスの活躍もあり、騎士団に憧れる女性は多い。
サーラ子爵家の子女ミル=サーラもその一人だ。
女子ながらに騎士を目指し、とりわけ剣姫の二つ名を持つミリスは入学前からの憧れの存在だった。
そんなミリスに剣技を習ったレキの事を、ミルは勝手に兄弟子のように思っている。
とはいえ、ミル自身が直接ミリスから手ほどきを受けた事は無い。
むしろ最近毎日のようにレキと手合わせしている為、レキの弟子と言った方が良いかもしれないくらいである。
隊列が乱れ、生徒達が思い思いにおしゃべりしながら行軍始めた頃、レキにこっちこっちと呼ばれたミルは憧れのミリスとおしゃべりする事が叶った。
緊張しつつも嬉しそうにおしゃべりするミル。
レキ達の楽しそうな雰囲気は、こうして伝染していくのだろう。
もっとも、アデメアの街から森までは平原が続く為、それほど警戒する必要は無い。
初日から緊張しすぎるのはよろしくも無い。
少しくらいこうして気を抜いたところで、誰も咎めはしないのだ。
「レキ、少しはペースを落とせ」
「レキ様、少しずれてます」
「えっ、ごめん」
だからと言って森とは違う方へ歩いて良いはずは無いが。
「レキから聞いている。
上位クラスで一位だったそうだな」
「は、はいっ!」
ミル=サーラの事はミリスも聞いていた。
上位クラス一位の実力にして、座学の成績も少なくともカルクやミームより上。
魔術にも力を入れ、もう少しで無詠唱に至れるほどだという。
武闘祭での順位がもう少し高ければ、今年は間違いなく最上位クラスに入っていたに違いない。
「なに、私も二年生の時は上位クラスだった。
頑張れば最上位まで上がれるだろう」
「は、はいっ!
ありがとうございますっ!」
剣姫と称され、他国にもその実力が知れ渡っているミリスといえど最初から強かったわけでは無い。
何よりミリスは、学生時代魔術と座学を不得手としていた。
総合的な成績で言えば今のミルの方が上だろう。
まあ、剣だけで最上位クラスへ上がったミリスもある意味優秀と言えるのだろうが。
「あまりこいつは見習うな。
脳筋になるぞ」
「うるさいぞレイラス」
「えっ!?」
なお、そんなミリスと同級生だったレイラスは、武術、魔術、そして座学にと満遍なく優秀な成績を取っている。
総合成績では一位、武術でもミリスに次いで二位の成績だったほどだ。
「適材適所と言う奴だ。
私は指揮官より戦場で剣を振るう方が似合っているだけだ」
「考える事を放棄するな。
お前だって決して頭が悪い訳ではないのだろうが」
「フィルがいる以上、私が考える必要は無い」
「開き直るな」
「えっと・・・」
等と言い合うミリスとレイラス。
二人が学生だった頃には良く見られた光景だったりする。
ちなみに、ミリスの頭は悪くはなく、むしろ良い方だ。
ただ、周囲にミリス以上に頭の良い者がいる為、任せているだけなのである。
下手な考え休むに似たりではないが、適任者がいるならそちらに任せた方が良いという考えなのだ。
「いつもの事です」
「ミリスは脳筋部隊の中では頭を使う方。
騎士を目指すならミリスは良い目標になる」
「あ、ありがとうございます」
そんなミリスに指揮を任されているのがフィルニイリスである。
フィルニイリスもまた、ミリスの実力を信じ前衛を任せてきた。
軽口こそ叩けど、そこには確かな信頼があるのだ。
「お前も中隊長になったのだろう。
少しくらい指揮を学べ」
「隊には必ず魔術士がいる。
頭を使うのは彼等が専門だ。
私達はそれに従った方が良い」
レキ達最上位クラスのみならず、他クラスも和気藹々とし始める中、時間はいつの間にか昼になっていた。




